委員長は何を考えているかよく分からん
書き溜めてた分です。今回は委員長こと鈴井さんとの会話回です。進展は殆どないです。
九月二日、時刻は七時。普段なら家にいる時間なのだが、すでに学校に着いている。理由は単純、二人に二人きりで登校してもらうためだ。正直、こんな早く来る必要はないとは思うが。
二人にはまずは、俺抜きで登下校してもらう事から始めてもらう。二人にそれぞれ何時の電車の何号車に乗ればいいかと言う事を伝えている。ついでに俺について聞かれたら、先生に呼ばれてるらしいみたいな事で誤魔化せとも伝えた。
俺?もちろん一人で学校に来たさ。先生にも特に呼ばれていない。
別に一人が寂しい訳じゃない。実際二人が朝練の時は一人で登校する時だってあった。
ただ、いつもと違う時間、一人でいるというのに、少し思うところはある。
結局、昨日の仁美のあの言葉は、現実のものになっちまったな。実際はあと何回もじゃなくて一回もだが。
まあ深く考えても仕方ない。今は恋のキューピットとして、二人を全力で応援しよう。
俺は考えるのを一旦やめ、教室に入る。
朝早くの教室には、一番前の席で静かに本を読む委員長がいた。
委員長はこちらを一瞬見やると、すぐに本に目を落とした。
…一言も無しですかそうですか…
こちらも無視して、自分の席に向かおうとすると
「あなたは挨拶すらできない程語彙がないのかしら。猿の方がまだマシね」
なぜかいきなり罵倒の声を浴びせられた。
「挨拶というものは、そもそも顔を合わせてするものだ。俺としては、そちらに挨拶をする意思が見られなかったからしなかったのだが?」
「あなたと顔を合わせるなんて、想像しただけで気絶しそうになるわ。それに私は挨拶は顔を合わせる必要はないものと考えているわ。それなのに、そちらの一方的な意見を押し付けるなんて、あなたの良識を疑うわね」
なぜ挨拶ごときでここまで言われなきゃいかんのだ。まあ、これ以上反論してもいい事なさそうだし、おとなしく従うか。
「おはよう、委員長」
「おはようごさいます、でしょう?あなた、目上の人に敬語も使えないの?目上のものに敬意をはらうのは、野生動物でも知っている事よ」
さらっと俺を格下扱いしたのはスルーする。俺はヒエラルキー最下層に位置しているからな。
「…おはようございます、委員長」
「それと委員長というのはやめてくれないかしら。私はクラス委員というだけで、委員長という名前ではないのだけれど」
細けぇ…つーか名前で呼ぶと絶対、怖気が走るとか、死にたくなるとか言うくせに。
「じゃあなんて呼べばいいんだ?すずりんか?れいれいか?」
「あなた…普通に苗字で呼ぶ事すらできないの…?」
本気でドン引きされた。さすがに苗字で呼ぶのは許してくれるみたいだ。
「分かった。おはようございます、鈴井さん」
「おはようございます、白峰くん」
ようやく鈴井から解放され、席につく。やっぱり早くくるの辞めようかな。
「うぃーっす、って晃!?なんでこんな早くから来てんだ?」
軽い挨拶とともに入って来たのは、健だ。
「うぃーっす、まあいろいろあってこれから早くくる事になったんだ。」
「いろいろという言葉に失礼よ。土下座しなさい」
「俺がいろいろあっちゃダメなのか…」
「相変わらず委員長は厳しいなぁ」
「あなたたちがルーズ過ぎるだけよ」
今の会話にルーズな部分はないと思うんだが…
というより健の委員長呼びには無反応なのか、わからんやつだ。
「さて、じゃあ俺は朝練行ってくるぜ。晃、委員長と仲良くしろよ」
「俺が仲良くしようとしても鈴井の方がな…」
「お前、苗字で呼ぶとは…いつの間にそんな関係に…?」
「別にどんな関係でもねーよ。早く朝練行って来い」
「おうっ!」と言って健は教室を出て行った。
また二人きりか…空気が重いな…
とりあえず、こっちから話しかけてみるか。
「鈴井は、いつもこんな早く来ているのか?」
彼女はこちらを向くことはなく、背中越しで話し始めた。
「そうね、今日あなたが来る数分前には来ているわ」
質問には普通に答えてくれるようだ。
「大分早いな。いつからその時間に?」
「入学式の次の日からね」
「へー、どうしてだ?」
「人混みが好きじゃないのよ。」
「なるほどな、確かに朝の昇降口は人でごった返すしな」
こいつ、人混み苦手そうだしな。
「本はよく読むのか?」
「そうね、時間があるときは読んでいるわ。もちろん、たまには運動もするけれど」
完全インドアかと思ったら、意外な一面だ。
「どんな本を読むんだ?」
「特に決まってはいないわね。恋愛物やミステリーなど、基本なんでも読むわ」
「好きな本とかってのは」
「特にどの本が好きというのはないけれど、作家なら宮沢賢治が好きね」
「ああ、注文の多い料理店とか銀河鉄道の夜とかね。俺も小さい頃よく読んだよ。読みやすくてすごい面白かった」
「巧みな文構成で私をファンタジーの世界へ連れて行ってくれる。何度読んでも面白いと思わせてくれるわ」
本の話になるとずいぶんと饒舌になるんだな。
良かった〜、宮沢賢治読んでて。芥川龍之介とか夏目漱石とかだったら読んでなかったから危なかった。というより、何言ってるか分からなくて読めなかったんだが。
「こちらからも一つ聞いていいかしら」
まさか向こうから質問が来るとは。別に俺の事を嫌いというわけではないのか?
