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幼馴染に好かれる、なんてのは幻想です  作者: 卯佐美 佳
第二章 俺はどうあがいても目立ってしまうらしい
42/70

次のハリケーンの名前は多分水無月になるだろう

「遅えーぞ二人とも」


遅れて来た俺達に、健が茶々を入れてくる。


「悪いな、鈴井がどうしても俺とイチャイチャしたいって言うから」

「事実を捏造しないでくれないかしら。私があなたに求めるのとしたら、奴隷としての身体よ」

「何度も言うが、俺はMじゃないし、お前に仕える気もないからな」

「そう、残念ね。気が変わったら教えてくれるかしら?」

「その時がくる事は一生ねえなぁ」


こいつの下に付くなんて真っ平御免だ。


「夫婦喧嘩はそこまでにしとけ」

「「夫婦じゃない(わ)!!」」


どちらかと言えば奴隷交渉だ。形態的には真逆に位置するだろう。

あ、でも結婚は人生の墓場とも言うしな。似た様な物なのかもしれん。


『おーい!あーきらくーん』


なんか遠くから声が聞こえるような気がするが、気のせいだろう。


「つーか皆は体調とか大丈夫か?怪我とかしてないか?」

「あ、ああ、問題ないが…。あれはいいのか?」

「あれ?何の事だ?」

「そ、そうか。お前がそう言うなら俺はいいんだが」


『あれ?おっかしーな。聞こえてないはずないんだけどな』


「相坂以外も大丈夫か?」

「私は問題ないよ。体調バッチリ!…ほんとにいいの?あれ…」

「私も、大丈夫…。…ほんとに無視してていいの…?」

「だから何の事だよ。よくわからないんだが」


『おーい!聞こえてるよね〜!無視すると後で酷いよ〜』


「そういえば平沢は?」

「平沢ならあそこで地球持ち上げてるぞ」


健が指差す先には、逆立ちしている平沢がいた。何やら叫んでいるようだが、遠すぎて聞こえなかった。まあ、大体なに言ってるか分かるが。


「なんであんな事に?」

「俺が、『やったら注目されるしモテるんじゃね?』って言ったらやり出したんだ」

「うん。馬鹿なのかな?」


そんな嘘に騙される奴は平沢しかいないと思う。


『なるほどね〜。そっちがその気なら…』


「そもそも、馬鹿じゃないとそんな事思いつかないだろ」

「確かに。しかしそれでモテると思うのもどうかとおも」


「どーーん!!」

「うおおおい!!!」


後ろからいきなり突き飛ばされた。何事!?


「無視すると酷いって言ったでしょ!」

「すいません。関わりたくなかったもので」

「酷くない!?あんだけ私に激しく迫っておいて、終わったらほったらかしなんて…。でも、それも嫌いじゃないかも♡」

「あの、すいません。その言い方だと誤解を生むんでやめていただけると」

「ねえ晃くん、あなたは仁美さんを探しに行くと言って、そんな事をしていたのかしら?」

「晃くん?すこーしだけこっち来て。大丈夫、何にも痛くないからね?」


やっぱり誤解生んじゃいますよね〜。

二人の後ろに名状し難い何かが見える気がする。さっきから俺の第六感が、もう手遅れと言っている。第六感って危険察知じゃないの?俺の第六感仕事しねえなぁ…


「ま、まて二人とも。これこそ事実捏造で実際俺は」

「私を激しく求めてきたんだよね♡もう凄かった♡」

「あんたは黙ってろ!!」


この人は俺を窮地に追い込んで楽しいのか?何より、全くの嘘というわけではないのが腹立つ。


「分かった。もう何も話さなくていいわ。どうやらきついお仕置きが必要って事が分かったから」

「晃くーん。大丈夫だからね。痛いのは最初だけ。後は何も考えられなくなるからね〜」


やっぱり痛いんじゃねーか。それに何も考えられなくなるってのがとにかく怖い…


つーかヤバい、マジで死ぬ。誰か!俺に助け舟を!


「健!何とかしてくれ!」

「そういや相坂、体育祭終わったらラーメン行かね?いい店知ってんだぜ」

「ラーメンか、悪くないな。是非連れてってもらおうか」

「てめーら呑気に会話してんじゃねぇ!」


あの二人は使えねぇ。他には誰が。


「桐島!あの二人を落ち着かせてくれ!」

「美沙ちゃんって言うんだ〜。ちょっと好みかも」

「せ、先輩…。目が怖いです…」

「大丈夫だよ〜。ちょっと抱かせてもらうだけだからね〜」

「え?いや…ちょっ…まっ…」

「何やってんだあんたは!!」


なんであんたは蚊帳の外にいるんだ!あんたが原因だろ!


