いつか、成瀬には話す時がくるのだろう
俺がひとしきり泣いた後、俺達は横に並んで座った。
「落ち着いた?」
「ああ、何とかな」
落ち着いたのはいいが、めちゃくちゃ恥かしい。女子の前で泣くって何だよ。ああ、もう、死にたい。
「まさか晃があんな風に泣くなんてね。初めて見たな〜、晃が泣いてるとこ」
「やめてくれ。死にたくなる」
この子割と死体蹴りしますね。恐ろしい子…
「そういやさ、お前、なんで勝樹のこと好きになったんだ?」
これ以上死体蹴りされる前に話をそらす。前々から気になってたことを聞いた。
「うーんとね、確か、泣いてた時に優しくしてもらったからかな」
「えらくちょろいな。俺数えきれないほどやったぞそれ」
「時期が違うの!あの時は…ほんとに辛くて…どうしたらいいか分からなかった時だったから…」
「ああ…そうか…」
俺は全てを理解した。やっぱり、全部俺が原因なんだな。
「そうだ。、最後のリレーだけどよ。終わったら、勝樹の所に行ってやってくれ」
「え?なんで?」
「あいつ、多分相当悔しがるだろうからな。慰めてやれよ」
「え?それって…」
仁美を本当に必要としているのは、俺ではなく勝樹だ。それに、多分俺は負けても何も思わない。だが、あいつは…
「あ、そういや勝樹の奴、今も探してるんじゃね?」
「え?連絡してないの?」
「いやだって、する暇なかったし」
「え?じゃあ早く連絡しないと」
「そ、そうだな。早く行こうぜ」
「見つけた!こんな所にいたのか!心配したぞ!」
あ、遅かったか…。ここに来るって事は校内中探したんだろうな。お疲れ様です。
「あ?なんで晃がいるんだ?」
「い、いや、これには深い訳があってだな」
「なるほどな、俺には校内中探させといて、自分は悠々と仁美と談笑って訳か」
「い、いや、見つけた時知らせようと思ったんだよ。ただ、タイミングが見つからなくてだな」
「うるせぇ黙れ!てめぇを殺す!!」
「やっべ、逃げろ!」
「待てコラガキ!!!」
鬼の形相で勝樹が追いかけてくる。捕まったら殺されそうだ。
「楽しそうで、良かった」
その様子を見て、仁美は楽しそうに笑っていた。
助けてくれよ…
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勝樹からなんとか逃げ切り、仁美を連れてクラスのテントに戻ってきた。
「皆!心配かけてごめんなさい!」
仁美が深々と頭を下げて謝る。
「ううん。全然!仁美ちゃんが無事で良かった!」
「大丈夫?仁美さん。そこの男に不埒な事されていない?」
「俺が犯罪犯した前提で話すのやめてくれません?」
「あなたはそれが目的で自分から申し出たのではないの?」
「やったら一発でバレるのにやらねーよ」
「バレなければやるのね」
「否定出来ん…」
「警察に突き出した方がいいのではないかしら」
「あ、なにこれデジャヴ」
俺は仁美から少し離れ、適当な場所に座る。仁美は皆に囲まれ、何があったかを聞かれていた。大変そうだなぁ…
「お疲れ様。よく見つけたわね」
成瀬が俺の隣に座り、話しかけてくる。
「大変だったけどな。まだリレーが残ってるってのに、大分疲れたわ」
「まああんたなら何とか出来るでしょ。頑張りなさいよ」
「ああ、頑張るさ」
「それで、仁美と何を話したの?」
「特に何も。ずっと探してたからな、話す時間なんてなかったぞ」
「嘘。あんた嘘つく時癖があるの。ちゃんと本当の事を教えて」
マジかよ。多分それ仁美ですら見抜けてないぞ。
どうやら、俺は成瀬には隠し事は出来ないみたいだ。正直に話すしかないか。
「少し、昔話をな」
「昔話…ね…」
成瀬は他所を向き、考え始めた。
「あんたさ、中学時代、何があったの?」
しばらく考えた後、成瀬は尋ねてきた。
「…悪いが、あまり言いたくないんだ。すまん」
「ふーん、そ…」
成瀬は納得してくれたようだ。
「あたしさ、もっとあんたの事を知りたいって思ってる。だからさ、いつか、あんたが話してもいいって思う時がきたら、その時の事、話してくれない?」
俺の事を知りたい、ねぇ…
「そうだな。その時がきたら、話すかもな…」
「そ…。ありがと…」
成瀬は、それ以上は何も言ってこなかった。
話してもいいって思う時…か…。はたして、その時がくる事はあるのだろうか…。
『ただ、いつまでも隠し通せるのもではないという事は、憶えておいてくれ』
何故か今、柳澤先輩の声が反芻する。いや、理由は分かっている。
いつか、話さなきゃいけない時が来るだろう。その時までに、あの時の俺に向き合う必要があるのだろうな。




