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Ep1:出会いの春に出会った人達-前編-

「んっ……」


 カーテンの隙間から差し込む陽光が、俺の瞼の裏を刺してきた。

 そんな欝陶しい陽光を避けるべく、俺は掛け布団を頭上まで被り、そして再び睡眠の体勢にはいっていく。



 ……。


 …………。


「んっ……」


 体が一度ピクッと動き、そこで再び目が覚める。

 俺は上半身をもそっとベッドから起こし、頭をポリポリと掻きながら時計を見た。


「九時半……」


 それを見た俺はベッドから下り、部屋の隅にかけてあった制服を取る。

 着替える途中は、瞼を開け閉めし、体をゆらつかせながらだったものの、制服に着替え終わると、眠気は完全に消え去っていた。


 どんな日だろうと朝ごはんを欠かす事はできない。それを信条に生きている俺は階段を下り、キッチンへと向かう。

 キッチンに着いた俺は迷う事なく、テーブルの上に置いてあった六枚切りの食パン一枚をトースターに入れ、続いて冷蔵庫から卵とハム、バターを取り出す。


「ふぁ〜あ〜」


 春ならではの、大きな大きな欠伸をしながらコンロのガス栓を開け、そして換気扇の電源を入れた。

 コンロの火を付け、その上に卵焼き専用のフライパンを乗せる。


「す〜……。す〜……」


ガァン!


「痛っ!熱っ!」


 うたた寝をしてフライパンに頭を突っ込んでしまった。


「焼くのは俺自身じゃないぞ……」


 一人でそう呟いた後、四角いバターを一切れ、温まったフライパンに乗せた。


 ジュー。という香ばしい音と、バター特有の食欲をそそる匂いが俺の胃を刺激する。

 バターが全て溶けた後で、ハムをフライパンにほうり込み、直ぐさまその上で卵を割った。


 卵、バター、ハムが奏でる匂いを嗅ぎながら待ちたい所だが、ここは我慢。卵焼き専用フライパンの蓋が無いため、他の蓋を適当に選び、ハムエッグが乗るフライパンの上に被せた。


