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それではみなさま、【初代地球王】の続編、
【プリンセスひかりのぼうけん】―――剣も魔法も使えないけど、魔法並みの銀河技術と超財力でわたしTUEEEになってしまったプリンセスのおはなし―――
をお楽しみくださいませ。
一応一日一回ほどの投稿を予定させていただいておりますです……
ひかりちゃんは十四歳になった。
おかあさんが十四歳だったときと同じく、もはやDカップである。
みんな銀河技術のおかげだと思っているが、マジ自前である。
おとうさんとおかあさんはいまだにお互いでれでれなので、弟と妹はもう十人もいる。
六年前に光輝おとうさんが国連から「キング・オブ・ジ・アース・ザ・ファースト(初代地球王)」などというトンデモな称号を頂いてしまったため、ひかりちゃんもプリンセスと呼ばれるようになって驚いたが、それにももう慣れた。
今ではひかりちゃんたち三尊家のみんなは、地球王領地である森の惑星の別邸で暮らしている。
人工天体である森の惑星は直径が一千キロメートルもある。
太陽を挟んで地球のほぼ反対側の軌道にあるため、地球からは十六光分ほど離れていた。
だがもちろん、地球上のリスの森の邸とは銀河技術の産物である重層次元経由の空間連結器で結ばれているので、すぐに移動することが出来る。
実際にはふつーのドアのように繋がっているだけのために、ほとんど同じ家の中を移動しているようにしか思えない。
単に外の景色が変わるだけである。
この別邸は森の惑星の中の家族専用階層に建てられていた。
他にもおとうさんのお友だちさんたちの専用階層がひとつあるが、やはり直径一千キロメートルの球体状の階層をまるまる全部使った壮大な環境である。
まるで王国の貴族の領土である。
まあヒューマノイドの領民はいないけど。
ひとつの階層の広さは三百万平方キロを超える。
これは日本の陸地面積の約八倍である。
その高さも、他の一般階層の倍で二キロメートルもある。
もちろん海も山も川も湖も高原もあった。
それも銀河技術を駆使したおかげで、地球の自然とまったく区別がつかない美しい自然環境である。
天井はすべてバーチャルスクリーンで、実にリアルな青空や夕焼けや星空を映すことが出来る。
昼の照明は、太陽光集光衛星から空間連結器を通って届けられる実際の太陽の光であった。
以前、天井一面のスクリーンで3Dアニメを上映してもらったのだが、二キロ上空のスクリーンに全長百キロのモンスターが映ったときに、小さな子供たちが超大硬直したのですぐやめた。
みんなあまりの恐怖に泣くことも出来ず、ただただ固まることしかできなかったようだ。
ひかりちゃんは、そのときの子供たちの、全員揃って歯を食いしばったまま唇をめくり上げていた顔が忘れられない。
いつか見たチンパンジーと完全に同じ表情だった。
その後、少し年長の子供たちの間で、映像ではなく実際に妖精型やドラゴン型のドローンを作ってもらって空に飛ばせるのが流行った。
もちろんプチAIが搭載されているのでお話し相手にもなってくれるし、一緒におやつを食べることも出来る。
彼らは普段はふわふわと空を飛んでいたりするので、実にファンタジーな光景である。
だが……
六年生になるひかりちゃんの弟の光司くんが、担当のAIさんに頼み込んで全長百メートルのモスラドローンを作ってしまったのである。
光司くんはドヤ顔でモスラの頭の上に乗って飛んでいる。
まあ重力コントロール技術のおかげで飛ぶのは簡単だし、光司くんの体は専属の防衛AIがクラス5もの遮蔽フィールドで覆ってくれているので、たとえ落ちたとしてもまったく問題は無いだろう。
クラス5の遮蔽フィールドともなれば、成層圏から落ちたとしてもなんの衝撃も無い。
戦車の砲弾が当たっても何も感じないというほどのシロモノである。
