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古代文明機 アーシェス  作者: 海猫銀介
1章 目覚めたアカシャの戦士
8/26

第6話 希望の黄 サイティス

 1

突如現れた植物型のヴェノム。 これまで動物の姿となって現れたヴェノムとは何処か異質さを感じた。

しかも、あのヴェノムは自ら地中を移動して瑞葉達の前に姿を現した。

戦いで消耗しきったアーシェスに追撃を仕掛けるかのように。

黒い蕾から開かれた赤い瞳が変色し一気に緑色へと変化した。

その瞬間、カッ! とモニターが緑色の光に染まると瑞葉は顔をギョッとさせた。


「丈一君っ!」


「ああ、わかってるっ!」


嫌な予感を察した瑞葉はスロットルを最大まで押し込み操縦桿を思いっきり引かせた。

丈一も合わせてスロットルを押し込んでブースターを最大まで出力させると、全速力でビルブレイズが駆け出していく。

背後から耳をつんざくような爆発音が鳴り響くと、ビルブレイズは爆風に乗せられて勢いよく前方へと吹き飛ばされてしまった。

瑞葉は声にもならない悲鳴を上げ、背中を叩きつけられ頭をガンッと強くぶつけた。

ヘルメットをかぶっておけばよかったと後悔しながらも、瑞葉は痛みに堪えて操縦桿を握り直した。


「いきなり何よもうっ! あれもヴェノムなの?」


「そうね、最後の一人が捕らわれているわ」


「という事は、凜華ちゃんね。 うー、休む暇もないわけか……丈一君、左京君大丈夫?」


「お、俺は何とか大丈夫だ」


「うむ、私も物凄い爆発音で起こされたところだ」


そういえば英二は気絶しているんだったと瑞葉は数秒前の記憶を掘り返す。

しかし、例によってヴェノムは高出力のビーム砲を持っているようだ。

だが、今回はこちらも心強い遠距離武装を持った『クァズール』がついている。

目には目を歯には歯を、ここは遠距離に特化した『クァズール』に全てを任せようと判断した。


「左京君、連戦だけどお願いできる?」


「なるほど、私の出番のようだな。 いいだろう」


「じゃあ分離すんぞ、頼んだぜ英二っ!」


ビルブレイズは一度3機のフライターへ分離し、形状を変化させるとあっという間にクァズールへと姿を変えた。

早速、背中に背負っていた長距離用のライフルを構え敵ヴェノムへと向けた。

英二はスコープを覗き込むと狙いを調整してトリガーを握りしめた。


「狙いはひとまず、あの瞳でいいな?」


「ちょっと待って。 ねぇ、凜華ちゃんが捕らわれたフライターは何処にあるの?」


「蕾の中、かしらね。 ま、あの瞳をどうにかした方がいいというのは同意よ」


瑞葉は一応、確認を取るとヴィクターはすぐに答えた。

どちらにせよ、やる事に変化はないかと瑞葉は強く頷いた。


「それじゃ、思いっきりやっちゃってっ!」


ライフルを構え先端に青い光が集い始めると同時に……ヴェノムの瞳の色が青色へと変化し始めた。

瑞葉は不思議そうに色の変化を眺めるが、今は深く考えまいと英二の一撃に任せた。


「目標を捕捉した、カウントはいるかね?」


「いらないわ、ぶっ放しちゃいなさいっ!」


「いいだろう、そのつぶらな瞳……撃ち抜くっ!」


「あれは、まさか……待って――」


ヴィクターは何かに気付いたのか珍しく声を荒げた。

しかし、既にライフルは発射された後だった。

青き閃光が一直線に走っていくとヴェノムの目の前から突如、青い光の壁が展開された。

ライフルから放たれた一撃は、カッと強い光を放たれると虚しくもヴェノムには届かずに掻き消されてしまった。


「え? 何が起きたの?」


「おいおい、確かに直撃したはずだろ?」


「アルマフォースを検知したわ。 それも、性質がクァズールの青き力と酷似していた」


「それって、どういう事?」


瑞葉はあまり聞きたくないようなと内心思いながら、尋ねた。


「同質のアルマフォースでバリアを展開して、アルマフォースを中和しているんだわ」


「ってことはアレか? ライフルの一撃が、そのバリアで打ち消されちまってるのかっ!?」


「そうね、何処まで防がれるかわからないけど、アルマフォースを用いる兵器は通用しないと考えた方がいいわ」


「う、うっそぉっ!?」


そんなの聞いてない、と言わんばかりに瑞葉は悲鳴を上げた。

そうなれば強力なビーム兵器を用いた一撃は一切使えないという事になる。

しかもアーシェスのほとんどはアルマフォースをトリガーに動いているはずだ。

となれば実弾兵器の類を使って戦うしかない、という事なのだろう。


「左京君、ミサイルとかで何とかあいつに仕掛けられない?」


「残念だが、そんな暇を与えてくれる相手ではないな」


