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朝チュン?

 その後、結月は不服そうだったが直ぐに眠りについてしまった。

 最後までいかなかった腹いせか、結月は僕のことを抱き枕代わりにしている。

 相変わらず僕の顔を包み込む結月の胸が心地よい。


 しかしだ。

 僕は消化不良だ。

 股間にソフトタッチで密着している結月の膝と胸の柔らかさがもどかしさを加速させる。

 出来れば今すぐにでも、このもどかしい感覚をスッキリとさせたい。

 だが、僕は抱きつかれているのだ。


 つまりトイレに行くことが出来ない。

 トイレに行けないのなら、ベットの上で発散する手もある。

 でも、それは僕の理性が許さない。


 仕方ないと自分に言い聞かせるようにして、僕は目を瞑り睡魔が襲ってくるのを待つ。

 この時ばかりは男の身体じゃ無くて良かったと思う。

 自信を持って言えたことでは無いが、絶対に結月のパジャマを汚していた自信がある。

 半殺しの酷い寸止めを感じながら僕は眠りについた。




 次に僕が目を覚ますと結月の姿は無かった。

 近くに置いておいたはずのスマホを手探りで探し、時刻を確認する。


「まだ四時半じゃん」


 声は相変わらず女声のままだった。

 休日は早起きをする主義だがさすがに早すぎる。

 むしろ休日は九時まで寝ている結月が居ないことに驚きを感じずにはいられない。


 一応、これが夢である可能性も捨てきれないので一度、自分の胸を揉んでみる。

 手に伝わる柔らかさと揉んだ感覚的に現実で間違いないらしい。

「二度寝しよかな」


 そう呟いてみて目を瞑る。

 胸を揉んだせいでか覚醒してしまった意識では中々眠ることが出来ない。

 寝返りを打つこと数分後。

 扉が開いた音がした。


 結月が帰ってきたらしい。

 音を極限まで押し殺しており、寝ている僕への配慮を感じられる。

 結月がベットの真横に来た気配を感じ取る。


 だが、そこから動く気配は感じ取れなかった。

 フローリングに何かを滑らす音が聞こえる。

 音がした、と結月も気が付いたようで手が止まったようだった。


 まぶた越しでも視線を感じる。

 きっと僕が起きているのかを確認しているのだろう。

 数秒間の静寂の後に再び、フローリングが擦れる音が聞こえだした。


 結月に気付かれないよう、僕は薄らと目を開ける。

 どうやら結月はベットの下にあった段ボールを引きずっているようだった。

 その近くにはオモチャ袋が見える。

 チャックを閉め忘れているようで、中身が少し見えてしまった。


 紫やピンクと言った色とりどりのオモチャが見えてしまう。どんな種類のどんな用途のオモチャなのかは、今の目の開け具合では特定できない。

 段ボールがベットから出てきた所で、結月はオモチャ袋を見る。


「あっ」


 小さい声で結月が言葉を漏らす。

 おそらくだが、オモチャ袋のチャックが開いたままであることに気が付いたらしい。


 そして再び部屋は静寂に包まれる。

 僕の様子を確認し終えた結月は音を殺しながらチャックを閉める。


 起きるなら今だ。

 そう僕の直感が言っている。

 何の根拠も無い自信だけを信じて目を開ける。


「あ……」


 目を開けて直ぐに結月と目が合ってしまった。

 結月は二度見している辺りにリアリティーを感じてしまう。

 タイミングが悪い。

 せめて「おはよう」を言ってから眼が目が合って欲しかった。


「おはよう」


 寝起きにべらべら喋る方が怪しまれる気がするので、とりあえず僕は挨拶しておく。

 お互いに見つめ合うこと数秒。

 先に結月が口を開いた。


「お、おはよーお兄ちゃん」


 結月は声が裏返りながらそう言いながらオモチャ袋のチャックを閉めるのを止めてしまった。

 中身が見えてしまっている。

 見ようとしなくても、中身がカラフルなのでどうしても目がいってしまう。


「今、起きたよね?」


 恥ずかしそうに声を押し殺しながら結月は訊いてくる。手が完全に止まってしまっており、オモチャ袋は結月の手に握られたままだった。

 目線のやり場に困るので、せめてチャックを閉めて欲しい。

 少し前から起きていたが、ここは今起きたところ、と言うのが男の勤めだろう。


「今起きたところだよ」


 そう言って僕はベッドから起き上がる。

 オモチャ袋について言及するのは紳士のすることでは無いからな。

 結月が自分から話を振ってこない限りは気にしないふりをする。


「朝ご飯でも食べる? 朝も早いし、今日はパンじゃ無くて僕が作るよ」


 兄らしく、格好つけてみる。

 基本的に朝はパン派だが、たまには良いだろう。


「作ってくれるの?」


 嬉しそうに結月は立ち上がる。

 その衝撃でオモチャ袋の中身が一つ床に落ちてしまった。

 それは昨夜、話していた振動するカプセルでは無い。

 だが僕の記憶の片隅に動画で見たような記憶がある、深いピンク色でオタマのようなオモチャだった。

 そのオモチャが落ちた、と認識して直ぐに結月がそれを拾った。


「お兄ちゃん」


 物凄く結月は恥ずかしそうだった。声は裏返り、耳まで真っ赤だ。

 返す言葉が思い浮かばないので、思わず目線を逸らしてしまう。


「これが何なのかわかる?」


 自棄にでもなったのか、結月はオタマのようなオモチャを僕に見せつけてくる。


「見たような記憶はあるけど何かはわかりません」


 そう素直に言ってみる。

 そうすると結月は安心したようで、オタマのようなオモチャを袋にしまった。


「よし! それじゃお兄ちゃんの手料理を食べようかなー」


 空回り気味のテンションで結月は声を張り上げた。

 オモチャ袋を段ボールの上に置き、脚で蹴飛ばしながら話を続ける。


「ささ、お兄ちゃん! 折角の日曜日だし、今日は遊ぶよ!」


 結月はそう言って僕の背中を押しながら部屋を後にした。

読んでいただき、ありがとうございます。

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