彼の隠し事
サブタイトルは彼女目線でつけました。
「それではさっき教えた事を使って、この問題を解いてみて」
「しゃあ任せろ!あっという間に解いてやるぜ!」
「はぁ…。不安しかないわ…」
そう言って、鈴井は席を立つ。
「おい。何処行く気だ?」
「レディーに聞くなんて、デリカシーがないのね。相手を敬う気持ちが足りていないんじゃないかしら。まずは犬に敬語を使う所から始めたら?」
「俺は犬未満の価値しかないのか…」
最早人間として扱われてなかった。まあ確かにさっきはデリカシーない発言だったと思いますけど。
鈴井はそのままリビングを出て行った。場所分かるかな?まあ分かるか。
「……遅い」
鈴井が出て行ってから十分が経ったが、未だに帰ってこない。どうしたんだろう。
「ちょっとあたし見てくる」
「お、おう。頼んだ」
様子を見に行こうと思ったが、成瀬に先を越されてしまった。まあ成瀬なら大丈夫だろう。
「……遅い」
成瀬が出て行ってから十分が経ったが、未だに二人は戻ってこない。
「大丈夫かな…なんかあったとか…」
「なんかに襲われてたりとかしてな」
「俺んちにそんな危険なもんいるわけねーだろ…」
しかし、ここまで遅いと流石に心配になってくるな。もしかしたら倒れてたりとかするのかもしれない。
「ちょっと二人を探してくる。お前ら三馬鹿はちゃんと勉強してろよ」
「「「三馬鹿って言うな!!!」」」
叫ぶ三馬鹿を無視して、リビングを出る。さて、二人は何処にいるのやら…
…何処にもいねえ…。
トイレ、洗面所、風呂場、何処を探しても二人はいなかった。外へ出て行ったという線も考えたが、玄関には二人の靴もあったので、外には行っていないだろう。
一階には何処にもいない。となると…、嫌な予感しかしねえ…
階段を上り、二階へ行く。そして、俺の部屋に向かう。扉は開いていた。恐る恐る中を覗いてみると…
「恵さん。他に心当たりのあるものは?」
「あいつの誕生日…はあいつの事だからそんな単純じゃないし、あいつの好きなキャラの誕生日とか?」
「それいいわね。彼の好きなキャラでありそうな物は?」
「死神が出てくるアニメの糸目のあれでしょ?ガールズバンドアニメのギターでしょ?あとは…」
何故か二人は俺のノートパソコンの前にいた。そして鈴井の手には、俺の愛猫である猫丸がいる。何やってんだよ…。というか成瀬俺の事詳しすぎない?
「何やってんだ」
「「!!?」」
声を掛けると、二人はビクッと反応し、恐る恐るといった感じでこちらを振り向く。
「あ、あら晃くん、奇遇ね。どうしたのかしら?」
「お前らが二階の俺の部屋で俺のノートをいじっているこの状況で、よく偶然と言えたもんだな」
「五月蝿いわね。私が奇遇と思ったのなら奇遇なのよ。あなたの主観なんて犬にでも食べさせておきなさい」
「もはやスターリンの独裁すらも可愛く見えるほどの唯我独尊っぷりだな」
鈴井の開き直りには、流石の俺もドン引きだ。
一方成瀬は、俺と鈴井が話している間もずっと、俺のパソコンのパスワードを突破しようとしていた。すげえ集中力だな…
「で、お前らは俺の部屋で一体何をしているんだ」
「えーっと…それはその…」
俺の言葉に、鈴井は目を逸らし、成瀬は無視してパソコンと向き合っている。成瀬、せめて俺の言葉に反応してくれ…
二人は答えてくれなさそうなので、部屋の状況から二人の行動を推測しよう。
俺が朝起きた時より整っているベットの布団、微妙に配置が変わってる本棚の本、少し膨らんでいるカーペット…。まさかこいつら…
「お前ら…まさか薄い本とか探してたんじゃないだろうな…」
「「!!?」」
二人はまたビクッと反応する。意外と分かりやすいなこいつら。
しかし何故女子って男子の薄い本を探したがるんだろう。見てもいい事ないと思うんだけど。
「くだらねえことやってないで、さっさと戻るぞ」
俺が声を掛けると、二人は向き合ってこそこそ会話を始めた。
「……する?…の……じゃ目…果たせ……けど…」
「………がな……ね…。本当………たく……ったけど、最終……を……ましょう」
何を話しているかよく聞こえなかったが、二人の中ではまとまったようだ。さて、どうするのかしら。
「晃くん」
「なんだよ」
「私達にこのパソコンのパスワードを教えなさい。さもないと…」
「さもないと?」
「この子がどうなっても知らないわよ」
そう言って、鈴井は俺の愛猫の猫丸を強く抱く。一言、何やってるの?
