セルビィ、地上に降り立つってよ
「とうとうこの時だな」
「そうですね、ウェターマン様」
地上に降り立つ事になり、いよいよその準備も大詰めに差し掛かっていた。
「後はお前にスキルを付与して、それから天使の力を無くせばいよいよ地上に降り立つ事になる。準備はできているかセルヴィ?」
「勿論ですよ」
「そうか…なら始めようか」
ウェターマンは準備に取り掛かる。そうすると、その手から黒い、光の玉が発生する。
「これは掠奪の光、この光に触れたら最後、俺が欲しいと思ったものは何にでも手に入れられる。この力を使いお前の天使の力を奪うってわけだ」
「天使の力を奪われたら、僕はどうなるんですか?」
「多少体が丈夫な人間に成り下がる事になるだろうな」
その説明にセルヴィは固唾を呑む。それも仕方がないだろう。
天使の力を奪われるという話は、一〇〇年に一回出るかどうかの確率だ。その一〇〇年に一回の確率をセルヴィが引いてしまったのだから。
「よし、じゃあやるぞ」
その掛け声とともに掠奪の光が二つ、三つと増えていく。
増えていく光はやがてセルビィの周りを囲い始め、大きく光り輝くと収束し大きな一つの光へと変貌していた。
「成功したみたいだな」
「実感が湧かないんですけど」
「まあ、そうだろうな。ほれ、自分の姿を見てみろ」
ウェターマンは懐から手鏡を取り出し、セルビィに差し出す。手鏡を手に取り自分の姿を確認すると、驚愕の色で顔が染まる。
「なっ!?髪の毛の色が変わってる!」
元々銀髪だったセルビィの髪の毛は、銀色特有の光沢もなくなり何色にも染まらない白となっていた。
元々天使の髪は銀髪が多く、天使の象徴とも言える存在であった。セルビィも勿論のこと銀髪であり、密かに誇りにも思っていた。
そんな彼が髪の毛の色が変わっているのに気が付いたらどうなるだろう。答えは簡単、
「う、嘘だろーー!!僕の髪がーーーーー!!」
発狂します。
「いい年こいて騒ぐな」
そして拳骨が落とされます。
「こんな事が起こって騒がないわけないじゃないですか!」
「お前隠蔽のスキルを選んだんだろ。それで髪の色を変えればいいだろう」
「あっ……」
「お前はそんな事も考えられない馬鹿なのか?」
「ぐうの音も出ません」
セルビィの態度にやや呆れつつもウェターマンの手に三つの光が現れる。さっきまでの掠奪の光とは違いその光は輝しく光っていた。
「これは恵の光。さっきとは真逆で他人に力を与えることができる。これを使い特殊スキルをお前に付与する」
三つの光が輝き始め、セルビィの体へ入っていく。
「これでスキルのほうも無事完了と」
一仕事終えたかのように息をついたかと思うと、パチン!という甲高い音を指で鳴らす。そうするとセルビィの足元に穴ができる。
「え?」
「まあ、頑張ってこい」
「エェええええ!!」
いきなり地面に穴が空いたことにより、重力にしたがいセルビィはそのまま落ちていく。最後に見た光景は、ウェターマンがグットラックと言わんばかりに親指を上げサムズアップしている姿だった。
(やっぱりあの人は、いつまでたってもあの人だった!!)
その心の叫びが聞こえたのかウェターマンがニヤリと笑ったのだが、それを知るよしもなかった。
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暗闇の中をただただ落ち続けてどれぐらい経っただろうか、そんな事を考えていると一瞬にして目の前が青色に染まり何事かと驚く。そして気づくーー
「ここ地上じゃなくて空じゃね」
気づいたところで自由落下しているという結果が変わるわけではない。しかしこのまま落下して地上に衝突しても無事でいられるわけでもない。
(どうする!?このままだったら地上に衝突して天界行きだぞ……うん?元が天使だから死んだら天界にいけるんだろうか。このまま天界に行っても天使に戻れる予感がしない!!くそ!背に腹は変えられないか、いきなり使いたくなかったんだけどなーーーー)
「天霊光臨、発動」
刹那、光り輝く柱がセルビィを包み込む。
光は徐々に収縮していくと一人の男がその場に浮いていた。その姿は銀に光る輝く髪を持ち、一対の羽を背中からはやす伝説の存在ーー
天使。
セルビィは知る由がない、この場で天使の姿をさらけ出したことにより多少なりとも世界に影響をもたらすことを。
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ーーーーとある王国にある神殿では
「なんだ、あの光は!?」
「わ、わかりません!私にはいったい何が起こっているのか……」
「皆様、落ち着いてください」
「せ、聖女様」
聖女、そう言われる女性が言葉を放つことで神殿の中が「シン」と静かになる。
「あれこそ、天からの使者である天使の光そのもの。いよいよ我々の悲願が達成される時がやってきたのです。皆様、天からの使者を遣わしてくださりましたスウマ様に祈りを」
聖職者たちは手を組み始め、祈りを捧げる。
ーーーー光の柱発生に一番近い街では
「親方!天から光が!!」
「なんだと?ってなんじゃありゃ―!!」
あまりも現実離れした光景に口が塞がらない、工事現場のおっさんたち。口を開けたまま呆然と眺めていると光が収まっていく。そして、光が収まった後の光景にも口が塞がらない。
「お、親方!空から天使が!」
「これは、領主様に伝えねーと」
親方はあまりにも現実離れした光景を伝えなければならないという義務感で心が満たされていた。
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セルビィは自身が天使になったことにより、世界に影響を与えてることを知らずに悠々と滑空していた。
「そろそろ地上に降りるか」
滑空していた状態から翼を羽ばたかせ、地上に降り立つ。
「ここが、神々のオーチャードの世界」
オーチャードの世界、それは剣と魔法が発達したファンタジーの世界。レベルとスキルがあり、いうなればRPGににたシステムを採用している。魔獣がはびこっており、人類は命を懸けて日々戦っている。
そんな世界にたどり着いて最初にやることはテンプレで決まっている!!さあ!今こそステータスを表示するんだ!
「ーー無事にたどり着いたけど何をすればいいんだろ?」
……しばらくはステータスのお世話にはならなそうなセルビィであった。
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