英二がそう呟いた途端、ゴゴゴゴゴ、と地響きが始まった。

すると、クァズールの周辺から無数の触手が大地を突き破り姿を現した。


「何これ、気持ち悪い……」


「おい、来るぞっ!」


「クッ!」


英二はガトリングで応じるが触手の動きは素早く中々捉えることが出来ない。

シュルシュルシュルと触手が絡みつくと、クァズールはあっという間に手足を拘束されてしまった。


「クッ、捕えきれなかったかっ!」


「何とかできねぇのか、この根っこ厄介だぞっ!?」


「わ、私が何とかしてみるっ!」


瑞葉は機体を分離させてアルヴァイサーへと姿を変えた。

瑞葉が強く念じると、左手にシールドを構え右手にビーム状の片手剣を生成させた。

アルマフォースを圧縮させた、フォースセイバーだ。

アルヴァイサーはフォースセイバーを振るい襲い掛かる触手を次々と焼き払っていく。

どうやらバリアは常に展開されているわけではないようだ、触手に通用しているのが何よりも証拠だ。

しかし、無数の触手は単機では処理しきる事が出来ずにアルヴァイサーの手足は触手に捕らわれ拘束されてしまった。


「ダメ、多すぎるっ!」


「これでは近づくことが出来ん……」


「いや、待て。 ここは俺に任せろっ!」


「何か思いついたのっ!?」


「ああ、とりあえず強引に突破する手段ぐらいはなっ!」


ならば丈一を信じようと、瑞葉は操縦権を丈一に引渡しビルブレイズへと変形させた。

ビルブレイズは腕をクロスに構えると、全身に力を込め一気にアルマフォースを解放させた。

刹那、ビルブレイズを中心に真っ赤な光が広がっていき、触手は一斉に燃え始め見事周囲の触手を焼き払う事に成功した。


「や、やるじゃない丈一君っ!」


「見たか、俺の情熱のアルマフォースをよっ!

しかも近接に特化したビルブレイズの物理攻撃なら、奴のバリアなんて通用しねぇはずだろっ!」


「なるほど、君にしては頭を使ったではないか、丈一」


「うるせぇ、このまま一気に距離を詰めるぞっ!」


触手が燃やされている間に、一気に距離を詰めようとビルブレイズは猛スピードで前へ前へと駆け出す。

ヴェノムの瞳は再び緑色へと変化し、ビルブレイズをギロリと睨みつけた。


「また来る、避けてっ!」


「ああっ!」


丈一は全神経を集中させると放たれた2射目のビームを見事躱しきって見せる。

だが、その後背後から凄まじい爆発が引き起こされビルブレイズは爆風へと巻き込まれてしまった。

今度はバランスを崩さないよう、態勢を上手く整え直すと、丈一は前へ前へとビルブレイズを走らせ続けた。


「ハァ……ハァッ、クソッ……っ!」


「丈一君? 凄い汗よ、大丈夫なの?」


「これぐらい、へっちゃらっすよ……いつまでも、軟弱なままでいるつもりはねぇさっ!」


丈一は苦しそうに胸を押さえながらも、一心不乱に操縦桿を握りしめ続ける。

瑞葉はただ心配そうに見て上げる事しかできなかった。

彼が背負った物を考えると、迂闊に辞めろとは言えずに戸惑ってしまったのだ。

ビルブレイズがようやくヴェノムの周辺に辿り着くと、丈一の操縦桿が例のアケコンへと姿を変え丈一は汗ばんだ手で握りしめる。


「俺の根性、見せてやるぜぇぇっぇ!!」


丈一の雄叫びと共にビルブレイズは空高く飛び上がった。

ヴェノムの巨大な目に向けて拳を突き立てようとした。

が、目の色が赤色へと変化した瞬間―――ビルブレイズは壁にでもぶつかったかのように弾き飛ばされると呆気なく地上へと叩きつけられてしまった。


「う、うっそ……どうして防がれたのっ!?」


「やはり、無駄だったわね。 アーシェスは全身からアルマフォースを展開しているの。

あのヴェノムは相手のアルマフォースを検知し、それに応じた絶対的なバリアを生成させている。

つまり、動力源がアルマフォースである以上……アレにダメージを与えることは不可能という事よ」


「そ、そんな……」


こちらの攻撃は一切通用しない以上、手の打ちようがない。

瑞葉は焦りを感じながらも必死で思考を回転させて打開策が何かないかを考え続けた。


「わ、悪い先輩……ちょっと、休ませてくれ――」


「丈一君っ!?」


ついに力尽きたのか、丈一はガクッと意識を失うと機体は強制的に合体解除されてしまう。

瑞葉はもう一度合体をしようと、3機のフライターを集わせてアルヴァイサーへと変形させた。

だが、瑞葉は操縦桿を握りしめたまま、ただメインモニターからヴェノムを睨むことしかできなかった。


「音琴君、ここは一旦退くべきだ。 このままでは埒があかない」


「ダメよ、だって目の前に……凜華ちゃんが捕らわれているのにっ!」


ヴェノムを倒せなくてもいい、せめて凜華だけでも助け出す方法はないのか?