「まあ、こっちもいろいろ聞いたしな、いいよ」
「あなたは、私の事が好きなの?」
「………………は?」
「私に質問してくるって事は、私に興味があるということでしょう?」
「いやなんで『興味がある=好き』という結論に至るんだよ!頭お花畑か!」
「空っぽのあなたよりはマシよ。それよりどうなの?答えて」
なぜこいつは必要に回答を迫る。予想外の質問に考えがまとまらない。
まさかこいつ…!んなわけないな。昨日の今日で勘違いを起こすわけがない。
冷静に今後の対応を考えよう。ここは一つ揺さぶってみるか。
「もし俺が好きと言ったらどうする」
「さあ、どうするかしら」
全く効果がなかった!相変わらず俺に背を向けて話してるから表情は伺えないし。どうする?回答を間違えたら死ぬぞ。
「す、好きではないかな」
「そう、つまりあなたは殺したい程私を憎んでいると。」
「極端過ぎかよ!お前、修羅の国にでも住んでたのか!?それとも福岡!?」
「修羅の国に住んでてもその考えにはならないでしょう?あなたこそ発想が極端過ぎよ。単細胞は思考もお粗末なのね」
「なぜ俺が悪いみたいになっているんだ…俺、悪くないよな?」
「それで、あなたは私の事が嫌いということでいいのよね」
鈴井ってこんなめんどくさい女だったのか…こらからは接し方を考えなきゃな。って、そうじゃなかった。一応フォローしとくか。
「好きか嫌いかの二択だったら、好きかな」
「そう」
彼女が返事をしたところで、他の生徒が入ってきた。そこで、俺たちの会話は終了した。
大丈夫だよな?嘘は言ってないし。選択間違えててあとで殺されるとかないよな?
俺は持ってきたラノベを読もうと、鞄から出し、開くが、さっきの事をずっと考えてしまい、まったく集中できなかった。
「おっはよー!」
暫くして、教室が大分賑やかになってきた頃、仁美が勢いよく扉を開けて入ってきた。そして一直線にこちらに向かって来る。
「ありがとー!晃!おかげでいっぱい話せたよ!」
「おー、そいつはよかったな」
同時に携帯も鳴った。勝樹からのチャットのようだ。
『ありがとう!おかげで距離が縮まった気がする!』
どうやら向こうもご満足いただけたようだ。
『どういたしまして。喜んでもらえてなにより』
と、返信し、仁美の方に目を向けると、なにやら深妙な顔して前の方を見ていた。
「どうした?何見てんだ?」
「ん?いやね、玲華ちゃんなんか嬉しそうだな〜って」
「玲華ちゃん?ああ、鈴井の事か。俺にはいつも通りにしか見えないが?」
「なんとなく、そういう感じのオーラが出てるというかね。…それより鈴井って…?」
「ああそれか。本人がな、『私はクラス委員というだけで、委員長という名前ではないのだけれど』とか言ってきてな。苗字で呼ぶことになったんだ」
鈴井のモノマネをしてみたが死ぬほど似てなかった。本人に見られたら、声帯ごと喉を引きちぎられそうだ。
「へー、そうなんだ…」
え?スルーですか?おっかしいなぁ。隣では成瀬が机ごと俺から距離をおいてるから、聞こえてないはずないんだけどなぁ。
仁美はなぜか鈴井の方を見ながら考え事をしている。
「あの…仁美さん?」
「ふぇっ!?」
声をかけるとビクッとして慌て始めた。なにこのデジャヴ。
「な、なんでもない!別に晃と玲華ちゃんとの関係なんて全然興味ないし!むしろ超どうでもいいし!」
そもそも俺に興味を持つやつなんていないだろ。
でもまあ、俺がクラスで話す人が増えたことを、喜んでくれているのかもしれないな。いいやつだ。勝樹が羨ましいぜ。
「そ、それじゃ!私席に戻るから!じゃーね!」
「おう、じゃあな」
そう言って、仁美は自分の席に向かった。
朝から美女二人と会話できてラッキーな日だ。
「なにニヤニヤしてんの。キモ」
三人目の美女、成瀬からかけられた言葉によって、舞い上がっていた俺の心は、現実に引き摺り下ろされた。
無駄に長くなってしまった…
誤字脱字などがありましたら、お手数をおかけしますが、ご報告お願いいたします。