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呪われた勇者が世界を救うまで  作者: 蓮水もあ
第一章
2/12

選択

 目の前の国王様は絶望したような顔になる。でもさ、同情を引こうったって無駄だよ。

 空気に負けてOKするのは自らの首を絞める行為だって分かってるもん。


「その前に前提条件を確認したいんですけど」

「うむ」

「そもそも俺たちは元の世界に戻れるんですかね?」


 他の奴らもハッとしたようにこっちを向く。

 だってさ、この手の話ってだいたい帰れないでしょ?一方通行でしょ?ここまでテンプレ通りだっていうなら、きっと帰れない。それも含めてお約束ってやつでしょ。

 案の定、国王様も他の人たちも暗い顔で目を伏せた。はいテンプレ来ましたー。


「え~…嘘でしょ?」


 さっきまでへらへら笑ってたチャラ男の顔も引き攣った。

 他2人も顔色が悪い。うるさい金髪だけが通常運転である。


「正直に言うと返す方法はわからぬ」


 ですよね。分かってた。長い溜息が出た。

 軽い調子で考えているように見えて現実逃避だ。全然落ち着いてないし、状況も知っている設定に当てはめて理解しようとしているものの、頭では混乱している。努めて冷静になろうと頑張っているだけだ。

 他にも同じ境遇の人が5人もいるおかげで多少マシかもしれないが、協力を断られた国王たちより絶望を感じてるのは確かじゃないかな。


「俺たちが選べるのは3つしかないってことですよね。勇者の務めを果たたすか、果たさないか。このまま永住するか、帰る手段を探すか。生きるか、死ぬか」


 細かく言えばもっとあるが、2択にしたのは判断しやすくするためだ。


「助けて帰るに決まってるだろ!」


 金髪うるさいなマジで。

 他の皆はどうだろうかと見渡せば一様に険しい顔をしている。

 帰れないと悲観的にはなっていても、1人ではないというのは心強い。幸い他の5人はイレギュラーな出来事が起こっても、自分の意見を言えるくらいには自分をしっかり持っているように見える。絶望して死を選ぶ、みたいな最悪の事態にはならないんじゃないかと思う。

 あとは永住するか、帰る手段を探すか。探すというのは正しくないかもしれない。帰れる手段を確立する必要がある。


 これも急いで決める必要はない。残念ながら現段階で帰ることができないと確定しているのだから、当分はこちらの世界に拘束されることになる。

 ならば重要な選択肢は勇者としてこの国の問題解決に協力するか、否か。


 金髪の少年以外はさっさと帰る手段を見つけて速やかに帰宅したいところだろう。

 しかし現実的に考えて、それは難しい。召喚がどんな仕組みで行われているかも分からない俺たちが、この世界の住民に頼らずに帰れるだろうか?