フライターはあの蕾の中に捕らわれているはず。

ならば背後に回って射撃は? と考えたが、あの瞳は常にアルヴァイサーの動きを感知している。

迂闊に動けば狙撃される可能性は高い。

さらに言えば仮に近づけたとしても先程のようにバリアが蕾周辺にも展開されないという確証はなかった。

こうしているうちにも、ヴェノムの瞳は緑色に変化しアルヴァイサーへと向けられた瞬間、カッと閃光が走る。


「間に合わない……っ!」


瑞葉は咄嗟にシールドを構えると、全身が白い輝きに包まれ、バチンと電撃が走ったかのような音が響くとヴェノムの一撃は打ち消された。


「弾いた? そ、そっかっ!」


瑞葉の白き力は決して侵されることのない絶対領域。

つまりそれは他のアルマフォースの干渉を一切受け付けない力だ。

そこで瑞葉は、閃いた。


「そうだ、私の白き力ならっ! 白き力が全てを弾き返すというのならば逆に白き力を打ち消す手段というものは存在しないはずっ!」


「また、白き力を使うのね?」


「何よ、せっかく解放された力だもの。 仲間を助ける為に使ったっていいじゃない」


「そうね、他に手がないのも事実だわ。 だけど忘れないで。 貴方の力は危険な力だという事を。

そう、個人が持つにはあまりにもね」


ヴィクターの警告を耳にすると瑞葉は変な寒気を感じた。

アルマフォース自体得体の知れない力だというのに、瑞葉の白き力というのはヴィクターが恐れる程の物だという事なのだろうか。 だが、凜華を助ける為ならばと瑞葉は迷いを捨てた。


