期待、そして信頼
「勝つのは俺たちだ!!!」
俺は柳澤先輩にそう言い放った。
「凄い自信だな」
「あなたが自分のチームに自信を持っているように、俺も自分のチームに自信を持っているだけですよ」
「へー、なるほどね…」
『おーっと!一年B組速い!他を寄せ付けない圧倒的な速さです!』
流石健だ。俺達の思惑通り、リードしてくれている。
「君達の作戦は分かっている。先行逃げ切りだろう?」
「まあ、そうですね」
「だが、それが上手くいくとは思わない方がいい」
『二年E組速い!先行する一年B組を猛追しています!』
「水無月先輩か…」
「香織がいる限り、先行逃げ切りはあり得ない」
「そっちこそ、うちの二人目のエースを侮り過ぎじゃないですか?」
『しかし追いつけない!一年B組!リードを保ったまま、第三走者にバトンが渡る!!』
「なに!?」
「先行逃げ切りはあり得ないんですよね?」
「…そうだな。さっきの言葉は訂正しよう」
よしよし、この調子なら優勝もいけるはずだ。
『あーー!!一年B組、第四走者が止まっているぞ!どうした!』
実況を聞き目をやると、桐島が平沢から上手くバトンをもらえず、もたついてしまっていた。緊張に呑まれたか…
『おっとぉ!?ここで二年E組、そして一年D組が前に出たぁ!!』
やはり抜かれてしまったか。まずいな。
「本番は一発勝負。想定外の事だって起こり得るさ。君達の作戦は間違っていない。運が悪かっただけさ」
柳澤先輩の言っている事は正しい。だが…
「まだ、勝負は終わっていませんよ」
「そうだな。確かにまだ終わってはいないな」
二位の一年D組との差は二秒もない。まだまだいけるはずだ。
しかし、現実は非情だ。相坂が必死で前に追いつこうとするが、差は一向に縮まらない。
『ここでバトンパスを利用して、一年D組が一位に躍り出たぁ!!』
バトンが第六走者に渡り、次はいよいよアンカー、俺達の番だ。
「悪いな晃。この勝負、俺の勝ちみたいだ」
レーンに出て来て、隣に並んだ勝樹が言う。
「いや、まだだ。まだ終わってねぇ!」
荒川が前二人を追い上げていた。きっと、俺ならやってくれると信じて。
『さぁて!まもなくアンカーにバトンが渡ります!勝つのはサッカー部のキャプテンか!それともバスケ部のエースか!』
実況は、俺が勝つとは思っていないようだ。
いや、実況だけじゃない。おそらく、この学校の殆どの生徒がそう思っているだろう。
当たり前だ。二人は校内でも屈指の有名人。対して俺は、悪目立ちしたただの一般生徒。期待に差が出るのなんて当然だ。
だが、そんな俺に期待してくれた奴らもいた。
とある女の子は、俺なら何とかしてくれると信じてくれた。
とある女の子は、俺なら勝てると信じて疑わなかった。
とある女の子は、俺と一緒に勝ちたいと言ってくれた。
それだけじゃない。
とある馬鹿は、俺の言葉を鵜呑みにし、とある冷徹な男は、俺の言葉を信じてくれた。
そして、とある男は、俺という人間の全てを信頼してくれた。
他の誰もが期待してくれなくてもいい。だが、俺には俺に期待してくれる確かな仲間がいる。
だから俺は、そいつらの期待に応える為に、全力でやるだけだ。
俺は荒川に背を向ける。荒川は俺を信じてくれた。だから俺も彼女を信じる。だから俺は彼女を見ない。彼女なら必ず、俺の手にバトンを渡してくれると信じて。
荒川の頑張りのおかげで、一位までは一秒もない。十分だ。俺なら抜ける。
彼女の位置を一瞬だけ確認し、俺は走り出す。もう振り返らない。
トップスピードに乗る前に、彼女からのバトンが俺の手に収まる。彼女は俺の無茶振りに、信頼に応えてくれた。
ならば、今度は俺の番だ。俺が、お前らの期待に、信頼に応える番だ。
「頑張って!!!」
後ろから声が聞こえる。さっきまで全力だったのに、無理して声を上げて。馬鹿な奴だ。
悪いが、俺はその言葉の返答を、お前に伝える事は出来ない。だが、お前の想いは確かに受け取った。だから、心の中でだが、その言葉の返答をするとしよう。
任せろ。絶対勝つ。




