成瀬は、俺が思っているより、ずっと可愛いやつかもしれない
ずっと成瀬のターン
鈴井ファンの皆様。本当に申し訳ありません。もうしばらく、成瀬を書かせてください…
「成瀬、あの二人、もう入口に着いたみたいだぞ」
茶店で待つこと数十分、仁美から到着の連絡が来た。二人のツーショットの写真と一緒に…まあいいんだけどね…
「そ。じゃああたしたちも向かった方がいい?」
「そうだな、早めにあいつらを発見しておきたいしな。」
俺は伝票をとり、二人分の代金を支払う。
「あ…」
店を出て、早速向かおうとすると、成瀬に呼び止められる。
「ねぇ、さっきのお金、忘れないうちに返しておきたいんだけど」
俺が勝手に払ったんだから、大人しく奢られとけばいいのに。
「いいよ別に。健なんて普通に俺に奢らせてくるし」
あいつに奢ってばっかであいつから奢られた記憶がないな。まあ俺も福引のおこぼれとか貰ってるし人のこと言えないか。
「あんたに奢られるいわれないし。なんか後味悪いし」
律儀な奴だ。成瀬って絶対いいお嫁さんになるな。家事ができれば。決めつけは良くないな。もしかしたら家庭的かもしれんし。
「じゃあ今度何か奢ってくれ。それで、手打ちってことで」
一度奢ると決めたのに、金もらうのはカッコ悪いからな。
すると成瀬は顔を背けて俺の前に出る。
「そ。あんたがそう言うならそれでいい」
成瀬は顔を背けながら言う。もしかして照れてんのか?可愛いところもあるじゃん。
成瀬は、オーシャンパークに着くまで俺の一歩前を歩いていた。
数分後、俺達も入口に着く。平日だったにも関わらず多くの人が来ていた。これなら二人を尾行していても、人ごみで隠れられそうだ。
さてと、二人はどこかな〜。いたわ。勝樹デカイからすぐ分かったわ。マジで何を食ったら俺より二十センチ近くも高くなるんだろう。ほんと羨ましいわ。
成瀬はまだ見つかっていないようで、辺りを見回している。
「あそこだ、あそこの一際デカイ奴」
「あれね、ありがと」
俺たちは、入場待ちの行列の最後尾に並ぶ。
数分後、開園時間となり入園が始まる。人が多いので、見失うかもと思ったが。あのデカブツのおかげで大丈夫だった。なんかムカつく。
二人が最初に行くのは水族館だ。成瀬曰く、魚という共通の話題を作ることで、昼食の時の会話も盛り上がるだろうとのことだ。
二人は仲良く園内マップを見ていた。恐らく水族館の場所を確認しているのだろう。…ここから水族館まで複雑な道はないはずだが…遊びに行った時、やたら俺のちょい後ろ歩いてたが、あいつら方向音痴だったのか…
このままマップとにらめっこしてるだけじゃ、埒が明かないな。道を教えてやるか。ついでにアドバイスも言ってやろう。
「成瀬、道教えるついでに、アドバイス送ろうと思うんだが、いいアイディアあるか?」
成瀬は少し考えた後、あっ!と、短く言った。何か思いついたみたいだ。
「手を引いて行くのがいいんじゃない?あんたにやってたみたいなやつ」
「お、それいいアイディアだな。良くそんな急に思いつくな」
「別に、たまたまだし…」
成瀬は、そう言って照れ臭そうに顔を背ける。褒められ慣れていないんだろうか。
俺は仁美に、
『そこを真っ直ぐ行って突き当たり左、また真っ直ぐ行って突き当たり右、後は真っ直ぐ行けば水族館。勝樹の手を引いて連れて行け』
と送る。
数秒後、おっさんが親指を立ててるスタンプが送られて来る。可愛くねぇ…というかいつの間に見たんだ?全くわからんかったぞ…マジでスパイとしてJKを雇うことを推進したい。
