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朝食の焼き鮭はレアメニュー

 朝食を作ると意気込んでは見たものの、冷蔵庫にはほとんど何も入っていないことを思い出した。

 かと言って今更、パンをしようかと提案するのは違う気もする。

 とりあえず昨日炊いた米と卵ある。

 卵かけご飯を料理の一品として認めるのは、なぜだか負けた気がする。


「モーニングルーティーンしてくるよ、お兄ちゃん」


 ランニングウエアに着替えた結月が玄関の方で叫んでいる。

 サボり部に属している結月だが、なぜかはわからないが、いつも朝に三十分間走り込んでいる。


「朝ご飯楽しみにしてるからね! それじゃ行ってきます!」


 そう言って結月は飛び出していった。

 結月の期待に応えるために料理を作ることにしよう。




 三十分後、結月が帰宅してきた。


「たっだいまー」


 息も上がっていなければ汗をかいていないので、本当に走ってきたのかはいつも疑問に思っている。


「おかえり。ご飯できてるよ」


 そう言いながら机に作った朝食を並べる。

 本日の品目は、白米、インスタント味噌汁、梅干し、だし巻き卵、ソーセージ。

 本当はソーセージより鮭、妥協してシシャモ辺りが和食として統一感が出るのだが、魚介類を常備している家庭では無いので仕方あるまい。


「さすがお兄ちゃん。家事スキルはあるね」


 そう言いながら結月は冷蔵庫からプロテインと牛乳を取り出した。シンク周りを見て言葉を続ける。


「料理を作りながら洗い物も終わってるね」

「わかりづらいけど、褒めてくれてありがと」


 朝から褒めてくれると気分が良いな。

 今日一日、頑張ろうと思う。

 結月はコップにお茶を入れながら話を広げてくる。


「料理のできる男子はモテるんだよ」

「今の外見は女子なんだけどね」


 褒めてくれるのは素直に嬉しい。

 ただ、料理のできる男子と言う要素がモテの一つだとすると、女体化した今の僕では普遍的になってしまっているのだろう。


「利点ならあるよ」


「どんな?」


 結月はお茶の入ったコップを僕に手渡す。

 僕がお茶を一口含んだのを確認して結月は口を開いた。


「お嫁に行ける」


 その台詞を聞いて思わずむせ込んでしまった。本来、お茶が通るべきで無い所に入り痛い。

 対する結月は言ってやったぜ、としたり顔だった。


「僕は男だ」

「ごめんて。ささ、ご飯食べるよー」


 そう言って結月は椅子に座った。

 言いたいことはあるが食事が先だ。

 結月の失言には目を瞑り、僕も食卓に着く。

 普段、朝食がパンだけであることを考えると我ながら豪勢ごうせいだと思う。


 いたたきます、と食材に感謝をしてから朝食に手を着ける。

 朝食を食べる結月の顔を見ると反応は良く、個人的には満足だ。

 でも、一つだけ気になることがあるので食事中だが話を振ってみる。


「そう言えば何だけどさ」

「どしたん?」


 我ながらコミュ障じみた声のかけ方に情けなくなる。

 味噌汁をすすりながら結月が反応してくれる。


「両親に電話した方が良いかなって」


 僕がそう言うと結月は箸を置いた。

 一泊の間をおいて結月は呟き出す。


「お兄ちゃんがそれを言うかね」


 呆れられたようだった。

 結月は言葉を止めること無く話を続ける。


「あの人達のことだから電話に出ないって思って昨日、メールは入れておいたよ」

「返事は?」

「あるわけ無いでしょ」


 だと思っていました。

 そのせいで返す言葉が出てこない。

 僕が黙り込んでいると、結月は再び味噌汁をすすりだした。


「それはそれとして、お兄ちゃん。今日はすることが一杯あるよ」


 仕切り直しと言わんばかりに結月はテンションを上げていく。

 若干ネグレクト気味の両親をそれとして、で片付けれることでは無いと思うのだけれども、と内心思うのは僕だけで無いと信じたい。


「今日のご予定は?」


 僕としても両親のことは話題にしたくないので、結月の会話に乗ってみる。


「優先度の一番高いのだけ言うと、お兄ちゃんの部屋の掃除だね。ほら、抜け毛だらけじゃん?」

「ムダ毛のを抜け毛って言わないで欲しいんだけど」

「抜け毛には変わりない」


 味噌汁を食べ終わった結月はお茶をすすり出す。

 不服だ。


「あとお兄ちゃんの服買いに行きたいよね」

「不要だと思うんだけど」


 むう、と結月は口ごもる。

 ぶっきらぼうに言い過ぎた、と思ったので付け加えてフォローしておく。


「僕が男に戻れたら着れなくなるじゃん?」

「私が着る」


 拗ねた子供みたいに結月が顔を合わせずに呟いた。

 確かに、服はレディースになる訳なのだから、結月にも流用はできるだろう。

 実際に今僕が着ている服は結月のお下がりな訳で、サイズはあっているのかも知れない。

 だが、僕が今、着ている服は所詮しょせんはお下がりなのだ。


「サイズ絶対に合わないって」

「いける。ワンチャンいけるから」

「身長も胸も僕の方が小さいからワンチャン無い」


 僕の貞操観念を守るため必死に抵抗する。

 そんな僕に不服のようで結月は依然としてジト眼でお茶をすすっている。


「わかった。でも、下着だけは買いに行くよ。パンツは貸したくないし」


 妥協したようで結月は淡々とした口調でそう言った。

 パンツくらいは確かに買いに行った方が良いかもしれない。


「昨日の私はお兄ちゃんのことを不完全燃焼にさせちゃったけど、パンツに予備があれば私のフィンガーテクを見せてあげられるし」

「……それは遠慮するけど、パンツは買いに行くよ」


 朝から下ネタを言われ胸焼けがしてしまいそうだった。

読んでくださり、ありがとうございます。

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[一言] 本当にいいお嫁さんになれそう
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