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lovely gift  作者: 無駄に哀愁のある背中
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サークル活動

人間っていうのは本能と理性の側面を持つ生物です。私たちの目の前に起こったことはどちらに依存するものなのでしょうか?

川崎駅に向かう電車に乗っている車中では彼女との出会いや付き合い始めを思い出す。出会ったのは大学二年生の春だった。

大学二年生になったことで最寄駅は日吉からは変わらないがキャンパスが矢上になり、専門的な授業は増えて、入っていたフットサル部にも顔が出せそうにもないと感じ始めていた。理系ではよくあることだった。新歓の飲み代は先輩が持つのが伝統である以上、俺も所属をしているならば払わないといけない。でも、どうせ出れないならと、勢いで部活をやめてしまったのだ。だが、体を動かしたい俺はサークルを探していた。すると、ワンゲルサークルというものを見つけた。総合大学である俺と彼女が属する大学では、日吉や矢上キャンパスを拠点とするサークル活動においては文理両方の学部の人々が入り混じってサークルに入っている。しかし、ワンゲルサークルは俺のような理系が二年生から入ってくることが多いことからか、理系が大半を占めている。他のスポーツ部とは異なり、そこまで忙しくなく、山岳部よりは活動も身体的に楽である。俺は友人の河合亮と一緒に所属することにした。ワンゲルサークルの初めての新歓会の様子は未だに覚えている。

みんなの手元にグラスが回り、いい感じで近くの人と話が出来るころになった時に、サークルの代表が立ち上がった。

「ええと、皆さん盛り上がってきたところ申し訳ないけど、これから自己紹介をしてもらいます! まあ、これからのサークル活動を一緒に過ごすわけだから簡単な自己紹介はして欲しいのでね。じゃあ、俺から! 俺はこのサークルの代表入江正雄です。理工学部・応用物理専攻の大学四年生です。うちの部活は月に一回の課外活動以外は借用願いを出している教室に自由に出入りするのが伝統だから、俺たち四年が卒研が忙しくなるまで、9月くらいまで幹部をやってます。よろしくー!」

その時になり、やっと俺は河合と話すのを止めて周りを見渡した。すると、その男女比に驚いた。先輩たちはほとんどが男、ちらほら女性はいるものの8割は男である。対して、新入生(一年生)と同学の6割程度は女子である。一体どんな新歓の誘いをしているのだろうか? まあ、文系女子は三年生から三田だから、先輩たちの比率はなんとなく頷けるが、この新入生の女子の多さは一体なんなのだろうか? そんなことを考えていると、四年生の紹介が終わり、三年生が自己紹介をし始めた。そんな中で、少し茶髪のボブくらいの髪の長さの女性がたった。

「えっと、理工学部・生命情報専攻の大野美咲です。ミサキとかミサキ先輩と呼んでください。私は生化学が専門なので、興味がある人とか是非聞いてください」

そう言うと、「ミサキ!」とか「ミサキ先輩」とか声を出す一年からワングルサークルいる人とか、先輩たちが言った。どうやら彼女はこのサークルのマドンナ的存在らしい。まあ、確かにはっきりとした顔立ちで、理系にいるのはもったいなくらいのちょっとやせ型の美人だった。彼女はその呼び声に微笑みながらすっと座った。すると、河合が俺の肩を叩いてきた。

「どうした?」

「綺麗! 惚れた」

面食いで、去年の文化祭のミスに対してもブスと言い放ったこいつにして珍しかった。まあ、俺はちょっと酒が入っていたせいか、オタクのサークルに入ってチヤホヤされた自己満足な女だろうと思っていた。今でもこれを彼女に伝えると、彼女はちょっと落ち込む。その飲み会の終盤で、割り箸クジが行われた。二次会のカラオケの部屋分けだ。俺が引いたのと河合が引いたのは別の番号だったので唯一の知り合いと別れ離れになってしまった。人前でカラオケをするのは嫌だったがものに流れがある。まあ、流されていくと彼女と同じ部屋だった。あとで、河合には羨ましいと言われまくったけど。彼女はaikoだったりSCANDALだったりと女性ポップアーティストを歌っていて、その間は先輩たちの相の手が入った。まあ、ちょっと面白かったのを覚えている。

カラオケが終わる頃には同じ部屋だった先輩たちも新入生もお酒に身を任せて執拗に彼女を口説いていた。彼女は途中から酒のフリをしてジンジャーエールを飲んでいたので、全く酔っていなかった。それに気がついたのは俺もジンジャーエールを飲んていたからだけど。

結局、誰も彼女をお持ち帰りすることはなく、彼女は彼女にとっても先輩である四年生を中心にタクシーに乗らせたり、帰りが同じグループを作らせて帰したりと慣れているようだった。気付いあたら河合もどこかのグループに混ざっていたのようで、彼女の手伝いをしていたもあって二人だけになっていた。

「えっと、誰だっけ?」

「あ、森山雄太です」

「家の方面はどっち? ここから結構距離ある?」

「あ、俺は一人暮らしなんで、武蔵中原に部屋を借りてます。なんで、歩いて帰れますよ!」

「あ、そう! 私も中原だよ、じゃあとりあえず武蔵中原駅まで歩きましょうか? 私もそのほうが心強いしね」

「あ、そうなんですか! 奇遇ですね。じゃあ、駅まで一緒に歩きましょう!」

俺は結局酒を飲んだのは一次会の1杯なので既に酔から覚めていていた。もちろん、彼女も酔っていなかった。にしても、やっぱり東京の空は明るい。俺は中学までは東京だったが、高校時代は父親の転勤の影響で山梨に住んでいた。で、大学生になってからはこっちに戻ってきて一人暮らしだった。夜の春風は涼しかった。

