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セルビィ、天使辞めさせなれるってよ

気長に応援していただければ幸いです

「今回もダメだったか……」


 彼ーーセルビィは落胆していた。それも仕方がないだろう。

 なにせ、今回送り出した日本人もダメだったのだから。


「いつもどうりウェターマン様に伝えなくちゃ。嫌だな~また叱られちゃうよ」


 そう言いながらも彼は上司である神ウェターマンのもとえ向かうのだった。



 ====



「ほう、結果はまた失敗か。これで17回目だな。さて、この結果を見てお前はどう思う」

「たまたまですよ、たまたま。この次は成功するんじゃないんですかね?」

「お前がそんなんだから上手くいかないんだよ……」


 失敗を客観視しているセルビィを見て、ウェターマンは内心驚いていた。なにせセルビィは今まで仕事でミスをすることはなく、17歳という若さで対邪神部次長まで上り詰めた天才天使である。その天才が17回も失敗したのだ。


 セルビィが手を抜いていたのか、それとも今回出現した邪神はそれほどもまでに強力なのか。ウェターマンは後者の予感がしていた。天才たるセルビィは普段仕事()()まじめに取り組んでいる。そのセルビィが17回も失敗したとなると今回の邪神は只者ではないのかもしれない。


(至急、対策をとる必要があるな。いや、まてよ。いい事思いついた。善は急げだ、めんどくさい手続きを早く終わらせなければ。いや~楽しみだ。クク、クハハハハハハハハ!!)


 セルビィは背中に寒気がはしった。神ウェターマンが悪い顔で笑う時、大体ろくでもないことが起こるのだから。



 ====



 翌日、セルビィはウェターマンに呼び出されていた。


「セルビィ、お前がなぜここに呼び出されたかわかるか?」

「はて、なぜでしょう」

「本当に思い当たる節はないのか?」

「はい、無いっすね」


 セルビィは本当に思い当たる節がないのか、首をかしげている。


「お前がミスした件だよ!そのせいで俺は上司に怒られたんだからな!」

「八つ当たりはやめ「アアァ!」すいません」


 セルビィはウェターマンの顔を見る。それは誰も見ればわかるほどお怒りの顔だ。恐縮して顔を下げてしまう。


「というわけで、ミスした分は自分で補ってもらか」

「え~嫌だな~」

「するのか、しないのか?返事はYESかNOだ!」

「YES!今回の失態の分の仕事に努めさせてもらいます!」

「言質はとったからな」

「はい?言質?」


 何故言質をとらなければならないのだろう?ウェターマンが言った言葉を不思議に思っていると、次の言葉でその表情は絶望に染まる。


「お前、天使辞めろ」

「はい?……エエエエエエエエエェ!!」


「お前、天使やめろ」その言葉は、天使にとっては残酷な言葉だった。基本、天使は神直属の眷属になることで、力を発揮できる。神は基本的に不老のため、眷属になると不老の力の一部が自身に宿る。(そのため、平均寿命は1800~2000歳になる)天使をやめるという事は、神の眷属ではなくなり、莫大な寿命を捨てるという事だ。


 基本的に天使をやめるためには辞任するか、重大な罪を犯し眷属ではなくなるかだ。だが、セルビィは二つには当てはまらない。セルビィから非難の声が上がる。


「おかしいすっよ!僕が何したんですか!?この鬼!悪魔!パワハラ上司!ロリコン!」

「とりあえず落ち着け!てか、その前になんで俺がロリコンって知ってんだー!!」



 ====

 セルビィとウェターマンが落ち着くのに5分は掛かった。


「セルビィ、落ち着いたか?」

「ウェターマン様こそ」

「とりあえず本題に入ろう。これは俺個人の決断ではなく、スウマ様のご決断でもある」

「ッ!?」


 神スウマ、それは天界を作り、偉大なる14柱を作り出したという至高神。天使では決してお目にかかる事ができないというほど、偉大なるお方。そのような存在に天使をやめろと言われれば逆らうことなどできない。