「ふぁ〜あ〜」


 閑静な住宅街。

 カラスが屋根の上を歩き、塀の上を猫が走り、近くの公園ではお年寄りがゲートボールに汗をかく、とても平和な住宅街。


 俺、神凪楓はその一角にある、少し広めな一軒家に住んでいる。

 至って普通の住宅街に住んでいる俺。しかし何を隠そう、俺の親父はかの有名な、神凪カンパニーの社長だ。


 ひとえに社長といっても収入幅はピンキリで、サラリーマン平均収入より少ない収入の社長もいるわけだ。


 しかし、俺の親父は違う。

 神凪カンパニーはここ数年で急成長し、今となってはIT企業随一と言われるまで成長した企業だ。

 まあつまり、何が言いたいかというと、親父は凄腕社長だという事だ。



チンッ



 かわいらしい音と共に、焼けたパンがトースターから飛び出した。

 俺は早速焼き上がったパンを皿に乗せ、そしてその上にハムエッグを乗っける。そして画龍点睛に、冷蔵庫からケチャップを取り出し、それにかけた。


「もぐもぐ」


 目玉焼きにはケチャップ。これこそ至福の時。


 ハムエッグトーストをぺろりを平らげた俺は歯を磨く。そうしてメロンパンを五つ鞄に詰め込んだら準備完了。


「いってくる」


 俺は誰もいない家に、誰に言う訳でも無く挨拶をして外に出た。


 家から学校までは歩いて十五分。家の正面には川が流れていて、その川沿いを歩いていれば学校に到着する事ができる。


 桜舞い散る川沿いを歩いていく俺。勉学に励もうと、学校に向かう俺の努力を嘲笑うかのように、春特有の強い向かい風がビュービュー吹き付けてくる。


 どんなに足を動かしても前に進まない。前に進むどころか、逆に押し戻されているような。そんな感覚すら覚えてしまう程強い。


「やっと着いた……」


 そんなこんなでなんとか辿り着けた、私立聖蘭学園。

 八メートルはあろうかという超巨大な校門の隣に専属の警備員。レンガで舗装された歩道。正面にある校舎との間にある大きな噴水。

 他にも色々とあるのだがとにかく、この学園は至る所で贅沢の限りを尽くしている。


 そんな超豪華さを看板に掲げている学園に通うのはやはり、政治家の子や皇族など、やんごとなきお坊ちゃまお嬢様達。


 日本一やんごとなき高校。

 それこそが俺の通うこの、私立聖蘭学園だ。



「おっす、おっちゃん。毎日お疲れ」

「楓は今日も遅刻か」


 とある理由で仲が良くなった中年警備員と挨拶を交わし、そして学園内に足を踏み入れた。



 高校二年生の春。

 俺の物語はここから始まっていく。



−−−−−−−−−−−−



 教室の扉の前。俺は遅刻したのにも関わらず、何食わぬ顔で普通に扉を開けた。


ガラガラ


「おは−−」

「死ねっ神凪楓っ!」


ヒュンヒュンヒュンッ!


 それは教室に入ると同時だった。

 挨拶を言い終える前に、教壇の方から俺に向かって飛んでくる無数の刃物。そして殺意のこもった服部守歌の声。


「ぬおっ!」


カンッカカカカカカンッ!