瑞葉は深く深呼吸をしてフォースライフルをヴェノムへと向ける。

目の色が緑色へと変わると徐々に光が強まっていく。

瑞葉は避けようとはせずにその場に立ち留まり精神を集中させ続けた。


「凜華ちゃん……待ってて、今すぐ行くからっ!」


全ては凜華を助ける為、たとえ危険だと言われようが瑞葉は力を使う事を躊躇わなかった。

白き力を一気に解放させ思いっきりトリガーを引く。

その瞬間、周囲は真っ白な光に包まれていくと瑞葉の意識はそこで一度途切れてしまった。




 2

流石にもう驚くことはなかった。

例の如く、瑞葉は真っ暗な空間へと放り込まれた。

だが、今までと何かが違う。

これまで瑞葉はヴェノムに捕らわれた者の声を聴いてきたはずなのに、今回は何も前触れもなくいきなり引き込まれてしまったのだ。ここがヴェノムの中である事は分かる。

何故、瑞葉はヴェノムの中に入り込むことが出来るのかはわかっていないが

少なくとも『助けたい』と強く望んだ時に白き力を使ったタイミングである事はわかっていた。

恐らくこの力も『白き力』が持つ一つの力、だと瑞葉は結論付けた。


「凜華ちゃんを探さないと」


凜華も他二人と同様、同じようにトラウマに苦しめられているはずだ。

特に英二と言えば丈一の時よりも遥かにひどい状況に陥っていたはずだ、凜華も同じである可能性は高い。

だけど何としてでも連れ戻さなければならない。

それが偶然であれこの事態を引き起こしてしまった部長としての責任。

いや、違う。 これから共に道を歩んでいく仲間を助ける為に瑞葉は暗闇の中を突き進んだ。


やがて、小さな白い輝きを見つけて光を前にして瑞葉は深呼吸をする。

不思議と声の類は何も聞こえてこない、瑞葉はソッと光の中を覗き込むとそこには凜華の姿があった。

だが、何かがおかしい。


光の中から見えるのはひどく散らかった一室だった。

テーブルの上に山積みにされたゲームソフトの数々、食べかけの弁当に飲みかけのお茶、長い間放置されていたのかカビが生えていた。

床にも漫画や雑誌、ゴミの数々に音楽プレイヤー、とにかく散らかった部屋だった。

その部屋の端に凜華の姿があった。

いつものカールは巻いておらず、寝起きのようなボサボサの髪をしながらマウスを片手にディスプレイを眺めている。

恐らくパソコンを操作しているのだろう。

赤いはんてんを身にまといスルメイカをくっちゃくちゃと音を立てながら食べ続けていた。


「これが、凜華ちゃん……?」


今までのイメージとはあまりにかけ離れすぎている。

普段何を考えているかわからない以上、私生活を想像する機会はなかったと言えど少なくとも身だしなみには気を使う子ではあるし

いつも料理の名前を口にすることから、一人暮らしである事もわかっている。

が、この部屋を見る限り、とてもじゃないが料理をするようには見えなかった。


「チッ」


凜華は突如、眉間を皺に寄せて舌打ちをすると、キーボードを目にも留まらぬタイピングで叩き始めた。

ディスプレイには何か文字が打たれている、どうやらブログのコメント欄に何かを打ち込んでいるようだが。

目を凝らしてみてみたが、古代文明に関する記事に対して、何かをコメントしたようだが。


「未だに『古代文明は国が隠した現人類の最先端技術説』を信じるバカがいるのね、もうとっくに論破されてる事なのに

こんな明らかな嘘を信じちゃって真面目に解説しちゃってるのが痛々しいったらありゃしない。

こういうのがメディアの報道を真に受けちゃうバカの典型例なのね。

自分で考える事すらできない思考停止野郎を見ると反吐が出るわ」


いつものほんわかとした雰囲気とは限りなくかけ離れているがその声は間違いなく凜華そのものだった。

ちなみに凜華が言っている『現人類の最先端技術説』というのはインターネット上で広まった都市伝説の事である。

時々インターネットを使う瑞葉ですらも知っている程有名な話ではあるが、あまりにも広まりすぎたせいで

その節は考古学者によって論理的に否定されて騒ぎはひと段落されたはずだ。

と、瑞葉はここで異変に気が付いた。


「どうなっているの? 最近の私の記憶と一致している?」


そう、ここに映されているのは過去の記憶ではない。

限りなく今に近いのだ。

おかしい、今までここには『人のトラウマ』に関わる出来事が映されていたはずだ。

なのに、今目の前に映されているのはただの私生活のようにしか見えない。

そうなると必然的に今ここには凜華の私生活が映されていることになる。


「あー眠い、お風呂に入るのも面倒くさい。 ご飯も今日は、お菓子でいいや」


凜華は気だるそうに椅子から立ち上がると、押し入れからスナック菓子を取出し開けると片手でバリバリ音を立てながらお菓子をつまみ、ネットサーフィンを続けていた。

これが凜華の私生活? とてもじゃないが、瑞葉には信じられなかった。


「凜華ちゃん……」


何故か、いつも以上に光の中に踏み入れるのが怖い。

凜華は別に助けを求めているようには見えないしただ普通に私生活を送っているように見える。

だけど、ここがヴェノムの中である事は確実なのだ。

ならば、瑞葉はここから凜華を連れ出さなければならない。

頭ではわかっているのだが、瑞葉は何故か怖気づいて体を震えさせていた。


「どうして、どうしてこんなに怖いの? 私、何に怯えているの?」


瑞葉は恐怖心を掻き消そうと、頭を強く横に振るって深呼吸をした。

いつも叫んでも願っても、入る事が出来なかった光の中に、今回ばかりは入れないでほしいと願ってしまう。

瑞葉が恐る恐る光に手を触れると何故かスッと右手が光の中へ吸い込まれていってしまう。

その拍子に瑞葉は、光の中に全体重を前方へと預けてしまった。

光の先へとひっくり返るとビターンッと激しくお尻を床に叩きつけてしまった。


「い、いたたたた……もー、何でいつもお尻からなのっ!?」


想像痛かったのか、瑞葉は半泣きになりながらヨロヨロと立ち上がるとピタリと凜華と目があってしまう。

何故か瑞葉は固まってしまい、アハハと笑った。


「先輩? 何しに来たの?」


「え? な、何って……その」


瑞葉の事をしっかりと認識できているようだ。

だが、その眼は鋭くとても冷たい。

瑞葉はそれだけで体をビクッとさせてしまった。


「帰って、ここは私だけの居場所よ」


「……ううん、違う。 ここは、貴方の居場所じゃないわ」


「いいえ、ここは私だけの聖地なの」


「聖地? そんなわけ、ないわよ。 ここはヴェノムの中じゃない、わかっているの?」


「わかっているわ、だからこそ……嫌だと言っているの」


ゾクッと瑞葉の背筋に寒気が走る。

ようやく感じてきた悪寒の正体がつかめてきたように思えた。

自分が今、何に怯えていたのか。

そして、何を見てきたのか。


「私の事をわかってくれるのはこの世でヴェノムだけ。

たとえ私がヴェノムに支配されているのだとしても、私はそれを拒むつもりはない」


「ヴェノムに支配されていると、わかっているの……?」


「ヴェノムが私に教えてくれた。 だけど、それでも構わない。

ここには私がほしかったものが全て揃っている、何も不便な事はない。 私は一人が好きだから」


「凜華ちゃん……」


ひしひしと伝ってくる『拒絶』。

凜華は今、助けを求めてなんかいなかった。

だから、瑞葉に助けを求める声も聞こえてこなかったし苦しんでいる様子も見られなかった。

そもそも、凜華自身が苦しんでなんかいなかったのだから。


「その人の言う通りよ。 今すぐ家に戻ってきなさい、凜華」


すると、瑞葉の背後に突如初老の女性が姿を現した。

気品のある女性だ、恐らくは凜華の母親なのだろう。

だが、こんなところに当然ながら本物の母親がいるはずがない。

だとすればこれはヴェノムが生み出したはずだ。


「イヤ、私はもう縛られるのはたくさんなの。 だからあの時、家を出て自立したのだから」


「貴方は堕落した生活を送る為に私の元を離れたというの?

