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古代文明機 アーシェス  作者: 海猫銀介
3章 輪廻を断つ剣
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     戦士達の想い ②


「うおおおおっ!」


丈一は腹の底から声を上げながら、ビルブレイズを直進させた。

機体は猛スピードで浄化プログラムの後ろへ回り込み、一発、二発と目にも留まらぬ速度でビルブレイズは連撃を与え続けた。


「ちょ、ちょっとっ!? いきなり飛ばしすぎよ、ちゃんと体力持つんでしょうねっ!?」


「うるせぇ、限界なんて考えてられっかよっ!」


丈一は半ばやけくそにはなっていたが、アルマフォースは以前よりも遥かに高い数値を示していた。

シュヴァインが加わった事による純粋なスペックアップもあるが、それよりも丈一は無意識のうちに限界以上のアルマフォースを引き出している影響が強かった。

だが、浄化プログラムを覆う黒き力が全てを吸収してしまい、ビルブレイズの思い一撃が届く事はなかった。

しかし、丈一はニヤリと笑って見せた。


「ヘイヘイ、おっさんよ。 このまま敵にケツ見せて帰るなんて真似はしねぇだろうな?

男ならこの俺と、正々堂々と勝負しやがれっ!」


「威勢のいい男だな。 気に入ったぞ……だが、貴様が相手にするのは私ではない」


「何?」


気が付くと、ビルブレイズは無数のヴェノムに取り囲まれていた。

ヴェノムが自意識で動いていると思ったが、少し様子がおかしい。

先程までは間髪入れずに襲い掛かってきたヴェノムが、他のヴェノム達と連携を取っていたのだ。

まさか、浄化プログラウはヴェノムすら操る事が出来るというのか? しかし、考えている余裕はない。


「チィッ!」


やむを得ず、丈一は周囲のヴェノムを始末しようとアケコンを手にして殴りかかる。

一体に多くの時間はかけずに、出来るだけ短いコンボを正確に入力しヴェノムを次々と気絶させていく。

その間に、浄化プログラムはビルブレイズから離れて行ってしまった。


「丈一君、浄化プログラムを追いかけてっ!」


「ああ、わかっているっ!」


取り囲むヴェノムを蹴りで薙ぎ払い、浄化プログラムへ追いつこうとひたすら駆け出し続ける。

次々と襲い掛かるヴェノムの一撃を華麗に回避し、ようやく浄化プログラムに追いついたところでパイルバンカーを打ち込んだ。

が、パイルバンカーは黒き力に吸い取られてしまった。


「丈一、私と変われ。 やはり接近戦では分が悪いっ!」


「クソッ、あの壁さえなけりゃっ!」


やむを得ず丈一はアーシェスをクァズールへと変形させ、パイロットを英二に交代させた。


「アルマフォースを使わない実弾兵器ならば多少なりとも通るはずだっ!」


ほぼ至近距離でクァズールは容赦なくガトリングを打ち込み続けた。

銃声が響き砂煙で視界が覆われると、英二は舌打ちをしながら相手の出方を伺った。

やはり、浄化プログラムは傷一つつかずに平然とその場で立ち尽くすだけだった。


「実弾もダメ? 吸収するのはアルマフォースだけじゃないのっ!?」


「クッ、成す術は……ないのか?」


「――鬱陶しい、地球の生物で例えるなら貴様らはハエ同然だな。