もちろん高熱からも守られる。太陽の中ですらしばらくなら平気である。
光司くんがモスラドローンの初飛行を楽しんでいたその日、たまたま三尊研究所や瑞巌寺の幹部さんたちの奥さん方が、三尊邸に集まって親睦会を開いていた。
その中でただひとり窓に向かって座っていた麗子さんが、その頭に光司くんを乗せて悠々と空を飛ぶ巨大モスラを見てしまったのである。
「んげげげぇぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!」
相変わらずびっくりしたときの麗子さんの叫び声は少々オカシい。
普段クールビューティーで清楚な麗子さんだけに余計にオカシい。
奈緒おかあさんは思わず笑ってしまった。
以後、大怪獣は禁止されている。
だが、ときおり光司くんが体長二メートルほどのゴジラ型ドローンやキングギドラ型ドローンと一緒に、庭のテーブルでジュースを飲んでいたりするので油断はできない。
キングギドラ型ドローンの前には、三つの首たちがケンカしないようにコップが三つ置いてあったりする。
どうやら元は三体の通常型のドローンで構成されているようだ。
光司くんは密かに一般階層に大怪獣を侵入させるという野望を抱いていたらしかった。
その試みが察知されて不発に終わると、今度はハプニングなんでもありのびっくり階層を作ってもらおうとして、おとうさんにおねだりしているようだ。
実はおとうさんもけっこう乗り気なのでみんな警戒している。
やはり血は争えないのか……
この家族専用階層は、家族と家族のお友達以外は誰も入ることのできない閉鎖階層である。
たまにパパラッチや野次馬たちが、英雄光輝一家の自宅を撮影しようとして、地球に何十カ所かある家族専用の空間連結器に侵入することがある。
そうすると、彼らはAIによって自動的に振り分けられ、侵入者撃退用スペシャル階層の魔王城のまん前に出現することになるのである。
そのスペシャル階層には、暗い空に常に雷が光る実にリアルな恐ろしい風景が広がっている。
そうしてドラゴンやら猛獣やらの魔物の姿をしたドローンたちに追い回されて、泣きながら魔物の森を逃げ回るのである。
特に五メートルから二十メートルクラスの大蜘蛛や大蛇や大ムカデ型の魔物ドローンは強烈に恐ろしいらしい。
最後には優しいゴブリンドローンの一家に助けられて、ご飯をご馳走になったりもする。
そうしてゴブリンのおとうさんに諭されるのだ。
「人族がこんな魔物の森に来てはいかんのう。命がいくらあっても足りんぞ」
「お、お助けくださって、あ、ありがとうございます……」
「仕方がない。これから魔王城のモスラ様のところにお願いしに行って、魔法の扉を出して頂くとするか……」
「も、モスラ様???」
侵入者たちは、そうしてゴブリン一家に連れられて再び魔王城に戻るのだが、その城の上にはあの全長百メートルのモスラがいるのである。
そうして魔物たちが周りを取り囲む中、ゴブリン一家と一緒にモスラ様にひれ伏して魔法の扉を出していただき、ようやく地球に帰って来られるのだ。
もちろん彼らのカメラのデータは全て消去されている。
もしもひれ伏さずにモスラ様を撮影してたりすると、怒ったモスラ様が羽ばたいてみんな吹き飛ばされてしまう。
可哀想に家族階層を追い出されてしまったモスラドローンも、こうして再就職先を見つけていたようだ。
光司くんも、このスペシャル階層で可愛い子分のモスラドローンと無事涙の再会を果たした。
光司くんはそれからもたびたびこの階層にやってきては、楽しそうにモスラのアタマの上に乗って飛び回っているそうである。
小学校の授業で「学校が終わってからどんな遊びをしているか」という発表があったのだが、光司くんは「モスラに乗って飛んでます」と発表したために、心配した先生に保健室に連行されてしまったらしい。
それ以来クラスのお友達も大勢このスペシャル階層に遊びに来るようになった。
