同じ世界にいた人
チーズケーキの甘さがまだ口の中に残っている。この街は風の匂いが爽やかだ。どこか心地いい。私は、慣れないこの世界を都会にやってきた田舎者のように上を向き、口を半開きにして歩いた。すごく細くて高いビル、まんまるの建物、見たことのない遊具だらけの公園。次々と流れる景色に私は目がはなせなかった。そして真正面に見えてきたのは、ピンク色の真四角の建物。周りに比べれば少し小さく、かわいいという印象が持てる。
「着いたよ。靴のまんまでいいから、あがって!」
中は普通の家だった。部屋のはしにキッチン、真ん中にダイニングテーブル、シェアハウスの様だ。
ルルは小さな体に比べて少し大きい白いイスをせっせと運び、私の前に置いた。
「ちょっとここに座って待ってて!すぐに呼んでくるから!」
そう言うと、タタタっと階段を駆け上がり、何個かある扉を1つずつノックした。
しばらくして、ルルと一緒に4人、降りてきた。
その中に見覚えのある人がいた。
「美和…!?」
「由実?なんでいるの!?」
少し、気まずかった。美和とはあれから話していないのだ。
「あれ、知り合い?じゃあ、紹介するね。」
ルルは私を4人に紹介した。
美和ともう一人女の子、そして男の子が二人。みんな、ルルの話をじっと聞いているが、どこか違和を感じた。
そして、ルルは四人の紹介を始めた。
「向かって左から、梶谷茉莉香ちゃん、中学2年生。その隣が永田俊希くん。中学1年生。それから、山川亜留斗くん。高校一年生。そして、」
美和と目があった。私は思わずそらしてしまった。美和も居心地の悪そうにしていた。
「鈴谷美和ちゃん。高校一年生。」
足元からサァっとトリハダがたったような感覚が走った。名前だけ聞いても、普通通りにはいられなかった。
「由実、大丈夫?」
ルルが顔を覗き込んでいるのがわかった。ごめんごめんと私は笑おうとしたが、笑えなかった。
「由実、この四人も、由実と一緒の世界から来たんだよ。」
少しやさしい口調でルルが言った。
それでも、その空気は固まったままだった。そしてその違和は、どんどん大きくなっていった。
誰も、一言も喋らないのだ。
はじめましても、よろしくねも、何も喋らない。
そして私ははっとした。
そうか、この四人はみんな、私と同じ場所にいたのかもしれない。
そう思うと同時に言いようのない感情に包まれた。
じゃあ、美和も、あの屋上に…?