今すぐ戻ってきなさい、今の貴方は我が家の恥晒し以外何者でもないわよ」


「私はお母さんの道具なんかじゃないっ! 出て行け、出て行けっ!

私は、私はここで今まで遊べなかった分、たくさん遊んで暮らすんだ。

もう誰の指図も受けない、本当の私をわかってくれるのは……ヴェノムだけなんだから」


凜華が声を荒げると生み出された母親は霧のように消え去ってしまった。

はっきりとした意思で自らが生み出したトラウマを掻き消しているというのか?

だとすれば、凜華は本当に自分の意志でヴェノムの中に留まっているという事になる。


「貴方も出て行って。 ここは私だけの世界、私はここで永遠に過ごす。

堕落した生活でもいい。 私は今まで遊んで暮らせなかった分、ずっと遊び続けてやるんだから」


「ねぇ、聞いていい?」


「うるさい、出て行けっ!」


瑞葉は凜華の怒声で体をビクッとさせるが、決して怯むまいと唇を噛みしめた。


「凜華ちゃん、貴方は本当に……こんな生活を望んでいるの?」


「その通りよ、だから私はここから一歩も出るつもりはない」


凜華は頑なにこの部屋から出ることを拒んでいた。

部屋に引きこもった子供が外に出るのを嫌がるかのように。

それ見て瑞葉は確信した、凜華は何かに恐れている。

だからこのような部屋に閉じ籠ってしまったのだと。

ならば、戦わなければならない。

凜華をこの部屋に閉じ込めた『ヴェノム』、そして『凜華の生み出したトラウマ』と。


「違うでしょ、そんなの嘘よっ!」


「どうしてそう思うの? 先輩は、私の一体何がわかるの?」


「確かに私は、凜華ちゃんの事をよく知らないかもしれない。 だけど、こんな私でもわかることは確かにあるよ。

今の凜華ちゃん、全然楽しそうにしてないっ!」


瑞葉はありのままに思った事をぶつけた。

この部屋にいる凜華は死んだ魚のような目をしていて、ちっとも楽しそうな生活を送っていない。

いつも学校で見る凜華は楽しそうに鼻歌を交えているし、部活でも一緒に作業しているときも笑ってくれた。

なのに、ここにいる凜華は、一度も笑っていなかった。


「違う、私は今凄く楽しいの。 ここでは私の大好きなゲームもパソコンもいっぱいある。

好きな事をしてても怒られないし、誰の邪魔が入る事のない最高の世界なの」


「なら、笑ってよ。 いつも通り、鼻歌交えながら楽しそうにしてみなさいよっ!」


凜華に負けまいと瑞葉はキッと凜華を睨みつけて怒鳴った。

凜華は目をそらし顔を俯かせたまま動かない。

やっぱり、笑えなかった。


「凜華ちゃん、ここは貴方が望んだ世界じゃないわ。 ヴェノムが意図的に貴方にそれを望ませた。

貴方はまんまと、ヴェノムの罠にかかっただけよっ!」


「うるさい……うるさいうるさいうるさいっ! やっぱり、誰も私の事をわかってくれないっ!

私の事をわかるのは、ヴェノムだけなのっ! お母さんにだって、わからないんだからっ!」


凜華は目尻に涙を浮かべながら喚き散らすと部屋の様子に変化が訪れた。

グニャリと空間が歪んでいくと一瞬にして周囲が広い教室へと姿を変えた。

ここは瑞葉の高校ではない。 恐らく、凜華が通っていた学校の情景なのだろう。


「リンちゃーん、あそぼーっ!」


小学校1、2年生ぐらいの小さな女の子達が席の端で綺麗な格好をした女の子、恐らく凜華に向かって声をかけた。

凜華は首を横に振るうと、赤いランドセルを背負った。


「今日はピアノのお稽古があるから、皆と遊べないの」


「えー今日もお稽古?」


「リンちゃん、本当は私達と遊びたくないんでしょ?」


「え? ち、違うよ?」


「そうならそうと、はっきり言ってくれればいいのに」


「いいよもう、リンちゃんとは当分口聞いてあげないからっ!」


「え、ま、待って……違うの」


凜華は必死で違う、と否定しようとしたが二人の子供は聞く耳を持たなかった。


「もう行こ、リンちゃんは庶民の私達とは遊んでくれないんだから」


「リンちゃんなんて、大嫌い」


「……!」


ショックを受けた凜華は、引き留めようとした手を力いっぱい伸ばすがグッと抑えて静かに降ろす。

そして、何処か悲しい目をして二人の背中を見送っていた。


「これって……」


「止めて……止めてよっ! 話が違うじゃない……もう、それ見せないって、言ってくれたのにっ!

