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オモチャの隠し所

 僕をお姫様だっこしているにもかかわらず、足取り軽く結月は自分の部屋へと戻った。

 元々、兄妹の仲は良い方なのだが改まって一緒に寝るとなるとどうしても気分が高まってしまう。

 これがお持ち帰りされる感覚なのだろう。

 もちろん、素面しらふだし合コンすら行ったことは無いのだけれども。


「ねぇお兄ちゃん」

「何だい結月?」


 結月は僕を呼ぶだけ呼んで後に続く言葉を発しない。

 無言で僕の顔を覗き込んでいる。仏のように微笑んでいる辺りに圧力を感じてしまう。


「ど、どうされましたか、結月さん?」


 慌てて僕が聞き返すも結月の反応は薄い。

 結月の顔をよく見てみると、微笑んでいる訳では無くてにやけているだけに見えてきた。


「今から私はしたいことがあるからお兄ちゃんはベッドの上で腕を広げていてください。そしたら私はしたいことをするので合わせてください」


 大喜利でも始まるのか、と言いたくなる台詞回しで結月は話し出した。

 言い切ってから結月は僕のことを優しくベッドの上に置いた。

 それこそ、今までベッドに放り投げていたのが嘘のように思えてくる。


「はい、それじゃお兄ちゃん。腕を広げててね」


 結月はそう言ってベッドから遠ざかった。

 僕には今から結月が何をしようとしているのかわからないので、とりあえず腕を広げてみた。


「なあ結月。今から何す――」

「受け止めて!」


 僕の台詞を途中に結月はベッドに向かってダイブしてきた。

 自慢じゃ無いが、元々僕は咄嗟とっさのことに判断できるほど運動神経は良くない。

 結月は受け止めてと言っているが、この場合においての最善の手は避けることだろう。幸いにもここはベッドの上だから僕が避けたところで、結月は怪我をしない。


 冷静に考えてみれば、ベッドの上で腕を広げている次点で違和感を覚えるべきだった。この状態でハートが付きそうな「来て」と言えば、夜の運動会の開始となってしまいそうな展開であろう。

