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幼馴染に好かれる、なんてのは幻想です  作者: 卯佐美 佳
第二章 俺はどうあがいても目立ってしまうらしい
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勝つのは、俺だ

『並んだぁ!!一年B組が、二年E組に、バトンパスを利用して並んだぁ!!』


俺は恐ろしいほど冷静だった。周りの音、景色、状況がはっきり分かるほどに。そして、この先どうしたらいいかが手に取るように分かるほどに。


久しぶりだな、この感覚は。いつ以来だろうか。酷く懐かしい。


カーブに入る直前、体を入れて柳澤先輩の前に出る。


『抜いたぁ!!一年B組!奇跡の逆テーン!!』


奇跡か…。この程度で奇跡なら、これから起こる事はなんだろうな。


目の前には勝樹の背中が見える。手を伸ばせば届きそうな距離だ。


もうすぐカーブが終わる。そこが勝負だ。


カーブを曲がり終え、最後の直線に入る。残りは約50m。


いける…!


カーブの立ち上がり、少し大回りし、減速せずに直線に入った。そのおかげか、勝樹との差が体半分程まで縮まった。


こっからは気迫だ。気迫の強い方が勝つ。


勝樹、俺はお前に絶対勝つ。この勝負も、これからも。


『並んだぁ!!ここに来て、二クラスが並んだぁ!!なんということだ!!』


横を見る事は出来ないが、恐らく、俺が追いついたのだろう。


あと少し。行ける!俺なら行ける!!

あと数メートル。その間に一センチでも前に出ればいいだけだ。

あと少し…あと少し…!

