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古代文明機 アーシェス  作者: 海猫銀介
1章 目覚めたアカシャの戦士
4/26

    純真なる白 アルヴァイサー ②


ドンッ、久しく感じなかった地面の感触を思いっきりお尻で受けると、瑞葉は想像を超える激痛に苦しみうめき声をあげた。

お尻を抑えながら立ち上がり、周囲を見渡すと……周りは妙に薄暗かった。

もう日が落ちたのかと思ったが、どうも周囲の様子がおかしい。

夜、というよりかは元々暗かった、としか思えないような。


「あれ、ここ……何処?」


よく見るとそこは黒き石板が眠るあの場所ではない、むしろ周囲には緑一つなく荒れ果てた大地と朽ち果てた建物があるだけだ。

確か瑞葉は石板の下に眠る地下室のところで――

ドスンドスンッ! 突然大きな音と共に地面が激しく揺らされる。

地震にしては揺れ方がおかしい、むしろ音がどんどん近づいているような。

瑞葉は黒い影に覆われると、背筋をゾクッとさせ恐る恐る振り返った。


「へ?」


振り返ると、瑞葉は呆然とした。

自分よりも遥かに大きい鳥のような生物が瑞葉の事を見下ろしている。

鋭いクチバシは心なしかドリルに似た形状をしている。

鳥にしては脚が異様に太く、何よりもその巨体に瑞葉は驚かされていた。

赤い瞳をギロリと動かし、ピタリと瑞葉と目が合う。

瑞葉は蛇に睨まれた蛙のように、身動きが取れなかった。


「な……なななななっ!?」


逃げなきゃ殺される――直感で悟った瑞葉は、死にもの狂いで全力疾走をした。

しかし、こんな荒れ果てた土地では逃げ場がまるでない。

何処か隠れられるところはないかと探すが、巨大な鳥が一歩踏み出し地面から伝う衝撃で瑞葉は躓いて倒れてしまった。

すぐに起き上がろうとするが、腰が抜けてしまい足に力が入らない。

揺れが止まると、再び謎の巨大生物が瑞葉の事を睨みつけ、キエーッ! と奇声を上げた。


「な、何よ……何なのよ、もうっ! バカーーッ!」


もはや絶体絶命の状況に追い込まれた瑞葉は、半べそをかきながらも気を強く持とうと怒鳴り散らすが、巨大生物を前には全く効果がない。

もうダメだと両手を顔に覆った瞬間、キィィィンッと飛行機のエンジンのような音が耳に飛び込んだ。

ズゴォォォンッ! と派手に何かが墜落すると、瑞葉は砂煙に覆われてしまう。

どさくさに紛れて、巨大な鳥生物も派手な音を立てて倒れてしまった。


「ちょ、ちょっと何これ……ゲホゲホッ!」


砂が入らないようにと咄嗟に目を閉じることができたが少しだけしみる。

おまけに砂も吸ってしまいむせてしまうが、何とか両手で口を覆って砂埃が止むのを待つ。


「な、あれって……?」


瑞葉の目の前に落ちてきたのは真っ白な戦闘機のようなものだった。

あれは石板の下に眠っていた戦闘機だ。

薄暗くてはっきりと見えたわけではないが、瑞葉には確信があった。

巨大生物は今倒れたままもがいている。

逃げるなら今しかない、と瑞葉が目に付けたのは都合よく振ってきた例の古代兵器、と思われる物。


「よし、行こうっ!」


腹を括った瑞葉は戦闘機に向かって全力で駆け出し始めた。

背後の巨大生物を気に留める事無く、短い距離ではあったが無事戦闘機の近くまで辿り着いてホッと一息をついた。

何処から乗れるのかわからず、キョロキョロと戦闘機を見渡すと丁度ハッチが目に留まった。

瑞葉は戦闘機によじ登ると再び黒い影が瑞葉にかかった。

既に先程の巨大生物は両足で立ち上がり、奇声をとどろかせた。


「は、早く早くっ!」


瑞葉は全力で駆け出しハッチへしがみつくと、鍵がかかっているのか押しても引いても開かなかった。


「ちょ、ちょっとっ!? 開きなさいよ、バカッ!」


ガンッと怒りの鉄拳をぶつけると、何故かハッチは開かれ、瑞葉はキョトンとする。


