表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染に好かれる、なんてのは幻想です  作者: 卯佐美 佳
第二章 俺はどうあがいても目立ってしまうらしい
46/70

俺はあいつに、勝たなきゃいけない…

初の晃以外の視点です。

グラウンドの一角で座りながら、俺は、遠くで胴上げされている男を眺めていた。



俺はまた、あいつに負けたのか…



あいつがこのリレーに本気だと知った時、絶対に負けたくないと思った。あいつだけには絶対。


だが、負けた。俺は、持てる力の全てを使っても、あいつには届かなかった。俺には何が足りなかった…。あいつと俺では、何が違うんだ…


いや、答えは出ている。俺は始まる前から、あいつに負けていたんだ。


俺は負けたくないと思っていた。だがあいつは、勝つという確固たる決意があった。俺は、勝つという意志が弱かったんだ…


あいつは、目標を定めればそこに一直線で向かう。迷う事なく。

俺は、目標を定めるとどうしても失敗を考えてしまう。迷ってしまう。


それが、あいつの強さで、俺の弱さであり、あいつと俺の違いだ。


俺は一生、あいつに勝てないのかもしれない。


「お疲れ様。惜しかったね」


後ろから声を掛けられた。


「何しに来たんだ?」

「勝樹を慰めに、かな?」

「そうか…」


本当は、晃と一緒に喜びたいだろう。それなのに、俺の所に来てくれるとは…

いや、晃がそうする様に言ったのかもしれない。つくづくムカつく奴だ。


「別に俺の事なんて気にしなくていいんだぞ。無理して俺に付き合ってくれなくてもいい」

「ううん。大丈夫。今は、勝樹と、話したいから」

「そうか…」


俺と話したい…か…。どこまでが本音なんだろうな。


「晃ってさ、凄いよね」

「それは俺に対する当て付けか?」

「あ、いや、そういう事じゃなくて!」

「大丈夫だ。分かってるよ」


こいつはたまに、無意識で人を傷つけて来るから困る。


「いつの間にか、クラスの真ん中にいて、私達なんかあっという間に追いついちゃって」

「…そうだな。下手したら、俺達より人気出るかもな」

「やっぱり晃は凄いなぁ…」


そう言って、胴上げされている男を眺める仁美。その目は、奴に釘付けの様に思えた。


「おまえは、晃の事を、どう思ってんだ?」


俺は、ずっと聞きたくなかった事を聞いた。俺達の関係が、完全に潰れてしまうかもしれない事を。


「晃の事?」

「そうだ。あいつの事。素直な気持ちを教えて欲しい」


本当は聞きたくない。だが、俺はきっと、聞かなければ前に進めない。


「いや、絶対」

「頼む。教えてくれ」

「やだ。考えたくない」

「一生のお願いだ。頼む」


俺は間違いなく、最低な事をしているだろう。でも、止まる事は出来ない。


「…分かった…。絶対に、晃には内緒にしてくれる?」

「…ああ、絶対に話さない」


俺はそう言われて、察してしまった。やはり、そういう事なんだな…


「私ね、前、晃の事が好きだったんだ」


やはりか。予想通りだ。


「晃はね、私にとってのヒーローなの」

「どういう事だ?」

「小学校の時、私はあんまり話すのとか得意じゃなくて、クラスで馴染めなかったの」


かなり意外だった。俺が知ってる仁美は、明るく、誰とでも仲良くなれる様な、そんな奴だ。


「そんな時、晃が話しかけてくれて。私が変われたのはそれがきっかけ」


晃はずっとそうなのか。

俺が知ってるあいつは、人が困っていたら、直ぐにでも駆けつけて、力になろうとする、そんな奴だ。


「それからね、晃と一緒にいる様になって、私も少しずつ明るくなって。中学校になった頃かな、多分晃の事が好きなんだって、思うようになってた」

「そう…なのか…」


俺なんかより、ずっと前の話なんだな。


「私が困った時、辛い時、いつも話を聞いてくれて。それでどんどん好きになっていって」


俺が知らない所で、お前は人を助けていたのか…


「でも、そんな晃は、いつからかいなくなっちゃった」


それが何を指すか、容易に想像が出来た。


「中三の時、大会が終わったら告白しようって思って、夏休みの中頃、チャットで呼び出したんだけど…」


最悪のタイミング…。この後の展開が予想出来てしまう。


「返信もなくて、呼び出しにも来なかった。多分、ブロックされてたのかな…」


予想していた中で最悪の結果だった。


