俺は近いうち死ぬんじゃないかとつくづく思う
モブかと思ってた二人もちょっとだけ、参戦します。まあ重要ポジではないので適当に可愛がってあげて下さい。
昼休み、俺は健と平沢と相坂と三人で、昼食をとっていた。健曰く、リレーで一致団結するのだから、普段から仲良くしようということで、最近はこの四人で食べている。
「しかっし、白峰があんな事するとはな」
「そうだな、一事はどうなるかと思ったが。あれも全部計算か?」
平沢と相坂が聞いてくる。
「まさか。とりま空気を変えなきゃなと思って、声を掛けただけだ。その後は成り行きでどうにかなるだろと思ってな」
「でもよ。あれだけの不穏な空気を一瞬で変えちまうなんて、お前、只者じゃないな?」
「買いかぶりすぎだ。実際、俺一人じゃどうしようもなかったしな」
成瀬と健がいたから出来たのであって、俺一人では何も出来なかっただろう。
「まあ、お前がそうやって謙遜するならそれでもいいが、少なくとも俺たちは、お前を評価する」
「最初は暗くて怖え奴だと思ってたが、話して見ると意外といい奴なんだな」
「…入学当初の事は忘れてくれ…」
黒歴史、とまではいかないが、あまりいい思い出ではないからなぁ。
「違うぞお前ら。あれは晃のツンデレで、あの時はツン期、今はデレ期なんだ」
「どこに俺のツンデレの需要があるんだって…」
「俺には需要あるぜ!」
「気持ち悪!近寄るな!俺はノンケだ!」
お前、俺の事好き過ぎでしょ。
「いや、需要なら他にもあるぞ」
平沢が不吉な事を言う。
「どこにあるんだよ…」
「ここだよここ。な?拓海?」
「俺は一度も要求した覚えは無いぞ…」
「相坂…まさかお前…晃に気が…?」
「実、灰田、表に出ろ。お前らに礼儀というものを叩き込んでやる」
「やっべ、拓海がキレた。逃げるぞ、灰田!」
「おう、こんなところで死にたく無いからな!」
そう言って、二人は教室を出て行った。なんだこれ…
「…ったく。面倒なのが増えてより面倒になりやがって」
「全くだ。馬鹿が揃うとろくな事がないな」
「お互い、苦労してるな」
「ところで相坂、二人きりだからって襲わないでくれよ」
「お前まで言うか…」
「冗談だ」
今では、二人とも仲良く話せるようになった。一学期と比べると、驚くべき進歩だなぁ…
「そういや相坂、桐島ってどんな奴か知ってるか?」
桐島 美沙、今朝リレーのメンバーに選ばれた女子の名前だ。
「桐島か…。同じテニス部だが、男子と女子が合同で練習する事なんてないからな。済まないが話した事は無い」
「そうか。悪いな、余計な事聞いて」
「此方こそ役に立てなくてすまん」
同じ部活でも交流は無いか…
「まあ、お前が気に病む事じゃない。バトンを受け取るのは俺だからな」
「そうだったな。まあ俺も、桐島が上手く馴染めるようにフォローしたかったからさ」
「ふっ…お人好しだな」
相坂はそう言って笑うが、嫌な感じはしなかった。なにこれ!友達っぽい!
それから俺と相坂は、昼休み中他愛の無い話をして過ごした。
健と平沢が帰ってきたのは、昼休みの終わり頃だったが、相坂は逃す事は無く、二人を授業開始ギリギリまで締めていた。怖えな…あいつ…
六時限目の体育、今週末に控えた体育祭の練習の時間。
「じゃあ俺たち三人はリレーの練習してるから、お前らは別の練習しといてくれるか?」
「そうね、他の競技もある事だし、リレーばかりやってる訳にはいかないものね」
二人の意見はもっともだ。問題は何を練習するかだが…
「じゃあ灰田くん、二人三脚の練習しない?」
「お、いいぜ。やるか!」
そう言って、二人は紐を取りに行った。この流れはまずいやつだ…
「じゃ、じゃあ俺は借り物競争の練習でもしようかな」
「運任せの競技に練習なんて必要ないでしょう。物事の優先順位も考えられないの?」
「じゃ、じゃあ、桐島のバトンタッチにアドバイスを…」
「安心しろ。俺達がちゃんと説明する」
「う、うん。さ、流石に三人は多いかな…」
桐島にも断られた…。これもう絶望しか無いよな…
「お、多くたっていいじゃないか!損する事なんてな」
「あなたの優先事項は二人三脚に決まっているでしょう?早く準備しなさい」
「ま、待ってくれ!俺には他にやりたい事が…」
「それとも、そんなに私との二人三脚が嫌なのかしら?」
「そ、そんな事ないです…」
「そう。ならいいわよね」
なんでもすると言ってしまった手前、拒否する事は許されていない。なんであんな事言ったかな俺…
別に鈴井との二人三脚が嫌な訳ではない。ただ、さっきから仁美と成瀬からの視線が怖い。そう、さっきから殺気が凄いのだ!(激ウマギャグ)…現実逃避しても仕方無いよな…
とにかく、俺はこの先生き延びるために、この二人三脚の練習をつつがなく終わらせなければならない。最近命の危機が多い気がする。
二人三脚用の紐を貰い、準備が整う。
「ちなみに、変な事をしたらどうなるか、分かってるわよね?」
「ど、どうなるんだ?」
一応、命の危険がありそうかどうかを確認する。
「切断するわ」
何を?とは聞けなかった。手だよな?悪くても足だろう。俺が最初に想像した場所だけは無いと信じてる。
お互いの足に紐を結び、鈴井と肩を組む。やべぇ!美女の肩を抱いちゃってるよ!嬉しい事のはずなのに恐怖でいっぱいなのは何故だろう!