すると早速、仁美がアクションを起こす。勝樹と少し話した後、手を掴んで引っ張って行った。行動力と実行力が高すぎるんだが…
おっと、冷静に解説してる場合じゃないな。あの二人を追いかけなくては。
「成瀬、走れるか?」
成瀬に尋ねると、成瀬は俺の方を見た後、ため息をついた後、小さく頷く。そんなに走るのが嫌なのか…
二人は無事水族館に着くことができた。これ、俺が居なかったらずっとあそこなんて説もあったかもな。いや流石にないか。
二人は意気揚々と入って行く。俺達もそれに続き入る。
中は完全別世界だった。多種多様な生き物が、それぞれの水槽を泳ぎ回り、それが幻想的な雰囲気を醸し出していた。相変わらず凄いな…
二人の様子を見ると、色々な水槽を見ては、仲良く話している。心なしかさっきよりも二人の距離が近い気がする。
ちなみに成瀬はというと、
「あ、コブダイだ、ふふっ、ほんとブサイク。あ、このカワハギ、少しあんたに似てんじゃない?」
かなり楽しんでいた。いやまあ、目的忘れてなきゃいいんだけどね…
「猿は言われたことあるが魚類は初めてだ」
俺はそこまで目が離れてもおちょぼ口でもない。
「ふふっ、冗談」
そう言って無邪気な笑みを浮かべる。超可愛い。
というか成瀬の奴、かなり上機嫌だな。あまり動物とか好きそうな感じではないんだが、意外だ。
「ほら、何ぼーっとしてんの、二人とも行っちゃうよ」
成瀬に言われて俺は、はっとする。いかんいかん、成瀬に見惚れてる場合じゃないな。俺が目的を見失ってどうする。
「悪い悪い、ちょっとあそこのヒラメになりきってた」
「何それ、変なの。ていうかあれカレイだし」
詳し過ぎんだろ。魚ガチ勢か?
辺りを見回すと、二人は大分遠くの方まで行ってしまっていた。危うく見失うところだった。
俺は慌てて二人を追いかける。すると、左手に少し引っ張られるような感覚を覚える。見ると成瀬が手を掴んでいた。
「はぐれるとめんどくさいし、作戦どころじゃなくなるでしょ」
「あ、ああ、そうだな」
平然と言う成瀬に対し、俺はかなり緊張していた。女子と手を繋ぐ機会なんて滅多にあるもんじゃないし、しょうがないよね!手汗とかかいてないかしら…
成瀬の手を引き、改めて二人を追いかける。
ん?まてよ?つかえるなこれ。
俺はスマホを取り出し仁美に、
『はぐれちゃいけないからとか言って、手を繋げ』
と送る。
直ぐに、おっさんが両手で丸を作ってるスタンプが送られて来た。だから可愛くねぇっての。
成瀬この事を伝えるために、俺の手を掴んだのだろう。ほんと、成瀬のおかげで大助かりだ。
「ありがとな」
俺は成瀬にお礼をいう。その言葉の意味が伝わったのだろうか、成瀬ははずかしそうに顔を逸らす。
「別に…そんなんじゃないし…」
成瀬らしい照れ隠しだ。今日はほんと可愛いなこいつ。いつもこんな感じならいいのに。
二人を見ると、いつの間にか手を繋いでいた。相変わらず行動が早い…
突然、左手が引かれる。
「ちょっとこっち来て」
成瀬はそう言い、俺を引っ張る。そして、そばにあった水槽の影に隠れる。
「どうしたんだ、突然」
俺は状況が全く理解出来なかった。
「あそこ見える?」
成瀬はとある場所を指差す。そこには男女のカップルらしき二人がいた。とりま爆発しろ。
「あれが、どうしたんだ?」
「多分同じ学年の人。見られたら説明面倒でしょ」
「なるほど、そういう事か」
最悪バレても説明は出来るが、見られなければ妙な確執を残さずに済むしな。
というか、さっきから顔が近い。それに肩が密着してるから色々とヤバイ。心音聞こえてないよね?
