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呪われた勇者が世界を救うまで  作者: 蓮水もあ
第一章
12/12

おかえり

結果から言えば救出作戦は大成功だった。

被害はゼロ。レベル1の俺ができる作戦のなかでは最高の出来だったと思う。


 フェルは20人くらいなら余裕と言っていたので、信じて託した。でも怪我はしてほしくないので、必要なら使うように回復薬も用意してもらったけどね。

 フェルに頼んだ役割は、夜盗のように馬車を襲ってくれというもの。

 騎士に何させてんだ!と怒られそうだが手札が限られているのだから仕方がない。



 俺の役割は手順を踏んで攫われること。アジトへ向かう途中、魔力の粉というアイテムを地面に落としていた。

 このアイテムは、ゲーム内では錬金でしか使えない。だから錬金術スキルをとったプレイヤー以外にはゴミアイテムだった。しかし、実は他にも使い道がある。魔力の粉は、魔力を通すと光る特性があった。 つまり、複雑なアジトへの見えない道しるべを作れるということ。俺がこっそり落としていた魔法の粉は、後でアジトを潰すのに役立つだろうと思ってのことだった。


 あとは、フェルが馬車を襲ったときのことを考えた。人攫いたちが子供たちを人質にするかもしれない。誰かが怪我をするのは困る。

 本当は俺が出入り口付近に陣取って、他の子供がターゲットにならないようにするつもりだったけど、危険すぎると止められた。ので、仕方なく、あんまりやりたくない手段をとる羽目になった。


 捕まった全員を人質にできない状態にすればいいのだから、手段を選り好みしなければ方法はいくつか思いつく。


 俺たちはまず、攫われた子供たちを安全に保護する方法として透明マント、というか透明化の魔法付与が済んだ布を調達してきた。

 子供たちに協力してもらい。大きな布を全員でかぶる。するとどうだろう。檻の中には変わらず13人が存在しているにもかかわらず、誰一人見当たらない。人質にしようとした奴隷がいないのはおかしいと思いつつも、襲撃されていている男たちは、脅威が去るまでは中を確認しようとは思わないだろう。


 下手に逃げようとすると子供たちに流れ弾ならぬ、武器が当たる危険性もあるが、この作戦なら人攫いたちやフェルが間違えて攻撃してしまう心配もない。


 大きさは十分なのではみ出る心配はないのだが、如何せんマントに包まれているのだから熱いし、透明になれるだけで声は聞こえてしまう。子供たちには何があっても声を出さないようにお願いした。


 内心ハラハラしながら外に響く戦いの音に耳を澄ませていたが、しばらくすると何事もなく馬車の檻の鍵を持ったフェルが現れて、一台目の馬車に乗って皆で城下町メラルドへ帰った。買収された門番に会わないよう、わざわざ別の門から入ることにしたため、余計に時間がかかった。



 街についた時には深夜、子供たちをどうするか考えたが一旦ギルドへ届けることにした。

 行方不明になってからすでに1週間以上経っていた子供もいたのでできる限り早く帰してあげたかったけど、俺たちが人攫いだと誤解を受ける可能性もある。


 どうやら他の街から連れてこられた子供もいたようで、どちらにしろ自分たちで全員を送り届けることはできなかった。後はギルドに任せることにした。

 アネットに関しては本人が俺達と帰ると訴えたので、事情聴取が終わったのち後に送り届けた。すでに時間は朝方だが、家族のことを考えれば一刻も早い方がいい。



 トントンと木製の扉を叩く。

 時間は朝方になってしまったが、さすがにまだ起きていないだろう。そう思ったのだが、すぐに扉は開いた。


「こんな朝っぱらにどちらさ…ねーちゃん!」

「ただいま」

「っ!おかえり!かーちゃん、ねーちゃんが帰ってきたよ!」


 心配で寝ていなかったのだろう、疲れた顔で出てきたアドニスは、アネットの顔を見て生気を取り戻した。そのまま母に報告しに走って行ったのを見て、アネットは仕方がないという顔をした。


