俺はまだ、忘れていなかったようだ
翌日、モールの噴水前、いつか荒川と待ち合わせした場所だ。なんでいるんだよって?俺も分からん。
正直ばっくれても良かったんだが、なんとなく後がめんどくさそうな気がしたんだよな…
つーかさ、いきなり電話かけてきて待ち合わせ場所と集合時間だけ伝えて速攻で切るやつの言うことなんて聞く必要あったか?マジでなんで来ちまったん…
「ドーン!!」
「!?…ってぇ…」
突然、背中に明るい声と共に衝撃が襲う。首が後ろに置いてかれてめっちゃ痛かったんだが…
振り返ると、明らかに俺とは住む世界が違うような陽キャの女性がいた。水無月先輩だ。…そもそも、俺と住む世界が同じやつとか健くらいしかいなかったわ。
「ちゃんと集合時間に遅れずに来るなんて偉いぞ〜!」
「先輩は一分遅刻ですけどね」
「細かいところはきにしない!」
細かいか?細かいか。五分や十分遅刻したならまだしも、一分程度なら誤差として切り捨ててもいいか。
「ん〜?どうしたの〜?ぼーっとして。まさか私に見惚れちゃった?」
「確かに先輩はめっちゃ綺麗だと思いますけど、見惚れてはいないっすね」
「正直にやがって〜。素直に怒れないじゃないかこのこの〜」
「ちょ、痛い痛い。やめてください」
その人差し指で頬をグリグリ〜ってするの、結構痛いからね?
「で、今日はなんで呼んだんですか?」
「ん?あれ?言ってなかったっけ?」
「場所と時間だけ言って切ってましたね」
「そうだっけ?まあどうでもいいや」
俺にとっちゃどうでもよくないんだよ。少しはこっちの都合も考えてくれ。
「というか、晃くんは理由、分かってるんじゃないの?だから来たんでしょ?」
「いや、ばっくれるとネットに在らぬことをやたらめったら書かれると思ったんで」
「そんな事しないよ〜。というか分かってなかったの?」
「考えるのも時間の無駄かと思ったので」
「ひど!晃くんは私のこと興味ないんだね…。ショック…」
そう言って、水無月先輩は目元に手をやって泣いてる風を装っている。絶対ショックとか思ってねえよこの人。
「で、なんで呼んだんですか?」
「んー?ほんとに分かんない?」
「全然分かんねぇ…」
マジで分かんねえ。水無月先輩と約束なんて…あ…
「もしかして…体育祭のあれ…」
「ピンポーン!だいせいかーい!」
すっかり忘れてたわ〜。というか、考えないように記憶から抹消してたわ。思い出さなきゃよかった。
「つーか、そうならそうとあらかじめ言っておいて下さいよ。こっちも準備とか色々あるんですから」
その日に強引に予定ブチ込んだり、体調悪くなったりする準備がいるんだからさ。急に言われたらそういった手段が取れないじゃないか。
「だって普通に誘っても、晃くんのことだからなんか適当な理由つけて断るでしょ?」
「そ、そんなことないですよ…」
めっちゃ見透かされてんじゃん。こんなに俺の事詳しいって事は俺の事好きなの?…ありえねえわ。
「それじゃあ行こっか」
「ちょ、まだ詳しい内容聞いてないんですけど」
「だいじょーぶだいじょーぶ。時間は限られてるんだから、早く行こ!」
「え?ちょ…ま…」
俺の声で止まる事はなく、先輩は意気揚々と建物内に入っていく。はぁ…付き合うしかないのか。こんな調子で今日一日振り回されるんだろうな…。
「どう?似合ってる」
「あーはいはい。似合ってます似合ってます」
「む〜、適当だなぁ」
「お〜、晃くん、意外と眼鏡似合うね〜」
「どうですか?頭良さそうに見えます?」
「それはない」
「断言された…」
「……くそ…何故真ん中にいかない…」
「あっはっはっ!晃くん下手すぎ〜!ていうか投げ方が変!」
「しょうがないじゃないですか…。ボウリングなんて昔一回やったきりなんですから…」
「にしてもだよ!運動できるからボウリングもできると思ってた分ギャップで…余計に…笑えて…」
「そこまで笑われると俺も傷つきますからね?」
「ごめんごめん。あー面白かった〜」
…案の定振り回されてばっかだったな。しかもまだ正午過ぎってのがほんと辛い。まあ…楽しくない訳ではないのだが。
「午後からもいっぱい遊ぶから、いっぱい食べておかなきゃ」
水無月先輩は目の前でメニューを開きながら意気込んでいる。まだ遊ぶのかよ…
「ん〜?どしたの?浮かない顔して」
「いや別に、あんま食欲湧かないだけなんで」
「駄目だよ?ちゃんと食べなきゃ。晃くん細いんだから」
そんな心配されるほど細くないはずなんだが…。前に成瀬にも食べなさ過ぎとか言われたしな…。もっと食うべきなんだろうか…。
「今日はお姉さんの奢りだ!じゃんじゃん食べて!」
「え?なんですかそれ聞いてないんですけど」
「可愛い後輩君が付き合ってくれてるんだから、先輩としていいとの見せたいんだよね」
別に付き合ってるのは賭けに負けたからで仕方なくだし、気にされる必要はないんだが。
「いやいいですよ。先輩に借り作りたくないですし、女子に奢ってもらうとか男としてあれですし、むしろ俺が奢りますよ」
「え?本当?じゃあお言葉に甘えてようかな〜」
ん?あれ?なんか自然と俺が奢る流れになったぞ?まさかこの人、俺が言いそうなことを予測して…!