 結局の所、結月がジャンプしてしまった以上、僕に出来ることは無かった。


 ベッドのきしむ音とバネが鈍い音を立てるのと同じタイミングで結月が僕の上に覆い被さった。

 結月は綺麗きれいに僕の胸に飛び込んできており、脚も広げてお互いに脚を怪我しないようにするという心遣いさえ見せていた。


「一度、やってみたかったんだ」


 無邪気な笑顔で結月は浮かべる。

 わかるよ、その気持ち。

 僕も一度は女の子に対してしてみたかったさ。

 でも今、実際にされてから思ったが意外とベッドにダイブするのって危ないんだな。


「せめて家のベッドでは止めようね」


 思ったよりも冷静に僕はそう答えていた。


「だよね。ちょっと痛かったし」


 苦笑いを浮かべながら結月は立ち上がった。

 僕も布団を掛けたいので一旦起き上がる。

 ここで僕に一つの思いが頭を過ぎった。


 それは結月のベッドの下を覗いてみたいという思いだ。

 我ながらしょうも無いことだ、と十分理解している。それに、ベッドの下を覗く行為は男子同士か女子が男子に対してする行為だと言うことは十分理解している。


 だが結月だ。

 僕が女体化するまではパーソナルエリアを守っている至って普通の妹だった。


 それが僕が女体化してからはどうだろう。

 胸を揉んだり、下ネタを言ったり、スパッツに顔を埋めてきたりとセクハラを繰り返している。

 女子中学生の結月だが、性に対する行動が男子中学生のように素直なのだ。


 もしベッドの下にモノを隠しているのであれば、兄として隠す場所を変更をおすすめしたい。

 そんなもっともらしい理由を付けて僕は結月のベッドを覗き込む。


 するとベッドの下には小さめの段ボールが一つ置いてあった。その上には見慣れた大きめのオモチャ袋が置かれていた。


「なぁにしてるの、お兄ちゃん?」


 結月の声かけに思わず反応してしまった。

 いくら妹とは言え、女子のベッド下を覗くといういかがわしい行為をしているから当然の反応と言えば当然か。

 いや待て、今はそんな分析をしている場合じゃ無い。


「私はエッチな本と動画はインターネット派だよ」

「ですよねぇ」


 当然――当然かはわからないが、結月はインターネット派というのはいかにも現代っ子らしい。


「お兄ちゃんだってオカズはネットでしょ?」

「……そうだけどさ」


 ド下ネタな単語を結月は真顔で言った。

 さすがに反応に困る。


「あと段ボールは何だけどね。これはパソコン部品の空き箱」


 そう言って結月はベッドの下にある段ボールを取り出して中身を見せてきた。

 段ボールの中身にはヘッドセットやゲーム機の空き箱しか無かった。

 結月の言う通り段ボールの中には空き箱しか入っていないのだろう。

 だがその上に乗っていた、見慣れたオモチャ袋はベッドの下に置き去りにしている辺り、僕の考えは当たっているのだろう。


「ねぇお兄ちゃん」

「何でしょうか結月さん」


 名前を呼ぶだけで結月は話しかけてこない。

 気まずい数秒間の間を開けてから結月は口を開いた。


「このオモチャ袋はお兄ちゃんの部屋にもありましたよね?」


 真顔で結月はそう訊いてきた。顔は無関心を貫いているが、声は恥ずかしそうだった。

 少なくとも怒ってはいなさそうだ。

 てか、僕の部屋におそろいのオモチャ袋があることを知っていることに驚く。


「ありますけど」

「お兄ちゃんのオモチャ袋の中身は見たけど、私のオモチャ袋の中身は見なくても良いよね」


 真顔の圧力を結月かかけてくる。

 てか僕のオモチャ袋の中身を見られていたんだ。

 いや待てよ。

 僕のオモチャ袋は本棚に上手いこと隠しているんだ。

 結月は僕の本を滅多に借りに来ないことを考えると嘘の可能性も十分ある。


「アレってドラッグストアで見たことはあるんだけど、赤色以外に白とか青とかあるんだね」


 結月は興味津々と言った様子で顔を合わせてくる。

 色について言及されたせいで僕の中で見られたことに対する信憑性しんぴょうせいが増してくる。


「アレっていろんな大きさが出てるって初めて知ったよ。意外と大きかったんだね。お兄ちゃんの主導権って。このぐらい?」


 恥ずかしそうに結月は頬を赤らめていた。

 指で物差しを作り、その長さをじっくりと眺めている。その長さはテレビのリモコンくらいある。

 残念ながら僕はそこまで大きくない。

 これ以上、僕が黙っていると詳しいサイズを訊かれそうなので無理矢理にでも話を切り上げる。


「その袋の中身は詮索せんさくしないから。もう、この話は終わりにしよう。あと、そんなに大きくない」


 一方的に僕はそう言って結月の段ボールをベッドの下に戻した。

 話の途中で切り上げたためか結月は不服そうに頬を少し膨らましていた。

 やっぱりオモチャ袋を見られたことは怒っていないようだった。


「あ、そうだお兄ちゃん」


 先ほどまでとは違い、結月はにやけた顔になっていた。嬉しさのにやけでは無く、下ネタを言うときのにやけようだ。


 見える地雷は無理に踏みに行きたくない。

 だが、今から一緒に寝る事を考えると下ネタなら今、言って欲しい。ベッドの上で返しに困るド下ネタを言われて気まずくなるのはごめんだ。


「何でしょう、結月さん」


 下手に出るために敬語で正座までして返事をしてみる。

 僕の思いが届いたのかはわからないが、とりあえず結月は笑顔だった。

 その後に結月は僕に向かってサムズアップを見せつけてくる。


「ピンクの振動するカプセルだけど三百円もあれば買えるんだよ」


 これに対して僕はどのように反応するのが正解だったのだろうか。

 少なくとも僕はこれだけは感じた。

 意外と安い。

読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 意外と安いな
[一言] 何故にそれの値段を知っている? と突っ込みたいところだけど、通販サイトとかで簡単に知れますからねぇ。 妹ちゃん、どこを目指して突き進んでいるのやら。 そしてこのお話、近い将来にノクターン…
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