「え、こんなんで開いちゃったの? この飛行機、大丈夫?」


だが、今は考えている場合ではないと瑞葉は中に飛び込むとハッチが閉まった。

中には操縦桿やスイッチの数々にペダルとパイロットシート。 間違いなく、コクピットとなっていた。


「て、適当でも動くよね? と、とにかくこれで逃げられればっ!」


飛行機の操縦なんてゲームでも経験がなかったが、今この場で踏みつぶされるよりもマシだろうと瑞葉は腹を括った。

パイロットシートに座り操縦桿を握りしめると、急にエンジン音が掛かり機械の類が勝手に動き始める。

すると、突如瑞葉の携帯が鳴り始めた。


「え、こんな時に何よ――キャッ!?」


ドォンッ! 激しい音と共に、コクピットが揺れる。 瑞葉は必死で操縦桿にしがみついていると、携帯が床に転がり落ちていく。


「もしもし、部長さん……聞こえてる?」


「え、え?」


落ちた拍子で電話を取ったのか、携帯からは例の謎の声が聞こえてきた。

やはりどこかで聞き覚えがあると思考をフル回転させると、瑞葉はハッとした。


「……思い出した、貴方、図書委員の人っ!?」


「ええ、でもあれは仮の姿。 私は人間じゃないもの」


「人間、じゃないって?」


「貴方が無事でよかったわ、ヴェノムに支配された時はどうしようかと思ったけど……

何とか、貴方自身で逃れる事が出来たみたいね」


「ヴェノムの支配? え、な、何言っているのよ? ちゃんと説明してっ!」


「貴方はヴェノムの支配を受けていたのよ。 自分のトラウマを見たでしょう?」


「トラウマ?」


そういえば確かに瑞葉は自らの過去を見せつけられていた。

瑞葉が長年引きずり続けた過去の記憶。

まさかヴェノムは意図的にそれを見せたというのか?

それが、ヴェノムの支配だというのだろうか?


「それよりも、まずはこの場をどうにかすべきよ」


ドォンッ! 先程よりも激しい一撃が襲い掛かり、瑞葉の視点が一転すると体が激しく壁に叩きつけられる。

肺が圧迫され、呼吸困難に陥りながらも瑞葉は懸命に携帯を握ったまま叫んだ。


「何よバカッ! 貴方のせいでひっくり返っちゃったじゃないっ!?」


「それだけ吠えれれば十分よ、案外現代人ってタフなのね」


「呑気な事言わないでっ! 貴方ならどうにかできるんでしょ?」


「とにかく、携帯を端末とつなげて。 後は私がサポートするから」


「け、携帯を?」


「急いで、フライターはそう簡単に破壊されないだろうけど……またひっくり返ることになるわよ」


「へ、変な脅しはやめてよ。 それにフライターって、何?」


瑞葉は携帯をコクピットの端末に繋げながら、尋ねた。


「今乗っているのがそれよ、まぁ貴方達が知る飛行機そのものね」


「あれ、電話からじゃなくてコクピットから声が聞こえる……?」


「そうよ、だって貴方が端末と繋いでくれたじゃない」


「そ、そういう問題じゃなくて」


一体いつどこで瑞葉の携帯にそんな機能が備え付けられたというのか。

恐らく機械と繋がった事によって直接コクピットから通信のやり取りができるようになったのだろう。


「時間がないでしょ、早く発進した方がいいわよ」


「わ、私が操縦するのっ!?」


「他に誰がいるのよ?」


「それは、そう……だけど」


勢いでコクピットに乗り移ったものの、いざ操縦するとなると瑞葉は躊躇してしまう。

万が一動かすことに成功したとしても、墜落して大破してしまったら笑うに笑えない。

むしろ素人がいきなり飛行機を動かせるはずもないのだ。


「ほら、さっきのヴェノムが追いかけてきたわよ」


「ヴェノム? あれがヴェノムなの?」


「そうよ、あれは貴方が生み出した……ヴェノム」


「え……ど、どういう事?」


目の前の鳥のような化け物が、瑞葉が生み出した?