嘘だったの……私に、嘘をついたのっ!?」


突如凜華は両手で頭を抱えて泣き叫んだ。

ヴェノムに訴えているのかはわからない、だけど瑞葉はこれで確信した。

凜華はトラウマに立ち向かったわけではない、ただ逃げていただけなのだと。

今度は周りが変化すると、西洋の豪邸のような場所へと変貌した。

天井には美しいシャンデリア、真っ白な壁に真っ赤な絨毯が敷かれ真ん中には巨大なピアノと隣に立つのは専属の講師と先程の母親の姿。


「いいです事? 貴方は夢咲家に恥じない立派な大人に育ってもらわなければなりません。

貴方にはたくさん勉強してもらってとにかく良い大学に入って貰わなければならない。

貴方は選ばれた『エリート』だという事を、自覚しなさい」


ピアノの前に座る凜華は暗い顔のまま『はい』と返事をした。

凜華は気が狂ったかのように髪の毛を毟り奇声を上げながら苦しみ始めた。


「嘘つき、嘘つき嘘つき嘘つきっ! やっぱり、誰にも私の事なんて、わからないんだっ!

勝手に思い込んんで、私の気持ちを知りもしないで好き放題言ってっ!」


凜華が目の前で苦しんでいる。

瑞葉はどうすればいいかわからず戸惑ってしまった。

やはり、凜華も重い物を抱えていたのだ。

目の前でこんなに苦しんでいる、今すぐにでも抱きしめて慰めてあげたい衝動言に駆られる。

だけど、きっと拒絶される。

そうすれば凜華は更に苦しむだけだ。

頭ではそう思っていたのに、その思考に行きつくよりも先に体が勝手に動いていた。


「!?」


凜華はハッと顔を上げたが、瑞葉はただ凜華の小さな体をギュッと抱きしめてあげた。

拒絶されるかもしれない、だけどそんな事を恐れてはダメだ。

今はただ、自分の素直な気持ちを伝えてあげればいい、と瑞葉は自分に言い聞かせた。


「凜華ちゃん、私は貴方の全てをわかってあげることはできないかもしれない。

だけどね、貴方の痛みを一緒に感じる事は、こうしてできるよ」


「う、うるさい、離れろっ!」


凜華は耳元で怒鳴って瑞葉の事を突き放そうとするが、瑞葉は負けじと凜華を強く抱きしめて話そうとしなかった。

強く抱きしめすぎて、痛いかもしれない、だけど構わないと思った。


「私は凜華ちゃんよりちょっぴり先に生まれてる。

たかが1年の違いかもしれないけど、私は貴方の先輩、ううん……お姉ちゃんになってあげることもできる。

だからね、私を……頼ってほしい。 凜華ちゃんの悩みを解決できないかもしれないけど共感してあげることはできるし……

一緒に悩んであげる事ぐらいはできるよ?」


「は、離して……離して、よ――」


段々と抵抗が弱まってくると、凜華は目に涙を浮かべながら瑞葉の胸に顔を埋めて両手をギュッと背中に回した。

やっぱり、寂しかったのかと瑞葉は思わず笑った。


「ねぇ、一人は嫌なんでしょ? さっきは一人がいいって言ったけど嘘だよね?

だって、凜華ちゃんってば部室に来ているとき凄く楽しそうにしているじゃない」


「……」


「それに私より先に部室に来ている事多いよね?

皆に招集かけた時もそうだった、それって部活が楽しみだったって事でしょ? 」


瑞葉は優しく凜華の頭を撫でながら、語りかけると僅かながらコクンと頷いた。

あの時見た凜華の姿はヴェノムが生み出した幻想だったという事なのだろう。

一見楽園に見えるあの部屋はただ辛い現実から隔離された空間でしかなかった。

その事に、凜華はようやく気付いたのか涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を上げて叫んだ。


「嫌だよ、私……一人は嫌。 だけど、もう……縛られるのもたくさんなのっ!

家を飛び出しても夢の中でずっとお母さんが私を責め続けたり、小学校の頃の友達に無視された時の事思い出したりして、ずっと……ずっと辛かった」


「だけど凜華ちゃん。 貴方は、それに立ち向かえていたはずよ。

だから学校での凜華ちゃんはいつも楽しそうに笑っていたんでしょ?」


「……私、また、笑える?」


凜華は涙を拭いながら、瑞葉に向けて呟くと、瑞葉は笑顔で頷いた。


「凜華ちゃんが、笑えないわけないでしょ?」


凜華は瑞葉に応えるように笑顔を見せようとしたその時――


「またそうして、騙されちゃうんだ」


「誰っ!?」


瑞葉が振り向くと背後には黒い影が立っていた。

瑞葉でも、凜華でもなく……過去の誰かと言う訳でもない。

わかるのはただ、黒い人型をした影、だという事だけだ。

まさかこれは英二の時と同じなのか?


