〜異世界マニアの理想の異世界スローライフ、開幕!〜
「…うぁー異世界だ、もう、まごうことなく、異世界だ…」
ファンタジーによくある布の初期装備に包まれた、よく見なれた自分の体を見下ろしながら呟く。
なんやかんやあって意識がブラックアウトして、以前いた場所ではない場所で目覚める。
これは…間違いない。異世界転生だ。
異世界転生、それは全人類の夢である。
失礼、盛りました。
だがしかし、こと私に限っては、異世界転生ものをこよなく愛する女、桜庭美月に限っては…
異世界転生は夢であり、憧れであり、願望である。
「でも、なんか、思ってたのと違う…!」
目の前に広がる病み村を見ながら、私は思う。
これは、この世界は…
「ダークファンタジーではァァァ!?」
ピロンっ♪
…はて、今の軽快な、この世界観にはめちゃくちゃに不釣り合いな音声はなんだろう。
「こ〜んにちはぁ〜!わたくし、桜庭様のアッシー君!!キャラクターネームで言うところのっ!ジンくん!でございますですよ!!」
…無視、である。
突然現れた金髪聖騎士風の男性は、乙女ゲーの攻略キャラ並に顔は整っているし、声は声優ばりにイケボぉであるが無視である。
「ちょちょ!無視は酷いでござる働いたら負けでござるですぞ!」
無視でござる。
全くもって意味がわからないでござる。
金髪キャラがござるとか言うなよな。
「俺のなにが嫌なんだよ…。お前に嫌われるくらいなら、俺はっ…俺は…っ!」
「テンションが高くてキャラがブレブレなのが嫌なんだよボケがぁ!!」
しまった。
毒舌ツッコミキャラとして確立させてきた私のキャラクター部分が、私の理性を無視してツッコミをいれてしまった…
「しっ、失礼しました…」
沈黙。ジンくん、涙目である。
やりすぎちゃったかな…
「…こほん。大変失礼いたしました。桜庭様は、この世界において約5060年ぶりのお客様でありますゆえ、色々と抑えきれず…」
「あ、いえこちらこそ、つい…」
き、気まずい…
下手な合コンみたいな雰囲気になってしまった。
「さ、桜庭様。自己紹介となりますが、わたくし、貴方様の異世界生活のナビゲーター、ジンと申します。
早速ですが、先程桜庭様は、思っていたのと違う、とおっしゃいましたね?」
「あ、はい…なんていうか、草木は枯れてるし空は暗いし、これっていわゆるダークファンタジーの世界…ですよね」
私のしたい異世界生活は殺伐としたハードモードな人生ではなく、緑に囲まれ、朗らかな異世界スローライフである。
「恐らくですが、この世界観は、桜庭様がプレイされていたゲームの世界観を元に作られた世界でございます。」
ジンがパチンと指を鳴らすと、ダークファンタジーな世界が溶けるように消え、周りの景色は一転。
満開の星空が現れる。
「まずは桜庭様に、この世界についての説明をさせて頂きます」
1、この世界は、創造主たる神があなたに与えた、あなたの為の世界です。あなたはここで、思う存分生きてください。
2、あなたは、自分の思うように、あなただけの世界を作る事が出来ます。RPGでもFPSでも、ゲームのカセットを選ぶように。
3、世界の骨組みを作ったら、あとは我々が、あなたの理想をできる限り反映した世界を作ります。ゼロからものを作るのは、大変でしょうから。
4、世界が完成し、あなたが生きる中で、欲しいと思う機能があるかも知れません。そういった希望は、できる限り反映させます。
ただし、ある程度の困難は用意させて頂きます。あしからず。
「それから…創造主様からの言伝です。…すまなかった、と。」
心当たりはある。
けれど、夢を叶えてくれたのだ。
許すしかあるまい。別に神様を恨んだことは無かったけれども。
「これは創造主様からの謝罪を兼ねたプレゼントです。どうぞ存分に…お楽しみください。」
微笑むナビゲーター、ジンを横目に、私は新たな人生に想いを馳せた。
前の人生は中々に波乱万丈で、色々あったけれど…楽しかった。
もう帰れないと思うと、なんだか寂しい。
「ありがとう、ございました。」
ポソリと呟いたこの言葉を、神様とやらは聞いているのだろうか。
まぁどうせ、どこかで聞いているに違いない。
私は、新たな人生を始めるべく、ジンに声をかけた。
「よろしくお願いします。」