ゴー…


『ゴール!!光成高校史上稀に見ぬ大熱戦!!それを制したのは!!?』


――――――――――――――――――――


殆ど同着だった。ゴールテープは俺が切ったように思えたが…


「白峰ーーー!!!!」

「晃ーーー!!!!」

「痛ぇ!!!!」


平沢と健が同時に俺にのしかかる。


「やってくれたなこの野郎!あの場面で追いつくなんてよ!!」

「お前ならやってくれると信じてたぜこの野郎!ほんと、お前って奴は最高だ!!」

「重い!!どいてくれ!!あと髪わしゃわしゃすんな!!痛ぇ!!」


さっきから二人が色々とウザい。こちとら、結果が気になって仕方ないってのに。


「そうだ!結果!結果は!?」

「今判定中だそうだ。ほぼ同着だったからな。カメラマンの写真を元に確認しているらしい」


相坂が眈々と教えてくれた。

というか二人は結果が分かってないのに、こんなにはしゃいでいるのかよ。バカじゃねぇの。


「晃くん!!」


呼ばれた方をみると、荒川と鈴井、そして泣いている桐島がこっちにやって来ていた。


「凄いよ晃くん!追いついちゃうなんて!」

「その前のお前の走りも良かったからな。それに影響されたんだ。それよりバトンパス、無茶振りして悪かったな」

「ううん!全然!私を、信じてくれたんでしょ?」

「あ、ああ。そうだな」


面と向かって言われると、すっごい恥ずかしい。


「(うぐ…)白峰くん…皆…、迷惑かけて…ごめ…んなさい…」

「気にすんなって。なんかあったら俺と健が責任取るって言ったろ」

「おい晃。お前確か、俺に全責任なすりつけようとしたよな?」

「そうだっけか?まあどうでもいいや」

「俺がよくねえよこんちくしょう!」

「おい髪わしゃってすんな!ウザい!」

「(ひぐ…)二人とも…ありがとう…」


お礼を言うのはこっちの方だ。仁美のわがままの代わりをやってくれたんだからな。


「流石ね。あなたなら大丈夫だと思っていたわ」

「当たり前だろ。俺が全力を出したんだからな」

「終わってからならいくらでも言えるものね」

「うるせー。結果残したんだからいいんだよ」

「過程も見てる人は見ているわ」

「お前の場合、結果残さなかったら、過程など無意味、結果が全てとか言うんだろ?」

「あら。私の事良く分かっているのね。私の事好きなのかしら?」

「俺のやつだそれ。パクるな」

「そうだったかしら」


そう言って、鈴井はクスクスと笑う。少し前の刺々しい印象とは大違いだ。


俺達が話していると、此方に近づく一つ影を見つけた。


「やあ白峰。それと灰田」

「なんすか?柳先輩」

「俺達の勝ちっすからね。異議申し立てとか聞きませんよ?」


健が異議申し立てと言う言葉を知っている事に、異議申し立てをしたい。


「違うさ。少し、白峰と話に来たんだ」

「俺とですか。いいですよ」

「話の前に…重くないのか…?」


そういや二人に乗っかられたままだった。


「そうだよお前ら。さっさとどけ」


二人を振り落とし、立ち上がる。


「で、なんですか?」

「負けたよ。正直、君の事を見くびってた。ここまでとはね」

「たまたまですよ。火事場の馬鹿力ってやつじゃないですかね」

「心にもない事を言うな。あれが君の本来の力なんだろう?」


やはり気付いているか。そりゃあ始まる前にあれだけ啖呵切ってたからな。


「そうですね。それで、それを聞きに来たって訳じゃないですよね」

「そうだな。俺が聞きたいのはそんなことじゃない」


足の速さの秘訣か?それとも俺の過去か?いや、もっと別のものの可能性もある。何が聞きたいんだ?


「君は、何故そんなに強いんだい?」


「それは…どういう意味ですか?」

「そのままの意味さ。普通、競技前なら誰にでも不安があるものなんだ。当然俺にもあった。でも君は始まる前、一切の揺らぎが見えなかった。それが俺は不思議でたまらないんだ」


なるほどね。そんな所まで見ていたのか。俺からしてみれば、あんたの方がよっぽど不思議だよ。


「簡単な話ですよ。俺なら勝てると思ってただけです」

「ずいぶんと容易く言うね」

「俺にとっては普通のことなんで。それに…」

「それに?」


「負けると思って戦う馬鹿はいないでしょ」


俺はそう言い放つ。

それを聞いた柳澤先輩は、ポカンとしていた。


「あはははは!君はやっぱり面白い奴だ!」


急に笑い出した。今笑う所あったかしら。


「何が可笑しいんですか?」

「すまんすまん。ただ、君の強さの理由がよく分かったよ」

「はぁ…。よく分かりませんが」

「君は恐ろしいほど純粋だ。悪い言い方をすれば馬鹿正直なんだ」

「褒められている気がしねぇ…」

「褒めてる褒めてる。人間ってのは、そこまで悪いイメージを消去出来ないものさ。少なからず、不安は残る。君のその純粋さは、他の誰にも持てない、最強の武器だ」

「最強の武器ですか。それはまた大層な物で」

「だがその純粋さは、時に周りの人にも刃を向ける」

「どういう事ですか?」

「君なら、意味は分かるんじゃないか?」

「…………」

「まあ余計なお世話だったかな。君はもう、スポーツをやってないみたいだし」


何でもかんでもお見通しって訳か。ほんと、何者なんだよこの人は…


「君の事がまた一つ分かったよ、ありがとう。じゃあな白峰」


そう言い残して、去って言った。


もう二度と、会いたくないな。いつかあの人の手で、全てが明かされてしまうかもしれない。ほんと、あの人の観察眼には驚かされる。


『先程行いました、クラス対抗リレー決勝戦の結果をお知らせします』


「結果が出たみたいだな」


ようやくか。果たして、俺は追い抜く事が出来たのか。俺達は勝てたのか。


『ただいまのレース、厳正な審査を行いました結果、優勝は…』


ドラムロールが流れる。

この数秒が恐ろしく長く感じる。早くしてくれ…


数秒後、スピーカーから息を吸う音が漏れる。












『優勝は、一年B組です!!!!』






グラウンド中に、今日一番の歓声が沸き起こった。

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