俺が厄介事に巻き込まれる理由の殆どは、悪友にあるのかもしれない
今回に限り、性的、暴力的シーンがあります。お読みになる際はお気をつけ下さい。
結局、昼休みの終わりに、たまたま通りかかった上級生の女子に介抱されるまで、意識を失ったままだった。図書室行けなかったのは辛い…
教室に帰ると、成瀬は一瞬俺を確認したが、その後すぐに、目を逸らし、一度たりとも俺の方を見なかった。まあ当然の反応か。
幸い、さっきの事を言いふらされてはいなかった。ほんと助かります。
今はSHRが終わり、放課後である。
「あきら〜、焼肉半額券ニ枚もらったから行こうぜ」
健が後ろから話しかけてくる
「今日か?お前部活あるじゃん」
「おう!だから終わるまで時間潰しててくれ」
「マジかお前…」
しれっと言うな〜こいつ。
「そういう事だ、諦めてくれ」
「俺が行く前提かよ…まあいいけど」
「じゃあ六時半に校門前な!」
「ああ、分かった」
晃は元気良く教室を出て行く。
さて、どうやって時間を潰そうか…図書室か?図書室だな。図書室しかない!
というわけで俺は図書室に向かう。べ、別に、あの人が居たらいいなとか、考えてないんだからね!
図書室のドアを開けると、やはりその人は受付に本を読みながら座っていた。此方に気がつくと、微笑んで会釈をした。俺もやはりつられて会釈をする。やべぇ、すでに幸福感がやばい。
俺は適当な本をとり、彼女を視認出来る位置に座る。…ガチもんの変態やん…
俺が座り、本を読み始めると、雑音が消え、お互いの本をめくる音だけが響く。その様子は、世界に俺と彼女しか存在しないような、そのような錯覚を思い起こさせる。それほど彼女は、神秘的で、幻想的で、とても美しいものだった。
幸せな時間というものはあっという間で、既に時刻は六時十五分。二時間以上が経過してしまっていた。体感的には十分くらいだった気がする。
俺が鞄を持って図書室を出ようとすると、彼女もちょうど帰ろうとしていたのか、鞄を持って立ち上がっていた。
俺は軽く会釈をして、ドアの方に向かうと、少し駆け足で向かってきた。超可愛い。
彼女は俺の方を向き、声をかけてきた。
「また、来てくださいね!」
笑顔で話しかけてくる彼女に俺は
「は、はい、また来ます」
と、どもりながら答えるしかできなかった。
すると彼女は満面の笑みを浮かべて
「待ってます!」
と、答えた。やべぇ…浄化されそう。
なんとか意識を保ちつつ、ドアを開け、図書室を出る。彼女も続けて出る。俺がドアを支えているのを見て、「ありがとうございます」と、軽く会釈され、とどめを刺されたが、なんとか彼女の前では耐える事ができた。彼女が下駄箱の方へ行き、姿が完全に見えなくなったところで、俺は床で悶え始めた。
あああああああああああああああああああああああ!!!!!
可愛すぎかよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!!!
しばらくの間、俺はそこでのたうち回った。
「遅え」
「すまん」
時刻は六時四十五分、校門前で、恐らくずっと待たされていた健に俺は怒られている。
「お前が来ないから、いろんな女子に、一緒に帰ろうとか、飯行かないとか言われてたんだぞ」
「それは気の毒だな…というか自慢か?」
さりげなくモテる自慢をされた。うぜぇ…
「で、なんで遅れたんだ?」
「ちょっと神聖なる物に浄化されてた」
「意味わかんねぇ…」
そりゃあそうだ、こっちも何言ってるかわかってないからな。
「つまりあれか?めっちゃ可愛い物見たとかか?」
「なんでお前は殆ど正解を導き出せるんだよ…」
たまに、健はエスパーなんじゃないかと思う。
「お前の事なんて、大体分かるよ」
「おまえ、俺の事好き過ぎだろ」
「おう!愛してるぜ!」
「気持ち悪!近寄るな!俺はノンケだ!」
そんな感じで、雑談しながら歩いていると、何やら気になる物が目に入った。
「ん?なんだあれ?なんかやってんな」
「あれは…うちの生徒と他校の奴だな」
俺たちは、会話を聞いてみる事にした。
『暴れんじゃねぇ。おい!さっさと足抑えつけろ』
『離して!やめて!誰か!誰か助けて!』
『そっちちゃんと抑えとけよ。暴れてうぜぇ』
『誰か!誰かーーー!!!』
『ち、うっせーな。口縛っとけ』
『だれむぐぅ…ん!んーー!んーーー!!』
『へへっ、何言ってるかわかんねーな。ちゃんと言わなきゃ伝わんないぜ』
一人の女生徒に三人の男子が襲っているようだ。
「マジかよ…まだ辺り薄明るいぞ」
「ていうか、襲われてる方、見たことある顔じゃね?」
「成瀬の友達だな。よく話してるのを見る」
「へー、よく見てるんだな。で、どうする?」
「助けるに決まってるだろ」
「お前ならそう言うと思ってたぜ!」
俺たちは駆け足で近づく。
「ん!!んーーーー!!んーー!!んーーーーー!!!」
「そっちを支えろ、さっさと運ぶぞ」
「へっへっへっ、楽しみだな。こんな上玉、好き放題出来るなんてよ」
「何を好き放題出来るって?」
「「「!!!?」」」
健が声をかけると、男三人はとても驚いた顔をし、全員こちらに注目する。そして彼女を掴んでいた手を離す。
「んーー!!ん!!んーーーー!!!」
「うちの生徒をなにしようってんだい?返答によっちゃただじゃおかないぜ」
軽く話しかけてるが、百八十センチの健が言うと凄い威圧感があるな。
「うるせー!!」
男一人が殴りかかってくる。健ではなく俺に。恐らく倒しやすそうな方からやろうという考えだろう。
男の拳が俺の顔に向かって来る。俺は避けるのではなく、相手の拳が俺の額に当たるように頭の位置を少し移動させた。
ガンッ!!