一体何を言っているのかわからず瑞葉は混乱した。


「後で説明してあげるから、いい加減発進させてよ」


「え、うん……わかった」


いきなり飛行機を動かす事になった瑞葉は緊張のあまりに大人しくなり、口数が減っていく。

集中している、というより極度に緊張しすぎて体中に力が入りすぎていた。

口も乾いてきてパクパクとしながらも、自分に落ち着けと言わんばかりに唇を噛みしめる。


「ど、どうすればいいの?」


「とりあえずペダルを踏んで、そこのスロットルレバーを押し込めばいいのよ」


「ペダルを踏んで、スロットルレバーを―――」


瑞葉は指示通りにペダルを力強く踏みしめると、片手でスロットルを押し込もうとするが妙に堅い。

仕方ないと、両手で力強く押し込もうとすると。


「あ、気を付けてね」


「な、何?」


「あんまり強く倒しすぎると」


ガコンッ! 瑞葉は力いっぱい、スロットルを最大まで押し込んだ。

その瞬間―――ギュンッ! と瑞葉自身に凄まじいGが襲い掛かり、パイロットシートへ叩きつけられた。


「ちょ、ちょちょちょちょっ!?」


「言ってる傍から……」


ガコンッ、とスロットルが自動的に戻っていくとようやく凄まじいGから解放された瑞葉はゼーハーゼーハーと深呼吸を繰り返した。

「し、死ぬかと思った……な、何今の?」


「パイロットスーツもなしで最大出力なんて自殺行為よ、よく生きていたわね」


「え、今……あれ?」


瑞葉は操縦桿を握りしめていると、目の前の巨大スクリーンには薄暗い空が映し出されている。

瑞葉は慌てて操縦桿をガコンッと持ち上げると、機体が凄まじい速度で急降下をし始める。


「ちょ、やめっ! んぎゃああっ!?」


慌てて瑞葉は操縦桿を力いっぱい下げると、今度は機体は空高く突き進んでいった。


「何遊んでいるの?」


「あ、遊んでるわけないじゃないっ!」


「それじゃ、ある程度慣らしたら実戦よ」


「じ、実戦? ま、まさかと思うけれど――」


瑞葉は恐る恐る地上を確認すると、そこには先程の巨大生物が空に向かって奇声を上げ続ける姿が映し出されていた。


「無理無理無理、絶対無理っ!」


「それを何とかするのが、貴方の役目」


「え、ちょっと今さり気に無責任な発言しなかった?」


「私も協力するから、まずは貴方の力を取り返すわよ」


「私の力を、取り返すって?」


「あのヴェノムが、貴方のアーシェスを奪い取ってしまったのよ」


「私のアーシェス? ど、どういうことよっ!?」


アーシェスと言えば今日瑞葉達が探し求めていた古代兵器の事だ。

もしやそれがヴェノムの中に眠っているとでも言いたいのだろうか。

しかし、何故? そもそもヴェノムが何なのかもよくわかっていないというのに。

だが、今は少女に従うしかないだろう。


「ど、どうすれば取り返せるの?」


「多分、簡単よ」


「多分って何? 不安なんだけどっ!?」


「口で言うのは簡単って事よ」


「と、とにかく教えなさ――」


突如レーダーから危険を知らせる信号が走ると、瑞葉は操縦桿を握りしめ地上を警戒する。

先程の巨大生物の背中から巨大な砲台が姿を現し、火花を散らしながら青白い光が集い始めている。


「これって、何?」


「敵ヴェノムから強大な熱源エネルギー反応を確認。 とか言った方が、いい?」


「え……え? ダメ、よくなぁぁぁいっ!!」


瑞葉の悲鳴も虚しく、ヴェノムの砲台からは青白いビーム砲が解き放たれた。

瑞葉は無我夢中で操縦桿を左に傾け、スロットルを押し込むと間一髪で一撃を避けきった。


「上手上手、私のサポートもいらないぐらいじゃない?」


「バカ言わないでよもうっ! 死んじゃうところだったじゃないっ!?」


「私のせいじゃないわ、文句あるならさっさと倒せばいいのよ」


「倒せって、言われても……」


瑞葉は再び地上を見下ろすと、またしても巨大な生物……ヴェノムは威嚇するように奇声を上げ続けている。

しかし、生物のように見えるのにどうしてところどころに機械が埋め込まれているのが奇妙に思える。

それも、胴体を中心にまるで浸食されているかのような。

あれは機械なのか、それとも生命体なのか判別がつかないほどに。


「ねぇ、ヴェノムって何なの? 生物なの、機械なの?」


「難しい質問をするわね、あれは生命体でもないし、無機質でもない」


「え、どういう事?」


「心そのもの、かしら?」


「心?」


ヴェノムが心? 一体何を言っているのかわからないと、ますます瑞葉は混乱する。