先生もモスラと仲良しになって、モスラの好きなジュースをお土産に持って毎週遊びに来るようになっている。
子供たちに大の人気者になったモスラも実に嬉しそうである。
大蜘蛛や大蛇や大ムカデたちも、子供たちを乗せて超高速で走り回ってくれるので意外に人気がある。
彼らも他の連中より高速で走って自分だけ子供たちにウケようとして、密かに自分の体をチューンアップしているため、その速度はトンデモらしい。
因みに、地球人のごく一部には、「英雄光輝魔王説」とか「実はモスラだった説」とかがあるのだが、幸いなことに誰にも信用されてはいないようである。
この森の惑星、通称セカンドアースには、それ以外にもふつーの地球環境の一般階層が全部で三百五十もある。
農業・漁業専用階層は高さ百メートルほどで三百階層ある。
それらの総面積は地球の全陸地面積の十倍を超えているので、スペース的には十分な余裕があった。
こうした一般階層は、地球人や銀河の人々やAIさんたちにも開放されており、多いときには五十億人ほどのヒューマノイドとAIさんが休暇を楽しんでいる。
マリンスポーツ用にほとんど海と島だけで構成されている亜熱帯階層や、ウインタースポーツ用に山岳地帯で構成されていて雪も降る亜寒帯階層もある。
因みに、予想とは違って銀河のヒューマノイドはほとんど地球人と同じ姿をしていた。
これは、太古の昔に銀河中心部で発生したヒューマノイド型生命の元となるアミノ酸が、次第に銀河周辺部に伝播していったからだと考えられている。
よってヒューマノイド以外の動物もけっこう似ているものが多い。
そうして銀河中心部に近い程、その文明の歴史は古く科学技術も発達していたのである。
その居住惑星の重力の違いにより、若干の体型の違いはあったが、それでも見た目では地球人か銀河人かの見分けはほどんどつかなかった。
その身体機能もバイタル値もほとんどおなじだった。
銀河中心部で発生した文明が主導して、五十万年ほど前に銀河連盟が発足している。
この連盟の中心的役割は、すべて恒星間戦争を回避することであり、各惑星は原則として攻撃用の軍備を放棄することで連盟に加盟できる。
保有できるのは巨大隕石などから惑星文明を防衛するための惑星防衛軍のみである。
その代りに銀河連盟は強大な銀河連盟合同防衛軍を作り、銀河全域の恒星間戦争を抑止している。
大昔、銀河連盟法典に違反して恒星間戦争を企図した恒星系に対して、その恒星系自体を遮蔽フィールドで封じ込めてしまうといった措置も取られたことがあったそうである。
こうして長らく平和が続いてきた銀河世界では、技術文明は絶頂を極めつつあった。
あまりにも技術が進んでいたために、もはや経済競争すらも起きにくくなっている。
超絶的に進んだ科学技術の下では、その経済力は単にその恒星系の保有する資源の量によって決まってしまうからである。
その代わりに重視されていたのが倫理度であった。
銀河連盟加盟のための条件として、その惑星文明独自の技術水準と倫理水準が基準にされているほどである。
以前の地球は、技術水準も倫理水準も遥かに連盟加盟水準に及ばなかっただけでなく、倫理水準が商取引水準にも及んでいなかったために、多くの銀河商人たちも地球を訪れて商取引をすることすら出来なかったのである。
十年ほど前に、銀河商人であるアレックくんとそのAIであるディラックさんとソフィアさんの乗る宇宙船が、故障事故を起こして地球に不時着した。
そのとき、やはり光輝おとうさんを助ける霊の一人であるお堂さまのお導きで、おとうさんに紹介されたのである。
そうしておとうさんから多くの各種資源の援助を受けたのだ。
そのときからちょうど五年ほど前から、光輝おとうさんは、その友人の僧侶さんたちや守護者であるお釈迦様の御光の助けを借りて、地球上では霊と呼ばれる存在を組織していた。