「どうなってもって、例えばどうなるんだよ」
「返さないわ」
子供か!まあ確かに物を人質にとるというのは有効な手段ではあるが、よりによってなぜそれを選んだ。鈴井ってちょっと抜けてるとこある?
「ちょ、れい?そんなんで晃に効くとは思えないんだけど」
「大丈夫よ。晃くんは猫好きという事は既に把握済みだし、きっと今必死になってるに違いないわ」
何処でその情報仕入れたんだよ…。健と仁美にくらいにしか言った事ないぞ…。
なんか必死になってる鈴井には悪いが、ここは少々大人の対応をさせてもらおう。
「別にそんくらいやるよ。また獲ればいいしな」
「……え?」
別にゲーセンでいくらでも獲れるし、なんならお前にも獲ってやるし、正直猫丸にそこまで愛着ないし。
「……いいの?」
「別に構わん。それよりパソコンの方が億倍大事だ」
パソコンには人に見られたらまずいデータとか履歴とかあるから、絶対に見られる訳にはいかん。
「返さないわよ…」
「いいよ別に。それより早く戻るぞ」
俺の声で二人は立ち上がる。なんとか危機は回避出来たな。
「ちょ、れい。あんただけずるい」
「ふふっ。恵さん、作戦勝ちよ」
二人の会話の意味は理解出来ないが、なんとなく失敗した気がするのは何故だろうか。
――――――――――――――――――
見てしまった。彼が隠していた過去を。あたしが、どうしても知りたかった事を。
見つけたのは偶然だ。れいを探している時、たまたま入った部屋にそれがあった。
その部屋には、多くの写真立て、アルバム、賞状、メダル。いろんな物があった。そして、それは全て彼に関連した物だった。
写真に写る彼は、笑っていた。彼が時折見せる、不敵な笑みや、薄笑いなんかではなく、無邪気な満面の笑みだ。あたしが一度も見た事のない、屈託のない笑顔。
一目見た時、あたしは見惚れてしまった。今の彼からは想像も出来ないような、楽しそうな顔。今、彼にこの顔をされたら、一発で落ちちゃいそう。
そんな彼を見て、あたしは二つの事を察してしまった。
一つ目は、今の彼が本当の彼でない事。彼は、当時の自分を隠し、偽り、他人を騙して生活しているのだろう。誰にも打ち明ける事なく、一人で抱え込んで。本当に、強い人だ。
そして二つ目は、彼が変わってしまった何かがあった事。きっとそれこそが彼が隠したい事の本質なのだろう。あたしには、それが何かは全く分からない。きっと、彼が話さない限り、知る機会はずっと無いだろう。
彼は言った。人が隠し事をするのは、人に嫌われたく無いからだと。彼が過去を隠すという事は、きっとそういう事だろう。
なんでだろう。隠し事をされたのに、少し嬉しい自分がいる。あたしは、彼に、大切に思われてるのかな。
忘れよう。今日見た事全部。あり得ないと分かってるけど、彼を嫌いにならない為に。彼の思いを裏切らない為に。
そして、いつの日か、彼が話してくれた時、彼の力になってあげよう。その時は、来ないかもしれないけど。それでも、あたしは彼に変えられたから。彼に、助けられたから。
だから彼を助けよう。彼がまた、あの写真の様に笑えるように。
大好きな人の、最高の笑顔の為に。




