彼女達の願い、そして俺の決意
それからというもの、驚くほど何もなく、体育祭前日になってしまった。今は放課後、図書室でだべっている。
「遂に明日…だね…」
「ああ…そうだな…」
水無月さんは、恐らく相当な自信があって勝負をふっかけてきたのだろう。話し合いの最中も、なにやら自分が勝つのは当たり前みたいな雰囲気を出していた。
だから俺達は、あの人に、あの人のクラスに勝つ為に、やれる事は全てやってきた。あとは明日、全てを出し切るだけだ。
「今更だけどさ、勝算はあるの?」
「そうだな…。相手の戦力が分からない以上適当な事は言えないが、うちのクラスが一位になれる可能性は十分あると思う」
うちのクラスは、男子は健を筆頭とした体育会系が多く、女子も、荒川や鈴井といった優秀な生徒が多い。この辺りは上級生と当たっても、十分張り合えるだろう。
「でもさ、香織さんがあんな勝負仕掛けてくるって事はさ、相当自信があるんじゃないの?」
「そうなんだよな…。あそこまで強気だと、余程いい戦力が集まってるって考えられる」
それこそ、可能性は薄いが、学年のスポーツ自慢が全員集まってるなんて事もあるかもしれない。だとしたら100%無理ですねはい。やっぱり是が非でも勝負を避けるべきだったかなぁ…
ん?待てよ?今この場に二年について知ってそうな人がいるじゃないか。
「天使さん、二年E組ってどんなクラスか分かります?」
「二年E組ですか?そうですね…」
俺が聞くと、天使さんは顎に手を当て考え始める。いちいちそういう仕草が反則だと思いますはい。
「香織ちゃんを筆頭に、運動が得意な女の子が多いイメージですね。男の子も柳澤くんがいるので、全体的に隙がない、という感じでしょうか」
「え?あの柳澤 亮平?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、サッカー部の新キャプテン。イケメンで優しくて、名前を聞かない日は基本無いね。学校で一番の人気者じゃない?」
へー、そんな人がいるのか。全く知らんかった。
「まあ有名っていう点では、あんたも負けてないけどね」
「あんまり嬉しくないなぁ…」
俺普通に生活してただけだよな?なんでこうなるの?あ、勝樹のせいか。殺す…
俺らが話していると、ドアが開く音がした。また来客か。面倒事じゃないといいが。
本棚の影から姿を現したのは、
「ほら、れいちゃん!早く!」
「ほのかさん、あんまり押さないで…」
荒川と鈴井だった。意外な面子だな。
「ほのと、れいじゃん。どうしたの?」
「実はね〜、めぐ。れいちゃんがどうしてもっていう相談があってね」
「あなたも同じ事を相談しに来たのでしょう?私だけのように言わないで」
どうやら二人はちゃんと相談があって来たようだ。しかし、内容が皆目見当もつかない。
「とりあえず、お話をお伺い致しますので、どうぞ座りください」
天使さんが促すと、二人は椅子に座る。
「それで、相談ってのはなんだ?」
「えっとね、明日の体育祭についてなんだけど…」
やはり体育祭か。まあここまでは予想の範囲内だ。
「私達、絶対勝ちたいの!」
「「…………え?」」
成瀬とまたハモってしまった。よく合いますよね、私達。
「理由を詳しく教えてもらえる?」
俺より一瞬早く我に帰った成瀬が、荒川に尋ねる。
「私ね、このクラスが大好きでね。めぐや仁美ちゃんやりんちゃんやさつきちゃん。それに、最近仲良くなった晃くんや灰田くん、そしてれいちゃん」
まさか俺の名前が出てくるとは。嬉しいもんだな…
「今までこんなにクラスが好きになった事なくて、それで、何か思い出に残る事をやりたいなって」
「それで、勝ちたいのか」
俺の問いに対し、荒川は無言で頷く。
「鈴井も、同じでいいのか?」
「ええ、理由は少し違うけど、相談内容は同じよ」
二人とも、相談内容は同じか…
しかし、俺には一つだけ、気になる事があった。
「でもなんで俺達だけに話すんだ?クラス全体に呼びかければいいじゃないか」
別に秘密裏に話す内容ではないはずだ。何故わざわざここで話す。
「私達ね、晃くんに期待してるの」
「俺に期待?」
「うん。晃くんならきっと、凄い事やってくれるんじゃないかなって」
「えらく抽象的だな」
「だから、あなたに相談しに来たのよ、晃くん」
えらく期待されてるな、俺。そこまで期待されるような事なんてないのに。
「なんでそんな俺に期待を?」
俺は二人に、そう問いかけた。
「私は…ほら、前に助けてもらったでしょ?その時みたいにさ、何とかしてくれるんじゃないかって…」
「私は、周りからマークされていないあなたがキーマンになると思っているわ。だから、あなたの力が必要なの」
根拠の薄い理由だ。それに俺には、一度逃げた過去がある。二人が思っているほどの奴じゃない。
だがこうやって、面と向かって、期待していると言われるのは初めてだ。だから俺は…
「お前ら、俺の事を買いかぶり過ぎだ」
「…そう…ごめんなさい。変に押し付けてしまって」
「だが、お前らの期待に添えるよう、全力でやらせてもらう」
「じゃ、じゃあ!」
「ああ、その相談引き受けた。絶対にお前らを、いや、俺達のクラスを勝たせてやる!」
俺が出せる全てをもって、一年B組を優勝に導いてやる!
「ふふっ。あんたらしくはないけどさ、カッコいいじゃん」
「何言ってんだ?俺はいつだってカッコいいんだぜ」
「何を言っているの?あなたの普段の魅力はその辺に生えている雑草以下でしょう?」
「気にも留められない存在以下とは…」
「まだ過大過ぎない?」
「これ以下だと俺の存在そのものが消えるぞ…」
というか、あなた達はそんな存在に頼ろうとしているのですが、そこん所はおけ?
「ふふっ。冗談よ」
「そんなに真に受けなくても大丈夫だから」
あなた達が言うと本当っぽいんだよなぁ…
「それじゃ、明日は頑張ろ!晃くん!」
「明日が楽しみね。頑張りましょう」
「ああ、そうだな。頑張ろうな」
「れい、ほの、応援してるから、頑張ってね」
そして、二人は図書室を後にした。
「大見得切ってたみたいだけど、大丈夫なの?」
成瀬が心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫、とは言い切れないが、安心してくれ。だから、お前もお前の種目頑張れよ」
「…うん」
胸を張って大丈夫だとは言えない。だが、期待されている以上は本気でやるだけだ。
大丈夫、俺なら出来る。いや、やるんだ…。彼女達、皆の想いに応える為に…
今度は、皆の笑顔を奪わないように。