 間一髪。鞄の横っ腹で十本全てのクナイを受け止める。


「チッ」


 クナイを投げ付けてきたのは歴史担当の服部守歌はっとりもりか。彼女は、かの有名な忍者の家系で、規律を乱す人を殺す……指導するのが生き甲斐の、永遠の二十歳。

 ちなみに一人称は俺。


「俺の腕も鈍ったか……。まあいい。神凪、さっさと席に着け」


 俺は鞄に付いたクナイを全て捨て、自分の席に着いた。


「完全に油断してましたね……」


 俺が一番後ろの真ん中にある席に座ると、右隣に座る少女が話し掛けてきた。

 紫がかかった黒い長髪を垂れ流し、非常に整った容姿をしている。

 表情が冷たく、クールビューティーとも言われている、学園マドンナの一人。名前は、鮎川咲蘭あゆかわさくら

 聖蘭学園理事長の娘であり、俺と同じ図書委員。ちなみに咲蘭の名前にもこの学園と同じ、蘭の字が使われている。


「ああ。二時間目が歴史って事をすっかり忘れてた」


 俺は右隣りに座る咲蘭にそう言うと、何故か俺の前の席に座る男が後ろを向いた。

 その男は髪を金色に染め、学園の問題児のリーダーとして君臨し、弱きを滅ぼし強きを助けるというのを信条に生きている、言わば人のかざかみにも置けない−−。


「ちょっとそれは言い過ぎなんじゃないっすかね!!!」

「いや、俺は真実しか伝えていないぞ」


 本人が不満そうなので、もとい、頭が悪い上に運も悪い。成績も悪けりゃ、顔も良い訳じゃ無い。喧嘩も弱いし、とにかく駄目な人間−−。


「もうやめてー!!! 俺が悪かったからー!!!」

「仕方ねぇな、今回は許してやるよ」


 こいつの名前は板垣慎吾いたがきしんご

 有名な物理学者を両親に持ち、家族で物理オタクという、物理オタク家族の長男だ。

 しかし、そんな境遇にあるこいつは物理がまるで出来ないという駄目っぷりを発揮している。


キーンコーンカーンコーン


「よし、これで俺様の授業は終わりだ。神凪、もし次に俺様の授業を遅刻してきたら命は無いと思え」


 チャイムが鳴ると、授業を終えた服部はそう言い残して教室を出ていった。


「神凪さん……。私はあなたのことを絶対に忘れません……」

「もしそうなったら咲蘭の枕下に立ってやるよ」

「……それは恐いです……」


 と、咲蘭は物静かそうな顔や雰囲気をしているのだが、話してみると以外と面白かったりもする。


「楓さんっ!」

「神凪楓!」

「ブサイク!」


 と、俺が咲蘭と話している時に、左に二つ離れた席に座る少女と、彼女を取り巻く二人の少女。計三人がやってきた。


「どうして寝坊しましたの!?」

「どうせならいっそのこと、一生寝てて下さるかしら?」

「そうですわ!このブサイク!」


 どうして遅刻しなかったの。じゃなくて、どうして寝坊したの。と聞いてきた彼女は、大財閥である鳳仙院グループのトップ、鳳仙院和司ほうせんいんかずしの一人娘である、鳳仙院飛鳥ほうせんいんあすかだ。

 彼女はまさに学園のマドンナといった顔立ちで、長くて金色の髪をエビちゃんみたく名古屋巻きにしている。

 美しい顔立ちとボディーライン、スリムなふくらはぎと太ももに学園生はメロメロ。今まで振った男は五十を越えるとの噂もたっている、学園マドンナの一人。それが彼女だ。


 ちなみに、遠回しに死ね。と言ってきたのは、右ウイングの三岸みぎし。そして俺の顔を全否定してきたのは、左ウイングの佐古木さこぎ

 基本は飛鳥、三岸、佐古木の順番で俺に文句を言ってくる。


「目覚ましをかけ忘れた」

「あら、高校生のくせに、目覚ましもろくにかけれませんの? 哀れですわね」

「いっその事、自分が目覚ましになればどうかしら〜?」

「オホホホホ。元々目覚ましみたいな顔していらっしゃいますし〜」

「ははっ。お前ら、人の事言えんのかよ」

「「「言えますわよ!」」」


 このクラスになってから二週間が経ち、飛鳥と左右ウイングが繰り出してくる、嫌みの嵐にも大分慣れてきた、今日この頃。

 飛鳥は一人娘でお金持ちでかなりの美人という要素が絡み合って、かなり高飛車な性格だ。

 この高飛車お嬢様をどうにかする事はできないのか。


 それができないんだよ。


 鳳仙院グループは、神凪カンパニーの大株主という上下関係がある。故に、俺はなかなか飛鳥に仕返しが出来ずにいる。


「飛鳥」

「なんですの?」

「バーカ」


 親父、お前は常に首の皮一枚なのだよ。ハハハハハ。


「楓ーっ!」


 ふと、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


「あ、真琴じゃん。どうして今朝は起こしてくれなかったんだ?」

「今日は朝練だから起こせないって言ったでしょ! だからあれだけ、目覚ましかけておけって言ったのに!」


 と、席替えをする前は俺の隣の席にいた口うるさい彼女は、小学校以来の付き合いである幼なじみ、稲瀬真琴いなせまことだ。

 茶色いツインテールの髪と、怒っていても可愛く見える容姿を持つ学園マドンナの一人。

 彼女も飛鳥同様かなり告白をされていて、と言っても飛鳥はあくまで噂なのだが。この十六年間の人生で、告白してきた男子の数は十を越える。

 特技は新体操で、去年インターハイでベストフォー入賞を果たした実力者だ。


 しかし、そんな人生の成功者に見える彼女にも、欠点がある。

 それは、彼女の家庭がかなり貧乏だという事。


 そのため真琴の母親である稲瀬日和いなせひよりは、真琴を玉の輿に乗せようと、必死に俺と真琴をくっつけようとしてくる。

 まあそんな事はどうでもいい。問題は、超貧乏人の真琴が、何故、この月百万もの学費がかかる学園に入学できたかという事。


「過ぎた事をとやかく言っても仕方ない。問題は次、次にどうするかだ」

「何よその無駄な前向き精神は……」


 それは俺の親父が学費を肩代わりしてくれているからだ。


「楓さま」


 今度は廊下から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

 教室の扉に視線を移すと、そこには茶色く軽いパーマのかかった長髪。そして左耳の上にある髪止めがアクセントとなって、美しいながらにも可愛さを見せる美少女と、黒い長髪を後ろで纏めるポニーテール姿の美少女が立っていた。


