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空飛ぶシロクマ  作者: 霞ちほ
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朝焼けのメロディー

私は眠らないように息をした。夢を見ないように息をした。明日の朝を想像した。ドラマの続きを考えた。

星の光が指す夜に、眠れぬ夜と名を付けた。街の静けさを寂しいといえばいいだろうか。真っ暗に映し出される放物線上の光。それを見て思った。

流れ星が、泣いている。

もう消えた。なのにずっと残っている。マッチ売りの少女は流れ星を見てなんと言ったっけ。なぜだろう。思い出せない。

街に月が浮かんでいる。私は浅い眠りについた。夢も見なかった。ずっと何かを考えていた。

自分では数分のつもりであった。なのに、もう5時間がたっていた。明るさを取り戻す窓の外に絵はがきから飛び出した太陽がのぼる。澄みきった青い空にひとつふたつ浮かぶ雲がなぜだか懐かしい。鮮やかな朝焼けの街をやさしい風が柳を通り抜けた。柳は静かにひとりごとを話した。その景色のあまりの美しさに、思わず写真に収めたくなった。絵は苦手だけれども、スケッチブックを開きたくなった。どんな絵の具をつかおう。何色の色鉛筆を使おう。この世のものでは表せない。そんな朝がやってくる。


その時だった。突然、メロディーが流れだした。窓の外のどこを見ても、探しても、何もない。

それは、外からではなかった。

バイオリン。隣の部屋からだ。聞いたことのない曲だ。私はあまり詳しくもないが、キレイな音。そのメロディーの美しさがますます景色の美しさを掻き立てた。


隣の部屋は、高校一年生の山川亜留斗だった。私はこの名前に聞き覚えがあった。いつかの朝の情報番組で取材されていた。高校生天才バイオリニストと大きく話題に取り上げ、演奏にアナウンサーが声を高く興奮して絶賛していた。数々のコンクールで優勝し、CDもでたと言っていただろうか。誰もが認める天才だ。史上最年少でコンクール優勝、成人の世界規模で活躍しているバイオリニストも彼は天才だと言っていた。とにかく彼は、天才なのだ。そういえば、母はミーハーなもので、発売されたCDを買って同じ年だと騒いでいた気もする。

彼の顔はうっすらとしか覚えていないが、昨日みた時心がざわついた。たしかに天才バイオリニストの山川亜留斗だった。そんな人が今隣の部屋で、バイオリンを弾いている。私は冷静でいられるわけがない。胸がドキドキとなる。これまでにないほどの興奮なのかもしれない。しかし、今これは、喜べることではない。

CDも出し、コンクールでたくさんの優勝、賞も受賞した。

色んな人が天才だと言った。

それなのに、なぜ。

なぜ彼は、ここに、この世界にいるのだろうか。

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