俺にとっての、白峰 晃 という男
「やりー!十本目ー!」
やつは俺の方に振り返り、ニッ!と笑う。
「クッソ!また負けた!」
「後でジュース奢りな〜!」
満面の笑みで言ってくるあいつにめっちゃ腹が立つ。
「黒井くんさ〜、晃に逆つかれまくってるよ」
「こいつずりーよ!なんであんな速くドリブルつけるんだよ!付いてくのに精一杯で対処しきれねー!」
「まあ、才能かな!」
「うっせー!」
ああ、腹が立つ!俺に勝ってヘラヘラしやがって!
「これで晃の何勝?」
「さあ…忘れちゃった」
「352勝だ…」
「よく覚えてるな勝樹」
当たり前だ。悔しいから全部覚えてる。
「まあ頑張って俺に勝つんだな!君の挑戦、待ってるぜ!」
「うっせー!今に見てろ!ぜってー泣かす!」
あいつは笑いながら新津と体育館を出て行った。
俺と晃は、毎日練習後に1 on 1 をやるのが日課になっている。一年の初めの頃からやってるが、未だに勝てた事がない。
多分、これからもずっと勝てないだろう。あいつと俺とでは、努力の量が違うのだから。
あいつは才能だと言っているが、あいつには間違いなく、運動の才能はない。
事実、バスケ以外の球技に関しては、平均よりうんと出来ない。運動音痴と言ってもいいくらいだ。
なのに何故、バスケだけは出来るのだろう。
俺は初め、才能をバスケに全振りしているのだと思っていた。事実、他競技だが、プロでもそういう人がいる事は知っていた。
しかし、それは間違いだった。
ある日、練習後に忘れ物をし、取りに戻った。すると、何故か体育館の電気が点いており、ボールの音が聞こえる。
誰が練習しているのだろうと思い、体育館を覗いた。そこには
バラバラのフォームで、届きもしない3ポイントシュートを打つ晃がいた。
普段のあいつのプレイからは想像も出来ない姿だった。
お世辞にも上手いとは言えないその姿は、見ていてとても滑稽だった。
人には得意不得意があるんだから、出来ない事までやる必要なんてない。出来る事を確実に伸ばすべきだ。
当時の俺はそう思い、心の中で奴を嗤った。
精々無駄な努力をしてろ。直ぐに俺が追い抜いてやるから、と。
その二ヶ月後、奴は練習試合で、3ポイントシュートを打った。あの時の無様なフォームは、見違えるくらい綺麗になっており、美しい高弾道の放物線を描き、リングに吸い込まれていった。
観客、ベンチ、そして、コート上の選手までも、当然俺も、その美しいシュートに見惚れていた。コートには、ゴールネットを揺らす音だけが響く。
誰もが声を発する事が出来ない中、一人の男が、静寂を破った。
「っしゃあああぁぁぁぁ!!!」
晃だった。
奴は無邪気に大声で喜んだ。よほど嬉しかったのだろう。
同時に、俺は奴の強さに合点がいった。奴はきっと、ずっと並々ならぬ努力を積み重ねていたのだろう。奴のシュートが物語っていた。
あいつは天才なんかじゃない。だが、あいつは最強だ。
誰にも負けない、最強の男だ。
――――――――――――――――――
『白峰〜、ジャンプシュート教えてくれ〜』
「お、いいよ!今日の部活でな!」
『この前の練習試合、お前のパス最高だったぜ!』
「お前も、ナイスシュートだったぞ!ゴール下、めっちゃ上手くなってたな!」
『やっぱ白峰くんかっこいいよね〜』
『うん!ちょっと抜けてるとこあるけど、決めるとこはちゃんと決めてくれるし!』
『この前なんて3ポイント三本決めたんだって!』
『え!?すご!顔良くてスポーツ出来て、その上優しいなんて、やっぱ白峰くん最高!』
あいつは太陽だった。いつも明るく、皆の中心にいた。学校で知らない奴はいない、それどころか、他校にまで奴の名前が轟くほどだった。
奴は誰よりも人気があった。本人は知らないだろうが、何度も橋渡しを頼まれた事がある。
晃という名前は奴にとても良く似合っていると思う。日の光と書いて晃。太陽のあいつにはピッタリだ。
そんな奴の事が、俺にとって何よりの自慢だった。親友である事を、誇りに思っていた。
俺は奴の進む道を、ずっと見ていたかった。奴の側に、ずっと居たかった。
その時は誰も考えていなかった。きっと誰もが、思いもしなかっただろう。当然俺も、予想だにしていなかった。
沈んでしまった太陽が、二度とその姿を表す事がないという事を。
――――――――――――――――――
今、俺の隣りには誰もいない。
ずっと戦ってきた相手は、何処かへ行ってしまったからだ。
どこで歯車が狂ってしまったのだろう。もしかしたら初めから、噛み合っていなかったのかもしれない。
お前は俺を許しちゃくれたが、俺は俺自身を、未だに許す事が出来ない。
俺はあの時、お前を裏切った。一番近くに居たのに、お前を助けるどころか、見捨てたんだ…
俺はお前を、遠くから眺めるばかりで、寄り添おうとしなかった。理解しようとしなかった。
その結果がこれだ。
お前はバスケを辞め、俺はお前にしがみついたまま、離れられないでいる。
二度と戦う事はないのに、お前の虚映と戦い続けている。
そうなってしまったのは、きっと俺への罰だろう。永遠に逃れられない罰だ。
お前は気にしなくていい。再び歩き出したお前にとって、俺は邪魔だろうから。十字架は俺一人で請け負う。だからお前は、前へ進め。
なんて言えたら、どれだけ良かっただろうな。
もし俺とお前の立場が逆だったら、お前はそう言っただろうな。
いや、そもそも俺は前へ進む事は出来ないだろう。そして、俺はお前に助けられただろう。
ほんと、自分の弱さに嫌気が差す。あいつの強さが恨めしい。
お前を助けられなかった俺が、お前に頼む事じゃないだろう。だが、恥を承知で、糞野郎だという事を承知でお前に頼む。
俺を、助けてくれ。
これにて、番外編は一旦終了となります。次回は三章の開幕です。
それに伴い、内容の再構築を行いますので、少々お時間をいただきます。次回投稿は、まあ、一ヶ月以内には出来るんじゃないですかね(適当)。べ、別に、他作品を書き始めたから執筆が滞ってるとか、そ、そんなんじゃ無いんだからね!(震え声)
というわけで、今回はここら辺で筆を置かせていただきます。今後とも是非、『幼馴染に〜』を宜しくお願い致します。




