セルビィ、詐欺に遭うってよ
「凄く弱くなってるーーーー!!!」
色々と突っ込みたいが、そんな事をする気力が起こらない。
まず、魔力欠乏症にかかっているのが特に不味い。何が不味いかというとこのままでは死んでしまう可能性があるからだ。
そもそも魔力欠乏症になるのが珍しい。魔力欠乏症とは何だ?となるかも知れないが簡単に言うと、限界を超えて魔力行使をしたことに依って魔力がマイナス値になる事である。
魔力がマイナス値になると初期症状として激しい頭痛と、吐気。それが終わればしばらくの間は少しの倦怠感から始まり、少しずつ倦怠感が強くなり体が動くなる。最後は呼吸困難になり、ジ・エンドである。
セルビィの今の状態は初期症状が終わり、次のスッテプである倦怠感に襲われていた。まだ動ける気がするが、このままいけばいずれ動けなくなるだろう。
(状況がすごく悪い、早く町に着かなかったらやばいかも)
セルビィは焦燥感に心が駆られていた。
セルビィが焦っているのには理由がある。
この魔力欠乏症には自然治癒という手段が確実に取れない。
魔力には身体を整える機能が携わっており、身体調整に使われない余剰魔力量がステータスに表示されている魔力の数値になってくるのだ。
身体の調整に使っている魔力まで使ってしまった結果が、魔力欠乏状態である。身体の調整に使う魔力が無くなってしまった場合、魔力をする能力が低下してしまい魔力がしなくなってしまう。
そのため通常の治療方法は外から魔力を供給し、魔力をさせるのである。その治療には魔力をさせる魔力ポーションを使う。
しかしセルビィは何も持たずに地上に落とされたため、魔力ポーションは持っていない。そうなると必然的に町に行って魔力ポーションを買わなければならない。
セルビィは倦怠感に襲われながらも町に向かってふらついた足取りで向かうのだった。
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歩き始めて二〇分が経った頃、森の出口が見えてくる。
森を抜けセルビィは目の前に広がっている光景に安打感を覚えていた。
目の前には、高さ六メートルぐらいの城壁が広がっており、セルヴィのちょうど真ん前には城門が見える。
「ーーやっと着いた……」
セルヴィは城門に向かって歩み始める。
隠蔽の解除を忘れてはいけない。透明なまま町の中に入るのは完全に不法侵入だ。
隠蔽の効果が切れ、元の姿に戻るが、髪の毛が白髪になっているのに気がついても銀髪に色を変える気力も無い。
早く町に辿り着きたい。
その気持ち一身で歩み続けて、門番の所まで辿り着く。どうやったら町に入れるのかと聞くと、銅貨三枚を払えば入れると言われた。
「何?金を持っていない?とっとと帰れ!無一文が町に入れると思っているのか。本当に最近の若者は勘違いがは過ぎる」
そんな事を言われ追い出された。
ーー泣いてもいいかな?
