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中途半端な田舎

 部屋の掃除と着れそうな衣類が無いかを探し終える頃。時刻は午前七時を指そうとしていた。

 僕と結月が住んでいるのは田舎の方では都会、と中途半端で独特のノスタルジーを感じる地方だ。


 中途半端のせいでかはわからないが、車社会なので、どこかへ出かけるとなると学生には足がない。

 強いてあるのは自転車とバス、ディーゼル機関車くらいだ。一応、路線バスもあるのだが、そのどれもが一時間に一度来る程度と田舎らしい不便さを感じさせる仕様となっている。


「よし! そろそろ出発しますか?」


 結月が伸びをしながら話しかけてくる。

 移動手段が乏しいことは結月も十分に承知している。そのため、早すぎるくらいの時間に出かけることを提案してきたのだろう。


「じゃ行こうか」

「その前にだよ。お兄ちゃん、一緒に着替えない?」


 結月は手で「私の部屋へ行こう」と合図してくる。

 下半身に着ている衣類が直履きスパッツオンリーと言うのは防御力が心許ない。直履きスパッツはただの下着なので、いくら元男とは言っても恥ずかしい。


「僕が着れるような服ってあるの?」


 服はあっても今の僕が着れる服は部屋着しかない気がする。

 結月のハンドサイン的に服を借りる流れなのだろうけれども、着れる服があるようには思えない。

 結月がまだ考えているようなので先にお願いだけしてみる。


「僕としてはズボンがあるとありがたいんだけど……」


 僕の声が届いているのかはわからないが結月の反応は薄い。

 少しの間を開けてから結月は口を開いた。


「もうちょっとダボダボなパーカーがあるからそれ着てみてよ」


 どうやら僕の思いは届いていなかったらしい。

 だが結月は、僕のムッとした視線には気付いたようで言葉を続ける。


「スパッツはパンツじゃないから大丈夫だよ」


 結月はそう言って自分の部屋へと向かってしまった。

 普段、制服でスカートを履いている女子がスパッツで大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。

 その思いを信じて僕も結月の部屋へと向かった。




 舞台は変わりバス停前。車社会の田舎らしく誰もいないのが趣を感じる。

 次にバスが来るのは今から十分後のようだ。


「そんなに恥ずかしそうにしなくても良いんじゃないかな、お兄ちゃん?」


 微笑を浮かべながら結月は話しかけてくる。


「そんなこと言われても恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!」


 僕の今のファッションはダボダボパーカーにスパッツと一見して履いていないように見える格好をしている。詳しい名前がわからないが、萌え袖絶対領域パーカーコーデと名付けておく。

 男子ならば履いているのか、履いていないのかと言う積もらない話だけでバライティー番組ができそうな議題の服装をしているわけだ。


 僕も精神面は男子。

 町中で可愛い女の子が絶対領域コーデをしていれば目に焼き付けることだろう。


 だが今の僕は肉体は女子。

 羞恥心の方が勝る。


「まあまあ、お兄ちゃん落ち着いて。十分、可愛いから。ほら写真見てみ」


 僕をなだめながら結月はスマホの画面を見せてくる。

 スマホの画面には女体化した僕が映っていた。


 僕はナルシストでもなければぶりっこでもないが、確かに結月の言うとおりで女体化した僕は可愛いと思う。

 女体化した僕は童顔で低身長、貧乳と刺さる人にはとことん刺さる容姿をしているのだ。


 それに絶対領域が合わさることで、ロリータ体系に興味のないメンズもターゲットとして取り込もうとしている魂胆が見える。

 僕がときめいているのを確認してから結月がにこやかに話しかけてくる。


「どう、お兄ちゃん。可愛いでしょ」

「否定はしないけど」

「けど?」

「つまんない事を聞くけど、この格好している女子ってどんな女子なのかな?」


 僕は顔色を変えないようにして結月に尋ねてみる。

 この服装は善し悪しで物事を決めるならば、善い方に分類されると思う。


 だけれども、下半身の防御力が心許なさ過ぎるので気になることが一つある。

 それはコスプレではなく、好きで絶対領域を作り出すファッションをしている女子の思惑おもわくだ。

 僕の考えとしては、あざとい系か痴女ちじょのどちらかだと思うのだ。

 結月は少し考えてから応えてくれた。


「私の同級生に今のお兄ちゃんと同じ服装をしている子がいるんだけどね。その子は野球部の彼氏が喜ぶからって言ってたよ」


 真っ当な理由過ぎて反応に困る。

 中学生で付き合っていると言う時点で負けた気になってしまう。

 とは言っても、運動部カースト最上位に属する野球部には適うわけもない、と思うと諦めもつく。

 僕の抱いた劣等感を結月も感じているようで悲しそうな顔をしている。


「やっぱり男子には人気なんだな」

「う、うん」


 歯切の悪い返事を結月はする。

 何かを隠していることが直ぐにわかる。

 そして、なんとなくだが、結月が何を隠しているのかもわかった気がする。


「何か隠してるね」

「ま、まぁね」

「僕の考えと答え合わせしたいから言ってくんない?」


 結月は口ごもった。

 道路をチラ見すると僕たちが乗る予定のバスの姿が見えた。

 結月もバスを確認したようだが、依然として言おうか言わまいかと考えている様子であった。

 目線を合わせないようにして結月は思っていたことを口にした。


「ネ友にこの格好をしている人がいたから話を聞いてみたことがあるんだけどね。その人は――」


 バスが停車した。

 プシューっと音を立ててドアが開く。

 だが、結月が何と言ったのかは僕の耳にしっかりと届いていた。


「変態だった」


 そう結月は言った。

読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 変態w まあ、少数派だよなぁ
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