「それよりも、あいつから貴方のアーシェスを取り返さないといけないわ。

その為にはまず、ヴェノムに取り込まれたアーシェスのパーツを強引に引き剥がさなければならない。

いい? チャンスは一度きりだと思って、」


「え、一度? な、なんでよ? 一体何するの?」


「簡単よ、貴方が全力で……あのヴェノムに突進すればいい」


「と、突進? それって……まさか飛行機で自爆特攻しろってことぉっ!?」


瑞葉は悲鳴に近い声で、叫んだ。

そんな事したら自身が無事で済むはずがない、仮にあのヴェノムを倒せたとしても何も意味がないじゃないかと心の中で不安が膨れ上がっていく。

今すぐにでもこの場から逃げ出そうと、スロットルを強く押し込もうとするが何故か固定されてしまい、どれだけ力強く押し込んでも動かなかった。


「落ち着いて、別に死ねって言ってないわよ。 ただ、一歩間違えたら死ぬだけ」


「そ、それ平然と言っちゃうの? や、やだよっ! 私まだまだ死にたくないっ!」


「他に方法がないわ、フライターの武装では満足に戦う事すらできないのよ」


「嫌よ、絶対に嫌っ! 何よ、私関係ないもの……帰る、帰る帰るっ!」


「貴方、言ったわよね? お友達の事を助けたいって。ここで逃げる気?」


「私の、友達―――」


瑞葉はふと、思い返す。 黒き石板の前に掛かってきた電話の事を。

あの時、確かに丈一は弱々しく助けを求めていた。

ここで逃げるという事は、そんな丈一の声を無視、いや……見捨てる事になってしまう。 ならば、やるしかない。


「わ、わかった。 怖いけど、やってみる」


「協力感謝するわ。 でも、本当にいいのね?」


「可愛い後輩の為だもの、先輩の私が頑張らなくてどうするのよ」


失敗したら無事では済まない。 そう考えるだけで身震いがする程の恐怖感に駆られるが、それでも瑞葉はやると言い切った。

もし、ここで逃げてしまって……丈一の身に何かがあれば、きっと瑞葉は後悔する。

せっかく母親の死を乗り越えたんだ、ここで逃げるわけにはいかないと固く決意した。


「できるだけサポートはするわ、だけど……本当に信じられるのは貴方自身だけという事だけは肝に銘じといて。

最後まで自分を信じて、貫き通すのよ」


「や、やるわよ。 自分が信じれなかったら、私とっくに逃げてるわっ!」


「そう。 なら、行きましょう」


「うん、行くよっ!」


瑞葉はフライターの高度を下げていくと、人の悲鳴のような甲高い鳴き声が耳に飛び込み体をビクつかせる。

ヴェノムが大きな翼を広げると、無数のミサイルが一斉に発射されていた。

モニターに映るミサイルの嵐に瑞葉は固まってしまい額から汗をたらりと流す。

だが、数十発とあるミサイルは容赦なく瑞葉に襲い掛かってきた。


「え、ど、どどどどうしようっ!? あんなの避けれないっ!」


「こっちもミサイルで迎撃よ、細かい制御は私でやるから貴方はトリガーを引いて」


「ト、トリガー? こ、これねっ!」


瑞葉が操縦桿の引き金を握りしめると、モニター上に緑色の古代文字が出現し無数のロックが出現した。

古代文字で何かが書かれているようだが、大方『サーチ』に近い意味が表示されているのだろうと想像し、瑞葉は狙いが定まるまでそのまま待つ。

こうしている間にも無数のミサイルが迫ってくるが、怖くない怖くないと歯を食いしばって自分に喝を入れる。

すると緑色の文字が赤色へと変化した。


「今だっ!」


瑞葉はボタンを押すとフライターから無数のミサイルが発射される。

同時に高度を更に下げて低空移動へと逃げ込むが、迎撃し損ねたミサイルが背後を追跡し続けていた。


「しつこいのよ、バカぁぁぁっ!」


瑞葉は操縦桿を下げながらスロットルを押し込むと、そのままぐるりとUターンをして機体が逆さのまま真っ直ぐ突き進んでいった。何とかミサイルを振り切ると、またしても背筋がゾッとするような警告が鳴り響く。


「まずいわ、敵にロックされている……避けてっ!」


「ううん、ちょっと待ってっ!」


瑞葉は砲台を構えたヴェノムを睨みつけると同時に丁度胴体部が無防備になっていたことに気付いた。

本来であれば彼女の指示に従って、ビーム砲を避けるべきなのかもしれない。

しかしミサイルの弾幕を避けきった今、次も同じように振り切れる自信はないし何よりも今が敵に近づく絶好のチャンスであると考えた。

このチャンスを逃すわけには行かないと、瑞葉はグッとスロットルを握りしめる。


「あの砲台って、相当エネルギーか何か使ってるんでしょ? それって、他に何もできないって事よね?