 冷たい声で俺の名前を呼んだ少女の名前は綾小路時雨あやのこうじしぐれ。三年生で、聖蘭学園の生徒会長を勤める。

 彼女の容姿、スタイルなど、美人の要素全てにおいて人類のトップクラスに位置していて、間違いなく学園一のマドンナと呼べる存在だ。


 そして時雨の隣にいる少女は時雨と同じ三年生で、時雨の親衛隊長を勤める、酒城花音さかきかのん。彼女も咲蘭同様、クールビューティーという単語が似合う美少女だ。

 しかし恐ろしいことに花音は、常に日本刀を腰にぶら下げている。


 本当に切る気は無いとは言ってても、身構えちゃうよな。


「楓さま、明日の昼休みは、空いていますか?」


 時雨は低い声で、冷たく言う。

 何者をも寄せ付けない氷の生徒会長。それが時雨についているあだ名だ。


「昼休みは空いてるが。どうしたんだ?」

「本当ですか〜?」


 今、にぱーっと笑った時雨から発せられたのは、氷の生徒会長とは程遠い間の抜けた声。


「ゴホンッ! そうですか。それなら少し生徒会関係の仕事を手伝っていただきたいのですが」


 しかし時雨は、一度咳払いをしてごまかした後、すぐに氷の生徒会長へと戻った。


 俺と真琴は時雨の事情を知っているので驚かなかったが、事情を知らない飛鳥と慎吾は不思議そうな顔を浮かべている。

 そして咲蘭は、事情を知っているのか知らないのか、とにかく無表情なので何も読めない。


キーンコーンカーンコーン


 授業開始を報せるチャイムが鳴った。


「分かった。真琴も手伝うってさ」

「誰も言ってないわよ!」

「ありがとうございます。ではまた」

「ちょっと時雨さん!?」


 言って時雨と、その横にぴったりと付いている花音は、真琴を無視し、颯爽とこの教室を去っていった。


「生徒会長……なんて美しいのかしら……」

「どうして神凪の所には美女が集まるんだ」

「あんな問題児のどこがいいんだよ」


「凄い嫉妬の嵐だな、楓」

「ん、何がだ?」


 慎吾は意味深な言葉を言い、そのまま前を向いてしまう。


 そして間もなく、古文担当の教師が入ってきた。


「さあ古文を始めるザマスよ。席につくザマス」


 古文を担当するのは、このクラスの担任でもある、ザマス斉藤だ。

 ザマス斉藤というのはあだ名で、本当の名前は……。


 本当の名前は……。


 名前は……。


「咲蘭、名前は?」

「鮎川咲蘭です……」

「違う違う。あいつの名前は?」

鮎川源一郎あゆかわげんいちろうです……」

「理事長の名前でもなくてさ。あいつだよあいつ」

神流静流かんなしずるです……」

「あ、そうか。思い出した」


 そんな神流静流ことザマス斉藤は、語尾がおかしい割には全く面白くない教師だ。


「やんごとない。は、高貴な。という意味ザマス」


 古文以上に眠気が襲ってくる教科が他にあるだろうか。

 加えてその古文を担当するのはザマス斉藤。


古文、プラス、ザマス斉藤、イコール……。



「Zzz〜」



 居眠り。



キーンコーンカーンコーン


 チャイムという名の目覚ましが、俺を現実世界へと引き戻した。


「楓さん!!! 真琴さん!!!」


 起きたと同時に聞こえてくる怒鳴り声。


「何だよ飛鳥、右、左。朝っぱらから騒々しいな」

「授業中に居眠りするなと。何回言ったら分かるんですの! しかも今は朝ではなく昼休みですわ!」

「右ではなくて三岸!」

「私は佐古木!」


「え、俺、二時間またぎで寝てたのか?」


 道理で眠気がすっきりさっぱり晴れている訳だ。


 俺は一度大きく伸びをしてからクラス内を見渡してみる。

 窓際の一番前に座る真琴も寝起きの顔をしていて、大きな欠伸をしながらこっちに来た。