「弟がすみません。狭いですが中へどうぞ」


 アネットについて中に入ると、奥の方から声が聞こえてきた。母親の寝室らしい。


「アネット!無事だったのね?ああ、よかった…!」


 母親はアドニスの助けで上半身を持ち上げると、アネットを見て涙を流した。


「おかあさん、ごめんなさい!おかあさんの病気が治る薬が手に入るかもって言われて、わたし…!」


 先ほどまでは子供とは思えぬほどしっかりしていたアネットも、本当は怖かったのだろう。母親のそばによると、抱き付いて泣き始めた。


 しばらくすると、邪魔しないようにと寝室の外で待っていた俺とフェルはアネットに呼ばれた。


「失礼します」

「兄ちゃんたち、俺の話を聞いてくれてありがとう!ねーちゃんを助け出してくれてありがとう!」


 俺たちの顔を見るやいなや、アドニスがお礼を口にする。


「アネットとアドニスに聞きました。あなた方が助けてくれたんですね。大事な子供を守ってくださってありがとうございました」

「いえ、」

「お礼をしたいのですが、うちには大したものもありません。ですから、少ないですが、ジェムを差し上げたいのですが」


 そうして彼女がアネットに指示して持ってこさせたのは、冒険者の父が置いていったお金だった。


「受け取れません」


 俺は小さく首を横に振った。


「それはあなたのご主人が、あなたと子供たちのために置いていったお金です。見ず知らずの人間が受け取るべきものではありません」

「子供を助けていただいた方に差し上げるのですから、夫も何も言いませんわ」

「母親なら子供を守る義務があります。何かあった時、動けないあなたが解決する方法があるとしたら、お金しかないんじゃないですか?」

「それは…そうですが…」


 きついことを言っているのは承知だが、このお金を受け取るわけにはいかない。

 うっかり受け取ると後々大変なことになる。


「それに、頼んだのはあなたじゃなくアドニスですので、依頼料ならアドニスから貰わないと」

「うぇっ?兄ちゃん、俺お金持ってない…」


 俺のご指名に盛大に驚いたかと思うと、くそ真面目に答えて眉を下げた。


「人探しの依頼ってギルドに依頼するならいくらくらいなんだ?」


 後ろにいるフェルがうーん、といいながら計算する。


「ギルドへの依頼仲介手数料はDランクが100~300ジェム、Cランクが300~600ジェム、Bランクが600~3000ジェム、Aランクが3000ジェム~だったかな?人探しはDランクだけど、人攫いからの奪還だからなぁ…間違いなくBランクとして1000ジェム程度だろ。達成報酬は相場で5万ジェム位に、人数を考慮したら安くて8万ジェムってところじゃないか?」


 8万ジェムがどのくらいかわからないが、アドニスの青ざめた顔を見たらすっごい金額なのはわかる。


「よし、アドニス。今日から冒険者としてギルド登録しようか!ギルドは通してないから仲介料なしの8万ジェムでいいよ」


 我ながらいい笑顔だったと思う。


「8万ジェムなんて無理だよ!何年かかるか…!」

「わたしが代わりにお支払したらだめですか?」

「アドニスには少し難しいかと…」

「顔に似合わず鬼畜だなー」


 上からアドニス、アネット、母、フェルである。鬼畜ってひどくない?

 でもこれはアドニスのためでもあるから譲らないけどね!


「お姉さんの仕事を手伝いたいって気持ちは嘘だったの?」


 アドニスを見つめて問いかける。

 彼は前にそう言っていた。まだ子供だからギルドには登録できないと。

 でも、本人はやる気があるんだから、やればいいと思うのだ。


「嘘じゃない!」

「うん、そうだよね。それなら問題ないよね。しばらくはお姉さんの依頼について行って教えてもらって、できるようになったら1人でやろう。でも12歳まではランクは上がらない。もし12歳になってランクが上がってもお母さんとお姉さんの許可が出るまでは、近場での採取か街の人のお手伝い以外はしないこと。君はまだ子供だから。わかるよね?」


 子供だからと馬鹿にしているんじゃない。子供だからまだできないことがあるのだ。それは当たり前のこと。背伸びしてもいいことはない。

 アドニスも真剣に頷いた。たぶん、わかってくれたのだろう。


「利子もいらないし、生活費を削る必要もない。出世払いでいいからさ。あ、勿論お姉さんに手伝ってもらったお金は入れちゃだめだよ」

「わかってるよ!自分の力で貯めるって!」


 プリプリ怒りながらも了承した。

 俺はあとの2人に向き直ると、お礼を請求する。



「お母さんは登録に必要なサインをしてください。アネットちゃんはそうだなぁ、アドニスが採取の依頼をこなせるように植物の種類や採取の方法を教えてあげること!」

「はい!」

「わかりました。それでお礼になるなら」


 アネットは嬉しそうに、母親はちょっと困った様子で承諾した。


「じゃあそろそろお暇します」


 3人に挨拶して家を出た。朝日が眩しい。

 少し歩き出したところで、後ろからアドニスの声がした。


「兄ちゃん達!まだ名前聞いてないよ!」


 おお、そういえばそうだった。苦笑い。


「智広だよ。こっちはフェル」

「チヒロ兄ちゃん、フェル兄ちゃん、またな!」


 とても晴れやかな顔をしたアドニスは俺たちの姿が見えなくなるまで手を振っていた。


まだ本格的な戦闘は先です。

次回はフェルディナンド視点のお話。

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