「せっかく教えてやったのに、学習をしないアホだね君は。

そうやって容易く人を信じちゃうと、後でいっぱい傷つくことになっちゃうよ?」


「え、何……誰なの、貴方?」


瑞葉は思わず訪ねてしまうが影は何も答えずニヤリを笑う。

だが、凜華はキッと影を睨みつけて、立ち上がった。


「私はもう、惑わされない」


凜華は両手を天に掲げると、不思議な事に両手から黄色い光が集い始めていた。


「これって……アルマフォースっ!?」


「これはきっと、私の弱い心。 私はこいつに惑わされて、あんな場所に引き籠ってしまった。

だから私は立ち向かう、逃げようとしていた弱い自分自身と……辛いトラウマに。」


凜華は静かにそう語った。

瑞葉や丈一の時はトラウマに関わる重要な人物が目の前に現れて瑞葉達を支配しようとしていた。

そうだ、あれはきっとヴェノムの心そのものなのかもしれないと瑞葉は悟った。

だからこの影をアルマフォースで消す事によって支配から逃れることが出来るのではないかと。


「先、行ってて。 後はもう、自分で何とかできるから」


「――ううん、最後まで付き合うよ」


「そう……ありがとう、先輩」


そう呟くと、凜華は瑞葉に向かって静かに微笑んだ。

その瞬間、周囲が黄色い光に包まれていくと、影は徐々に光に飲まれていきその形を失っていった。


「暖かい光……なんだか、自然と笑みがこぼれるかのような優しさを感じる」


「純粋なる光、黄の力。 これが私の……アルマフォース。 全てを照らし全ての希望となるべく輝き続ける、希望の黄色」


「行こう、凜華ちゃん。 皆、帰りを待ってるよ」


「うん、わかった」


凜華はギュッと瑞葉の腕を抱えると視界が一瞬にして光に染まっていく。

やがて瑞葉の意識はそこで途切れてしまった。




 3

――ガァァァンッ! 意識を取り戻したと同時に瑞葉の耳元に凄まじい爆発音が飛び込んだ。

コックピットは激しく揺らされ瑞葉は必死で操縦桿にしがみついた。


「い、いきなり何? も、戻ったのはいいけど……」


また、合体が解除されてしまっているようだ。

瑞葉がヴェノムの中に一時的に取り込まれることによりアルマフォースのバランスが崩れる影響なのだろう。

ヴェノムも健在のようだ。 瑞葉はすぐに他の二人の無事を確認しようと通信を送った。


「もしもし、大丈夫っ!?」


「私の事より、丈一の事を心配しろ」


「いや、平気っすよ……合体できるだけのアルマフォースは、残してあるんすから」


丈一は一度気を失っていたはずだ、だがこうして目覚めているという事はアルマフォースを酷使してこの場を乗り切っていたという事なのだろう。

すると、ヴェノムの蕾から突如強い光が放たれ始める。

あの金色の輝き……間違いない、凜華だ。


「色々と言いたい事はあるんだけど、まぁいいわ。 とりあえずやるべき事はわかってるわね?」


「うん、わかってる」


凜華が通信で返事をすると、瑞葉はヴェノムに向かってフライターの速度を限界まで上昇させた。


「二人とも、ついてこれる?」


「うむ、任せておけ」


「ああ、そこにいるんだろ……夢咲の奴がよ」


天高く光の柱が作られると同時に一機のフライターが光に紛れて空高く突き進んだ。

蕾は開かれ、綺麗な黄色の花が咲かれていた。

まるで4人が無事再開できた事を祝福するかのように、美しく花が咲いた。


「待ってたわよ、凜華ちゃんっ!」


「うん、ごめんね。 アレをやっつけなきゃダメなんでしょ?」


「そうよ、凜華ちゃんにもアーシェスがあるはずよっ!」


「わかった、私のアーシェスを呼ぶ」


凜華が微笑みながら告げると黄色いフライターの周囲にヴェノムから引き剥がされたアーシェスのパーツの数々が集い始める。

瑞葉達のフライターも周辺に集まり、同じようにグルグルと円を描いていた。


「悲しい事も辛い事もたくさんあった。 だけど先輩は教えてくれた。

私の力を、私に秘められていた希望の黄色を。

私は笑うよ。 先輩が望んでくれたから、私が笑い続けたいと望んだから。

私がいつまでも笑い続けらいられるように……アイツを倒す力を貸して、黄の戦士、『サイティス』」


凜華の駆るフライターから目が眩むほどの光が放たれた。

ヴェノムからは次々とアーシェスのパーツが剥がされていき、それぞれがパーツとなって周囲に集められていく。

黄色い小柄なボディが形成されて、両手両足が接続されるとヘッドが取り付けられ、二つのエメラルド色のレンズがきらりと輝く。 更に小柄のボディをカバーするかのように3機のパーツがかぶさっていき、背中に大きなブースターが取り付けられ、黄の戦士『サイティス』がここに誕生した。


「これで、全員揃ったわね」


「ああ、やったなっ!」


「いや、喜ぶのはまだ早い。 我々はどうやら、ヴェノムを倒すのが使命らしいからな」


無事に凜華を救出する事は出来たが、ヴェノムはまだ健在であり今にも目玉からビームを発射させようと、赤色の光を集わせていた。現在、アーシェスの操縦権を握っているのは凜華だ、とてもじゃないが今から回避は間に合わない。