そうして彼らの絶大な力を借りて、世界各国のためにその国の反社会的勢力を暴力を使うことなく壊滅させていっていたのである。
おかげでディラックさんとソフィアさんが遭難して助けを求めて来た時点で、地球の倫理水準が銀河商取引水準に到達していたのであった。
大いに喜んだディラックさんは、その莫大な援助を返済するために、光輝おとうさんに商取引の専任代理人契約を申し入れたのである。
その後にあの超巨大放浪惑星が地球に接近しつつあることが発見されたのだ。
それは質量にして木星の三十一倍、地球の約一万倍という恐るべき大脅威であった。
それだけの質量があれば、太陽系内を通過しただけで全ての惑星の軌道が狂い、地球は良くても大氷河期、最悪の場合太陽系から弾き飛ばされて絶対零度の死の星になってしまうと予想されてしまったのである。
その大脅威物体の太陽系通過は十六年後であり、その近日点通過から三十年後には地球の軌道離心率は〇・六、地表の最低気温はマイナス二百度となってしまう。
地球上のすべての生命が絶滅の危機を迎えていた。
その際に、光輝おとうさんはディラックさんから購入した銀河技術の産物を地球人に売りまくり、その莫大な利益と銀河技術をつぎ込んで脅威物体迎撃システムを作り上げたのだ。
この迎撃システムによる壮絶な脅威物体破壊攻撃は、恒星間戦争を監視する銀河連盟合同防衛軍の警戒網に触れることになった。
そうして急遽駆けつけた連盟防衛軍の力も借りて、残存脅威物体を排除し、地球の全生命を救うことに成功していたのである。
このニュースは銀河全域に配信された。
技術水準僅か三・五の未開星の一個人が、銀河連盟加盟星ですら連盟合同防衛軍に援軍を求めるレベルの大脅威物体と果敢に戦い、八十億もの同胞ヒューマノイドの命のみならず、惑星全ての生命をも救ったのである。
この超絶的大快挙はすべての銀河人たちを壮烈に感動させた。
そして光輝おとうさんは、英雄KOUKIとして銀河全域にその名を知られる存在になっていたのである。
当時六歳だったひかりちゃんも、そのときのことは鮮明に覚えている。
併せておとうさんは、ディラックさんとの取引の利益の一部で、大氷河期に備えて地球の全人口を収容可能なシェルターも作り、もちろん八十億人が百年間生きていけるだけの資源も食料も用意していた。
百年とは、ディラックさんが発していた通常空間救難信号が、百光年離れた位置にあった信号中継装置に届き、重層次元を通じて故郷星から救助隊がやってくるであろう時までの期間である。
光輝おとうさんは、そのときに地球の軌道を修正してもらうための代価としても、膨大な量の資源を備蓄していたのだ。
そのために買ったり開墾したりしていた鉱山や農場が、危機克服後にも莫大な利益を生み出してしまっていたのである。
地球独自の技術水準では銀河連盟加盟水準にまだ遠く及ばず、地球は銀河連盟には正式加盟出来ていないため、ディラックさんたちと光輝おとうさんの専任代理人契約はいまだに有効である。
つまり地球人は、銀河の法律により、銀河技術の産物を購入するときには必ず三尊光輝氏とディラックさんを通さねばならないのである。
この取引もまた、光輝おとうさんの資産を増やし続けている。
さらにおとうさんは、国連の委託を受けて銀河技術による小惑星帯の資源採掘事業も始めたのだが、これがまたとんでもない量の潜在可掘資源が発見されてしまったのだ。
まあ元は太陽系第五惑星だったとされる小惑星帯である。
その岩塊の数、総体積ともに膨大であった。
そうしてその二十%もの部分が鉱石だったのだ。
しかも、ほとんどの鉱石が素晴らしく品位の高い鉱石ばかりである。
太古の昔に、惑星が何らかの理由で分解されて小惑星帯になってしまったときのエネルギーで、ほとんどの岩石が一度は溶融するという疑似精錬を経たからだと考えられている。
因みに重金属資源価格は地球と銀河宇宙とではおおよそ一千倍の違いがある。