よかろう、貴様らをハエの如く……ワシが駆除してくれるわぁっ!」


浄化プログラムが立ち止まったかと思うと、両手が砲台へと変化し始めていた。

すると、黒い光が集い始め、クァズールをロックオンしていた。


「英二君っ!? お願い、間に合ってっ!」


「地球人めが、今すぐにでも消え失せろっ!」


浄化プログラムの両手から、二本の黒きビームが解き放たれる。

視界が真っ暗な光に覆われるその僅かの瞬間に、アーシェスはアルヴァイサーへと変形した。

瑞葉は白き力を全開にしてシールドを構える。 だが、浄化プログラムが持つ黒き力は想像以上だった。

瑞葉が持つ絶対領域の白でさえ、黒き力で押し切られそうな程の恐るべきパワーだった。

周囲には衝撃で暴風が吹き荒れ、アルヴァイサーは地に留まることが出来ずに、徐々に勢いで押され続けていたが、それでも尚盾を構え続けた。


「な、何て力なの……わ、私のアルマフォースじゃ……おさえ、きれない――」


「おいおい、このままじゃヤベェぞっ!?」


「なんとかして音琴君のアルマフォースを底上げできないか?」


激しい振動が伝い、アルヴァイサーの持つ盾にもヒビが生じ始めていた。

あの一撃を受けてしまえばいくらアーシェスと言えど無事では済まない。


「シュヴァインのスピードならば振り切れるはず……ねぇ、私と変わって」


「そんな隙あるわけないでしょっ!?」


「だけど、このままじゃ盾が持たない。 アルマフォースが尽きれば合体は強制解除されるし、そうなってはお終い」


「で、でも……っ!」


多少のリスクを背負わなければこの状況を切り抜ける事が出来ない事は瑞葉にもわかっている。

他の策を考えている余裕もない、なら……懸けてみるしかないのか。


「その必要はねぇ」


「え?」


「そ、その声は――」


瑞葉とアリサはほぼ同時に反応を示した。

コックピットに通信が繋がっていた、浄化プログラムから何者かが割り込んでいるようだ。


「よう、アリサ。 待たせたな」


「カズくんっ!?」


やはり、間違いない。 先代アカシャの戦士、カズキの声だ。


「だ、誰だよ?」


「私達の前の代に戦ったアカシャの戦士よ」


「何? まさか生きていたのか?」


「そんなはずはない、あの時彼は確かに死んだはず……」


アリサは彼の死を見届けた張本人だ、彼女の言葉に嘘偽りはないだろう。

しかし、現実には彼の声が聞こえているのも事実。

そして、瑞葉自身が実際彼と逢っているのも事実だ。

この矛盾が示す意味はわからない。

だけど、少なくとも彼は今、瑞葉達に力を貸そうと立ち上がってくれていた。


「アリサ、遅くなっちまったけど……約束を果たす時が来たようだぜ」


「やく、そく?」


「ああ、奇跡を見せてやるって言ったろ?」


その瞬間、浄化プログラムからの砲撃が止んだ。

自由の身となったアルヴァイサーはすぐに盾を解除して、ライフルを浄化プログラムへと向けた。


「……ほう、地球人よ。 貴様らはアカシャの戦士は、ただ単に無駄死にを重ねていった訳ではないようだな」


「な、何? どういうこと?」


突如動かなくなったかと思えば老人は何かを呟いていた。

もしや浄化プログラム内で異常が起きているのか?

