揺れている
途中の駅に停まったとき、
小さな女の子を二人連れた、
若い父親と母親が乗ってきた。
父親の方は、丹精な顔立ちで、
マフラーを首に巻き、
黒いコートを着ていた。
母親の方は、茶色に染めた長い髪を、
時々指で梳きながら、
一人の子供の手をひいていた。
ルミナリエを見に行った
帰り道だろうか。
両親はどちらも、疲れた顔だった。
「パパ……おてて」
もう一人の子供が、父親を見上げて、
手を伸ばした。
父親は、何も言わずに、
ポケットから手を出して、
子供の指先を掴んだ。
その子供は嬉しそうに、
繋いだ指に繋がる腕を揺らした。
家族のひとときが、子供たちの
思い出になるところだ。
できることなら、大人だって、
自分の腕を揺らすことが
あったらいいのに。
父親の顔は疲れたままだった。
母親の顔もそのままだった。
ただ、長い髪を梳くことは
もうなかった。
時折、子供の口元に
耳を近づけて、頷きながら、
なにかを囁いていた。
電車が揺れ、父親が揺れている。
その両親に、頑張ってと、
静かに祈った。