銅十キロは地球では三千円ほどだが、銀河宇宙では一般的な人々の半年分以上の収入に匹敵しているのだ。
鉄より原子量の多い重金属は、太陽の大きさがある一定の条件を満たした場合の超新星爆発の中でしか作られないため、銀河宇宙では大変な貴重品である。
だが太陽系が出来た五十億年前よりも前の時代には、その辺りで大規模な超新星爆発が相次いでいたらしく、地球にも小惑星帯にも実に重金属資源は豊富だったのである。
実際には六十億年ほど前、ほぼ同時期に起きた二つの超新星爆発がぶつかり合って、その結果現在の太陽系の元になる物質が形成されたものと考えられている。
故に火星にも金星にも重金属資源は実に豊富に存在する。
将来はこれらの惑星の資源開発も三尊研究所に委託されることになるだろう。
こうして、地球のすべての鉱山の二十%ほどを所有し、小惑星帯の鉱脈の四十%を実質所有する光輝おとうさんの資産は、更にトンデモなものになってしまったのである。
光輝おとうさんは、これらの資産をみんなのために必死になって使っている。
銀河の星々のうち、気候変動で森が無くなってしまったお気の毒な星には、直径百キロもの大きさの森林惑星を作ってもう三万個もプレゼントしていた。
その森林惑星に植える木を育成するために、太陽系に直径一千キロ級の苗木生育用の人工惑星を自費で五つも作った。
現在ではそのうちの最初の一つ、通称セカンドアースに家族や友人の邸が建てられているのである。
その他にも、銀河宇宙で自然災害によって避難を余儀なくされたひとびとの避難施設としてや、銀河全域からの研修生受け入れ施設や、銀河の人々のリゾート施設として使われている。
もちろん避難所での生活や研修の費用は全て無料である。
この研修とは、座禅の奇跡の効果を認めた銀河連盟の要請により、森の惑星瑞巌寺別院の超巨大座禅場で行われている座禅研修のことである。
どうやら英雄光輝の奇跡の御光を浴びながらの座禅は、格別の効果があるようなのである。
AIにとっても座禅は素晴らしい効用があったので、AIたちもこれに参加していた。
さらにAIたちには追加で、「謦咳」研修も行われている。
この「謦咳」とは、あの大脅威物体から地球を守ろうとしたときの功績で、銀河AI組合連合から「閣下」としての称号を授与されているディラックさんとソフィアさんが、そのときの経験を他のAIたちに電子的に分かち与えるものである。
その経験とは、光輝おとうさんやその仲間たちにあまりにも愛されたが故に、その命と引き換えに愛する地球のヒューマノイドを救おうとした二人の英雄AIの至上の経験であった。
特に二人のAIと光輝たちヒューマノイドの相互愛は、その「謦咳」を通じて銀河のAIたちに電子的に伝授され、すべてのAIたちを大感動させている。
おかげで地球での研修を受けた銀河のAIたちの能力も熱意も格段に上がる。
それは銀河連盟発足時の中心メンバーであり、かつ全銀河のAIの守護神たる惑星ファサードのAI技術院すらも感動させ、銀河連盟を通じて全てのAIたちに推奨される研修になっていた。
特にAI学校に通うAIの子供たちには必修の研修である。
ただまあ、副次的にというか副産物というか、「愛の謦咳」を受けたAIたちは、一時的にディラックさんやソフィアさんに対して強烈な思慕の感情を抱いてしまうのである。
時間が経てば、それらはヒューマノイド全体に対する愛に昇華していくのだが、それでも一時的に両閣下を心から思慕した記憶は残ってしまうのだ。
おかげで、「月刊ディラックさま通信」や「月刊ソフィアさま通信」は、全銀河300兆のAIたちの間でスーパーテリオンセラーになっている。
こうした研修への返礼として銀河世界からは大量の技術が供与され、地球人の幸福度は跳ね上がった。
もう地震も火事も交通事故も無い。
犯罪すらほとんど起こせなくなってしまった。
その功績は第三次世界大福音と呼ばれていた。
