俺と成瀬は、確かに似ている……
今回で成瀬とのデート(?)は終わりになります。
此方の手違いで感想を一件削除してしまいました。感想を書いて頂いた方、本当に申し訳ありません。今後はこう言った事が無いよう、気を付けます。
後書きまで見ていただけると幸いです。
俺達は、観覧車のカップル用のシートに乗っている。係員さんは俺達を男女のカップルと見たのだろう、そこに押し込んできた。気遣いはわかるんだけど…ありがた迷惑なんだよなぁ…
座席は片側にしかなく、俺達は隣同士で座る事を余儀無くされる。
成瀬は窓に寄っかかって外を見ていた。沈みゆく夕日が、街を紅く染め上げていく。俺も成瀬も、その街並みに見入っていた。
「ねぇ、少し愚痴ってもいい?」
唐突に成瀬が口を開く。
「内容によるな。聞きたくない内容なら耳を塞ぐかもしれん」
「何それ最低」
言葉こそ荒いが、声は怒っていなかった。
「まあ、とりあえず話してみ」
俺がそう言うと、成瀬は話し始める。
「あたし、男子の事が苦手だった」
少し意外な内容に、俺は驚く。
「ちょっと嫌味に聞こえるかもしれないけどさ。あたし、中学の時男子に凄くモテてね。毎日いろんな人から話しかけられてた」
だろうな。成瀬はうちの学年でも、頭一つ抜けて美人だ。中学の時もその片鱗があったのは容易に想像できる。
「誰もあたしの内面を見てくれないし、見ようともしてくれない。皆あたしの外見だけ。それがいやになって、いつの間にか男子に冷たく当たるようになってた」
なるほど。成瀬の怖いという印象は、過去のトラウマが作り出したものだったのか。
「そんな態度をとってたら、男子はどんどんあたしの周りからいなくなっていった。もちろん、それでもついてくる男子はいたけど、やっぱりあたしの外見しか見てない人ばかり」
成瀬の周りにはそんな男しかいなかったのか。男性不信になるのも無理ないか。
「そんなあたしの態度を、他の女の子達は、お高くとまってるだの、勘違い女だの、色々言ってきてね。いじめ、とまではいかなかったけど、クラス…いや、学年で浮いちゃって…」
昔を思い出したのか、成瀬の目が赤くなり、涙を浮かべている。
「あたしってさ、あまり自分から声を掛けるタイプじゃないからさ。結局そのまま卒業まで引っ張られちゃって。このままじゃいけないと思って、高校ではイメチェン、いわゆる高校デビューってやつ?をやってみたの」
それでその金髪か。黒髪時代も見てみたいものだ。
「あたしの場合、元々目立つ方だったから、見た目とかあんまり変わらなかったかな。でもあたし自身明るくなれた気がする。そのおかげか、周りの女の子から沢山声を掛けてもらえたり、あたしから声も掛けれるようになった」
以前クラスで友達と話しているのを聞いたことがあったが、あれは元からじゃなくて、高校デビューからだったのか。
「でもさ、やっぱり男子への気持ちは変わらなかった。自分でも変わらなきゃいけないのは分かっているのに…」
一度植え付けれたトラウマはそう簡単には消えない。それは俺もよく分かってる。
「そんな時、黒井くんに出会った。誰にでも自然体で振舞って、こんな男子もいるんだって思わせてくれた。その時あたしは、王子様に会ったような、そんな感じがした」
流石勝樹だ。傷心の女の子を図らずも救ってしまう。男の中の男だ。
「でさ、気付いたら黒井くんを目で追いかけてた。そしたらさ、あんたが黒井くんとやたらよく一緒にいるって気付いてね」
中学の時からの親友だからな。あいつのクラスによく会いに行ってたのを見られていたのだろう。
「初めはあんたの事がほんとに嫌いだった。一学期の半ばぐらいの時かな。あたしはあんたが、他の人とと付き合うことで株を上げてる、意地汚い人だって、そう思ってた」
なるほど。そういう風に見られることもあるのか。
「でも違った。あんたは自分がいろんな人から嫌われてるのに、それを仁美にも、黒井くんにも、灰田くんにも、『気にしてない、大丈夫だ』って心配させないようにしてて、それで、あんたへの考え方が変わった」
成瀬は、思っていたより俺の事を見ていたようだ。
「三人の力を借りれば、今の状況を変える事も、それこそもっと友達を作る事も出来るのに、あんたはそれをしなかった。そこであたしは気付いた。あんたはあたしが思ってるよりずっと、いい人だって」
…………
「そして、男子にもいい人はちゃんといるって、そう気づかせてくれた」
…………
「実はあたしね、あんたを呼び出した時、内心凄く怖かった。あんたがいい人だって分かってるのに、何をされるか分からなかったから。それでも、確かめたかったから。あんたの本心を」
…………
「あんたが馬鹿みたいに真っ直ぐに話すからさ。緊張してたのが馬鹿らしくなって、それで思わす笑っちゃったんだよね」
あの時俺は、ただ本心を言っただけなんだけどな。
「それで、あたしの考えを変えてくれた二人に、お礼がしたいと思って。まあ勝手に恩を感じてるだけなんだけど。昼間、今日手伝おうと思ったのは気まぐれって言ったじゃん?あれ、実は嘘。あんたと仁美の話を聞いててさ、いい機会だって思った」
聞かれてたか…仁美、声デカイからな…
「まあ、あんまり手伝えなかったけどね。それでも、さっきの二人の幸せそうな顔を見て、なんかスッとした」
俺は二人を見てなんかムカついた。ほんと、リア充は死ね!