だとすれば今がチャンスだ。


瑞葉は間髪入れずにライフルを放った。

しかし――結果は同じだ、表面を覆う黒き力がアルマフォースを吸収してしまうだけだった。


「何してんだ、今のうち唄えよ」


「う、唄?」


「そうだ、テメェらの魂の叫び……俺達に聞かせろ」


瑞葉は皆の様子を伺うと、全員が揃って力強く頷いた。

唄は奇跡を起こした、アーシェスに新たな力を加えたという実績もある。 ならば、もう一度唄の奇跡を願おう。


瑞葉はもう一度オルゴールの蓋を開け、アカシャの戦士達は再び歌い始めた。


「な、何だ……この唄は?」


メロディーが流れた瞬間、浄化プログラムに突如変化が訪れる。

纏わっていた黒き力が次々と剥がれ落ちていき、浄化プログラムは何かに苦しんでいるかのようにのた打ち回り始めた。

それだけではない、周囲のヴェノムから抜け落ちた黒き力が、逃げ場を求めるように空高く舞い上がり、散り始めたのだ。


「お、おい……この唄、なんだよこれ。 不思議と心に響くっつーか、落ち着くというか」


「――これが、浄化の力?」


アリサは、信じられなかった。 不幸を呼び続けた唄がまさか黒き力を浄化しているという事実に。

以前は黒き力によりヴェノムが暴走したり、或いはアーシェスに黒き力が紛れ込み、パイロットの精神状態に異常をきたすことがあった。

だが、今回は違う。 紛れもなく、本当に浄化の力が発動していたのだ。


「小癪な……唄をやめろっ!」


浄化プログラムの胴体部から、とてつもなく巨大な砲台がアルヴァイサーへと向けられた。

周囲のアルマフォースを吸い上げ、徐々に砲台の先端から火花が散らせると、黒のアルマフォースが急上昇し始める。

それだけではない、浄化プログラムから次々と小型の黒き影が生まれ、それぞれが付近の建物を破壊しようと暴れ出そうとしていた。

「お、おいっ! 避けろっ!」


「いえ、ダメよ。 ここで避けたら街の被害が……」


「だからと言って、あんなやばそうな一撃受け切れるのかっ!?」


凜華が分析したアルマフォース値を確認すると、それは先程受けた一撃を遥かに凌駕する数値を示していた。

唄の力があってもなお、ここまでの力を出せるのかと思うとアリサは背筋をゾッとさせる。

だが、瑞葉はそれでも唄うのを辞めていなかった。

その時、上空から白き閃光が放たれると、浄化プログラムに向けて一直線に突き進む。

一瞬静けさが生まれたかと思えば、大爆発音と共に浄化プログラムの砲台と黒き力が掻き消されていった。


「な、何? 何よ今のっ!?」


「……空を、見て」


凜華が上空を指さすと、瑞葉は唄を中断して空を見上げる。

するとそこには、何処か見覚えのある白き巨鳥の姿が見えた。

あの鳥は――瑞葉がアルヴァイサーを解放した時に、目にしたヴェノムだった。


「ヴェノムが……帰ってきた?」


「浄化の力によって、復活を果たしたというの?」


「でも、なんでヴェノムが俺達を助けてくれたんだ?」


「そうか……そうだったんだ」


瑞葉はここでようやく気付いた。


「ねぇアリサ、以前に言ってくれたよね? あれはヴェノムの本来の姿だって」


「――そうよ。 ヴェノムは元々無害な存在、それが狭間の崩壊と共に狂い出しただけ」


「うん、でもそれだけじゃないと思う。 きっと、あれは別の形をした私達なんだよ」


瑞葉は自信満々にそう言った。

根拠があったわけではない。

だけど、瑞葉はそもそも人間の精神状態とリンクしているという点がどうしても気になっていたのだ。


それにヴェノムは自分の事をよく知っている。

誰よりも自分が恐れている物を知っていたのだ。

それはヴェノムが知ろうとしていたわけではない、ヴェノムが自分自身だったから知っていた。

だから、自分の心の弱さに打ち勝ち、アルマフォースを解き放った時。

ヴェノムは浄化されたのだ、自信を覆う闇を自身の手で打ち破ったのだから。


「地球人如きに、ここまでしてやられるとはな。

だが、遅いっ! 既にアルマフォースは規定値に達している。

今更貴様らが足掻こうが……世界を一瞬にして灰に変える事なぞ造作ない、クククッ!