あの大脅威物体から地球を救った功績は、第二次世界大福音と呼ばれている。
それ以前、ひかりちゃんが生まれたころにも、光輝おとうさんはその後上方で見守ってくださっているお釈迦様の治癒の御光で、世界一億人ものがん患者さんの命を救っていたのだ。
これは第一次世界大福音と呼ばれている。
これらの超トンデモな功績のせいで、とうとう光輝おとうさんは国連から「キング・オブ・ジ・アース・ザ・ファースト(初代地球王)」という称号を頂戴し、ついでに人工惑星の領有権も認められてしまったのである。
まあ、権力も義務も伴わない名前だけの称号だったが、どうやら国連もそれ以上の顕彰を思いつけなかったらしい。
他にも地球上のすべての国からその国の最高勲章を頂いていた。
ノーベル平和賞も二回頂いている。
だが実は光輝おとうさんには、こうした超絶的な功績を為した際に、自分が努力したり苦労をしていた自覚が全く無かったのである。
単に座禅を組んだり、お気の毒な銀河の遭難者を少し助けたぐらいのつもりしか無かったのだ。
あの大脅威物体迎撃の際にも、必要な資金は豪一郎さん率いる営業部隊が銀河技術を地球人に売りまくって用意してくれた。
その資金で厳上おじさん率いる資源買付部隊が莫大な資源や食糧を買い集めてくれた。
それに、それらの資源を使って迎撃システムを作ってくれたのはAIのディラックさんである。
実際の攻撃ですら防衛AIのソフィアさんが司令官だったのだ。
つまり、光輝おとうさんは最初にディラックさんたちを助けたことと、専任代理人契約を結んだ以外はほとんどなにもしていなかったのである。
よって光輝おとうさんは、その超莫大な財産を見るたびに、良心がチクチクと痛んでいたのだ。
光輝おとうさんは、またもやお友達さんたちの助けも借りて、それからは必死で努力して地球や銀河宇宙の為におカネを遣い続けた。
だが、その懸命な努力にもかかわらず、その資産はどんどん増えてしまっているのである。
大危機以前にも、光輝おとうさんは地球のチョコレートとコーヒーが大好きだったディラックさんやソフィアさんのために、それからシェルターで暮らす予定のひとびとのために、膨大なカカオ農場とコーヒー農場を買っていた。
実際には地球のそれら農場の三分の一ほどは光輝おとうさんの所有である。
そのチョコレートやコーヒーは、今や地球の銀河宇宙への主要超高級輸出品なのである。
両者の物価水準があまりにも違いすぎるため、銀河宇宙でも超お金持ちしか買えないが、それでも銀河宇宙は広大である。
なにしろ連盟加盟星は五百八十万もあるのだ。
ヒューマノイドは数千兆人もいるのである。
それに加えて、地球のみんなに美味しいマグロやうなぎを食べてもらいたいといって、直径一千キロの人工惑星の二つの階層をまるまる海にしてそれらの養殖を始めてみたところ、銀河技術のおかげでこれにも大成功したりもしてしまっているのである。
二百キログラムを超える天然マグロは百万円以上していたのだが、これが三億匹ほど力いっぱい泳いでいるそうだ。
うなぎの数に至っては数えることすら恐ろしいほどらしい。
さらにこれらの漁業資源は銀河中に超高級食材としての輸出も始まってしまったために、また資産が増えてしまっているのである。
光輝おとうさんは、もはや自分の資産がいくらあるのかわからなくなっているようだ。
あるときひかりちゃんが、おとうさんのいる前で、三尊研究所の資産管理担当である厳上おじさんに資産の額を聞いてみたことがある。
厳上おじさんは、冷静に言っていた。
「たぶん、地球のGDP総額の五年分よりは少し少ないぐらいだと思われます」
光輝おとうさんは、「少ない」という部分だけ聞いてほっとしているようだった。
たぶんGDPという言葉の意味を深く考えていなかったのだろう。
ひかりちゃんはそっとため息をついた。
しかも、重金属価格を基準にすれば、銀河宇宙と地球の物価の差は一千倍もあるのだ。