って事は、今が反撃のチャンスだと思うのっ!」


「確かにその通りだけど、何をする気?」


「行くわよ、私もう決めたっ! このまま、行っちゃうんだからっ!」


一度決めたからにはすぐに行動に移す、と言わんばかりに瑞葉はスロットルを最大まで押し込み出力を最大まで上げた。

凄まじいGが襲い掛かる中、必死で耐えようと瑞葉は操縦桿を調整しヴェノムへ向かって速度を緩めずに一直線に向かった。

青白い光が集った砲台が真正面に向けられるが瑞葉は怯まなかった。

いや違う、もはや突撃する事だけに夢中になりすぎて相手の一撃など見えていなかったのだ。


「あ、貴方避ける気あるのっ!? こんな無茶な速度出してっ!」


「うるさいっ! どーせ失敗したら死んじゃうでしょっ!? なら、このままいっけぇぇぇぇっ!!」


瑞葉は力強く叫ぶと不意に体から白い輝きが放たれ始める。

白い光はコクピットを伝って、フライターが真っ白な輝きに包まれていった。


「アルマフォースが発動している? この数値、この子の限界を遥かに超えている……一体、何が起きているの?」


「わあああああぁぁぁっ!!」


奇声に近い叫び声を同時に、ヴェノムから砲台が解き放たれモニターは青白い光に包まれていった。

それでも瑞葉は無我夢中に突き進み続けた。

砲台が直撃しているのかそれとも偶然避けることが出来たのか。

ただ一つわかることは、フライターは決して止まることなく全速力で突き進み続けていたという事だけだ。

ガコォォンッ! 激しい衝突音と共にコクピットが激しく揺れると一気に青白い光が晴れた。

気が付くと機体は、ヴェノムと共に空へと向かって上昇し始めていた。


「他者の力に決して呑まれる事がなく、全てを跳ね返す純真なる白の力……まさか、これ程だなんて……」


「え? 何、どうなってるの? 私から、白い光が……」


「いえ、これでいいの。 後はこのまま……」


バギィィンッ! 耳がつんざくような金属音が響き渡ると、ヴェノムの胴体に空洞が開けられた。

ギシギシと鈍い音を立て火花を激しく散らし白い煙を上げた。

すると不思議な事に、ヴェノムが纏っていた部品が剥がされ始め、磁石のようにフライターへと引き寄せられていく。


「今よ、合体するわ」


「が、合体?」


「そうよ、貴方のアルマフォースで呼び寄せて。貴方のアーシェスをっ!」


「私のアルマフォース? 私の――アーシェス?」


不思議と瑞葉の頭の中に、何かが入る込んでくるのを感じる。

遠い昔の、自分では知り得ない記憶が頭の中へと入りこんでくる。

瑞葉は操縦桿を握りしめ、深く息を吐いて……大きく吸った。

瑞葉に備わった力を、瑞葉の『機械兵(アーシェス)』の名を、叫ぶ為に。


「来て、白の戦士……アルヴァイサー!」


機体が白き光に包まれると、部品達は吸い込まれるように光の中に溶けていく。

部品が変化し巨大なボディを作り上げ、両手両足……頭と徐々に人型へと姿を変えていく。

全身が真っ白なスリムなボディの人型兵器が地上へと降り立った。

一本角が生えた鉄仮面のようなヘッドの下に青き瞳を輝かせている。

後頭部の突起物から、侍のように束ねられた茶色い髪が風に揺らされていた。


「無事、目覚めたようね」


「アーシェス……本当に、あったの?」


「ええ、貴方の力によって……再び目覚めた」


「め、目覚めたって何? 何を言っているの?」


「アーシェスはアカシャの戦士の目覚めを待っていた。貴方にはこれからアカシャの戦士として、ヴェノムと戦ってもらうわ」


「ちょ、ちょっと待ってっ!?」


平然と下された指令に瑞葉は素っ頓狂な声を上げた。

ただでさえ訳の分からない事態に巻き込まれているというのにこれ以上話をややこしくさせないでほしいと内心願う。

アカシャの戦士と言えばアーシェス文明における英雄を指す言葉ではないか。

それがどうして、瑞葉だというのかさっぱりわからなかった。

だが、現状を見る限り……瑞葉はアルヴァイサーという名のアーシェスのパイロットとされてしまったようだ。


「……もしかして、私がパイロットなの?」


「今更何を言っているの? 他に誰がいるのよ」


「む、無理無理無理っ! ロ、ロボットなんて動かした事ないしっ!

