#001「八月七日日曜日」
――昨夜の十八時から二十四時に入っているニュースは、と。
あぁ、やっぱり五輪一色ね。
一つのイベントに偏重するのは良くないんだけど、読者が求めてる情報を取り上げないと、新聞は売れなくなり、テレビ局では視聴者や株主からクレームが殺到するんでしょうねぇ。
あとは、中国船が尖閣諸島の海域に侵入した、というニュースくらいか。
領土問題について、どこまで知ってるか聞いてみよう。
あぁ、もう。鬱陶しい蚊だわ。どこから湧いてきたのかしら?
*
「おはようございます、金谷先生」
「おはよう、福島さん。今日はノー・スリーブなのね」
「腕が太いので、中学に入ってから着なくなってたんですけど、この蒸し暑さですし、それに今日は、お出掛けする予定もありませんから、良いかなぁと」
「普段から腕を出してれば良いのに。腕が太いっていうのは、こういう腕を言うのよ」
「先生の腕は、太いではなくて逞しいというべきですよ。――昨夜のニュースは何ですか?」
「テニスの所為ね。――五輪関連のニュースが多かったんだけど、開会式の模様や、選手紹介に終始してたから割愛するとして、今日は領土問題についてのニュースを報告するわね。尖閣諸島がどこにあるかは知ってるかしら?」
「東シナ海ですよね? 沖縄の東海上です」
「その通り。そこに中国船が侵入したとして、また問題になったんだけど、どうしてこういう事態になってしまったかは分かるかしら?」
「えぇっと。中国と日本とのあいだで、国境に関する意見の食い違いがあるから、です」
「そうそう。日本と外国とのあいだで領土を巡る問題は、尖閣諸島以外にもあるという話をしたんだけど、覚えてるかしら?」
「韓国とのあいだで竹島、ロシアとのあいだで北方領土について、未解決のままになっている、という話でしたよね?」
「よくできました。それだけ覚えていれば、大丈夫そうね」
「こういうニュースを聞くと、何だか、遠い昔に縄張り争いをしてたお猿さんの頃から、ちっとも進化してない気がします」
「そういう考えかたもあるわね。――それじゃあ、今日は数学から見ていこうかしら」
「数学は最後にしませんか?」
「嫌なのは分かるけど、それなら尚更、先に済ませてしまったほうが良いものよ? はい。この前の続きから」
「わたしは、嫌なものは後回しにするタイプなんだけどなぁ」
「あらあら。見解の相違ね」