渦
全員の紹介が終わったあとルルは建物の中を簡単に案内した。一人一人に部屋があり、私の部屋もあった。1番右端、美和の隣でないことに安心する自分がいた。部屋のトビラを開けるとふわっとラベンダーの香りが漂った。白いカーテン、端には少し小さめのベッド、木製の机、自分の部屋とさほど変わらない部屋だった。
「夕食の時には呼びにくるから、ゆっくり休んでていいよ。」
さっきの私の様子に少し驚いただろうか。ルルの言葉は会った時と比べて元気がなくなっている様な気がする。
「ルル、ごめんね。さっきのこと気にしなくていいから。」
ルルはくもった笑顔で私を見て言った。
「大丈夫。ちょっと由実も疲れたよね。ゆっくりして。」
「うん。」
ルルはほんとうに11歳なのだろうか。すごくしっかりしている。私が11歳の頃、あんな子だっただろうか。考えれば考えるほど気が重くなっていく。私は、考えるのをやめ、ベッドに座り、ぱたんと横になった。
部屋にノックの音が響く。「はい」と言ってトビラを開けようとした。ドアノブに手を伸ばす。その時、
「由実。」
トビラの外から美和の声が聞こえた。私はドアノブをぎゅっと握りしめ、ゆっくりとドアを開けた。美和が少し下を向いて立っていた。私は、美和を部屋の中に入れた。
少し空気が重くなる。
私は、小さな声で話しかけた。
「美和、私…」
「由実さぁ、なんでここにいるの?」
美和のその言葉で私は、一瞬にして大きな渦に巻き込まれた。
「えっ…それは…」
すぐに答えられなかった。答えなんて簡単なのに。
「何?由実も死のうとしたの?」
美和のその真剣な目に、思わずうなずいた。
「あんたバカじゃないの!?自分が死んで、罪を償おうとでも思ったの!?」
美和の言葉が次々に胸に刺さっていく。
「べつにそういうわけじゃないけど…」
「じゃあ何で?私を悪者にしようとしたかったの!?あれだけ酷いこと言って、ありえないと思った。」
「それは、ごめんって。」
「もう由実の顔なんて見たくなかったのに!」
美和の拳が私の顔に近づく。思わず目をつぶった。
その時
「由実!?」
ルルの声がした。
「大丈夫?もう少し休む?」
夢だった。私はいつの間にか過呼吸をしていた。肩が上がって下がって、止まりたいのに止まらない。
「由実、落ち着いて、ゆっくり呼吸して。」
ルルが一生懸命声をかける。
やっと落ち着いたところで、笑って大丈夫と言えた。
それでも、ルルの笑顔はくもったままでいた。