ひとつだけ無いもの
この世界はあるもので溢れているように見える。見たことないものばっかりというわけでもないが、街中がキラキラと私の目に映る。そんな世界にないものなんてあるだろうか。これは、長くなるかもしれない。とも思った。
「まぁ、いろいろ話すこともあるし、お茶しよう!由実は何が好き?」
「え、何でも…」
「好きな食べ物、ないの!?」
「え、じゃあ、チーズケーキ」
「…え?」
ルルはなぜか驚いている。…もしかして!
「この世界にないものって、チーズケーキ?」
きっとそうだ。確信した。チーズケーキは珍しくもないけど、無くてもおかしくない。ルルは少し黙ってからぱっと顔をあげた。
「あ!あのカフェ、チーズケーキはじめたって言ってた!よかったー、売っている店ないかと思った。」
そう言ってからルルは私の方を見て何か言った?と聞いたが、私は呆れたように何もと返した。そんなことよりも私は元の世界に帰りたい。チーズケーキなんて食べなくていいから、帰りたい。
「ねぇ、今この世界にないものを当てたら元の世界に返してくれるの」
「うん、まぁね。でも無理だと思うよ。」
ルルが鼻で笑って言うので私はムキになって次々にめずらしいものを言った。
「キャビアは!?」
「あるよ。」
「じゃあ、フォアグラ!」
「ある。トリュフもあるよ。」
「じゃあ、ピクルス!ココナッツオイル!チアシード!タピオカ!」
「残念!全部ハズレ〜。食べ物じゃないよん。」
ルルの言い方にちょっと腹が立つ。
「じゃあ、物なの?建物?」
「さぁね。目には見えないものなのかもしれない」
「えっ…幽霊?」
「由実の世界にも曖昧でしょ。あー!でも近いかもしれない。うん。」
「本当!?」
「でもさ、もうちょっとゆっくり考えてよ。由実とはもっと一緒に過ごしたいからさ。」
少しの間があった。
「何?ルル!そんなこと言って」
「何って何よ!もー!」
ルルは少し顔を赤くしていた。私はそんな彼女を少し不思議で少しかわいいなと思った。
そんなことを話していると、チーズケーキはじめましたという看板の立つカフェに着いた。