「なーんてね、冗談冗談。ちょっとびっくりした?」
「びっくりというよりヒヤヒヤしましたよ…」
「相変わらず正直なやつめー」
なるほど、さっきまでの一連の流れはやはり計算していたのか。相変わらず怖い人だ。
俺たちは店員さんを呼び注文する。
注文を終え、俺は先輩に気になっていたことを切り出した。
「で、今回俺を連れ回してる理由はなんですか?」
「ん〜?どしたの急に」
「先輩が無意味に俺に接触するなんて考えられないんで」
先輩は打算的な人だ。絶対に何か裏がある。
「そんな深い理由なんてないよ。考えすぎ」
「先輩に対しては考えすぎなくらいが丁度いいと思ってます」
「ほんとに何もないよ?」
「先輩って結構嘘つくの、あまり上手くないですね」
「ん?どーゆーことかな?」
「いつもならからかってくるのに全然してこないので」
「…………」
どうやら図星の様だ。まあカマをかけてみただけなんだが。
「…晃くんってさ、普段は鈍い癖に変な所で鋭いよね」
「そんな鈍いつもりはないんですがね」
「というより、心は読めないけど、考えは読めるとか、そんな感じ?」
「まあ…確かに…」
実際他人の心が分からなくてあんな事が起こったしな。つーかそもそも自分の事すらろくに分かってないんだが。
「まあ俺の事はどうでもいいんで、早く教えてくださいよ」
「どうでもよくはないんだけど…。いっか。教えてあげる」
意外なことに普通に教えてくれる様だ。てっきりはぐらかされると思っていたのだが。
「と言っても、納得のいく回答じゃないかもしれないけどね」
「じゃあ納得いく様にしてください」
「注文多いな〜。晃くんって山猫だったの?」
「どっちかって言ったら俺は怯える客側だと思うんですけど」
しょっちゅう先輩から意味分からん注文受けてるからな〜。勘弁してほしい。
「でまあ、晃くんにつきまとう理由なんだけど、色々と理解したい事があるから、かな」
「…どういう事ですか?」
「晃くんってさ、私から見ると、何を考えてるか全く分かんないんだよね」
「というと?」
「他人と必要以上に仲良くなろうとしない。むしろある種の壁の様なものを作ってる様な感じがする。なのに、あえて突っぱねる様な事はしない。ある程度仲良さそうに振る舞う。ほんと、それが意味わかんない」
なるほどな。俺の行動に疑問を持ったって事か。というより、俺自身そんなつもりはなかったんだが。
「…仮に俺がそうだったとして、なぜその理由を知ろうと?」
「言ったでしょ。色々理解したい事があるって」
「その色々の部分を教えてくださいよ」
「またまた〜。晃くんなら、ある程度予想出来るんじゃない?」
「…柳先輩ですか?」
「!?……へ〜…。晃くんもそう呼ぶんだ…。そうだよ、亮平の事だよ。」
自分自身、なぜその回答が導き出せたか分からない。だが何故か、その名前がふと頭を過ぎった。
…というか、なぜ水無月先輩は驚いたんだ?…それに俺“も”?
