朝の下ネタはハイカロリー
僕の反応が薄かったのか結月はキョトンとした顔をしていた。
この話にツッコむだけ、僕の中での結月のイメージが崩れていくのであえて気にしないふりをすることにする。
だが、結月は訊いてもいないのに自分の推理を語り出した。
「私の推理ではお兄ちゃんは事故ったんだと思うんだけどどうかな?」
決まったと言わんばかりにキリッとした顔を結月はしていた。
この場合の事故とは発射事故と言うことだろう。
「私も誤射経験はあるし。あの限界まで高めて行ってギリギリを狙うのは成功しても失敗しても気持ちが良いのはわかるよね」
結月は一人で納得した様子で訊いてもいない下の事情についてベラベラと話してくる。
僕の誤射というのは何なのかは想像できるが、結月の誤射が何なのかについては兄として想像したくない。
「ちゃんと理由もあるんだよ。前に私がお兄ちゃんのオモチャを見つけたときに妹として確認させてもらったんだけどね。その時は臭いは無かったから多分、捨てた理由はそうだと思うんだよ」
結月の好奇心が性的なものにしか行っていないのが兄として凄く心配になる。
色々と気になる点はあるのだが、結月の言っていることは筋が通っているように思える。
でも、それ以上に気になることがある。
「僕のオモチャが無いとかは単純に捨てただけだから気にしなくて良いんだけどさ。なんでその……臭い知ってんの?」
「え? そ、それは……」
何としてでも僕は話を切り上げたいので、話をはぐらかす。
幸運なことに結月が口ごもってくれたのでそこにつけ込んで言葉を続ける。
「処女が何で知ってるのか気になるんだけど?」
結月は口ごもった。目線を泳がして僕と顔を合わせようとしてくれない。
結月も僕と同じで友人が少ないタイプの人間だ。ましてや、男友達がいると言うことは聞いたこともない。
まあ、例えとしてイカの臭いだとか栗の花の匂いだとか塩素の臭いだとか言われているので、その知識があるだけかも知れない。
だとしたら今の結月の反応は過剰なような気がする。
「ひ、引かないなら知ってる理由言うよ?」
今にも泣きそうな声で結月はそう言った。
引くと言う単語が物凄く気になる。
「引かないから言ってごらん」
飴と鞭を使い分けるために優しい僕は声で言ってみる。自分の中ではイケボで言ってみたつもりだったのだが、普通にただの女声だったのが少し恥ずかしい。
結月は覚悟を決めたようで深呼吸をしてから口を開いた。
「お兄ちゃんの部屋のゴミ箱をあさったことがあるんだよね。その時に使用済みティッシュを見つけちゃったんだよね」
「……」
反省の意を込めてか結月は正座をした。
予想の斜め上を回答が飛んできて思わず黙り込んでしまった。
しかし返す言葉が無い。
「お兄ちゃんが朝シャンしてるときだったからさ。土曜日の朝だし、金曜日に放出するのが人間の性ってもんじゃない? それで気になってゴミ箱を漁りました。そしたら……ね?」
頬を赤らめながら結月は淡々と語り出す。
言葉尻が歯切れがどうにも悪い。
でも結月の歯切れが悪い理由に僕は心当たりがあった。
結月は気まずそうに言葉を続ける。
「生搾りってミルク色みたいなんだね」
恥ずかしそうに結月は赤面していた。
その結月のその言葉で僕の中で点と点が繋がった。
詳しい日付までは覚えていないが、朝シャンの後、やけに結月がよそよそしかった日があったことを思い出す。
「ちなみに何だけどさ」
「なに?」
結月が正座をしているため上目遣いで僕を見てくる。羞恥に満ちた今にも泣き出してしまいそうな眼が男心をくすぐらせる。
恥ずかしくなったので僕は目線を逸らしながら言葉を繋げる。
「そのティッシュはどこにやったのかなって思ってね」
僕の疑問を結月にぶつけてみた。
結月がよそよそしかった日のことは今でも覚えている。
その日は僕が捨てるはずだった使用済みティッシュが無くなった日でもあるので僕の中での七不思議として記憶に残っている。
結月の顔を見てみると、すこぶる気まずそうな顔をしていた。
「まさかのまさ――」
「だ、大丈夫だよ。誠心誠意で正真正銘の私の知的好奇心を満たしてからこちらで処理しておきました」
慌てようのせいでどうも信用できない。
知的好奇心を満たした、と言われてもどういう意味でなのかが気になってしまう。
ムダな行動力があると言われるのが大学生だとするならば、中学生は性的好奇心が絶頂期であると思うのだ。
「その知的好奇心とやらはどうやって満たしたんだ?」
僕がそう訊くと結月は目線を逸らしてしまった。
尋問形式で詰め寄るのは良くないと思うのだが、気になってしまう。
触らぬ神に祟りなし、と言う言葉もあるのだから下手に聞かない方が良いのだろう。
今まで通りの結月との関係なら深くは聞かなかったと思う。だが、僕が女体化してからの結月は変態行動が目立つのでどうしても気になってしまう。
イマイチ良い反応を得られていないので、結月の顔を覗き込んでみる。
見つめること数秒で結月の心は折れて語り出した。
「五感から聴覚を除いた四つで知的好奇心を満たしました。喉が不快になりましたが、背徳感を感じれたので、後悔はしていません」
ぶっきらぼうに結月はそう言って立ち上がった。
「話し込んでたら一日終わっちゃうから、サッサと掃除するよ!」
そう言って結月は僕が持っていた掃除機を奪ってスイッチを入れた。
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