表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われた勇者が世界を救うまで  作者: 蓮水もあ
第一章
6/12

運命の分かれ道

闇落ちは神に呪われし忌子。


成長とともに周囲に呪いを撒き散らすそれは

かつて悪魔に与し者の生まれ変わりである。


その魂に刻まれし罪は償いが終わるときまで

決して晴れることのない闇として付き纏う。




―――これは正式版では消えた伝承である。


 β版では闇落ちと呼ばれる者たちが集まる隠れ里があり、彼らを守るか殲滅するかを選ぶイベントがあった。俺はもちろん守る側を選んだが。闇落ちは一種の呪いみたいなもので、この世界に住まう人達には忌み嫌われていたのだ。捕まれば即処刑という地域もあるくらいには。

 しかし…まさか自分が闇落ちなんて、話ができすぎていないか?


「国王陛下、よろしいでしょうか?」


 王の護衛が動く。先の展開が読めるのがいいのか悪いのか。


「なんだ?」

「いくら勇者とはいえ闇落ちは危険です。ただちに捕縛し、処刑するべきかと」


 ほら来た。


「そうです!王、闇落ちは災いを招くのです」

「外へ出すのは良くないのでは…」


 次々と声が上がる。この国はまだ寛大な方だったと思うが、それでもこの調子だ。一生牢屋で過ごすのも罪もなく処刑されるのも勘弁願いたいがどうしたもんかな。

 自分の保身のためにどうしようかと悩んでいると、震える声が聞こえた。


「処刑ですって…?」


 一宮の高い声は男しかいない部屋ではよく聞こえた。

 それを皮切りに、鳳凰寺、柚木、篠原、そして空気の読めない坂下までもが口々に反論の言葉をぶつける。勇者に選ばれるくらいだから正義感も強いのかもしれない。


「おい、それはいくらなんでもないだろう」

「この世界で何か罪を犯したのならともかく、無実の人間を殺すなど、国のすることですか?」

「俺たちの人生を勝手に奪った上に、殺すって?一体何様なのかなぁ」

「人を殺すのは悪いことなんだぞ!」


 まだ出会って1日も経ってないというのに、勇者全員、庇ってくれている。

 元の世界には魔法や呪いがないから、災いと言われても恐怖感がない。そんな理由で処刑はおかしい、と全員一致しているみたいだ。助かる。


「しかし、他の勇者様方にも影響があるかもしれません!」

「何か起こってからでは遅いのです!」


 言い争いが始まる、と思ったのだが、国王の「静かに」の一言で、また沈黙が訪れた。


「正直、世界が不安定な今、闇落ちの勇者を他の勇者と同じく育てるには心配がある。だが、こちらで呼び出してだしておいて都合が悪いから処刑というわけにはいくまい」

「しかし、陛下!不安要素はなくしておかねば危険です!」

「…と、言っておるのだが、本人はどう思っておるのか聞かせてくれぬか?」


 こっちに振ってきた。説得してくれるんじゃないのか。いや、鵜呑みにして問答無用で処刑に持っていかれるよりは100倍マシけどね。


「とりあえずそこの騎士さん、気に入らないので死んでください」


 真顔で暴言を吐いた。


「なんだと!やはりそれが貴様の本性か!!」


 くわっと目を見開き剣を抜いたのを見て小さく笑いが漏れた。

 予想以上に直情的なことで。それでよく王の護衛騎士やってるよね。


「って言ったらどう思います?ふざけんなって思いません?」


 できる限り小馬鹿にしたような態度を装い、あえて煽っていく。


「当たり前だ!貴様のような下賤な者に指図されるいわれはない!」

「そのセリフ、そっくりそのまま返します。どうして俺があなたに殺されなくてはいけないんですか?」

「それは貴様が闇落ちだからだ!」

「じゃああなたは俺の世界でいうところの屑なので俺に殺されても文句はないですね」

「貴様ぁっ!」


 騎士は怒りで今にも剣で切り付けてきそうだが、国王の手前、勝手なことはできないのか口だけで応戦する。せいぜい刀を抜かないように気を付けてね。俺が死ぬから。


「俺の現在の状況をあなたに当てはめて理不尽を訴えているだけです。肌が黒いから死ね、目の色が違うから死ね、生まれてきたこと自体が罪だから死ね。そんな風に聞こえますが」

「闇落ちは災いを招くのだから仕方がないだろう!それともお前は自分のせいで他人が不幸になってもいいのか!!」


 偏った正義感で、人を糾弾するのは大概にしてほしい。

 国の上層部にいる人間がこれなら下の方では更にひどい扱いをされているんだろうな。

 β版では闇落ちの話はアップデートで少しずつ追加される予定だったけど、正式版になったときに、元々あった設定ごと消えてしまった幻のクエストがあったはずだ。つまり、闇落ちがどのようなものかは知っているが、解決方法は俺も分からない。


「仕方がない?そんな迷信のせいでただ生きることも許されないって?あなたにとって闇落ちは人間と認められない存在なんですね。簡単に処刑を宣言するくらい、どうでもいい軽い命と」

