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lovely gift  作者: 無駄に哀愁のある背中
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同窓会

何かを間違えたのは確か

中学三年生の時のクラス同窓会。中高一貫校だが、親の転勤でその高校には行かなかった俺は、大学生になってから三年ぶりに彼らに会う。

俺以外は高校まで一緒だったわけだから、仲も良く付け入る隙もなく、当時は仲が良かったやつも二、三言を交わせば、ほかの友人の所に行ってしまう。だから俺は遠い席からボーッとみんなの様子を見ていた。

すると、その中に初恋の利根川優子がいた。中学一年生で好きになって、ずっと好きで連絡先も恥ずかしかったが聞いて、一時期は連絡をしてた仲だった。そんな甘酸っぱい思い出を頭に浮かべていると、目は勝手に彼女を追っていた。

「ぼっちじゃん」

笑いながら、話しかけてくれたのは、俺に同窓会の存在を連絡してきた、中学生当時は生物研究会で一緒だった井田登茂子だった。中学当時は口うるさい副部長と感じさせる彼女だったが、高校時代を男子校という別の学校で過ごして俺にとっては、今見ると随分と大人になって、色気というものを少し感じた。

「久しぶり、呼んでくれたのは嬉しいけど、予想通りぼっちだよ」

「ていうか、さっきからちょっと見てたら、自分から話の輪に入らないし、ただただ優子のこと見てるだけじゃない」

「別に、みんなの輪に入ってぶち壊すのが嫌なだけだよ。そんなことより俺はそんなに見てた?」

「見てるよ、さっきからチラチラあなたのことを見てるけど、いつも視線が上の空で、その視線を追うと彼女がいるんだもん」

「そっかぁ……にしても、井田は俺のことをよく見てるな」

「なっ……」

「あーあ、今日来た意味がなかったなぁ……」

「そんなことないって……ねぇ、話しかけないの?」

「え、だってみんな話してるし」

「違うってば、優子によ」

「うーん、いいかな。彼女は俺のことが多分嫌いだし」

「え、なんでそう思うの?」

「前さ、井田に通じて連絡先を交換したじゃん? で、連絡取ってたんだけど、いくらに連絡しても話が続かないし、デートの誘いに関しては無視だったしね」

「え、そうだったんだ……で、でもいいじゃん! せっかくいい大学入ったんでしょ? 見る目が変わってるって!」

「もういいよ」

「いや、行きなよ!」

「ちょ、なんで必死なんだよ」

ちょっと笑いながらそういうと彼女は少しの沈黙した。そして突然井田は口を開いた。

「行けよ! 行ってしまってよ!」

その声はあまりにも大きく、同窓会会場に響いた。全員がこちらを一瞬見た。俺はそんな目線に苦笑いを送りながら、声を発したあとにしゃがみうずくまった彼女の横にしゃがんで、背中をさすった。微かに彼女の泣き声が聞こえた。

「どうしたんだよ……大丈夫か?」

彼女はうずくまったまま、顔を向けずに言った。

「雄太が中学三年生時の三学期の終業式に私に言ったことを覚えている?」

「え?」

「あなたは私に微笑みながらこう言ったの。『なあ、井田。富山が呼んでるぞ! 式後、体育館裏だってさ!』」

「それが、どうしたんだよ。あれは富山が井田に告白するって言うから」

「私はね、悲しかったの。更には私には何にも言わずに勝手に外に出ちゃうし」

「どうしたんだよ、富山は学校一番のイケメンだぞ。まさか、なんか酷いことでもされたのか?」

「……違う。ねぇ、本当に気付いていないの?」

「……ごめん。わからない。だって、あの後井田と富山は付き合ったって聞いたし……」

「違うって! そんなことじゃない!」

井田は俺に顔を向けて、二度目の激昂をした。その後、立ち上がり駆けて外に出ていってしまった。俺たちの方を向いたほかの同窓会出席者の視線に俺は二度目の苦笑いを向けて、井田の後を追った。

井田は会場の入口をだたすぐのところでまたうずくまっていた。俺はまた彼女横にしゃがんだ。すると、小さな声で話しかけてきた。

「私がなんで富山と付き合ったか知ってる? それはね……彼があなたの忘れ物に思えたからなの。でも、今思えば自暴自棄になってただけだった。そのせいで大切にしてたはずの初めての何にも考えず捨てた。何にも残らない恋だった」

「……ほんとうにどうしたんだよ……」

「もう死んでよ……私の前から消えて……あの優子とかいうクソビッチの下にでも行けよ! で、ヤリまくればいんじゃないの!? あのクソ富山と同じようにさ! さあ行けよ、クソムシが」

彼女はそういうと涙でグチャグチャになった顔を俺に向けた。次の瞬間、大きな音が耳に響き、頬には痛みが走った。そのまま彼女は立ち上がり、駅の方に向かってまるで幽霊のように歩き出した。俺がビンタをされたことに気が付いたのはすこし後だった。それと同時に彼女の気持ちにやっと気が付いた。すると、足が勝手に動き出した。そして、すぐに彼女の背中に追いついて、抱きしめていた。我ながら恥ずかしかった。でも、抱きついた彼女は力がなく、本当に幽霊に抱きついている感覚のようだった。

「……離して」

「ごめん、今やっと気が付いた。本当に俺は馬鹿だよ。なんで、君を見てなかったんだろう」

「……離してって、あなたは私をどれだけ可哀想にしたの?」

「もう可哀想になんてしない。君を失いたくない」

「私がね、どんな気持ちであなたを同窓会に誘ったかわかってるの?」

「え、それは……」

「私は久しぶりにあなたに会えるから、はしゃいでた……のに、あなたは男を引っ掻き回した優子なんかをずっと見てた。私となんて視線も合わなかった」

「……俺を許せないよな……ごめん都合が良すぎた。もう君に顔は見せないよ……本当にごめん」

俺は背中から彼女を抱いていた腕から力を抜いた。だが、力は抜いたのに彼女を抱きしめていた。それは彼女が僕の腕を上から握りしめていたからだ。

「あなたが許してって言ってるのよ……許すしかないじゃない……だって、こんなにも好きなんだもん……」

「……君の気持ちに向き合えなくてごめんな」

彼女は俺の腕を離した。すると、俺の腕はダラリと俺の横に戻ってきた。彼女は振り向いて俺に言った。

「やっと、正直に言えた。でも、もう『さようなら』だね。あなたが大好き、でもあなたは優子が好き。私にはその気持ちが向くことはない。だったら、いつまでも引きずるのもバカバカしいわ。もう富山とも別れる。彼の中にあなたのカケラを感じて付き合っていたのに、そのあなたを諦めるんだから。富山に依存するのもやめにするわ」

俺はなんにも声が出なかった。すると、彼女は涙が枯れ切った顔を無理矢理に捻じ曲げ笑った。

「ねぇ、笑って。笑ってお別れしましょう。はい!」

彼女は無表情な俺の顔の両方の頬に人差し指を合ってて、口角を上げさせた。

「ね! 笑おう! じゃあ、ごめんね。今度会うかもしれないときは、私はきっと誰かのものだけどね(笑)」

彼女は駆けて行ってしまった。俺はなんにも言えなかった。俺はなんにも気付いていなかった。

自分の阿呆さに虚無感を感じた、夜桜が綺麗な一コマだった。もちろん、今俺の横に井田はいない。初恋の人もいない。彼女たちとは全く関係がない女性が俺の隣にはいる。俺にはその女性の気持ちすべてに漏れなく向き合う、それが俺ができることだと思ってる。それを君は俺に教えてくれた。本当にありがとう。

こんなんかけるんだな、私。

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