割と真面目に泣きそうになっていたセルヴィだが、別の方法で入る事を決意する。
その方法で簡単に町に入れた、さらに無料で。
えっ?どうやって入ったか?そんなの簡単、隠蔽で透明になって入ったんだよ。
えっ?それって犯罪?世の中にはこんな言葉があるじゃないか、バレなければ犯罪じゃない!だから僕は犯罪者じゃ無いよ。本当、犯罪者じゃ無いから。
くだらない事を考えながら自分の精神を安定させる。思っていたよりも、初犯は精神的にきつかったらしい。
町の中に入ってしばらくブラブラしながら目的の場所を探す。
セルヴィは目的の場所を見つけるために歩いているが、その分体調の悪化が激しい。このままでは一時間も持たないかもしれない、そんな事を思った時にようやく目的の場所に辿り着いた。
『テリトリアポーション店』
そう看板に書かれている店はいかにも薬屋みたいな外見をしていた。セルビィはその中に足を踏み入れる。
中には看板娘であろうか、はたから見ても可愛い容姿をした美女さんが立っていた。
「いらっしゃいませ~、今日はどういったご用件で?」
「すいません!魔力ポーションを譲ってくれませんか」
セルビィは必死になって頭を下げる。当たり前だが命がかかったらなりふりをかまわないのが生き物である。
「魔力ポーションですね。おひとつで3ゴールドになります。」
「すいません、お金は今持ち合わせていなくて……絶対にお金は返しますから!僕にそのポーションを譲ってくれませんか」
セルビィの必死な訴えに看板娘さんは微笑み、譲ってくれるんだと思ったセルビィは魔力ポーションに手を伸ばすと、思いっ切りセルビィは蹴られる。
そして看板娘さんの表情はみるみる鬼の顔の様に険しくなっていく。
「無一文に売る商品は、このテリトリアノの町にはねえ!クソ、ただでさえ店の経営が厳しいってのによ」
最後のほうはよく聞き取れなかったが、魔力ポーションが手に入らないという事実は最初の言葉だけで十分だった。
「アアァ!客じゃねーのはとっとと失せな!」
そのままセルビィは体を掴まれ店の外に放り出される。そのまま店の扉はバタン!と閉められてしまう。
セルビィしばらく放心していた。
最後の頼みの綱が切られたら誰だってそうなる。だからこそ、だからこそ、叫ばずには、恨まずにはいられなかった。
「クソがーー!!お前!覚えておけよ。絶対に、ゼッタイに!このことを後悔させてやる!!」
分かっている、これがただの逆恨みであるという事は分かっている。何も持たない自分が悪いことも。この状況に陥ったことは自業自得だという事も。
それでも恨まずにはいられなかった。
僕は、いや「俺は」ふらついた足取りで歩む。
ーーーー死にたくないから
ーーーーあの人の期待にこたえたいから
ーーーーまだあきらめたく無いから
だから、セルビィは歩き続ける。
体に鉛が入ったかのように重くなり、思うように動けなくなっていても。
それでも、セルビィは歩き続けた。
ーーーーーどれくらい経っただろうか一時間、一日いやそれ以上かもしれない。
暗い路地の中、セルビィは一人
セルビィの体はほとんど動かなくなっていた。呼吸もままならなくなり、意識が朦朧とし始めたその時、『カラン』というガラスを地面に置いたような音がした。
セルビィは重い瞼を開けそれを見る。
それは、それこそがセルビィが探し求めていた魔力ポーション。震える手でポーションが入った小瓶を手に取り蓋を開ける。
そして一滴一滴が極上の飲み物であるかのように、味わって飲んでいくセルビィ。少しづつだが、身体の調子も戻り始めた。
そのことに安堵したのか、ひどい睡魔に襲われもう一度意識を手放してしまう。だがその表情はとても安堵していた。
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「ふああ……ここは?……そうだ!僕はあの時ポーションを飲んで……?」
記憶が曖昧だが魔力ポーションを飲んだのは覚えていた。しかしそこで疑問が生じる。
誰が魔力ポーションを譲ってくれたかだ。誰かが見えたかもしれないが、そこのところが曖昧である。
(ん、何だこれ?)
セルビィの足元には一つの封筒が置いてあった。何気なしにその封筒を開封する。
刹那、封筒の中から直径一メートルぐらいの魔法陣が発生する。その魔法陣は回転し始めたかと思うと、セルビィに向かって飛んでくる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
セルビィの叫びも空しく魔法陣はセルビィを貫く、という事はなくそのまま体の中に吸い込まれていく。
(何だったんだ?)
体には目立った外傷はなく、具合が悪いというわけでもない。
「ステータスオープン」
念のためにステータスを開くが、その内容に驚愕の表情を隠せていなかった。なにせーーーー
種族:人間
名前:セルビィ
称号:・一般ピーポー・借金ピーポー
状態:借金契約(金貨一〇〇枚)
Lv:1
体力:13/13
魔力:5/15
筋力:4
魔攻:9
俊敏:4
防御:33
スキル:・天霊光臨・隠蔽・究明眼・頑丈・精神耐性(Ⅾ)
スキル:・精神耐性(Ⅾ)…常人よりも苦痛に耐えることができる。世間一帯からはマゾともいわれる。
ーーーー金貨一〇〇枚という大金を借金していたのだから。
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