「真琴さんも居眠りしてましたわね。罰として二人には放課後、教室の掃除をやってもらいます」

「やれやれ〜」

「罰ですわよ〜」


「嫌だ」

「嫌よ。居眠りしただけで掃除なんて、お断りよ」


 掃除は清掃業者を雇っているので、本来はする必要の無い仕事だ。

 それをやれと言うんだから、飛鳥は頭が悪いとしか思えない。


「あなたたちがなんと言おうと、これは決定事項ですわ」

「残念でしたわね〜」

「ではこの学園のお掃除、頑張って下さいねえ〜」

「「「オーッホッホッホ」」」


 飛鳥と左右はそう言い放つと、高笑いと共に教室を出ていった。


 いつも通りの光景なので、俺、咲蘭、真琴、慎吾の四人は何事も無かったかのように机をくっつける。

 真琴は普通の弁当箱を、慎吾と咲蘭はいかにも高級そうな重箱を。そして俺は、鞄からメロンパンを取り出した。


「じゅるるる……」


 メロンパンを口にする俺。

 そんな俺を見る真琴の目は虚ろになり、そして口元はナイアガラと化した。


「稲瀬、口がナイアガラになってるよ」

「はっ!」


 慎吾に言われてはっと我に帰る真琴。

 それを見た俺は、さらに美味しそうに。嫌みったらしくメロンパンを頬張る。


「じゅるるるるるる〜」


 このままでは真琴はお嫁にいけなくなるので、俺は鞄からメロンパンを一つ取り出し、彼女に与えた。


「わーい」


 箸を置き、直ぐさまメロンパンに噛り付く真琴。

 そう。何を隠そう稲瀬真琴こと彼女は、好きすぎて性格が変わってしまう程メロンパンが大好きなのだ。

 真琴いわく、朝昼晩どころか、一生メロンパンだけを食べ続けていても大丈夫よ。


「楓、もうないの?」

「太るぞ」


 メロンパンを与えてから僅か十秒足らずで完食する真琴の台詞は、いつも決まってこれ。

 そんな真琴に返す俺の返事は、いつも決まってこれだ。


 と、メロンパンを食べた俺は喉が渇いたので、鞄から飲み物を出そうとした。

 しかし−−。


「あ、飲み物入れるの忘れてた」


 鞄の中を何度も手探りで探してみるものの、やはりジュースは入ってなかった。

 確かに朝、飲み物を入れた記憶は全く無かった。


「ちょっと買いに行ってくる」


 俺はそう言って教室を出た。


 廊下を歩く俺の耳には、ウフフフフ。オホホホホ。そんな笑い声ばかりが入ってくる。

 階段を下りて昇降口近くにある自販機へと向かう。

 いくら超一流学園だからと言って、なにも自販機を必要しないなんて事は一切無く、さすがに自販機の一つや二つくらいはある。


 と言いつつも、やはり自販機の需要性はあまりない。

 昼休みと言ったら、自販機が最も混雑する時間帯。そんな時間帯でさえ誰も並んでいなく、すんなりとジュースを買うことが出来るのだから。俺としては有り難いが、とにかく需要が無いという事だ。


ピッ


ガコン


 俺は右の自販機で、マンゴージュースを買った。


「キヒヒヒヒ。俺の好きなフルーツは、みーんな液体になって飲まれる運命なんだよ」


 固体のままで食べられず、さぞ悔しかろう。さぞ悔しかろう。



「楓……君……?」


 楓……。


 君?


「楓君だよね……?」



 俺は、その人の顔を見るべく振り返る。



 が−−。



「お、お前はっ!?」


 −−なんとそこには驚くべき人物が立っていたのだ。


 自販機を見ながら笑みを浮かべていた俺。そんな俺の後ろから聞こえてきた、あどけない少女の声。

 俺が振り向いた先にいた少女はいったい誰なのか。

 そして目玉焼きにケチャップをかける俺は間違っているのか。




次回に続く。

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