「凜華ちゃん、私と変わって――」


アルヴァイサーであれば白の力で防ぎきれるはずと判断した瑞葉は凜華にそう告げようとすると、思わず言葉を詰まらせた。

パイロットシートに座っている凜華が黙々とキーボードを打ち込んで何かをしていたのだ。

丈一のようにキーボードを操縦桿代わりにしているのかと思いきや、アーシェスは全く動く様子はなかった。


「ちょ、ちょっと凜華ちゃんっ! 前、前見てっ!」


「平気だよ」


今にも迫り来るヴェノムのビーム砲を前にパニックになっている瑞葉に対し何故か凜華は驚くほど冷静だった。

次の瞬間、カッと真っ赤な閃光が走ると瑞葉は思わず目をつぶって両耳を塞いだ。


「解析、かんりょー」


同時に凜華の呑気な一言がはっきりと耳に残った。

衝撃に備えて身を伏せていた瑞葉であったが、不思議な事にコクピットは僅かに揺れるだけだった。

恐る恐る目を閉じると何故か目の前には赤色のフィールドが形成されていた。


「な、何これ? 私、何もしてないわよ?」


「相手ヴェノムのアルマフォースを分析したの。 アルマフォースは3種のフォースを軸に独自のアルマフォースを生み出している。

赤の力『ミュー』、青の力『シグマ』、黄色の力『イプシロン』……それらの配分を解析するだけで、敵のアルマフォースを知る事が出来る」


「ぶ、分析? それに3種のアルマフォースって? ど、どこでそんな事を覚えたのよ」


「今だよ」


これ以上にないくらいの無邪気な笑顔で、凜華が頷くと瑞葉はアハハと乾いた笑いを浮かべた。

この子、やっぱり只者じゃないと改めて思い知らされた。

恐らく知能レベルは英二と並ぶか、或いはそれ以上なのかもしれない。


「ふむ、つまり君は相手のビームの属性を解析したと。

そして、その結果を元に同じ属性のフィールドを展開する事により相手の一撃を相殺した」


「おい、それって……さっきあのヴェノムがやっていた事と同じじゃねぇかっ!」


「いいえ、正確に言えばあのヴェノムが『サイティス』の力を使っていた事になるわ。

ヴェノムはさっきの戦いで吸収したアルマフォースを軸に戦っているだけに過ぎない」


英二の解説に補足をするように、ヴィクターがそう説明すると瑞葉は一つの疑問を抱いた。

赤の力、青の力、黄色の力。 アルマフォースがそれらの三つの組み合わせだとすると『白き力』とは一体、何なのだというのか?


「トドメ、任せた」


ポンッと凜華は英二の肩を叩くと合体が強制的に解除された。

慌てて英二はクァズールで再合体を果たすと、長銃をヴェノムへと向けて構えた。


「左京君、いけるっ!?」


「うむ、いいだろう。 今度こそあの目玉を吹き飛ばして見せようではないか」


英二が狙いを定めていると間、ライフルの先に青い光が集い始めるが凜華がキーボードを叩き始めると、徐々に青い光が変化し黄色い光へと変わっていった。


「アルマフォースを黄の力に変えた、これならあのヴェノムは防ぐことが出来ない」


「やるじゃない、凜華ちゃんっ!」


「ご褒美は、オムライスがいい」


こんな時にも食べ物を要求するのかと瑞葉は微笑んだ。 いつも通りに凜華に戻っている事に少し安心した。


「ならば、撃つぞっ!」


英二がトリガーを引くと、黄色い閃光が一直線に突き進み凄まじい爆発を引き起こす。

見事、ヴェノムの目玉が光に飲まれ、粉々に砕け散っていく。

するとヴェノムは全身を真っ白にさせて、無数の触手を地に伸ばしていくと蕾から咲いた黄色の花が真っ白な輝きを放った。

真っ白に輝く花は、何処か神々しさを感じ思わず見とれてしまう程美しかった。

瑞葉はその光景に目を奪われていると、ヴェノムは静かに地中へと潜っていき姿を消していった。


「……また、消えた?」


これまで4回ヴェノムと戦ってきたが、どのヴェノムも例外なく白い輝きを放ち何処かへ消え去ってしまった。

凶暴性は失われているもののヴェノム自体はまだこの世界のどこかで活動を続けていることになるが、

不思議と瑞葉はヴェノムからの敵意は何も感じず、少なくともあの4体は二度と襲ってこないだろうという確信があった。


「ご苦労様、一旦こっちの世界に戻ってきてくれる?」


「ど、どうやって戻ればいいのよ?」


「ま、それはこっちで勝手にやっておくわ」


ヴィクターが呟いた瞬間、瑞葉の目の前に巨大な次元の割れ目が出現した。

恐らくここに飛び込めば元の世界へ帰れるのだろう。

機体を分離させると、瑞葉はスロットルを押し込み、フライターを次元の裂け目へと突入させた。

真っ暗な闇に全身が包まれていくと、無重力のような感覚に飲まれていきやがて意識を失った。


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