女子との食事はもっと癒される物じゃないかとつくづく思う
場所を探していたら、ちょうど良くテーブルと椅子が空いている場所があった。
今は、俺が場所の確保、鈴井には恐らく弁当、を取りに行ってもらっている。
「お待たせ」
「お、思ったより早かったな」
「そうかしら。まあいいわ。早く食べましょう」
そう言って、鈴井は持ってきたクーラーバッグから包みに包まれた物を取り出す。
包みにを解くと、中から二つのタッパーが出てきた。
「ごめんなさい。本当はもっと入れ物にも見栄えを気にするべきだったのだけど」
「気にすんな。大事なのは味だろ」
「そう言ってもらえると助かるわ」
蓋を開けると、片方には多種多様なおかずが、もう片方にはおにぎりが入っていた。
「おにぎりは、この海苔を巻いて食べるといいわ」
鈴井は、別の真空パックに入った海苔を出す。気遣いがパーフェクト過ぎて尊敬します。
「箸ある?」
「ええ、ちゃんとここに…」
鈴井は、割り箸を二膳取り出したところで固まる。どした?そして、何故か片方をしまった。なんで?
「ごめんなさい。私とした事が、箸を一膳しか持ってこなかったわ」
「いや、今あったよね?完全に二膳あったよね?片方しまったよね?」
「五月蝿いわね。私が一膳しか持ってきてないと言ったらそうなのよ。男なんだから細かいことうだうだ言わない」
「なんでお前の言う事が全てみたいになってんだよ…」
相変わらず、開き直りが酷すぎる。
「でも困ったわね…。これじゃあ一人おかずが食べられないわ」
「いいよ俺は。おにぎりだけ食べるから」
「いえ、その必要はないわ。いい方法を思いついたから」
鈴井は、割り箸を割り、唐揚げを一つ掴む。そして何故かそれを俺の口元へ持ってきた。
「晃くん」
「な、なんでしょう」
「あーん」
What!?
ちょ、ちょっと待て!?今何が起きてる!?
「早く口を開けなさい。手、疲れるのだけど」
待て。考えろ。奴の性格を。
奴は俺が狼狽えるのを見て悦に浸る女だ。平常心、平常心だ。
「あ、あーん…」
「いい子ね」
俺が口を開けると口に唐揚げを放り込む。うん。凄く美味しい。
平常心だ。狼狽えるな。邪念を断て。
「晃くん」
「な、なんですか?」
「あーん」
え?ちょ、ま、えぇ!?
まだやるの!?俺、一回でKO寸前なんだけど!?
お、落ち着け…。平常心だ…。心を無に…
「あ、あーん…」
「ふふっ、いい子ね」
鈴井は満面の笑みで、唐揚げを放り込む。美味しい。
そろそろ平常心を保てなくなってきたぞ。心臓が破裂しそうだ。
「晃くん」
「え?あ、マジ…?」
「あーん」
三度目えぇ!!もう無理!死ぬ!平常心なんて保てる訳がない!
だがここで拒否れば負けだ。あと一回、あと一回だけ耐えれば…
俺が口を開けると、やはり鈴井は唐揚げを放り込んでくる。うん。美味しいです。
「これヤバいわ…癖になりそう…」
何が?俺へのいじめ?
鈴井はまた唐揚げを取ろうとしている。これ以上はまずい!
「す、鈴井、そろそろ普通に食いたいんだが」
「え?あ…そ、そそ、そうね。冗談はこれくらいにしておきましょうか」
さっきしまった割り箸を俺に渡してくれた。いや、今お前が持ってる箸の方が色々と都合がよろしいのでは…
「鈴井、ちょ…あ…」
鈴井は既にその箸で食べ始めていた。もうダメみたいですね。
「なにかしら?」
「あ、もう、なんでもないです…」
なんで最近の女の子は皆間接なんたらを一切気にしないんですかね。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
鈴井の作ってきた弁当は、どれも凄く美味しかった。いいお嫁さんになりそうだな。性格さえ直せば。
「ねえ晃くん。どの指がいい?」
「申し訳ありませんでした」
マジでこいつエスパーかよ…。
というか、指一本折る気だったんですかね…。流石に切断はないだろう。ないと信じたい…
「で、この後どうする?」
「そうね…。折角コスプレしてるのだし、お披露目会でもする?」
「嫌です」
「拒否権あると思ってる?」
ですよね〜。うん。分かってたから驚かないよ。マジでやりたくねーな…
「それじゃあ広場に向かいましょうか」
「ソウデスネ、イキマショウ」
「今この場でその衣装を返してもらってもいいのよ?」
「喜んでやらせていただきます!」
ズボンに下着のシャツとか何処のいなかっぺ大将ですか…。
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広場には、やはり多くのコスプレイヤーがいた。どなたも衣装を見事に着こなしていて、綺麗だった。まあ、うちの鈴井ほどじゃないですけどね。
「この辺にしましょうか」
「ん?ああ、そうだな」
空きスペースを発見し、確保した。ついにうちの鈴井のお披露目だ。皆の者!注目せよ!
鈴井がジャケットを脱ぎ、衣装が露わになる。それを見た人達が、途端にわらわらと集まってきた。相変わらず集客力凄いですね…
気がつくと、いつの間にか広場で一番人を集めていた。異常だなこれ。めっちゃ写真撮られてるし。
『美しい…。本当に同じ人間か…?』
『ゲームより断然綺麗だ…。凄すぎる…』
『女神はいたのか…』
ちょくちょく聞こえてくる声が、鈴井の凄さを物語ってる。皆さん、私もそう思います。
『ランサーさーん!こっち向いて〜』
『なんかポーズ取って下さ〜い』
『カッコ良くお願いしま〜す』
何故か俺のところにもちらほらと女性が集まってきた。すげーなコスプレ。こんな俺でも女性を集められるとは。衣装を作ってくれた鈴井様々ですわ。
きっと今俺は、女性に囲まれているという、今まで経験した事のない状況に、物凄く舞い上がっている。絶対だらしない顔になってるよなぁ…
それからしばらく、鈴井はとにかく大勢の人に、俺はちょくちょく来る女性や、ちょっと怪しい男性に写真を撮られた。コスプレって、自己顕示欲を満たしてくれる、最高のものだったんですね…
なんかよく分からない方向に進んでる希ガス…
次回で鈴井とのデート(?)は終わりです。