「その後何度もチャットしたんだけど、既読すらも付かなくて、何かあったのかななんて思って」


今俺は、聞かなきゃ良かったと後悔している。だが、目を瞑ってはいけない。これは、俺が犯した罪の代償だ。


「直接家にも行ってみたんだけど、おじさんもサーシャさんも、晃の事は一切話してくれなかった」


お前は、そこまで追い込まれていたのか。なのに俺は…


「夏休みが終わって、晃は学校に来てくれて、安心した。良かった、何かあった訳じゃないんだって」


何かはあったんだ。あいつが、壊れるくらいの何かは。


「それで、晃に色々聞いたんだけど、なんにも答えてくれなかった」


これ以上は聞きたくない。だが、自分が望んだ事だ。そして、自分が起こした事だ。目を逸らすな…


「それでも、私はしつこく聞いちゃった。晃の事、どうしても知りたかったから。そしたらね、晃に言われちゃったんだ」


止めてくれ…晃…。お前のそんな姿を…俺は…見たくない…


「俺の前から消えろ、ってね」


お前は、そこまで病んでいたのか…。大切な、幼馴染を拒絶するほど…


「私ね、一瞬なに言われたか分かんなくて。あの優しかった晃が、そんな事言うはずないと思って、もう一回話しかけたんだけど、そしたら」


これ以上、何があると言うんだ…


「二度と顔を見せるな、って」


…………


「私さ、その時、多分人生で一番泣いたね。好きな人にあんなこと言われるのって、ほんとに辛かった。それこそ、死んじゃおうかと思うくらい」


お前が…そんな事を言ってたなんてな…。知らなかった…


「それからしばらく学校休んじゃって、でもその間も、なんかの間違いじゃないかって、ずっと思ってて、何度もチャットしたけど、やっぱり何もなくて」


…………


「やっと気持ちの整理が出来て、晃にちゃんと話を聞こうと思って学校行ったんだけど、そこに、私の知ってる晃はいなかった」


…………


「髪も伸びてて、制服の着方もどこか怖くて、何より、一切笑わなくて、絶対に話しかけちゃいけない様な、そんな感じで」


…………


「でも、やっぱり話を聞こうと思って、頑張って話しかけたんだけど、全部、無視された」


…………


「あの時、勝樹がお話聞いてくれなかったら、勝樹がいなかったら私、自殺してたかもしれない…」


俺がいなかったら…そもそもこんな事にはなっていなかったかもしれない…


「勝樹のおかげで、晃の事をやっと諦めようと思えた。それで、私の初恋はおしまい。今でも、忘れられない初恋…」


仁美にも、そんな辛い経験があったのか。

それでも俺は、晃を責めることは出来ない。その時あいつは、壊れていたのだから。


「今の晃は、どう、思ってるんだ?」


俺は聞かずにはいられなかった。


「…凄く、カッコいいと思う。でも、私は、昔の晃の方が、忘れられない、から…」


ああ…やっぱりか。お前はまだ、晃の事が好きなのか。そして、今の晃にも惹かれつつある。多分本人は、その事に気付いていない。


「今の晃は、お前にとっての、何だ?」

「一番、大切な人、かな」

「そうか」

「だからもう、あんな晃は、見たくない…。きっとあの時、晃も凄く辛かったと思う。でも、その事を誰にも相談出来なくて…。私、晃にいっぱい助けてもらったから、今度は、晃が辛かったら、助けてあげたい。だから、そばにいたい…かな…」

「…そうか」


大切な人…。俺は、それを傷つけた…。いや、そんな甘っちょろいもんじゃない。壊したんだ…。それを知ったら、仁美、お前はどうするのだろう。


俺は最低だ。二人の心を踏みにじっておいて、悠々と今の位置に居座っている。俺がいなければ二人の関係も、心も、変わることはなかったかもしれないのに。


なあ晃。お前は何故、進み続けられるんだ。お前は何故、変わることが出来たんだ。お前は何故、あそこから立ち直れたんだ…


俺はあの時から、止まったままだというのに。俺はあの時から、変われずにいるというのに。俺はあの時から、立ち直れずにいるというのに…


きっと俺は、あいつには一生勝てない。


止まったままでいる俺は、進み続けるあいつには、一生追いつかないのだから。


それでも俺は、あいつに勝たなきゃいけない。その為なら、俺はどんな手段も使う。






今度の勝負だけは、絶対に、勝たなきゃいけないんだ。

次回で二章は完結となります。そのあと、数話番外編を挟み、三章となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