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呪いにかかった魔女様

 その日、わたしはオリバー・セルフリッジさんという方と一緒に道を歩いていました。偶然会って、途中まで同じ方向だと分かったので、お喋りでもしながら歩こうということになったからです。

 セルフリッジさんは、和やかなわたしの村の中でも特に優しい穏やかな性格をしていると有名な方で、わたしも彼には好印象を持っています。およそ誰かと争うなんて考えられないようなイメージ。

 ところがです。

 そんなセルフリッジさんにも実は黒い噂があったりするのです。

 なんでも、彼は特殊な呪術に長けていて、場合によってはそれで誰かを呪いもするのだとか……。

 まぁ、もっとも、わたしはそんな噂を信じたりなんかしていませんが。

 ただし、それでも不安を覚えはします。だって、それは、悪意を持った何者かがセルフリッジさんに嫌がらせをしている事を意味しているのでしょうから。

 先にも書きましたが、わたしの村はとても和やかです。そんな村の中でそのような悪質な嫌がらせをする誰かがいるなんて、考えただけでも嫌な気分になります。

 「それでは、僕はこちらですので、この辺りで」

 やがて別方向に進まなくてはいけない場所にまで辿り着くと、セルフリッジさんは自分の行き先を指で示しながら、わたしにそう告げました。

 「はい、それでは」

 と、わたしも別れの挨拶を返します。それから自分が進む方向にわたしは顔を向けました。ところがです。そこで、わたしは音もしない強力なつむじ風に襲われたのでした。

 風にさらわれてしまう。

 わたしの視界は一瞬で奪われ、気が付くと目の前にはアンナ・アンリという名の魔女様が立っていました。

 きっと彼女の魔法でしょう。

 「ここは何処?」と一瞬焦りましたが、とんでもない遠くに飛ばされたという訳ではなく、直ぐ傍にあった木の影に移動しているだけでした。

 アンナさんは何故か、頬をやや赤くしてわたしを見ています。

 このアンナさんという方は、村の近くの何処かに住んでいて、黒魔法を使えます。黒魔法というと恐ろしいものであるように思えるかもしれませんが、そんな事はありません。簡単に言ってしまえば、国に認められた魔法を白魔法と呼び、それ以外を黒魔法と呼ぶというただそれだけの話なのです。

 しかも、このアンナ・アンリという魔女様はとても安い料金でわたし達の依頼に応えて魔法を使ってくれるので、人々から敬われてすらいます。

 一呼吸の間の後で、アンナさんはこう口を開きました。

 「――失礼ですが、」

 やや緊張しているように思えます。

 「先ほど話していた方とは、どういったご関係でしょうか?」

 さっきよりももっと頬を赤くして。

 わたしは「ははーん」と察し、それにこう応えます。

 「大丈夫ですよ、魔女様。わたし、セルフリッジさんと付き合ってはいませんから」

 するとそれにアンナさんはこう返すのです。

 「なんの話をしているのです?」

 それからチラリと去っていくセルフリッジさんの後ろ姿を見るとこう続けます。

 「実はあの人は特殊な呪術の使い手なのです。だから、こうしてわたしは監視をしているのですよ」

 わたしはそのアンナさんの言葉に首を傾げました。

 「セルフリッジさんが呪術を? とても信じられないのですが……」

 すると、心外だと言わんばかりの口調で、胸に手を当てつつ、彼女はこう言うのです。

 「嘘ではありません。何しろ、このわたし自身が彼に呪いをかけられているのですから」

 それを聞いてわたしは驚きます。そのわたしの様子を見て、彼女は神妙な感じで頷くと続けました。

 「少し前に行われた魔女狩りを覚えていますか? わたし、あの時に危うく国の職業魔女狩り人に捕まりかけたのです。なんとか逃げ延びたのですが、魔力のほとんどは失われてしまっていて、かなりのピンチでした。

 そこを助けてくれたのが、あのオリバー・セルフリッジという方です。わたしを自分の家に匿い、魔力回復の力があるニナイモのスープを食べさせてくれました……」

 それを聞いてわたしは頷きます。いかにもセルフリッジさんがしそうな事だと思ったからです。

 ただ、同時に不思議にも思いました。

 それなら、どうしてアンナさんは彼を呪術使いなどと呼ぶのでしょう?

 わたしの不可解そうな表情を見たからか、それから彼女はこう言います。

 「問題はこれからなんです!」

 きつく表情を結んで。

 「無事に家まで戻ってから、しばらくしてわたしに奇妙な症状が現れ始めたのです。病気ではありません。医学書には載っていませんでしたから。彼がわたしに呪いをかけたとしか考えられないのです。魔力が失われた状態とはいえ、わたしに呪いをかけるなんて相当の手練れです!」

 「それは一体どんな呪いなのですか?」

 俄かには信じられない、そう思ったわたしはそう尋ねました。アンナさんは口を開きます。

 「はい。なんだか胸が切なくなり、彼の事を想うだけで苦しくなるのです。彼に会いたいという想いに駆られ、居ても立っても居られないのですが、にもかかわらず、実際に目の前に来ると緊張して話しかける事ができません。

 こんな奇妙で恐ろしい呪いは聞いた事がありません……」

 それを聞くとわたしはこう言いました。

 「大丈夫ですよ、魔女様。セルフリッジさん、今、付き合っている彼女さんとかいないと思いますから」

 「なんの話をしているのです?」

 と、それにアンナさんはそう返しました。

 

 ……まぁ、何にせよ、セルフリッジさんが呪術を使うなんていう噂を流した犯人が分かりました。

 やっぱりこの村は和やかです。

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