こ、この前ゲームセンターでロボットに乗って戦うゲームをやってみたけど、チュートリアルの面で即死したしっ!?」


「あんな無茶な事をしておいて、よく言うわ」


「だ、だって突っ込めって貴方が言うから――ふぎゃっ!?」


突如、目の前のスクリーンから白い輝きが射すと瑞葉が妙な悲鳴を上げて怯んでしまう。

バサッバサッと、瑞葉の目の前を大きくて真っ白な鳥が空高く舞い上がって行った。


「何よ、あれ?」


「逃げ、た? どうして……?」


「え? どうして、逃げたの?」


瑞葉は目をキョトンとさせ、再び空を見上げた。

何処かで見た白い鳥は美しく翼を広げ、闇に支配された世界を照らすかのように飛び立っていく。


「あれは、貴方が生んだヴェノム本来の姿……でも、どうして?」


「私の心より生まれたヴェノム? さっき言ってたよね? ヴェノムは心だって、それってどういう意味なの?」


ヴェノム、古代文献にも何度も出てきた単語ではあるが、未だにその正体はベールに包まれたままだ。

ヴェノムは一体何なのか、どのようにして生まれたのか。 瑞葉はそれが知りたかった。


「ヴェノムは人の心より生まれし形なき生命体。 ヴェノムが形を保つ為には人間が持つアルマフォースが必要なの。

だからヴェノムは本能的に人の記憶を覗き、知ろうとするの」


「じゃあ、私が見たお母さんの幻って――」


「そう、貴方自身に眠る『トラウマ』をヴェノムが呼び起こした。

ヴェノムはそうやって人の心を支配し、やがて全てを奪おうとする生命体……に近い存在よ」


支配する、その言葉を聞いて背筋をゾッとさせた。

もしもあのまま、ヴェノムに支配されたままなら自分がどうなっていたか。

一生あの場所に閉じ込められたままだったかと思うと、とてもじゃないが精神が持つはずがない。


「じゃあ、貴方は?」


「私はVoidMemory(ヴォイドメモリー)、通称『ヴィクター』。

旧人類が空白の歴史を埋める為に残したヒューマノイドタイプのプログラム体よ。

貴方達が言うアーシェス文明の全ては、私の中に記録されているの」


「空白の歴史? プログラムって? じゃあ、貴方は機械なの?」


「正確に言えば違う。 私は限りなく人間に近く作られたヒューマノイドタイプのヴィクターだから。 貴方も私の本体を見たでしょ?」


「ま、まさか……本当にあの時の図書委員なんだ……」


とてもじゃないが信じ難い事実ではある。 少なくともヴィクターと名乗る彼女の言葉に偽りはないだろう。

しかし、それでも腑に落ちない点はあった。


VoidMemory(ヴォイドメモリー)にヴィクター……そんなの、古代文献に載ってなかった」


瑞葉が解読した古代文書はたった一冊のそれも半分にも満たない内容ではあったが、それでも単語どころかそれらしきものを一つも見かけなかったことには疑問を抱いた。

それだけではない、そもそも古代人は昔の技術や出来事をわざわざ文書として残してるというのに何故ヴィクターという物が必要だったのだろうか?


「旧人類は私が目覚めることを望んでいなかったから。

だからヴィクターの存在は一切明かしていないし、出来れば永遠に眠ったままでいてほしいと願っていたの」


「それは、どうして?」


「私の目覚めは、人類の危機が間近に迫っている事を意味するから」


「人類の、危機?」


「さて、おしゃべりはここまでにしましょう。 貴方のアーシェスの力はまだ、不完全だわ。

その為にも、ヴェノムに囚われた貴方の仲間を助けなければならない」


「それって、久原君のこと?」


「いえ、残念だけど他の二人も捕まってしまっている。 貴方達は今、この地に引きずりこまれてしまったのよ」


「この地? どういうことなの? ここは何処なの?」


「ここはわかりやすく言えばヴェノム達の世界。 私達は精神世界と呼んでいるわ。

貴方達はヴェノムに襲われてこの世界へ引きずり込まれてしまったの」


「そ、そんな……どうしてっ!?」


まさか、部員全員が瑞葉と同じような目に逢っているというのか?

