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呪われた勇者が世界を救うまで  作者: 蓮水もあ
第一章
8/12

冒険者ギルド


冒険者ギルドはエストカイン王国の城下町、メラルドの南門近くにある。

ゲームの中では散々お世話になったそこも現実だとさらに立派に見えた。中へ足を踏み入れると、外の喧騒とは違う騒がしさがある。冒険者らしいいかにもな外見の者もいれば、剣など振れるのかというような青年もいた。かと思えば女性の冒険者や、少年少女もいて、MSOの冒険者ギルドそのままだった。


「手前のカウンターが総合案内。登録などの受付もここでしてくれる。奥のカウンター2つは依頼の受付カウンターと素材買取受付。依頼の申し込みは総合受付に声を掛けると別室で申し込みができる」

「依頼は掲示板で?」

「そうだ。奥に行くほどランクの高い依頼が掲示されているな。例外はランク指定ありの緊急依頼が受付脇に、Sランク以上の依頼が2階の奥の個室に、薬の原料など常時受け付けている依頼は入口側の壁にある」


出入り口の方を振り返ると、確かに出入り口側の壁に依頼書なのだろう紙が所せましと貼ってあった。

ゲームではすべての依頼が一つの掲示板にまとまっていたけど、物理的に不可能なことはこうして現実らしく調整されているのかもしれない。


「ちなみに一階は待合用の椅子とテーブルしかないが2階には食堂兼坂場もある。ギルド会員は3割引きで食べれるぞ」


そういえばゲーム内でもそうだったなと頷く。

では登録でもするかと総合案内と足を運ぶとそこには見知った顔があった。

紫色のつややかなロングヘアーに、髪の色を少し薄くしたような透明感ある瞳。細身の体に似合わぬ巨乳。β時代からNPCの中で絶大な人気を誇った女性キャラの一人、メイアがそこにいた。


「こんにちは!本日はどのようなご用件ですか?」


ゲーム内と変わらぬ第一声に、思わず選べるはずの選択肢を思い出した。




メイア『こんにちは!本日はどのようなご用件ですか?』


→冒険者登録

 依頼する

 この街について

 最近の噂話

 メイアのこと

 プレゼントを渡す

 デートに誘う

 メイアちゃんはぁはぁ




普通のゲームであればないであろうプレゼントを渡す以下の選択肢。

これはMSOが自由すぎるゲームたる由縁。すべてのNPCに対して好感度を上げれるシステムがあった。

これは異性同性関係ない。プレゼントで好感度を上げて、デートでさらに親密になる。そして好感度が一定値を超えると「告白する」「親友になる」の二つの項目が選べて、恋人になるか親友になるか分岐する。

もちろんどちらも選ばないこともできるし、親友から恋人になる選択肢もある。恋人になった後は嫌になれば別れることもできたし、そのまま結婚して女プレイヤーであれば妊娠出産もあった。


ちなみに一番下の項目はネタの選択肢で、例えばドエスキャラなら「踏んでください!」、どこぞの脳筋なら「拳で語ろうぜ!」などNPC一人一人に合わせたものになっている。

もちろんファンなら喜ぶであろうご褒美つきだ。何度もやりすぎるとNPCに怒られる。

たしか「メイアちゃんはぁはぁ」を選ぶと、「ど、どうしたんですか?具合が悪いんですか?」と心配しながら手をおでこに当てて熱を測ってくれる。


という懐かしい思い出はさておき、本来の目的を遂行することにした。


「冒険者登録をしたいのですが」

「かしこまりました!それではこちらの用紙に必要事項をご記入ください。文字が書けないようなら代筆いたしますがいかがいたしますか?」

「この国の文字じゃなくてもいい?」

「登録用紙には共通認識の魔法がかかっていますので母国の文字で大丈夫ですよ」


にこにこと裏のない笑顔で対応するメイアの人気は高いらしく、待合の椅子に座った冒険者たちの方から、今日もかわいいなとか色々聞こえてくる。

 これらの声をバックに用紙に必要事項を書き込んでいく。名前、性別、出身地、属性、特技を書き込んでいく。出身地などは任意でいいそうなので、出身地は適当な地名を、属性欄には闇と書いておいた。特技はとりあえず空欄でいいだろう。

