セルビィ、特殊スキルもらうってよ
特殊スキル・神具開発部、それは異世界転移させる日本人に与える特殊スキルや神具を日々開発し続けることを仕事としている。そこにセルビィは訪れていた。地上に降り立つのに特殊スキル無いのはきついだろう、というウェターマンの配慮により特殊スキルを授かることになったのだが、
「セルビィちゃん行かないで~。お姉さんを一人にしないで」
ある一人の天使が羽交い締めして特殊スキルの選別がなかなか進んでいなかった。締め上げる力が強いのか、さっきからセルビィの体からビキビキと鳴ってはいけない音がしていた。
「キャロルさん離してくださいよ!ていうか、イタイイタイ!」
「いやよ!この手を離したらセルビィちゃんが行ってしまうんだから!」
「キャロル、いい加減にしろ」
羽交い締めされるセルビィに救いの女神が現れた。女神はキャロルの頭にげんこつを落とし、セルビィを開放させる。
「痛~い!げんこつはひどくないですか、マティ様!」
「セルビィを羽交い締めにしているキャロルが悪い」
マティ様と言われた女性はセルビィに振り返り微笑む。
「久しぶりだな、セルビィ」
「こちらこそ久しぶりですマティ様」
女神マティ、それは至高神スウマによって作り出された偉大なる14柱の一人。創造を司る神である彼女は、特殊スキル・神具開発部部長を勤めている。
「それで、今日はどういった用件で来たんだ?」
「はい、事の発端はーー」
セルビィは伝えていく。今回の邪神は17人の日本人を送り込んでも上手くいかなかった事。そして、自身が地上に降り立つという事。
「--というわけなんですよ」
「なるほどな、事の重大性はよくわかった。」
それで、とマティは声色を改めて言う。
「どんなスキルが欲しい」
「一つはもう決まっています」
「ほう、どんな特殊スキルだ?」
これですと言い、もともと持ってきていた資料を提示する。その資料を受け取るとその内容に目を疑った。
スキル:天霊光臨…その身に天使の力を宿す。一日に10分まで使用可能。
「この特殊スキルでいいんだな?」
「問題ありません」
「そうか……準備しよう。それで後二つ、どんな特殊スキルが欲しい?」
「そちらも既に決まっています」
通常は異世界に日本人を召喚する際に、三つまでの特殊スキル又は一つの神具を与えることになっている。
異世界に降り立った日本人が、何の力を持たなかったらどうなるだろう?答えは簡単、すぐに死ぬだ。現代を生きる日本人は戦う事を忘れた、いわば養殖育ちだ。戦い方を知らない人間がいきなり戦場に放り出されても戦えるわけがない。
その為、救済策として特殊スキルを三つ又は神具一つを与える事になっている。
「残り二つのスキルの内一つは隠蔽スキル、そしてもう一つが究明眼スキルでお願いします」
「ほう、変わったスキルを選ぶな」
「そういう方が自分に合っていますから」
スキル:隠蔽…自身のステータス表示、外見、声調を自由に操作できる。
スキル:究明眼…あらゆる概念の真髄を見極める事ができる魔眼。
「明日に地上へ降り立つのでその際にスキル付与はお願いします」
「わかった、明日までに間に合うように急ピッチで作業に取り掛かろう」
「ありがとうございます。それではまた明日」
セルビィがその場から立去ろうとすると、待ってとキャロルが制止した。
「セルビィちゃんやっぱりこの部署に戻ってくる気がないの?」
「キャロルさん…」
セルビィはキャロルの真剣な眼差しに口ごもってしまう。元々セルビィは
「セルビィちゃんがわざわざ地上に降りる必要なんて無いはずだよ!それにあの事をまだ尾に引いているのなら私が何とかするから!」
「キャロルさん!」
キャロルはセルビィの力強い声にたじろいでしまう。元々セルビィは特殊スキル・神具開発部の人間だった。だが、とある事情でウェターマンの目に留まり対邪神部に配属することになったのだが。
「あの事はもう大丈夫、大丈夫ですからそんなに心配しないでください。僕は今の部署が気に入ってますし、ウェターマン様には好くしてもらってますから」
「でも!」
「安心してください、僕は絶対にここに戻ってきますから」
「それなら約束してくれる?」
「ええ、約束です」
そして互いに指切りをする。
それはとても固く、互いの安全を祈るように。
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セルビィとキャロルが互いに指切りをしている姿をマティは眺めていた。
しかし、その眼差しには憤慨の一色しか染まっていなかった。
(ウェターマンとスウマ様は何を考えている!なぜよりにもよってセルビィを地上に降ろす。このままではあの男の二の舞ではないか!)
マティはある一人の男を思い出していた。
真面目で仕事熱心、セルビィとも似たような性格をしていたあの男
そして決してもう会えないあの男
(このままではあの男と同じ運命を辿ってしまう。それだけは何としてでも阻止をしなければ)
マティは微笑ましいあの二人を見て、固い覚悟を決めるんだった。
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「それで、どういう了見だマティ?」
「どういう了見もクソも無いだろう、ウェターマン!」
セルビィと別れた後、すぐにマティはウェターマンの下に詰め寄った。理由は言わずもがなセルビィを地上に降ろす件について聞くためだった。
「そう怒るなよ、マティ」
「これが怒っていられるか!このままではあの男の二の舞になるのだぞ、お前はそんなこともわからないのか!」
「そんなに俺にたいして怒りを当てられても困るんだが。そもそもこの決定はスウマ様のものだし」
「そんなはずなかろう!スウマ様がこのような手に出るとは思えん。まさかお前の独断…いや、待てよ。」
普段とは違う至高神スウマの行動に疑問を隠せないマティは一つの結果に導く。
「お前、まさか!?スウマ様に対し、てーー」
途端に力が入らなくなり、意識が朦朧とする中見えるのはニヤリと笑うウェターマンともう一人の人影。とぎれとぎれの意識の中、心の中で祈る。
(こ、の、ままでは、セルビィが、危ない!何としてでも、伝え、なければ)
最後の力を振り絞り、何とかセルビィに危機を伝えようとするマティ。しかし、とうとう意識が途切れてしまう。
その姿を眺めるのは二人の人物。
一人はウェターマン、そしてもう一人は深くフードをかぶり顔が見えない。
「ま、安心しな。セルビィには悪いようにはしないからよ。これでも大事な部下なんだぜ」
ウェターマンが意識を飛ばしているマティに対して語りかけるようにそうつぶやいた。
この場に佇んでいる二人の目的は一緒、その目的こそーー
「絶対に神を殺す」
そう、ウェターマンがつぶやいたのだった。
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