今すぐにでも助けないと、と瑞葉は無意識のうちに機体を発進させようとスロットルを握りしめる。


「よく聞いて。 貴方達はアカシャの戦士として旧人類に選ばれた。

私の役目は貴方達をアカシャの戦士として目覚めさせ、浄化プログラムを託す事」


「浄化プログラム……?」


『浄化』。 それは黒き石板に刻まれていた単語の一つだった。

ここで言う浄化とはいったい何を意味するのかはわからない。

だが、不思議と瑞葉はその言葉には想像以上の重みがあるという事を察した。


「ごめんなさい、ほぼ巻き込んだ後だけれど……貴方達には『ヴェノム』をもう一度封じ込めてもらうわ。

その為にも、貴方の『アルヴァイサー』の力を完全なものにしなければならない。 協力、してくれるかしら?」


「正直まだよくわかってないけど、どっちにしろ部員達はヴェノムに捕まってるんでしょ?

だ、だったら……私があの子達を、助けてあげないと」


妙な事に巻き込まれて混乱気味であったが、瑞葉は自分が一番年上でありどういう形であれど他の部員達を巻き込んでしまった事に部長として責任を感じていた。

本当は全て夢であってほしい何かの嘘であってほしいと強く願っているが、今はこれが現実だと受け入れる事だけで精一杯だった。


「協力感謝するわ。 それと貴方の飲み込みの早さにも助かるわね。 早速ヴェノムの反応を確認したわ。

恐らく貴方のお友達が、同じように捕らわれている」


「あんな怖い物を、皆が見せられているの?」


「ええ、ヴェノムの支配から自力で逃れることは難しいわよ」


「……早く、助けなきゃ」


瑞葉はスロットルを握りしめて、今すぐにでもアルヴァイサーを発進させようとした。


「ちょっと待って、その前に着替えたほうがいいわ、シートの下にパイロットスーツが一着あるはずよ。

生身のままじゃこれからの戦いに耐え切れないわ、意識を失うどころか……下手すると体そのものが壊れかねない」


「こ、ここで着替えろって言うの?」


「いいじゃない、一応私も女の子って設定みたいだし」


「う、うっさいバカっ! そういう事言ってるんじゃないのっ!」


瑞葉は文句を垂れると、パイロットシートの下を覗きこむとそれらしき衣服の一式を取り出す。

サイズ的には少し小さく感じるが、ギリギリ着れるだろうと瑞葉は上着を脱ぎスカートを外し、パイロットスーツを着用する。


「何これ、妙に密着してて気持ち悪い……というか、きつくない?」


「胸ない癖に見え張らない方がいいわよ、貴方のサイズにぴったりのはずだし」


「んなっ……ななな、何言ってるのよバカっ! 失礼しちゃうわっ! 今すぐサイズ変更希望っ! というより何で私のサイズ知っているのよっ!?」


「文句言わないで、それだけで身を守れるのだから」


「こんなんじゃ気になってしょうがないじゃない……はぁ、嫌になっちゃうわ」


瑞葉は文句を垂れながらもヘルメットをしっかりと固定した。

全身真っ白な何処か味気ないスーツに不満を抱きながらも、瑞葉は両手のスロットルを握りしめ深呼吸をする。


「それじゃ遠慮なく……飛ばしちゃうんだからっ!」


瑞葉は出力を最大限まで引き上げると、アルヴァイサーはギュンッと猛スピードで地上をホバリングで駆け抜けていく。

ググッと体に強いGを感じるが、不思議な事にさっきよりも負担は軽く苦しくはなかった。

こんな薄っぺらい布だけでここまで負担を軽減できるとは、流石現代よりも遥かに進んだ古代技術と感心する。

捕らわれたのは丈一だけではない。 英二や凜華だって捕らわれている。

こんな事態を引き起こした責任は自分にある、必ず仲間を助けて見せると瑞葉は誓った。

新しく手に入れた力、『アルヴァイサー』と共に、この荒れ果てた世界を突き進んでいった。


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