 ちなみに闇落ちは闇以外の魔法を使うとバレてしまう。必然的に闇属性しか書くものがない。


「チヒロっていうのはこういう字を書くのか。初めて見る文字だ」

「だろうね」

「でも覚えた」


 えっ!フェルって結構頭いいのかな。この国の文字は漢字とは似ても似つかない文字なのに。


「この紹介者って言うのは?」

「基本はFランクからスタートですが、高ランクの冒険者や国の要人、貴族などからの紹介があった場合に、テストを実施し実力に見合ったランクからスタートすることができます」

「じゃあ俺には関係ないね」


 書き終えた用紙をメイアに渡すと、一通り問題がないか確認していた。


「では最後に賞罰の確認を行いますので、こちらの水晶盤に手をのせてください」


 言われるままに手をのせるが、水晶盤は特に変化を示さなかった。

 ゲーム内ではなかったシステムなのでよくわからないが、国から栄誉ある勲章を賜ったり、罪を犯して捕まったりしている者のデータが入っているのだろう。たぶん。


「賞罰なしですね。それでは手続きが完了いたしました。ギルド会員の証明となるギルドカードは一時間ほどでご用意できますので、後ほど受け取りにいらしてください。こちらは引換券です」

「ありがとう」


 お礼を言って総合案内のカウンターから離れる。


「依頼は見ていくか?」

「依頼ってカードがなければ受けられないんだよね?それなら取りに来た時でいいよ」

「了解」


 しばらくは城下町メラルドで活動することになる。できれば一旦国を出て、身を隠したいのだが、国を出るには魔物を避けては通れない。他の勇者と偶然で出会わないためにも本当ならすぐにでもおさらばしたいのだけど。

 急がば回れ。ゲームの知識を使えばレベル1でも他国に渡る手段はあるが、実際通じるかどうかはわからない。いざ試してダメでした、では困る。危険な賭けは極力避けるべきだろう。


「とりあえず昼食にしよう」


 腹が減っては戦はできぬ!しばらく戦うことはないだろうけど。


「今後の話もそこで?」


 フェルの瞳が鋭くなる。


「いや、親睦会でもしようかと思って。昼食をとったらギルドカードを取りに行って、依頼を一通り見よう。しばらく滞在する宿も確保しておいた方がいいかな?」

「今の時期は宿が埋まることもないだろ」

「それなら今日は城下町を見て回りたい!」


 無邪気に見えるよう、無駄にはしゃぐ俺をフェルは苦笑いで見ていた。

 自由とは名ばかり。俺の周囲にはフェル以外の見えない監視がついていることだろう。

 危険視している闇落ちを上層部が言葉通り自由になどするわけがない。ぶっちゃけ今の俺では感知できないが、フェルは気づいて警告してくれていたし。

 はじめから飛ばしすぎると寿命を縮める。ちょっと能天気で使えないと思わせておいた方が、向こうも油断してくれるだろう。


 言葉の通り、フェル一押しのお店で昼食をとりながら楽しく談笑した。フェルは元々は庶民として育ち、父が功績をあげて貴族に取り立てられたのだという。出身はここメラルドなのでとても詳しかった。

フェルにメラルドの名所や、この町の名産物や、有名なものなども教わった。

 食事は文句なしに美味しく、また来ようと約束をして店を出た。

 ゆったりと食事をしていたので、これからまた冒険者ギルドへ向かえば時間的にぴったりだと思う。時計を持っていないので体感だが、これが意外と当たる。自慢するには微妙な、無駄に精度の高い特技である。


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