「晃くんってさ、亮平と似てるんだよね」
俺が聞こうとする前に先輩は話し始める。タイミングを逃したか…
「俺と柳先輩が似てる…?」
「うん。優しかったり、友達想いだったり、鈍感だったり」
「それに…別の顔を持っていたりね」
「…別の顔?」
「というより、裏の顔って言った方がいいかな?」
「…そんなもの、俺は持ってませ」
「仁美ちゃん」
「…仁美がどうしたんですか?」
「私ね、不思議だった事があるの」
「そんな事より質問に」
「なんで晃くんと仁美ちゃんは仲良いんだろって」
…………
「“今”の晃くんと仁美ちゃんじゃ性格が殆ど真逆。表情豊かで明るい仁美ちゃんに対して、あまり顔に出なくてどちらかと言えば暗い晃くん。どう考えても仲良くなる要素がないでしょ?」
「さりげなく酷いこと言われた気がする。晃くんちょっと傷ついちゃったよ…」
「私は真面目な話をしているの」
俺が誤魔化そうとすると強い語気で怒られた。しょうがないか。
「多分だけど、“昔”の晃くんはどちらかといえば仁美ちゃんの性格に近かったんじゃない?」
「まさか。俺には似合わな」
「真面目に答えて」
…………
「まあ…当たらずとも遠からずと言ったところですかね」
実際のところは、『仁美が俺の性格に似ていた』だ。
「そっか…やっぱり裏の顔があるんだね…」
どうやら先輩も確証はなかったようだ。
「…晃くんの素顔って、どっち?」
「そんな事聞いてどうするんですか?」
「答えて」
「…まあ…多分今の方でしょうね…」
先輩のいつにない真剣な眼差しで、俺は誤魔化す事ができず答えてしまう。
「…なるほどね。だから仁美ちゃんがあんな事に…」
「…どういう事だ?」
「ちょっと晃くん?なんか怖いよ?」
先輩の言葉に、語気がのを隠せず、聞き返してしまう。
「なんでもいいんでとにかく意味を教えてください」
「………。仁美ちゃんはね、きっと、すっごく悩んでたんだと思う」
…………
「ここからは想像の話なんだけどね。何年間も一緒にいて、ずっと仲良くしていた子の言動全てが嘘だったとしたら。自分に向けられていた全てが嘘だと知ったら、どう思うかな」
「それでも、」
「『それでもあいつは受け入れてくれた』とでも言うつもり?」
「!?」
「そんな訳ないでしょ?少なくとも私は絶対に受け入れない」
…………
「あの子はずっと悩んでた。晃くんとどうやって接すればいいのか。そもそも、一緒にいていいのか」
…………
「実は裏で嫌ってたんじゃないか、もう二度と元の関係に戻れないんじゃないか」
「…先輩に…あいつの…俺たちのなにが分かるんですか…」
「少なくとも、晃くんよりは分かると思うよ。仁美ちゃんの気持ち。晃くんは分かって無かったから、体育祭の日、あんな事になったんでしょ?」
…………
「晃くんは仁美ちゃんの事をなにも分かっちゃいなかった。見ようとしなかった。仁美ちゃんは、ずっと傷付いていたのに」
「……まれ…」
「晃くんは上辺だけ良ければいいんだよね。仲良くしている風を装っていれば」
「…黙れ…」
「だから人が傷付いていても気付かない。だって人の気持ちを分かろうとしないから」
「黙れって言ってんだろ!俺はずっと理解しようとしていた。でも、いくら考えても分かんねえんだよ!」
「…………」
頭に血が上った俺は、思いの丈をぶちまけた。頭では抑えなきゃと分かっているのに、言葉を抑えることが出来なかった。
「いくら考えても…分かんねえんだよ…。なんで…誰も俺のことを…理解してくれなかったんだよ…」
「…………」
「俺は…皆の為に…ずっと…いい奴をやってきた…。なのになんで…俺を…」
「…………」
「…………!?え?あ…いや…今のはその…」
一通り言い尽くして冷静になった俺は、恥ずかしさで顔が熱くなる感覚を覚える。やべぇ、周りの人めっちゃ見てるじゃん…
「…そっか。晃くんも悩んでたんだ」
「…すいません。忘れてください…」
「こっちこそ、色々と責めるように言っちゃってごめんね。晃くんの気持ちも知らずに…」
「別にいいですよ俺が最低な奴なのは事実なんで」
俺は自分が傷付くのを恐れて手当たり次第周りを傷付けまくったんだ。俺に手を差し伸べてくれた人も、容赦なく傷付けた。ただの屑だ。責められて当然だ。
「一番傷付いていたのは、晃くんなのかもね…」
先輩がそう呟いた直後、店員さんが料理を運んできた。さっきの俺を見ていたのか、やや気まずそうな顔をしていた。ほんと申し訳ない。
「うん。この話はお終い!ささ、食べよ!」
「…そっすね…」
先輩は重たい空気を切り替えるように言った。その流れで食べ始める先輩に習い、俺も食べ始める。
それからしばらくは他愛のない話をしながら食事を進める。
「あ、そうだ。私、もう一つ晃くんに聞きたいことがあったんだ」
「なんですか?もう色々話したんでなに聞いても答えますよ」
俺はそう言いながら水を飲む。もうありったけぶちまけたんだ。今更隠すことなんてないだろう。
先輩は俺の回答を聞き、覗き込むような笑顔で話を切り出す。ん?なんか嫌な予感…
「晃くんの好きな人って、誰?」
色々あって遅れました。度々すいません。もうサブタイ考えなくていいかな?




