添い寝
見られたくないオモチャ袋論争が終結し、一分が経過した。
ピンクの振動するカプセルが思っていたより安いことを結月から教えられ僕の心は悩んでいた。
ワンコインで買えるのであれば男に戻ったときでも「買ってしまった」と言う罪悪感が少ないと思うのだ。
それに女性の気持ちを知るためにも体験してみた方が良いと思う。
「じゃ電気消すね」
悶々と悩んでいる僕にはお構いなしに結月は部屋の明かりを消した。
暗順応していないため一時的に視界が真っ暗になる。
このまま僕がベッドの横で正座し続けると結月と接触事故を起こしてしまいそうだ。
お互いに得をしないので素直に僕は立ち上がった。
このままベッドに腰掛けよう。
そう思った矢先に結月が僕のパーソナルエリアに入った気配を感じる。
感じ取ることは出来てもどうすることも出来なかった。
「うぉっ!」
出た言葉は男子だったが、声は女子だった。
バランスが崩れベッドに倒れ込む。
次第に眼が暗闇になれてきたところで結月の姿が見えてきた。
「もうちょっと普通に寝かしつけることはできないのか?」
「いやぁ、やっぱりタイプな人ってベッドに押し倒したくなるじゃん?」
照れくさそうに結月は微笑んでいた。
あまりにも、つまらなさそうな顔を僕が浮かべていたからか結月は気まずそうに呟いた。
「何回もしていると慣れちゃったね」
そう言って結月は立ち上がった。
押し倒した僕をそのまま放置して結月はベッドに寝転がる。
「本当に今日はもう何もしないから普通に寝るよ」
結月は優しく微笑んでいた。
結月の気が変わらない内に僕も結月とベッドに横になった。恥ずかしいので、結月には背を向けておく。
布団を被ると結月の匂いがより強く感じる。
いくら血の繋がった妹とは言え、女の子の匂いにはまだ慣れない。
「お兄ちゃん、こっち向きなよー」
結月はそう言いながら僕の背中に胸を押し当ててくる。
生乳を直視することは出来るようになったが、感触には慣れない。
「向かないなら力尽くでするよ?」
結月はそう言って脚と脚を絡めてくる。
「自分で向くから! 脚を解いてくれ」
「ほんとかなぁ」
耳元で結月は囁いてきた。
意地悪そうに結月は脚をより綿密に絡めてくる。どさくさに紛れて僕の胸を揉んできており、くすぐったい。
無理矢理、結月の固め技を解いて結月の顔をジッと見つめる。
「やっと、こっち向いた」
はにかむ笑顔で結月は呟いた。
顔と顔との距離が近い。
ガチ恋距離だ。
少なくとも僕は今まで女の子をこの距離で見たことが無い。
目と目で見つめ合うこと数秒間。
家族愛に気付くことは出来たが、声を出すことは出来なかった。変に気恥ずかしい感情だけが強くなってくる。
「雄の眼になった」
結月は嬉しそうに微笑んだ。
嬉しいような恥ずかしいようなもどかしさを感じ、僕は思わず目線を逸らしてしまった。
「そんな眼はしてないと思うけど」
「女の子にはわかるんだよ」
はにかむ笑顔で結月は更に距離を詰めてくる。
結月の顔を見ないように顔を動かして見るがどう頑張っても視界に入ってしまう。
顔をニュートラルの位置にすれば満足げな結月と目と目が合ってしまい照れくさい。
眼を合わせたくないので視線を落とせば結月の胸に視線を取られてしまう。服の上からでもわかるくらいには大きさがあるので、思わず見つめてしまうのは男の性と言うものだろう。
「触りたいなら触っても良いんだよ」
「触らないから。今は僕もあるわけだし」
今、結月の顔を見ると僕の理性が耐えれる自信が無いので、結月の胸を見ながら答えた。
ムードがよろしくない。
このまま僕が結月のことを襲ったとしても、それは同意の上と断言できてしまいそうだ。
血の繋がった妹だし、何より今の僕は女体なのだ。兄妹間よりも業が深い気がする。いや、逆に考えれば入れて出すモノが無いのだから良いのか?
