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恋の時間  作者: 手毬猫
4/5

第4話

ーその日のお昼ー


僕は昼飯でも食べに行くか、と席を立つ。

ふと、田島さんの事が気になって彼女を探す。

田島さんは角にある給湯器からお茶を入れているところだった。

僕は勇気を出して彼女に近づく。


「田島さん、良かったら一緒に昼飯でも食べに行かない?」


緊張を必死で隠しながら声をかけた。

彼女は少し驚いたような顔をして

「お弁当なんです」

と笑ってみせた。


僕は

「そっか…」

と肩を落として入り口へと足を向けた。

すると

「あ、藤田さん!」

後ろから聞こえた田島さんの声に胸が高鳴り張り切って振り向いた。

彼女はそっと僕の隣に来ると

「この間の事は忘れて下さい」

と小さな声で囁いた。


えっ…?

忘れて下さい…?


彼女の言葉に悲しみが押し寄せてくる

彼女は小さな声でさらに続けた

「この間も言いましたけど、会社での面倒はごめんなんで」

そう言ってニコッと笑うと戻って行ってしまった。


彼女の言葉にますます肩を落とす。

彼女の気持ちに僕は何の爪痕も残せなかった…。

そう思うと情けなくて情けなくて…。

重い足取りをトボトボと歩き始めた。



ー午後ー


僕は重い気持ちのまま、パソコンと向かい合っていた。

ちゃんと仕事が出来ているのか自分でも分からなくなってくる。

パソコンの画面よりも遠くで視界に入る田島さんが気になって仕方ない。


「こんにちはー」


僕の気持ちとは裏腹な明るい声が響き渡る。


取引先の高田社長だ。歳は40代。

ゴルフが趣味らしく冬でも肌は真っ黒で、茶色に染めた髪だが、常に高そうなスーツを品良く着こなしている。

男の目から見てもかっこいいと思ってしまう。

そんな高田社長の元に北島部長が駆け寄る


「高田社長!わざわざ来ていただかなくてもこちらから向かいましたのに。田島くん、応接間に通してお茶をお出ししてくれ」

そんな言葉に高田社長はニコッと笑って

「近くで用事があったんですよ。あと、田島さんの顔も見たかったので」

そう言いながら田島さんに笑いかけていた。


その光景を見た僕は何故か身体中の血液が逆流していくのがわかった。


高田社長と田島さん??


今迄も、何故か高田社長は田島さんを気に入っていて何度か聞いた事のある会話だった。

今迄なら何の気にも留めずに、ただ気に入られてるとしか思わなかった。


高田社長の様な遊びなれてる社長さんなら、田島さんの様な地味な子をからかってみたいのだろう…と

今迄なら思ってた。



今迄なら



だけど…

僕は応接間に入っていく2人が気になって仕方なかった。

高田社長は北島部長と話しに来たのだから、心配する事など何もないのだが…


ますます仕事が手に付かなくなりはじめた。



ー仕事帰りー


「藤田さん今日飲みに行きません?」

そう言って僕の後をつけて来たのは後輩の木村だった。

「酒はしばらくは控えるよ…」

僕の言葉に木村は笑いながら

「この間だいぶ飲んでましたもんね」

と答えてさらに続ける

「そう言えば無事帰れたんですか?まさかあの後田島さんに送り狼とか…?」

ニヤニヤと笑いながら僕の後をつけて来る木村に、僕は一瞬戸惑ったが

「馬鹿!ちゃんと帰ったよ」

と嘘をついた。


木村はわざとらしく

なんだー

と大袈裟にリアクションして

「さすがに田島さんは厳しいですよね。間違って一夜を過ごしたら結婚してー!なーんてね」

と笑いながら言っていた。

それがなんだか無性に腹が立って、僕は無言のまま足を早めた。

会社を出て1分程歩いただろうか

木村の

「あっ!高田社長だ!」

の声に足を止める。

高田社長は道路を挟んだ向かい側でタクシーを止めるところだった。

「さすが高田社長、連れてる女性も格が違うなー」

木村はそう言って高田社長の後ろにいた女性を眺めていた。

僕はその女性を見て足が固まる。

綺麗な髪を下ろして、邪魔くさそうな前髪は横に流し、例の瓶底眼鏡は外してきちんと化粧をした姿は会社での彼女とはまるで別人だった。

そう、高田社長に続いてタクシーに乗り込んだのは…

田島美里だった。


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