 おそらく、帰る方法を探るには国の協力なくしては無理だろう。仮に住民として受け入れてもらえたとしても、生きていけるかもわからない今の状態で何ができるというんだ。

 召喚という手段でこちらに呼ばれたというなら、帰るための手段も似たようなものになる。

 召喚についての高度な専門知識がなければ不可能だろうし、その過程で多額の金銭も必要になると予想できる。


 素人がなんの知識もなく手を付けるには効率が悪すぎるのだ。

 勇者の務めを果たす代わりに、国や国の人材に援助してもらい帰る手段を模索するのが、現状ベター。落としどころはそんなところだろう。


「選択肢はあるが、選択権はないってことか」


 黒髪の少年が吐き捨てるように言う。

 気持ちはよく分かる。一方的に理不尽な要求を呑まされるのが分かっているのだから。


「帰れる保証もないのに、戦争に参加するなんて…」

「でも今はそれしか選べないよねぇ」


 戦争なんて平和な日本では経験のないことだし、そもそもこの世界の戦争がどんなものかも分からない。

 肉弾戦も困るが、異世界ファンタジーらしく魔法戦などと言われたらそれはそれで困る。

 事と次第によってはあっさり死ぬだろうし、軽々しく協力するとは言えない。

 反面、協力を拒否すれば帰る道は塞がれるだろうと全員が察している。


 険しい表情を浮かべながらも各自で必死に考える。

 やりたくないが、やらなければ帰れる確率は限りなくゼロ。打開策は今のところ思い浮かばない。

 ここは腹を括るか?いや、しかし…という心の声が聞こえてくるようだ。


「冷静に考えて、交換条件が妥当でしょうね。俺たちはこの国の問題解決にできる範囲で協力する。その代わり、この国の方々に帰る方法を探すために協力してもらう。皆さんも異論ありませんか?」


 諦めたのか開き直ったのか茶髪の男が意思確認をとると、金髪以外はしぶしぶ頷いた。

 それを受けて申し訳なさそうに眉を下ながら国王は口を開いた。


「お主らには本当にすまぬと思っておる。この世界での活動は各国共に不自由のないよう全面的にサポートする。帰還の方法についても全力を尽す事を約束しよう」


 国王の様子から、それなりの待遇は得られそうだと判断したのか、茶髪の男は話を続ける。切り替えが早い。


「それで、勇者の務めとは具体的には何を指すのですか?俺たちは戦いとは無縁の場所から来ましたから、戦力は期待できませんが」


 そう、問題はそこだ。勇者としての活動って何するんだろうね。

 一応この国の状況は聞いたが、具体的に勇者が介入するのはどこまでの範囲なんだろうか?物語の勇者といえばやっぱり魔王を倒すとか、敵対国の殲滅とか、あとはドラゴンと戦ったり、ぶっとんだのだと黒幕は神様でしたーみたいなオチを思い浮かべてしまう。

 でもこれ、空想だから許されるけど現実になったら絶望しかない。

 それに俺たちにとっては魔物を倒すより、人との戦争の方が避けたい事態だ。異世界だからって人殺しがダメだという倫理観はそうそう崩せない。


「確かにな。少し訓練したくらいで人並みが限度だろう?とてもじゃないが、これから復活する魔王なんて人外と、やりあうほど強くなるとは思えない」

「勇者なんだから聖剣とかあったりするんじゃないの~?」


 定番といえば、チート武器に勇者専用の魔法とか技能。あとは最初から強い、もしくは成長速度がめちゃくちゃ早い。

 個人的に聖剣はちょっと遠慮願いたい。目立つし。


「残念ながら聖剣などというものはない。だが、勇者として召喚される者は素質がある者だけ。鍛えれば上限なく強くなれるのが勇者の強みなのだ。故に、しばらくは戦うための技術とこの世界のことを学んでもらう予定じゃ」


 どうやら説明によると勇者として召喚された者は多少補正がかかり、少しばかり成長が早いものの、チートレベルではないようだ。がっかりである。

 でもそのおかげで過度な期待はされておらず、育成にかける時間も十分設けてあるというイージーモード。全員で1パーティを組むことも考えているが、今のところ1人ずつ1パーティーを作り、問題解決のために各地に派遣する方向で計画が進んでいるとのことだ。

 多分1か所に固めて全員死亡ということにならないように、リスクを分散しているんだろうな。


 異世界から勇者を召喚する理由はこの世界とは関係がないからだそうだ。人族から選出すると、陰謀が絡む懸念があるので分からなくもない。

 巻き込まれた側からするとクソくらえだが。


 「明日、ステータスカードを作り適性を見る。適正によってそれぞれ担当の騎士を付けるので、活動する上での方針はその者と話すがよい」


 結果的に俺たちは【職業:勇者】となったわけだが、急なことで疲れているだろうからとそれぞれ城の客室に案内された。うん、やっぱり定番の城だったみたいです。

 夕飯は勇者6人と王様、そして召喚の場にはいなかった第一王子とだった。王妃は病床に伏しているらしく、王子が代理だ。

 交流会というか、俺たち勇者の親睦会みたいなフランクなディナーだったが、料理はやたら豪華だった。


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