「エッチな事考えてる」
「……そんなことは無いです」
「私は考えてる」
今までも反応に困っていることはあったが今は明らかに違う。
絶対、僕の理性を試している。
結月の方も意図して誘ってきている。
幸いなこと――欲求に素直になれば残念なことに、入れる先っぽは無いので悶々とした気持ちが次第に倍増してくる。
「よいしょっと」
「――ッ!」
一人で悶々と悩んでいると結月は僕の背中に手を回し、身体を密着させてくる。
僕の顔に結月の胸の柔らかさを感じる。
背中に添えられた手と結月の胸のぬくもりが僕を包み込んでいるようで癒やされる。
上半身だけで無く、下半身の密着度合いも高い。
ふくらはぎだけでなく、太ももまで脚を絡ませている。
絡ませた太ももはお互いの内股で挟み、毛布や抱き枕では無い人肌を感じることが出来る。
結月の膝は僕の股下に密着させてきている。
僕の膝も同じように結月の股下にピンポイントで挟まれていた。
「膝。強く押し当てて良いよ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心拍数が高まった。
我慢はまだ出来る。
でもこの緊迫を今すぐにでも解き放ちたい。
だが、僕には性欲よりも先に伝えたいことがある。
「結月」
「ど、どうしたの、お兄ちゃん?」
結月の声は裏返っていた。
驚いた拍子に結月の膝が僕の股下に当たり、ドキッとした。
ここで声に出しては終わりだと思い、一呼吸おいてから言葉を続ける。
「今日は色々とありがと」
「……急にどうしたの?」
依然として身体を密着させたまま会話を続ける。
「スキンシップが多いからさ。僕の気を使ってくれているのかなって」
結月は口ごもった。
そりゃこの状況で言う台詞では無いからな。
僕の理性が強すぎるが故に出た台詞なのだろう。
「そりゃぁね。お兄ちゃんのことだから冷静になっちゃったら鬱になっちゃいそうだし」
結月の抱きしめが強くなる。
さすが兄妹だ。
僕が冷静になったらドツボにはまる思考回路をしていることをわかっていらっしゃる。
図星だからこそ、僕の言葉は続かなかった。
「だから、考える暇を与えないようにって思ってね」
結月がそう囁いた。
返す言葉が思い浮かばない。
「……ありがとう」
それだけ僕は言った。
気まずい。
自分が蒔いた種だが落ちどころが見当たらない。
「童貞」
「え?」
そう呟いて結月は僕の股間に膝を強く押しつけてくる。
腰痛みたいなピクッと何かが来る。
「あっ。ちょっ。結月?」
自分の声なのに恥ずかしい。
反応してくれずに結月は無言で膝を押しつけてくる。
「ねぇお兄ちゃん」
膝バイブレーションを止めて結月は話しかけてくる。
「な、何でしょうか、結月さん」
頭が少しボーッとする。
耳が熱い。
熱い耳に結月の吐息がかかりこそばゆかった。
「お兄ちゃんの童貞と処女三つは私がもらう」
断言された。
しかも僕の耳元で。
無駄にイケボで。
「処女は一つだけだと思いますけど結月さん」
「出入り口の穴ってあるじゃん?」
「そこは出る一方通行の穴ですよ結月さん!?」
僕がツッコむと結月は止めていた膝を動かし出した。
きっと最後まで結月は持っていくつもりなのだろう。
ここは兄として――自分の貞操観念を守るために男を見せる。
少し力業になってしまったが、結月を押し倒した後の構図に何とか持っていく。
「今日は穏やかに寝かせてくれ」
出た台詞は僕自身でもわかるくらいに童貞臭かった。
あまりにも臭すぎてか結月は微笑を浮かべながら反応する。
「童貞」
自負していますとも。
苦い顔を僕は浮かべていると、結月は言葉を続けた。
「次は濡れて無いときに格好つけてね」
そう言って結月は膝に付いた僕の体液を見せてくる。
ぐうの音も出なかった。
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