「この際平沢でもいい。俺を助けてくれ」

『俺は今!地球を持ち上げてるぞー!!俺は地球最強だー!!!』

「…………」


呆れて物も言えなかった。あいつ本気でやってんのかよ…


「悪あがきはもういいわよね?」

「晃くん。絶対に逃がさないからね〜」


二人の鬼を目の前に、俺は逃げる事も隠れる事もできなかった。親父、母さん、姉貴、お元気で…


――――――――――――――――――


「それで、この件は事実無根だと?」

「はい…。私はお話を伺っただけです…。彼女の身体には私からは触れておりません」

「本当に?神に誓っていえる?」

「はい…。神に誓います…」

「そうね。分かったわ。このくらいで許してあげようかしらね」

「あ、ありがとうございます!」

「こら!動かない。まだお仕置きは終わってないんだから」


俺は今、土下座の姿勢のまま、荒川には背中に座られ、鈴井には頭を踏まれている。屈辱以上に、周りからの視線が痛い。


『え、何?土下座?こんな所で?』

『女二人に…。二股か?』

『いやよく見ろ。あいつ白峰だ。確かあいつは成瀬と』

『マジかよ。三股とかやべぇな。ワイドショーとかドラマでも珍しいぞ』


事実無根の噂が伝染していく。こうして自殺者って生まれるんだろうな…




「お、ようやく解放されたか」

「ああ、もうすぐリレー始まるってのに、ひでえよな」

「晃、全く悪くないのにな」


今回ばかりはマジで俺に非はない。というかいつもそんなに俺悪くないと思うんだが。


「というか、先輩は何でまだいるんですか…」

「んー?ああ!さっきまで美沙ちゃんを愛でてたの」

「何やってんだよ…」


リレーの決勝前だぞ。緊張感というものはないのか。


「それで、俺に話があるんですよね?」

「ああ!そうだった!すっかり忘れてたよ!」

「あんた何しに来たんだよ…」


頭お花畑とか、夢見がちとか、そういう次元を超越している気がする。


「勝負の件、ちゃんと守ってね」

「そっちこそ、負けた時の事考えといた方がいいですよ」

「あはは!やっぱり晃くんおもしろ〜い!」

「そこ笑う所じゃないんですけどね…」


何?俺が言ったから笑ったの?だったら仕方ないか。


「じゃね。デート、楽しみにしてるから」


そう言って、水無月先輩は去って行った。嵐どころじゃないな。ハリケーンとかサイクロンだ。


「なあ晃。さっきの話って何の事だ?」


そういや、あの時いたメンバー以外には、この事を話してなかったな。健になら話しても大丈夫だろう。

健に詳しい事情を話す。


「なるほどな。それでデートか」

「ほんと、何考えてるか分かんないだろ」

「そうか?俺はなんとなくだが分かるぞ」

「は?嘘だろお前。あの変人の事分かるって…」

「お前だって変人だろ」

「お前には言われたくねーな」


健に変人呼ばわりされるとは、誠に遺憾である。


「まあ多分、似てるんだろうな。俺とあの人」


健の呟きに、何故か俺は妙に納得してしまった。


――――――――――――――――――


競技開始のために選手達が集合している中に、勝樹を見つけた。何やら普段とは顔つきが違っている。なんというか…思いつめた顔をしていた。


「勝樹、大丈夫か?」

「ん?ああ、晃か。どうした?」

「どうしたって…なんか深刻な顔をしていたからよ」

「そんな顔してたか?」

「ああ、刺し違えてでも殺してやろうという奴のような顔してたぞ」

「え?マジかよ。気をつけよ…」


話しかけてみると、存外普通だった。何か考え事でもしていたのだろうか。


「なんかあったんか?」

「別になんでもねーよ。ただ…」

「ただ?」

「お前にだけは絶対負けねえって思ってただけだ」

「なんだ、そんな事か。心配するほどのことじゃねーよ」

「なんだ?負けてくれるのか?」

「お前は絶対に俺には勝てねえからな」

「そう言ってられるのも今の内だぜ」


どうやら、さっき深刻な顔をしていたのは、リレーのことを考えていたからみたいだ。


「絶対に、お前だけには負けねえ…」


勝樹は、かなり勝負にこだわるタイプだ。だが、ここまで勝負にこだわるのは、今まで見たことがない。何がこいつをそうさせるのだろうか…


だが、それでもお前は俺には勝てない。理由は単純だ。何故なら…




俺の方が強いから


――――――――――――――――――


それぞれのチームの第一走者がスタートレーンに並ぶ。健は内側から二番目という、なかなかの好位置につけた。相変わらず凄いクジ運だな。


俺はアンカーの待機場所で待っていると、一人の男が向かってくる。


「や、白峰。調子はどうだい?」

「悪くないですよ。柳先輩はどうですか?」

「俺も悪くないよ。ちゃんと全力を出せるくらいには調子いい」

「そうですか。残念です」

「ははっ!君は正直だな」


この人の全力速そうだからなぁ…


「俺は、君が調子良さそうで安心したよ」

「…なんでです?」

「君の全力を見たいから、かな」

「俺の全力ですか。普通は相手に全力で来られて欲しくないと思うんですけどね」

「君が隠している事のヒントが、実は君の全力に隠されているかも知れないだろう?」

「どうでしょうね。ヒントにならないんじゃないですか?」

「それでもいいさ。それに、君と本気で戦ってみたいとも思っていたしね」

「俺は嫌なんで、手を抜いてください」

「楽して勝つ気満々だな」


楽して勝てるならそれが一番でしょ、普通。


「まあ、君が万全だって分かっただけでもいいかな」

「俺が万全だと、面倒じゃないですか?」

「弱ってる相手を倒したって、倒し甲斐がないだろ?」

「まるで自分が勝つようなものいいですね」

「君には悪いけど、負ける気がしないからな」


『まもなく、リレー決勝が始まります!果たして、どの組が優勝を勝ち取るのか!目が離せません!』


実況と共に、グラウンドの熱気が最高潮になる。もうすぐ、俺達の戦いが始まる。


「柳先輩、一つだけ、言っておきますよ」

「なんだい?」

「先輩達は勝つつもりでいるみたいですが、残念ながらそうはなりません」

「何を言ってるんだい?勝つのは俺達に決まって」

「違いますよ。だって勝つのは」


『位置について、ヨーイ』

(バァン!!)

『今戦いの火蓋が切って落とされましたぁ!!』




「勝つのは俺たちだ!!!」

もう一話投稿するかもです

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