音が頭に響くと同時に視界が揺れる。軽い脳震盪でも起こしたのだろう。俺は立っていられず、その場に倒れこむ。
男たちに解放され、自分でさるぐつわを外した女生徒が俺の方に向かって来る。
「だ、大丈夫!?血、出てるよ!」
「あ、ああ、なんとか」
「ちょっと待って、確かハンカチが…」
そう言って、殴られた箇所にハンカチを当ててくれる。
遠くでは別の声が聞こえる。
「いってぇ!!俺の手が!っぁああ!!!」
頭の一番硬いところを殴ったんだ。ざまあみろ。
「てめぇ!!しんじになんて事しやがる!!」
「そいつが殴りかかって自滅したんだろ。自業自得だ」
健がバカにした口調でヘラヘラと言い返す。
「大体お前らが最初にうちのクラスメイトを襲ったのが悪いんだ。相応の報いは受けてもらおうか」
「ふっざっけんなーーーー!!!」
そう言って、一人の男が健に殴りかかる。
「オラァ!!」
ゴスッ!
健が相手の顔面を的確に素早く殴る。相手は吹っ飛び、地面に倒れ、動かなくなった。
健は意識がある二人に言う。
「まだやるか?」
二人は戦意を失ったのか、気絶した男を担ぎ、すぐに、その場を去って行った。
健はこちらを向き、未だ女生徒に介抱されている俺に話しかけてくる。
「頭、大丈夫か?」
「いや多分ダメだ。女の子の介抱が必要だ」
「ダメなのは元々だったか」
そう言って、俺の腕を取り立たせる。まだ少し視界がぐらつくが立てないほどではないな。
「血は…止まったみたいだな」
「ちっ…止まってなかったらもうちょい女子との密着タイムがあったのに…」
「お前、馬鹿だろ」
「何を今更」
「あの!」
女生徒が突然話しかけてくる。
「さっきは助けてくれてありがとうございました。私に出来る事があれば何でもお礼します」
「ん?今何でもって?」
「お前は少しは自重しろ」
俺の呟きに健がツッコむ。いや誰でも反応するでしょ…
「いくつか聞きたい事があるんだがいいか?」
「う、うん。なんでも聞いて」
「あなたのスリーサイズを教えて下さい」
「少し寝るか?」
健が拳を構える。クソ怖い。
「う、上から、88 60 はちじゅうよ…」
「別に言わなくていいから!」
もう殆ど言ってるけどね。つーかめっちゃスタイルいいな。ショートで可愛いい系で、スタイル抜群とか、割とタイプですはい。
「じょ、冗談だ。えーっと…」
「荒川 ほのかだよ」
名前を思い出していると本人が教えてくれた。ほんと申し訳ない。
「俺たちの名前は…」
「大丈夫だよ。こう見えても一度見た名前は忘れないからね」
へー、人は見かけによらない物だ。
「で、本題なんだが、今日みたいな事は今までもあったのか?」
「いや今日が初めて。帰ってる時いきなり後ろから襲われたの」
「帰り道はいつも一人なのか?」
「うん、部活終わって大体この時間に一人で帰ってるよ」
「なるほど、見えてきたな」
「と、言いますと?」
健が尋ねてくる。
「多分荒川は前から目をつけられてたんだと思う。この時間に一人でこの人通りの少ない道を歩くという事がバレてたんだろうな」
「そして今日、奴らが決行したタイミングで、たまたま俺らが通りかかったと」
「今日健が焼肉行こうとか言い出さなかったらどうなってたか…」
マジで健ってエスパーなんじゃないだろうか。
すると、荒川が震え出した。無理もない。真実を知ってしまったんだ。怖くなるのも当然だろう。
「で、これからどう対策を立てるかだが」
「一人で帰るのがまずいんだから、俺か晃が家まで送ればいい。家はここから近いのか?」
「あ、歩いて五分くらい」
震えながらも答えてくれた。
「となると、学校から十五分くらいか。十分送っていける距離だな」
「そうだな。ま、とりあえず、親御さんと話してみるか」
「すまんが、家まで案内してくれるか?」
健が尋ねると、荒川は泣いていた。
「お、おい、大丈夫か?」
「…うん、大丈夫…ただ、何か、(うぐっ…)涙が、止まらなくて…」
「お、俺、なんか泣かせるような事したか?それとも俺がいるからか?」