自らの運命に絶望するがいい、地球人めがっ!」


浄化プログラムを覆う黒き力が暴走し、巨体だった浄化プログラムを更に巨大化させていく。

空に向かって雄叫びする浄化プログラムの姿は、もはや神聖さのかけらもない、ただひたすら破壊するだけの存在と化していた。

ビリビリと響く甲高い雄叫びに耳を塞ぎながらも、瑞葉は諦めずに戦い姿勢だけは辞めなかった。


「唄の力でも、浄化プログラムを抑えることが出来なかった……どうすれば、いいの?」


「いえ、まだ可能性はあるわ」


「可能性……?」


「周りを見て」


アリサに言われて瑞葉はモニターを確認すると、かつて瑞葉達を襲っていたヴェノム達が何故かこの地へと集っていたのだ。


「ヴェノムの力の根源は、元々は白き力だった。

だけど、黒き力を注入されたヴェノムは支配され、人からアルマフォースを奪い、ただ破壊するだけの存在となった。

だけど、あのヴェノム達は貴方の力で、浄化された姿なのよ」


「私が、ヴェノムを浄化したの?」


「ええ、貴方が私……ううん、他の3人にしたように。 心の浄化を、行った」


「心の、浄化――」


実感はないが、確かに瑞葉は苦しんでいる部員達は無我夢中で助け出していた。

それぞれが自らの持つ過去に縛られ、苦しんでいた。

だけど、瑞葉は手をさし伸ばし希望を与え、共に闇から抜け出そうと手を差し伸べ続けた。

その結果、ヴェノム自身も闇の呪縛から解放されていたのだろう。

ヴェノムもまた、共に戦う意思を示してくれていた。


「一緒に、戦ってくれるの?」


「世界を守りたいっつーのは、どうやら俺達だけの願いじゃないらしいなっ!」


「ヴェノムもまた、我々が縛られた輪廻を断ちきろうと陰ながら戦っていたのかもしれんな。

……その願い、私達の代で叶えるべきだ」


「うん、きっと今までこんな事なかった。 私達の代で……全てを終わらせるっ!」


5人の決意も固かった。

今まで敵として認識していたヴェノムを受け入れ、全ての元凶となる浄化プログラムを倒す為にも瑞葉は操縦桿を握りしめる。

すると、ヴェノム達は一斉に浄化プログラムに向かって砲撃を開始した。

凄まじいまでのミサイルにビーム砲を浴びせるが、浄化プログラムは何ともないかのように空に向かって再び雄叫びをあげる。


「いくら行き過ぎた文明力があると言えど、所詮宇宙生命体の文明力を前にしては無力。

我々が生み出した浄化プログラムを前にしてはそこまでのようだな、地球人よ」


「何よ、偉そうに言っちゃって。 アンタ達のその浄化プログラムとやらの方がよほど行き過ぎた文明よっ!

アンタ達に、地球を干渉される理由なんて何もないわっ!」


「そうだ、我々は文明を持ちすぎたが故に滅びたのだっ!

地球を我々の二の舞にするわけには行かぬ、だからこそ強引にでも文明の成長を止める必要があったっ!」


「やり方が間違っているのよ、他にも方法があったんじゃないのっ!?

それに、アンタがやっているのは……ただのおせっかいよっ!」


アルヴァイサーは浄化プログラムに向かって、フォースライフルを放つ。

白き閃光が一直線を突き進んだが、黒き力により掻き消されてしまう。

オルゴールを流れ続けているが、もはや効果は期待できない。 一体、どうすればいいのか――


「クハハッ! そうだ、文明の破壊こそが我が使命っ!

最初から、最初から地球という文明なぞ破壊すればよかった。

つまらぬ夢を持たせ、無駄な争いを続けさせるよりもよほど有意義だったかと思わないか?