「そういえば、森山君は理系だったよね?」

「あ、はい!」

「そうだよねー! そうだ、森山君はどこ専攻だっけ? 大一の終わりに決めたでしょ?」

「俺は生命情報です! 大野さんも生命情報ですよね?」

「ミサキって呼んで欲しいな。あんまり大野っていうの苗字好きじゃないのよね。のっぺりしてて」

「あ、ごめんなさい。ミサキ先輩」

「うん、分かれば良し。そう私も生命情報よ。研究室は生化学系を希望?」

「いえ、決めていないんですよ……そのご参考になるので是非ミサ先輩から、いろいろ聞きたいです」

「そうねー、いいよ! まあ私も生化学ファンを一人でも増やしたいわけだし、私の研究室だったりのことは教えるよ!」

「ありがとうございます!」

「……せっかくだから、連絡先交換しておこっか? そのほうが教えやすいし、家が近いなら、一緒になることも多そうだしね」

「あ、じゃあ、是非お願いします!」

それから、連絡先を交換してから早かったなぁ……。いつもお酒があんまり飲めない俺と美咲は酒によった人の介抱やらをしていたから、すぐに仲良くなって、付き合いだす一か月前……大学二年の八月には美咲の当時の家に遊びに行くこともあったり、サシでカラオケ行ったりもしてた。まあ、このあたりには俺と美咲は仲良くなりすぎて、タメ語と性行為以外の観点では一緒だった。だって、彼女はカラオケでは大人数ではaikoとかを歌うけど、俺との時はマキシマムザホルモンとかワンオクとかをヘドバンしながら歌うし、家に行くと部屋着にメガネ、カチューシャオールバックだもん。そもそも他人を家に上げるのは親以外では俺が初めてらしいし、男の家に入るのも俺の家が初めてだったらしい。まあどんなに俺の前でリラックススタイルでも可愛いけど……改めて考えるとなんか照れるな。やっぱり、介抱とかの共通の苦労があると人が仲良くなるのは早い。

そして、九月。大学の夏休みが終わるちょっと前に、彼女に家に呼び出された。まあ、用は新作料理を作ったから食べに来て欲しいってことだったけど。その時の料理を食べたあとだった俺にとっての重要な瞬間は……。

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした!」

「いや、おいしかったです」

「よかった!」

彼女は食器を重ねて、キッチンに持っていった。シンク側に体を向けながら、話しかけてきた。

「そういえば、森山君って彼女とか彼氏とかいたっけ?」

「彼氏って、いませんよ」

「冗談よ。で、いるの?」

「高校は男子校だったし、地元に友達もいなかったんで、彼女は愚か女子の友人もいなかったです。まあでも大学一年の時はいましたよー」

「今はいないんだ? で、その子とはなんで別れたの?」

「いや、向こうが酒の勢いで飲み会終わりに先輩とセックスしちゃって、そのまま妊娠。で、できちゃった婚するからで別れました」

「それは辛いね」

「でも、付き合ったのは三ヶ月くらいだし、俺とはしてなかったので、正直未練はないっすね。先輩はいないんすか、彼氏?」

「いないよー! 人生でいたこともない。興味はあるから、外見とか料理とかはできるようにしたんだけど、音楽の趣味とか、こうやって部屋着だと幻滅されると思って距離おいちゃんだよね」

「ちょっと、先輩。それは俺のことを男としてみてないってことじゃないすっか?」

ちょっと悔しかったので行ったこの言葉が運命の言葉になった。彼女は食器を洗うのを止めて、手の泡を水で流し手を拭くと俺の方を向いた。

「そんなことないよ」

その言葉はまっすぐだった。下ネタも話せるくらい仲がよく、冗談も多かったふたりの間の言葉だが、そこの言葉はまっすぐだった。でも、次の瞬間、彼女はニヤニヤしだした。

「冗談よ。まあ、私を彼女にしたらこんな美味しいごはんを毎日作ってあげてもいいけどね」

俺は今しかないと思った。このこころに温まったこの気持ちを伝えるしかないと思って行った。

「じゃあ、作ってください! 俺のために!」

正直、笑われて流されると思った。

「……いいよ、その代わり材料費は入れなさいね!」

「えっ……OKってことですか?」

「……うん」

気持ちが最高潮になった。人生で一番の瞬間だった。

「でも、条件があるからね! デートは最低週一! 美咲って呼んで欲しい! それにタメ語で! 私もあなたのことを今日から雄太って呼ぶから、OK?」

「はい、ミサキせ……美咲!」

「うん!」

川崎はそんな風に付き合いだしてから、よくデートに行ったところだった。ほかにもセンター南や北、後楽園なども行ったが一番行ったのは川崎だろう。ちなみに二位は国立科学博物館附属自然教育園という理系っぷりだけど。気付けば、南武線はもう川崎駅に着く。俺は俺にもたれ掛かって寝る美咲を起こした。

私はこんな出会いをしたかったですね。

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