俺はまた、何かを間違えたのかもしれない
「仁美ちゃんが、帰ってこないの!!」
仁美が帰ってこない?どういう事だ。何かトラブルに?
「そ、それってどういう事?」
荒川が女子に尋ねる。
「仁美ちゃん、昼休憩中にどっか行ったきり帰ってこなくて。それで、心配で…」
「晃くん。あなたは何か知らない?」
昼休憩中、仁美とろくに話していないのに、知っている訳がない。いや…そういえば、仁美の奴勝樹の所に行くとか言ってたような…
「その顔、何か心当たりがあるようね」
「ああ、まあな」
「申し訳ないのだけれど、私じゃ力になれそうにないわ。任せられるかしら?」
「分かった。お前らは競技の方に集中してくれ。仁美は俺一人で探す」
「待って。あたしたちも手伝う。やっぱり心配だし」
「闇雲に探したって見つからないと思うぞ。それに、応援合戦まで時間がない。俺一人で探すなら欠員は二人で済むが、それ以上増やすのは避けたい」
「でも、それじゃ晃くんに負担が…」
「心配するなって。心当たりあるって言ったろ。俺なら大丈夫だ」
「……分かった。あんたに任せる。その代わり、絶対見つけて来て」
「晃くん、くれぐれも、無茶はしないようにね」
「ああ、直ぐに見つけて戻ってくるさ。じゃあ行ってくる」
そう言い残して、俺は走り出す。
待ってろ仁美、直ぐに見つけてやるからな。
俺は一年D組のテントに来ている。恐らく仁美は、勝樹の所に来ていたと思ったからだ。
俺は近くにいた女子に声を掛ける。
「あ、ごめん。かつ…黒井呼んでもらえる?」
「え?く、黒井くんですか?ど、どういったご用件で」
「あ、いや、ちょっとな」
要件を言うのは憚られた。
「そ、そうですか。ちょ、ちょっとお、お待ちください」
何故俺はこんなにも怯えられているのだろうか。心当たりが全くない。
数刻後、勝樹がやって来た。
「よう、何の用だ?」
「仁美がどこにいるか知ってるか?」
「…仁美がどうかしたのか?」
「いや知らないならいい。変な事聞いたな」
「待て。詳しく聞かせろ」
「別に、対したことじゃねーよ。気にするな」
「お前がもし俺の立場だったら、ここで大人しく引き下がるか?」
俺は勝樹の気迫に根負けし、事の顛末を話す。
「なるほどな。昼休憩から見ていないと」
「あいつ、お前の所に行くとか言って走ってったんだ。俺が知ってるのはそこまで」
「あ?俺の所には来てないぞ」
「…………は?」
「となると、あいつはお前に嘘をついて、失踪したって事になるな」
「何だよそれ…。意味わかんねえ…」
「うだうだ考えてても仕方ねえ。探しに行くぞ」
「すまねえな。お前に迷惑かけて」
「お前が謝る事じゃねーよ。見つけたら、こっぴどく叱ってやろうぜ」
「…そうだな。さっさと見つけよう」
そうして、俺らは探しに出た。
グラウンド、各クラスのテント、保健室、校舎内。ありとあらゆる所を探したが一向に見つからない。
「どうだ?手掛かりは?」
「全くない。目撃情報もゼロだ」
「どこ行きやがったんだよ、あいつ…」
「もう一度、聞き込みしてくる。もしかしたら、見かけた奴もいるかもしれないしな」
そう言って、勝樹は走って行った。
『まもなく、応援合戦を行います。生徒の皆さんは、各クラスのテントに集合してください』
クソ…もう応援合戦が始まるのかよ。始まってしまったら、聞き込みが出来なくなってしまう。ますます捜索が難航する事になる。
「あれ?晃くんじゃん。なーにしてるの?応援合戦始まっちゃうよ」
ふと、とびきり明るい声で話し掛けられる。水無月先輩だ。
「いえ、ちょっと人探しを」
「人探し?誰を探してるの?」
俺は言うべきか迷う。この人に言う事が果たして、正しい選択なのか。いや、迷ってる場合じゃないな。今優先すべきは仁美の事だ。
「仁美、うちのクラスの新津を探しています」
「仁美ちゃん?ああ、あのポニテの可愛い子ね。見たよ」
「見たんですか!?いつ!?どこで!?」
「ちょ!晃くん、なんか怖いよ。どしたの?」
「すいません。少し事を急いてしまいました」
「いや、別にいいんだけどね。そんなに大事なんだ、仁美ちゃんの事」
「あたり、前ですよ…」
身内以外では、一番付き合いの長い奴だ。大事じゃない訳がない。
「それで、仁美はどこに!?」
「あ、それなんだけど、私は見たってだけで、どこにいるかは分からないんだ」
「それでもいいです。とにかく、何でもいいので情報を!」
「そうだね〜。昼休憩のはじめに、どこかに走って行くのを見たんだよね」
「そうですか。ありがとうございます」
つまり、俺と話した直後に失踪したと断定できるという事か。直接的な手掛かりにはならないが、ないよりは幾分マシだ。
俺は探しに行こうとすると、右手を掴まれる。
「話は最後まで聞いて。仁美ちゃんなんだけどね。泣いてたよ」
泣いてた?何故?益々疑問が深まる。
だが、仁美がどこにいるかは、分かった。仁美は確実にあそこにいる。
「どうやら何か分かったみたいだね」
「おかげ様で。ありがとうございます」
「ううん。全然。力になれたみたいで何よりだよ〜。それじゃね〜」
先輩は、手をひらひら振りながら去って行った。
俺には、何故仁美が泣いているかは分からない。
だがあいつは、中学時代、何かあると決まってある場所に行く。それはきっと、高校生になった今でも変わらない。
ならば俺はそこへ行こう。それが俺にできる、最後の事だ。