「もしかしたら心の何処かで、黒井くんのこと諦めてなかったのかもね。でももうそれもおしまい。全部忘れる。黒井くんの事も、あんたの事も」
「どういう事だ?」
「あたし、やっぱり男子が苦手。あんたや黒井くんみたいな人がいるって分かってても、やっぱり、態度は変えられないと思う」
成瀬にも、思うところはあるようだ。
「あんたと一日一緒にいてわかった。あんたと一緒にいると、あんたの優しさに甘えて沢山迷惑をかけると思う。あんたも嫌でしょ。あたしみたいな無愛想で冷たい女は。だからさ、あたしの事なんて忘れて…いいから…」
成瀬は俯いてしまった。成瀬自身、今何を思っているのか、俺には分からない。だから、俺にできる事は一つしかない。
「俺は、お前が無愛想で冷たい女だなんて思わない」
それは、俺の本音を伝える事だ。
「………え?」
「俺は、今日一日お前といて、お前のいろんな一面を見れた。魚が好きなとこ、美味しそうに食べるところ、心霊系が好きなとこ、意外とドSなとこ」
「ちょっと、ドSは余計」
「そして…良く笑うとこ」
成瀬はそれを聞いて、再び俯く。
「俺は思った。本当のお前は無邪気でよく笑う、とても明るい奴なんだって。だから、自分をあまり悪くいうんじゃねえ。それにお前、前に言ってたろ。『あんたが言われているのを見て、不快に思ったり、悲しく思ったりする人もいる』って。お前が自分を卑下する時も、それは当てはまるんじゃないか?」
「そ、そんな事…」
「少なくても俺はそうだ」
成瀬は黙ってしまった。
「今、俺はお前の話を聞いて、なんつーか…辛かった。お前が前に言ってた事の意味が今ようやく分かった」
成瀬は何も言わない。
「だからよ、自分を卑下する前に、人を見る目のない屑どもの事じゃなくて、お前を本当に正しくて見てくれるお前の友達の事を思い出せ。そしたら、楽になるんじゃないか?」
成瀬は何も言わない。
「それに、お前は俺を忘れても、俺は絶対にお前を忘れないぜ」
「…………え?」
成瀬は顔を上げ、こちらを見る。
俺は言葉を続ける。
「まだ朝のカフェラテの借り、返してもらってないからな」
俺がそう言うと、成瀬は目を丸くし、俯く。
「…ふふっ、ふふふふふふ…あはははははは!」
すると突然成瀬が笑い出した。え?そんな笑う?
「ほんと、あんた最高!いい事言ってんのに最後で台無し!あはははははは!」
「笑い過ぎだ!恥ずかしいだろ!」
「それにさ、自分を卑下するなって、それ、あんたが言う?」
「俺は他人に厳しく、自分に甘くをモットーにしてる」
「ほんと、あんたって馬鹿!あはははははは!」
馬鹿馬鹿言い過ぎだ!俺はそこまで馬鹿じゃない。
気がつくと、観覧車は下まで降りてきていた。係員さんがドアを開ける。
「っふう…ほんとにありがと、晃…あんたに会えて…ほんとに…良かった」
降り際に言った成瀬の言葉は、俺の中に深く残った。
成瀬、お前は一つだけ勘違いをしている。
俺は優しい人なんかじゃない。
人の気持ちを踏み躙る、最低最悪の屑野郎だ。
私の文章力と心理描写では、少し状況が分かりにくいと思いますので、此方で補足を。
ネタバレを含みますので、苦手な方は以下の『』の部分は読み飛ばしてください。
『成瀬は、自分の無愛想な態度が、晃の迷惑になっていると思っており、これ以上晃に迷惑を掛けない様に距離を置こうとしています。しかし、それは彼女の勘違いで、晃の言葉により、自分の変化にようやく気付きます。』
という感じをイメージして書いておりました。分かりにくくて申し訳ありません。
次回で第一章は終わりとなります。鈴井さんや天使さんなども登場しますので、お楽しみに。