「この状況でも卑屈になれるお前を尊敬するよ」
「ち、違うの。ただ…なんで私の事をここまで気遣ってくれるんだろうって…白峰くんなんて…(あぐっ…)私…あんなに酷い事…言ってたのに…」
あー、なるほど、やっぱり俺が原因じゃないか。
「なんでって、別に俺は言われた事については全然気にしてないし、当たり前の事をしてるだけだが…」
「あ、当たり前の事って…(ひぐっ…)」
「知り合いが困ってたり、ヤバかったりしてたら助けるに決まってるだろ。な?健」
「だな。助けられるかもしれないのに、見て見ぬ振りなんて出来ねーよ」
すると荒川は、物凄い勢いで泣き出してしまった。
「俺、そんなに気持ち悪かったかなぁ…」
「鈍感晃君は乙女心を全く分かってないようだ」
急に泣き出す女の心なんて、一生わからん気がする。
「それより荒川、歩ける?」
健が尋ねると、荒川は小さく頷き、歩き始める。どうやら少し落ち着いたようだ。
少し歩くと、荒川の家についた。ドアを開けるとお父さんが出て来て、俺たちを見てとても激怒した。泣いている娘と、男二人を見れば当然の反応だろう。荒川が事情を話し、なんとか落ち着いてもらい、俺たちは家の中に入れてもらった。
詳しく事情を話すと、御両親に泣いてお礼を言われた。年上の方からお礼を言われるのは慣れていないので、大分戸惑ってしまった。
それから、今後の荒川の帰宅についての話になった。
荒川の家は平日、父は日中仕事、母はこの時間までパートをしているらしい。母のパートは来月からは弄れるが、今月は厳しいらしい。なので、今月だけは送って欲しいとの事だ。もちろん俺らは引き受けた。女の子を一人で帰す訳にはいかないからな。最終的に、九月いっぱい、月曜と木曜は健が、火曜と金曜は俺が送って行く事に決まった。水曜日は部活が無いので大丈夫だろう。
御両親が、夕飯を食べて行ってと言ってくれたので、ありがたくいただいた。久しぶりの家族の団欒はとても暖かかった。
そして帰る時、
「今日は本当にありがとう。あと、こ、これからもよろしくお願いします」
荒川が少し照れたように言ってきた。
「おう!よろしく!晃、変な事するなよ」
「しねーよ。やったらすぐにバレるからな」
「バレない状況ならやるのかよ…」
「…否定出来ん」
「警察に突き出した方がいいかもな」
俺たちの言い合いを見て、荒川はクスクスと笑う。
「ほんとに、仲良いんだね」
「まあ俺たちは高校入った時からのマブダチだからな」
「俺がウザがってたのに、お前が強引に近づいてきただけだろ」
「俺はそれがツンデレだと見抜いてたぜ」
「俺のツンデレとか需要なさすぎだろ…」
誰が好き好んで俺のツンデレを求めるのだろうか。
「白峰くんって面白いね。それにすっごく優しい。ちょっと、いやかなり意外だったかな」
「いやまだまだだな。晃の良さはこんなもんじゃねぇ。いずれ世界中の女を魅了する男だからな!」
「嫌われるの間違いだろ…」
「でも、皆に白峰くんの良さが伝われば、モテモテになれると思うな〜」
「…。からかってんじゃねーよ」
「白峰くん照れてる〜。かーわいー」
「馬鹿な事言うな!健、帰ろうぜ」
「そうだな。じゃあな荒川!また明日!」
「うん!また明日!それと、ほんとにありがとう!!」
そうして、俺らは荒川家をあとにした。
俺達が焼肉の存在を思い出したのは、その直後だった。
いつの間にかブクマ数が三桁突破していて、驚きを隠せない私です。初めは、この小説がここまで多くの人に見てもらえるなんて思っておらず、予想外の事態に、感謝と困惑が入り混じって、ヤバイです(語彙力)本当にありがとうございます。また、感想を下さった方、私自身感想を頂いたのが初めてだったので、感激で涙が出そうでした。
これからも、皆様がお楽しみいただけるような物をがんばって書いてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。