「今変な事考えてない?」
「か、考えてない考えてない!」
純粋に美女との密着を楽しんでいただけだ。変な事など考えてはいない。
「そ、それより、掛け声はどうしようか」
「そうね。無難に、一、二、一、二、でいいんじゃないかしら」
「幼稚園児の行進みたいだな」
「幼稚園児並の頭のあなたにはちょうどいいんじゃない?」
「自分も言うってことを忘れるなよ」
「あなただけ言えば事足りるでしょう?」
「お互い同じ事を考えてたら成立しないって分かってる?」
マジでこいつと上手くいく気がしない。
「冗談は置いといて、別に掛け声なんて無くても大丈夫よ。私があなたに合わせるから」
「そんな簡単に出来るのか?」
「単細胞のあなたの思考を読む事くらい容易いわ」
「余計な事言わなきゃ、カッコいいんだけどなぁ…」
俺の周りに残念美人多くない?まともなの成瀬くらいだよ?天使さん?あのお方は天使なので別枠ですよ。
「…切断する?」
「やめてください死んでしまいます」
怖!思考だけじゃなくて心読めるのかよ。だとしたら俺の命は風前の灯火だな。
「まあいいわ。とりあえず練習しましょう。切断はその後考えましょう」
「それは事実上の死刑宣告では?」
切断が決定事項だったら、俺は練習を終わらせる訳にはいかなくなる。
終わらせなければ、『いつまでくっついてんのこの変態!』とか言われて成瀬に殴られ、終わらせれば切断が待っている。あ、死ぬしかないやん。
大体なんでこんな状況になってるんだ。大元はどこだ?俺が鈴井と二人三脚をやる事になったのは俺の土下座のせいで、その土下座は成瀬とのあれが拡散されたからで、そもそも成瀬とのあれが拡散されたのは、仁美と勝樹の件を手伝っていたからであって、手伝う事になったのは勝樹があんな相談をしたからだ。うん。全部勝樹のせいだな。俺が死んだらあいつを末代まで呪ってや
(ふーーーー)
「ほわああぁ!!!?」
耳に風が!何事!?
「私を無視するなんて失礼ね。教育が必要かしら?」
どうやら鈴井が俺の耳に息を吹きかけたみたいだ。心臓に悪いからやめてくれよ…
「すまん。少し考え事してた」
「この状況で私以外の事を考えるなんて。私以外の事を考えられないように教育する必要がありそうね」
「それは恐怖で支配するってことですか…?」
「さあ、どうでしょうね?」
「勘弁してください…」
なんか俺の寿命がマッハで削られている気がする…。
「それじゃあ早く練習をしましょう」
「もう…なんでもいいです…」
ようやく、二人三脚の練習が始まる。
「本当に、大丈夫なんだろうな?」
「ええ。あなたが余程悪いフォームで走らない限りは、問題ないと思うわ」
鈴井がそう言うならお言葉に甘えさせてもらおう。
俺は軽く走り始める。すると鈴井は、俺と寸分の狂いの無いタイミングで同じように走る。え?ちょっと異常なほど上手くない?
「お前…すげぇな…」
「単細胞の思考を読む事くらい容易いと言ったでしょう?あなたの事なんて何でもお見通しよ」
ん?今何でもって言ったな?
「じゃあ今俺が考えてる事分かるか?」
「『流石鈴井様!俺達に出来ない事を平然とやってのける!そこに痺れる!!憧れるぅ!!!一生奴隷としてこき使ってください!どこまでもついて行きます!』と、思っているわね」
「前半は大体合ってるが、後半は絶対ありえないな。俺に奴隷願望は無い」
「そうなの?一部の男はそう言ってきたのだけど」
「言われたことあるのかよ!」
「もちろん、丁重にお断りしたわ」
「そりゃそうだろな!俺だってそんな変態嫌だわ!」
というか、俺はその変態達と同レベルと思われていたのか…。めっちゃショックだわ…
それからしばらく、お互いのペースを確認するために練習する。
練習をしているとあっという間に授業終了時刻になってしまった。やべぇ…。殺られる…
「えっと…鈴井さん…」
「?なにかしら」
「あの…どうか寛大な処置を…」
「ああ、そのこと。そうね。今回だけは大目に見てあげようかしらね」
良かった…。死なずに済んだ…
「でも、今度は無いと思いなさい?」
「き、肝に銘じておきます」
死期が少し延びただけのような気がする…
まあ今考えても仕方ないな!今生きてるだけでも良しとしよう!
結んである紐を外し、二人三脚状態から解放される。自由って素敵!
俺が教室へ向かおうと歩き出すと、
「ねぇ晃。あたしさ、すっごい機嫌悪いんだけどさ。理由、分かるよね?」
後ろから凄く冷たい声をかけられた。どうやら俺に生き延びる道は残されていなかったようだ。
執筆してて一番楽しいのは、晃と鈴井との会話です。ついつい長くなり過ぎて短くする事もしばしば。いつか番外編で思いっきり書いてみようかしら。