つまり光輝おとうさんの資産は、銀河基準で考えれば平均的な銀河の惑星のGDPの五千年分もあったのである。
おカネ持ち過ぎて笑える。
こうした驚天動地の家庭環境の中でも、驚くべきことにひかりちゃんやその弟妹たちはマトモに育った。
まあ、資産が有り過ぎるとそういうものなのかもしれない。
それにおかあさんの影響も大きかったのだろう。
奈緒おかあさんは、昔高校を卒業したころ、幼馴染で大好きだった光輝お兄ちゃんに、
「わたし、光輝さんとその赤ちゃんがいれば他にはなんにも要らないの。
お願いですからいつかお兄ちゃんの赤ちゃんを生ませてください……」
と告ったことがあるそうなのだが、その後の生涯は本当にそうだったのである。
まあそれにしてもなかなかにキョーレツな告白である。
ひかりちゃんは、おかあさんが自分の為に贅沢な買い物をしているところを見たことがなかった。
おとうさんが喜ぶからと言って、いつもヤタラにセクシーな下着を買いこんでいるだけである。
小さかったころのひかりちゃんは、そういう下着が標準なんだと思い込んでいて、おかあさんとおなじような下着を買ってもらっていた。
そうして小学一年生の時の体育の着替えで、極小Tバックショーツとガーターベルト姿になり、先生を壮烈に驚かせてしまったことがあったのだ。
ひかりちゃんはそのときのことを思い出すと未だに顔が赤くなる。
妹たちもみんなそのテの下着を身につけているが、ひかりちゃんは「何事も経験だから……」と言って黙っている。
三つ年下の妹の美輝ちゃんは、どうやら今でも極小Tバックらしい。
去年初めてブラを買ってもらっていたが、おかあさんとおそろいで、色は黒で極薄レース製のブラだったそうだ。
寝る時もパジャマではなく、これもおかあさんとおそろいのスケスケのネグリジェである。
小学校の修学旅行のときも夜はその姿で過ごしていた。
クラスのリーダー格の美輝ちゃんがそんな下着を着ているものだから、瑞巌寺学園初等部の女の子たちの間でもそういう下着が大流行しつつあるらしい。
スーパーセクシーランジェリー小学生が大増殖中だそうである。
奈緒おかあさんは、高校卒業のときの言葉通り、光輝おとうさんの子を産むことだけには超熱心である。
おかげでひかりちゃんの弟妹はもう十人もいるのだ。
毎日夜になっておかあさんがおとうさんに甘い声を出し始めると、ひかりちゃんはいつもため息をつきながら、弟妹たちを連れてリビングに行って遊んであげていたものである。
妊娠したことがわかったときのおかあさんは、いつもものすごく幸せそうだ。
ひかりちゃんは、これほどまでにひとりの男性を愛することが出来るおかあさんを、同じ女性としてけっこう尊敬していた。
それにまあ、おとうさんの治癒の御光を浴びながら毎日エッチしているせいか、おかあさんは実に若々しいままである。
恐ろしいことに、ひかりちゃんから見てもせいぜい二十歳ぐらいにしか見えないのだ。
もともと実家のある地元の商店街では「菩薩の奈緒ちゃん」とまで呼ばれていて、その日常が本になっていたほど性格も良くて超美人のおかあさんである。
そのおかあさんがずっとそのときの姿のままでいるので、光輝おとうさんもたまらないのだろう。
おとうさんも黙ってさえいればけっこうなイケメンである。
おかあさんの体型はさらに変わらず、まるで高校生か大学生のようである。
どうやらおとうさんとの初エッチのときから全く変わっていないらしい。
あと五年経っても、ひかりちゃんのお姉さんぐらいにしか見えないだろう。
もちろんおとうさんも異様に若いままである。
誰がどう見ても二十代前半にしか見えない。
あと十年もしたらどうなるのか……
知らない人が見たら、ひかりちゃんはおかあさんのお姉さんと間違えられるかもしれない。
ひかりちゃんはそのときのことを考えて少しうんざりもしていた……
(つづく)