この私が、貴様らを輪廻から解放してやると言っている、何故それをありがたく思わんのだぁっ!」


浄化プログラムは、両腕から数十本の砲台を作り出すと、まとめて空に打ち出す。

数十本の黒いビーム砲が闇に溶けたかと思うと、大空を舞っていたヴェノムを全て貫いた。


「キィィィィ―――」


巨鳥のヴェノムは悲鳴を上げ、巨体をフラフラとさせると地上へと向かって力なく落下していってしまった。


「ヴェ、ヴェノムが――」


「動かないでっ!」


アリサの怒声にビクッとし、瑞葉はじっとしていると……浄化プログラムの黒いビーム砲は次々と周囲のヴェノムを的確に貫き続けている。

まさか、先にヴェノムだけを狙ったというのか? 応援に駆け付けた巨大なヴェノム達も、抵抗する間もなく黒き力に呑まれ、その場で力なく倒れていく……。


「引導を渡す時が来たようだな。 地球人如きにこの名をつけたのは不本意ではあったが、あえて言わせてもらおう。

貴様らの終わりだ、アカシャの戦士達よ」


「何なのよ、アレ……圧倒的じゃないっ!」


唯一頼りになると思っていたヴェノムは、たったの一撃で撃墜されてしまった。

アルヴァイサーの力では浄化プログラムに傷一つつけることは敵わない。

切り札であったはずの唄すらも、もう浄化プログラムには効果はなかったのだ。

もう成す術はないのかと、瑞葉は目を閉じると……ふと、何処からともなく声が聞こえ始める。


「諦めるなっつってんだろ?」


「なっ――」


「カズ君っ! どうして、どうした貴方の声が聞こえるのっ!?」


アリサ自身も何が起きているのか理解できなかった。

死んだはずの人の声が聞こえてくる、しかしそれは幽霊の類でも何でもない。


「僕達もいるさ」


「私のことだって忘れないでっ!」


「な、ななっ!?」


今度は全く知らない声が通信機から伝い始めていた。

だが、アリサはその声を聞いて涙を流し始めていた。

恐らく、彼女は声の主を知っている。


「ど、どうして……どうして死んだはずの皆の声が――」


「アルマフォースだ、俺達の意思がアルマフォースとして浄化プログラムの中に残り続けた」


「本当にカズくんなの?」


「ああ、信じられねぇか?」


アリサは首を横に振った。

その言い方も声も、彼自身で間違いない。

アリサは涙を流し続けていた。


「足りねぇぞ、お前らの声。 もっと聞かせろよ、テメェらの唄をよっ!」


「言ってくれるじゃないっ! いいわ、こうなったら声が枯れるまで唄い続けてあげるわっ!」


「ああ、もう音程も何も関係ねぇっ! 適当にシャウトしまくりゃいいんだろ?」


「せめて、美しく歌いたいがな」


「私も、頑張って唄う」


アカシャの戦士の心が一つになっていく。

それは瑞葉達の代だけではない、今まで無残にも散って行った命達が……集い始めていたのだ。


母が託した唄が、今ここで必要とされている。

ふと、アリサが自分達に伝えた事を思い出した。

『貴方達が選ばれたのは偶然ではない。 何か意味があって選ばれた』のだと。

アカシャの戦士の選抜基準が、どうであったのかはわからない。

だけど、もし瑞葉が選ばれた事に意味があるのだとすれば。

母が子守唄として唄ってくれたあの唄に、意味があるのだとすれば。

瑞葉は、ここで自分が奇跡を起こせるはず……と、信じた。


「皆……起こそうよ、私達の代で……奇跡をっ!」


不思議と、5人の歌声は透き通るかのように街全体……いや、世界全体へと広まっていった。

撃ち落とされたヴェノム達が蠢きだすと、段々と自身の身体が白い光の粉へと姿を変え、空へと散っていく。

周囲のヴェノム達が、次々と光の粉へと姿を変え始めていた。


「これだけの絶望に立たされながらも、まだ唄うか?

地球人はよほどの唄好きのようだな、今更貴様らが唄ったところで何が変わる?