「そんなことは言っていないだろう!」


 ま、さすがにその通りだとは言えないよね。


「言ってるじゃん、さっきから何度も。自分の命じゃないからそんな簡単に言えるんだろうが。あんたが闇落ちしたときは当然自害する覚悟があるんだよな?あんただけじゃない。あんたの家族、恋人、友人、同僚…周りに闇落ちが現れた時は、自分の手で首を刎ねる覚悟があってそんなセリフを吐いてるんだろうな?」


 俺もあえて少し言葉を崩す。丁寧に喋ったところで相手は俺を見下しているのだから、こっちも敬意を払う必要はないよね。

 相手が怯んだのは、あれかな。反論は予想してなかったってことかな。


「あんたは俺に、他人が不幸になってもいいのかと聞いたよな?」


 俺は努めて冷静に言葉を選ぶ。


「もう一度その言葉を言ってみろよ。自分たちが不幸にならないためにお前が死ねよって。自分の幸せを守るためなら他の人を不幸にしても構わないのはあんたの方だろ?正義面して聞こえのいい言葉を並べ立てたって意味は変わんないよ」

「ぐ…貴様!」

「どうせ国ぐるみで迫害してるんだろうな?民を守るべき騎士が弱者たる民を虐げるのが当たり前ね…誇り高き騎士が笑わせる」


 ついでに周りの騎士も挑発しておく。面白いほど殺気立っているなぁ。

 俺は今レベル1だから騎士達がブチ切れて襲い掛かってきたら死ぬのは確定である。ただ、それでもイラッとしたから言い返したかったのがひとつ。今後生き延びるために敵味方をハッキリさせたかったのがもうひとつ。


「こっちの世界の都合で殺されるのは御免だし、人に理不尽に死ねというあんたこそ死んだ方が世の中のためだと思うけど」

「貴様のようなガキが舐めた口を!」


 まだギャーギャーと煩いが、この人と話しえていても埒が明かない。

 思い切って国王との直接交渉に入る。


「国王陛下」

「うむ」

「この国の騎士は都合が悪ければ勇者の捕縛・処刑も厭わないということがよく理解できました。勇者に対してすらそうであるなら国民にはもっと酷いことを平気でするのでしょうね」


 他の庇ってくれた勇者たちにも理解できるよう丁寧に言葉を選ぶ。半分嫌味なのは許してほしい。俺だって不快な思いをしたんだからお相子でしょ?


「俺たちにとって、この世界はある日突然理不尽に見舞われる場所です」


 この後、俺はしばらく別行動になる。このままこの城から出れば少なくともほとぼりが冷めるまでは会えないだろう。

 その間に、もしβ版の頃の歴史が絡んでくるとなると、他の勇者が知らぬうちに巻き込まれて死んでしまうこともあり得る。国や大きな組織に利用される可能性もある。

 俺たちは大丈夫などと軽い気持ちでやっていると、味方だと思っているやつに後ろから殺される。それがβ版が広まらなかった、脱落者が多かった理由の1つなのだ。

 警告しておけばしばらくは注意するだろう。


「現に俺は味方だと思っていた騎士に死ぬことを求められていますし」


 ちらっと先ほどの騎士を見る。今にも飛びかかってきそうだった。


「率直に言いますと、単独で自由に動く許可をください」

「それは勇者の務めを放棄するということかの?」


 国王は目を細めた。


「いいえ。役割は果たすと約束しましょう。ただ、事実はどうであれ災いを呼ぶ存在である闇落ちが、表立って他の勇者と動くのは得策ではないと考えます。民衆も支持しないだろうことはここにいる騎士の反応を見れば分かりますから」


 勇者の務めは外交問題を解決したり、内乱をおさめたり、他の種族を撃退するなど、多岐に渡るだろうが、人族の代表として顔を出すことは少なくない。闇落ちの俺では国民が歓迎しない。代表は務められない。

 仮に隠して表に立てばそれは弱点となってしまう。

 秘密は口止めしたところで必ずどこからか洩れるものだ。

 その時は確実に悪い意味で“的”となる。他の勇者は動きやすいかもしれないが、俺個人はそんなのまっぴら御免である。

 かといって牢に入れられるのも処刑されるのも全力で遠慮したい。


「このまま俺を勇者と呼ぶのなら、俺自身が問題を起こすつもりがなくとも、俺を利用しようとする者もいるでしょうね」

「ふむ…つまり、なかったことにしろと言うわけじゃな?」


 勇者の務めを果たさない、とは言わない。

 関わらないことを約束してしまったら、“関われなくなる”。これはとても恐ろしいことだ。

 他の勇者が利用されても、殺されそうになっていても、俺は手を出せなくなってしまうから。

 ならば表に立たなくていいように辻褄を合わせてしまえば、両者の願いが通る。


『なかったことにすればいい』


 召喚で呼ばれた勇者は5人。6人目の勇者はいなかった。


「はい。俺は勇者召喚の際に巻き込まれた一般人、でどうでしょうか」


 国王はバカじゃない。俺を処刑したときのリスクも理解はしていると思う。

 戦いのない世界から呼んだ勇者たちの一人を処刑すれば、他の勇者たちの士気に関わる。

 人の生き死にに慣れていないのもそうだが、迷信を信じて人ひとり処刑するなど平和主義の日本人からすれば狂気じみている。

 俺を殺したことで、次は自分かも…と思えば国への信頼はマイナスだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