「そう、ですか。分かりました、天使やめます」

「そう悲観的になるな。天使をやめろといったが、別に天使をやめなくていい」

「どういう事です?それって矛盾してません?」

「そう慌てるな、ちゃんと説明する。今までは異世界転移をさせるのはせいぜい3人、それにここ近年は送るのは1人で住んでいた。お前のおかげでな」


 ウェターマンに褒められ、セルビィは頬をほころばせる。セルビィが仕事に励むのも上司出るウェターマンに褒められるのがうれしいからである。


「だが、今回の邪神は今までとは違う。現に異世界転移させた日本人17人は全員死んでる。そのことにスウマ様も危惧されている。だから、今回は特殊な手を打つ」

「つまりどういう事です?」

「結論から言うとセルビィ、お前が下界に降りて邪神を打ち倒せ」

「えっ!?本当にいいんですか?」


 基本的に天界に住む神や天使は地上に、関与ができない。だが、例外も存在する。それが異世界転移だ。地上に関与できないや天使に代わり、別世界である地球から拉致(まねき)、特別な力を与えて転移させる。転移させる際に、邪神を倒すと願いを1つ叶えるという褒美を与えて送り出す。そうすると勝手に邪神を討伐してくれる。そのようなことを何千年も続けてきた。


 だからこそセルビィは驚いている。何千年も続けてきたルールを犯すのだ、驚かないほうがおかしい。


「ただ天使が下界に降りるのは非常に不味い。だからルールの裏をかくことにした。天使が降りたら駄目だったら、元天使を降ろせばいいじゃない。っていう事だ」

「だから天使を辞めろってことですか。それなら天使を辞めなくてもいいのは何でなんですか?」


 セルビィは不思議に思い問う。天使を辞める理由は分かったが、天使を辞めなくていいのは意味が分からない。だが、ウェターマンは自信満々に答える。その表情は良い事を思いついた天の邪鬼そのものだった。


「お前は知っているか?スウマ憲法第11条の内容を?」

「そりゃ知ってますよ。当たり前じゃないですか」


 スウマ憲法第11条

 ーーーー天界に住むすべての天使と神は決して地上に干渉してはならない。


「天界に()()すべての天使と神は決して地上に干渉してはならない。つまり、地上に降りてから天使になっても、天界からは干渉してないことになる。どうだ、いい提案だろ」

「だから天使をやめろといったが、別に天使をやめなくていい、って言ったんですね。けど、よくスウマ様が許可してくれましたね」

「許可されてるわけないだろう」

「は?」

「この事をスウマ様に伝えたらこっぴどく怒られてよ。最初にも言っただろう、俺は上司に怒られたんだからなってな」

「あれってそういう事だったんですか!だけどどうするんですか?いくらウェターマン様でもスウマ憲法を犯したらただでは済まないでしょう」

「そこは大丈夫だ。スウマ様に交渉して何とか認めてもらえた、条件付きでな」

「その条件とは何ですか」

「一日10分、それが天使化できる時間だ」


 一日10分、それだけ聞くと短いようだが決してそうではない。天使の力は莫大、人間では到底かなわない力。そんな天使の力を10分も使えるのだ。ウェターマンがどれだけ交渉したのかは分からない。だからこそセルビィは理解できない。


「そこまでして俺を罰したいのは何でなんです。こんな事をするより、異世界転移を行うほうがだいぶ楽でしょう」

「そりゃそうだろうな、異世界転移のほうが楽だ。それに、正直言って俺はお前を罰したいとは思わない」

「じゃあ、なんでそこまで俺を罰するのにこだわるんです?」

「それはな、セルビィ。お前、最近仕事が楽しく無いだろう」

「それは……」


 セルビィが異世界転移させた人間は、必ず邪神を打ち滅ぼす。周囲にそう思われるほどの成果と実力を示したおかげで、17歳という若さで対邪神部次長にまで上り詰めた。もちろんその事に対して憧れを持つものや、実力を認めてくれる年上の天使もいた。だが、その裏では妬み、嫉妬といった負の感情を持つものがいた。


 負の感情を持つものが、醜い相手の醜態を見たらどうなるだろうか。その答えは簡単だった。セルビィを見てはあざ笑い、「今まではたまたまだったんだ」と馬鹿にされ、挙句の果てに邪神と裏で繋がっているのではないかと、陰で噂されていた。


 そんな職場で仕事をしても楽しいわけがない。そのせいで仕事に対する意欲もなくなっていった。


「俺はお前みたいなやつが、周りのせいで心が折れるのを見たくない。俺は部下が困っていたら、必ず手を差し伸べる。それでこそ神ってもんだろう。なあセルビィ、この仕事受けてくれるか?」


 反則だ、セルビィは心の中で呟く。部下の事をここまで考えてくれる人は、ウェターマン以外に居ないだろうと思えるくらい心酔していた。だからこそ、期待にこたえたい。だからこそ責務を果たしたい。だからこそーー


(この人のようになりたい)


セルビィは自分を大切に思ってくれている上司(ウェターマン)のためにも決心する。


「この仕事、喜んで承りましょう」






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