街の音に
そのバイオリンの音は朝焼けに響き、1曲終わったと思えばまた違う曲が始まる。それを私はじっと聞いていた。それは、日がのぼり、またにぎやかな街に戻るまで続いた。
窓の外はまた活気あふれる声と色づきでいっぱいになった。商店街のシャッターの音、電車の汽笛、山鳥の鳴き声、この世界は全てが美しい。私は、部屋のドアを開け、階段を降りた。
「由実、おはよう。よく眠れた?」
ルルの声が明るく響いた。
「おはよう。昨日はありがとう」
つられて、私の声も明るくなった。爽やかでやさしい朝がやってきた。テーブルには、サラダにトースト。うちの家では絶対に出てこない豪華で美味しそうな朝食が広がっていた。
「これ、ルルが作ったの?」
「近所の人が届けてくれるのと、パンは焼いただけ。」
ルルは少し笑って言った。
テーブルの前に座ると、そこには亜留斗がいた。サラダを少しずつ食べている。物静かな雰囲気からはさっきのバイオリンの音は想像しにくかった。私は、彼の隣で少しずつサラダを食べ始めた。口の中で野菜はシャキシャキと音を鳴らし、新鮮さが伝わってくる。すごく美味しかった。
亜留斗と私は、ほぼ同時に朝食を食べ終わった。彼がゆっくりと階段をあがる。私は、その後ろで追い越さないようにあがった。あがりきった彼がドアに手をかける。私は、彼の横に立って言った。
「あの、亜留斗君。さっき、バイオリン聞いたんだけど。」
彼は、驚いたようにこっちを向いて、目線を下にした。おどおどした様子で口を開く。
「ごめんなさい。うるさかった、よね」
「そうじゃないの!すごく、キレイだなぁって思って。」
私も少し目線を下にした。すこし、恥ずかしくなった。
「あ、ありがとう。」
じゃあね、と彼は部屋のドアを開け、中に入った。すこし、私は嬉しくなった。
しばらくして、ルルが部屋をノックした。ドアを開けると、
「どこか行きたいところある?」
と聞いた。
「ちょっとフラフラしてきたい。」
曖昧な答えをしたが、
「いいよ、行っておいで」
と言って、白のショルダーバッグを貸してくれた。私は、窓から見た商店街に行った。たくさんの看板や旗が立っていた。可愛い洋服が飾られている服屋さんや、靴屋さんに入った。同じくらいの年の定員さんがふわふわとした生地の白いブラウスを勧めてくれた。
「シーズンもちょっと過ぎたし、安く売るよ」
と言ってくれたので、持ってきていたお金で買えた。
外に出ると、掲示板の前に4、5人立ち止まっていた。それは、小さな張り紙だった。「虹祭り」というゴシック文字がカラフルな色で書かれている。その下に小さな文字で「ステージ出演者募集中」と書いてある。
ふと横を見ると、亜留斗も立っていた。
「亜留斗君?」
「あ、えっと、、由実さん?」
私は、私の名前を呼ぶ彼のぎこちなさに、少しふき出してしまった。彼も少し笑った。
「これ、亜留斗君も出るの?」
「あ、いや」
彼は、少し困ったような顔をした。
「僕、みんなに見せるほどうまくないから」
それから少し笑ってそう言った。