俺達は例の二人が見えなったところで、水槽の影から出る。見つからずに済んだみたいだ。
しかし、仁美たちからしばらく目を離していたので、案の定見失ってしまった。
「さて、これからどうするか」
「とりあえず、周りながら探すしかないんじゃない?」
魚見たいのね…まあ見失っちゃったしいいんだけどね…
「そうだな、どうせアドバイスとかも出来ないしな」
せっかくだし、少しくらいは俺も水族館を楽しもう。
「俺さ、タカアシガニ見てると、あの芸人を思い出すんだよね」
「やめて…ほんとに…ふふっ…そうとしか…見えなくなって来た…」
「ベルーガって頭のところ脂肪で凄く柔らかいんだけど、あんたの頭はどう?」
「柔らかかったらまずいだろ…」
「ネコザメってどこにネコ要素があるのかわからないのよね」
「手触りが猫の舌と似てるからじゃね?」
「それただの鮫肌だし」
「マンボウって水槽の壁にぶつかっただけで死ぬらしいぞ」
「それを聞いて女の子が喜ぶと思う?」
「女の子には言わないな」
「ほんと、あんたの中であたしはどうなってるの…」
「クラゲって幻想的で綺麗」
「それはクラゲを綺麗って言ってる私綺麗アピールか?」
「…なんかいった…?」
「く、クラゲって食えるらしいぜ」
「話変えるの下手過ぎ。とりあえず後で一発殴らせて」
「イワシの大群は可愛くないのか?」
「流石にちょっと気持ち悪い…」
「クラゲもたいして変わらんだろ…」
あれ?思ってたよりずっと楽しい。というか途中、完全に当初の目的忘れてたわ。
気がつくと二時間以上経っていた。俺らなんのためにいるんだっけ?
水族館も終盤に差し掛かってきたところで、ようやく二人を発見した。
すると、たまたま此方に視線を向けた仁美と目が合う。仁美は俺達を見るなり、とても驚いた顔をして、すぐに目を逸らす。
「仁美の奴、なんであんなに驚いてたんだ?」
「多分これでしょ」
成瀬はそう言うと、左手に振動が来る。そういや俺らずっと手を繋ぎっぱなしだったな。自然過ぎてすっかり忘れてたわ。
再び意識し始めると、また恥ずかしくなってきた。でも離すと不自然だし…手汗かかないことを祈ろう。
それからは、特に何も起こらなかった。二人は普通に水族館を楽しんでいたし、俺達も二人の様子を見つつ、楽しんだ。やっぱり俺達いらないよな…
水族館を一通り見終え、時刻は十一時四十分。少し早いが昼食にするのがいいだろう。
仁美に、
『昼食にしよう。レストランの場所はわかるよな?』
と送る。すぐにおっさんが親指を立ててるスタンプが送られて来る。好きだなそれ…
二人がレストランに入って行くのを見届けた後、俺達は別のレストランに向かう。同じ店だと見つかる可能性が高いからな。
移動しようとしたところで、俺は成瀬とまだ手を繋いだままだということを思い出す。なんで忘れてんだよ俺…
「えっと、成瀬、手…」
「あ…」
俺が言うと成瀬も気付き、お互いさっと手を離す。なんだこれ、超恥ずかしい。
俺達はレストランに着くまで言葉を交わすことはなかった。
レストランで二人用のテーブル席に向かい合って座る。
メニューを取り、お互いオーダーを決める。俺はシーフードドリア、成瀬はボンゴレパスタを注文した。今は料理が運ばれて来るのを待っている。
「はぁ…あたし達、何も役に立ってない気がする」
唐突に成瀬が言う。
「ま、まあ、本人達が楽しんでるしいいじゃないか」
「それは…そうだけど…」
俺達が必要かどうかは置いといて、二人のデートは順調だろう。
だが、俺はずっと、気がかりだった事があった。
「なあ成瀬、お前、本当になんで手伝ってくれてんだ?お前、勝樹の事、好きだっただろ?」
以前成瀬は、俺に余計な事はするなと言ってきた。にも関わらず、今はその時と逆の行動をしている。俺はそれがずっと気になっていた。
「まあ確かに少し前はそうだったかもね。でもさ。二人ってほんとお似合いじゃん?それに好き同士なんでしょ?そう考えると冷めちゃってさ…あ、あと、手伝おうと思ったのはほんとに気まぐれ。さっさとくっつけとか思ったのかもね」
なるほど。好きってのは理屈じゃ無いってのは聞いた事があるが、まさにその典型みたいなもんか。
「それとさ、私ももう一つ、聞きたい事があるんだけど」
「ん?何だ?」
今日はやけに成瀬から質問が多いな。ちょっと前までは、俺に一切興味ないって感じだったのに。
成瀬は少し溜めたあと、口を開く。
「あんたってさ、仁美の事、実際どう思ってんの?」
第一章も佳境に差し掛かってまいりました。成瀬を書いているうちに、だんだん好きになってきて、今では一番好きなキャラになりつつあります。一応、結末自体は大体決まっているので、私の気まぐれで物語が変わる事はありませんのでご安心下さい。