所詮は悪あがきにしかすぎんという事を、その身を持って教えてやろうっ!」


浄化プログラムから、アルヴァイサーに向かって無数の黒き手が襲い掛かる。

だが、アルヴァイサーは身動き一つ取らなかった。

ただひたすら、唄う事に集中し、他に何も考えなかった。

それは、これから起こる事を予測しての事だったのか、それともただ唄う事に夢中だったのかはわからない。

だが、少なくとも……唄によって、奇跡は起こされた。


アルヴァイサーの周囲に、白い光の粉が集い始めていた。

襲い掛かってきた黒き手は、一瞬にして弾き飛ばされてしまう。

全てを飲み込むはずの黒き力が、絶対領域の白き力に弾き返されたのだ。


「いいぜ、お前らの唄……最高だぜ。 これなら安心して、俺達の力を託せるな」


「力を託すって?」


「まさか、カズくん……?」


「迷うな、アリサ。 俺達は世界を救う為に戦い続けた。

このふざけた世界を終わらせる為だけにだ。 ……俺達の魂で、最後の切り札を生み出す」


「そんな――」


瑞葉は躊躇した。 力を使う、それは即ちこれまで死んでいった皆の命を使う事を意味する。

何よりもアリサが大切に思っていたカズキの命でさえも。


「……迷わないで。 彼らの願いを受け止めて」


「アリサ、でも――」


「いいの、もう一度会えただけでも十分よ」


アリサは笑った。 だけど、涙を流していた。

きっと悲しいのだろう、苦しいのだろう。

だけど、それでも無理やり笑っていたのだ。


「さあ受け取れ、俺達の……想い(アルマフォース)」


アルヴァイサーの中に、次々と白い光の粉が入り込んできていた。

感じる、これまで以上に強力なアルマフォースを。

暖かかった、これまで積み重ねてきた熱い思いが心で満たされていくのを感じた。

確かに受け取った、瑞葉は心の中で伝えて強く頷いた。

そして、力強く叫んだ。


「アリサ、シュヴァインには大きな大剣があったでしょ? あれを召喚する事ってできないのっ!?」


「……できなくはないけれど、どうする気?」


「いいから、召喚してっ!」


瑞葉が指示を出すと、アルヴァイサーの目の前には黒き大剣が出現した。

大剣は白き光に包まれていくと、徐々に刃の色が黒から白色へと変化させていった。


「丈一君、貴方の情熱で……あの大剣に炎を纏わせてっ!」


「お、おいおい? んな無茶な事……チッ、しかたねぇ。

俺の熱すぎる情熱って奴を、見せてやるよっ! うおおおおおおぉぉっ!」


丈一が赤の力を暴走させると、黒き大剣に灼熱の炎が纏われ出す。

だが、炎の力が強すぎて、アルヴァイサーにまで火が回るほど燃え盛っていた。


「ちょっと、やりすぎよっ!?」


「うるせぇ、制御なんてできるかっ!」


相変わらず極端な性格だと瑞葉は思わず笑ってしまった。


「ま、まぁいいわ。 ねぇ、凜華ちゃん、何でもいいの。

浄化プログラムの脆い部分、というか弱点とか、何かそういう突破口を見つけ出してくれる?」


「うん、やってみる」


凜華がキーを高速で叩いている間、アルヴァイサーは目の前に出現した巨大な剣を浄化プログラムへと向けた。


「英二君、凜華ちゃんの分析が終わったら……貴方が狙いを定めて」


「狙いを、定める? 一体何をする気だね」


「いいからっ!」


「……了解した」


瑞葉は浄化プログラムを睨みつけながら、叫んだ。

あれだけ強大な力を持つ相手には、所詮効果なんて期待できないのかもしれない。

それでも瑞葉は、何としてでもあのプログラムを破壊したいという意思だけは捨てなかった。

皆(アカシャの戦士)の想い(アルマフォース)を無駄にしない為にも。


「まだ抗うか、地球人よ。 この圧倒的な力を前にしてもなお、絶望しないのか?」


「絶望するのは、アンタよっ! 見せてやるんだから、地球人の底力って奴をっ!」


決して諦めない、と瑞葉は力強く叫んだ。


「分析、終わった。 動力部は見つけたのだけれど……アルヴァイサーの火力で突破できるかは、わからない」


「ありがと、それで十分だわ。 英二君、わかってるわね?」


「ふむ、ここを狙えばいいのだな? だが、銃を持っていないようだが」


「銃なら、あるわよ。 ここに、すっごく強力なのがねっ!」


瑞葉はアルヴァイサーが握りしめた巨大な大剣に向かって叫んだ。

英二は狙いを定めると、一気にトリガーを引いた。

すると、バシュゥウンッ! と轟音と共に、アルヴァイサーの大剣から一直線に炎が纏った白き光が解き放たれる。

だが、浄化プログラムを前にして白き光があっさりと弾き飛ばされてしまう。

だが、ここまでは狙い通りだと瑞葉は、思わずニヤリと笑う。

刹那、浄化プログラムが突如白き炎に包まれ燃やされ始める。

そう、発信源はアルヴァイサーが狙い撃った箇所だ。


「バカな、黒き力が……燃やされているだとっ!?」


「絶対領域を手にした炎は、例え黒き力でも全て呑まれたりはしないわよ。

そのまま動力源にまで火が達すれば、アンタが終わりよっ!」


「クク、クククッ!面白い、実に面白いぞ小娘っ! だがな、炎は決して全てを焼き払うことが出来んっ!

浄化プログラムの本質は白き力だという事を忘れたかっ!?」


「そんなの、知ってるわよっ!」


「何?」


瑞葉はフォースライフルへと持ち替えて、叫んでいた。


「狙いはバッチリだ、音琴君っ!」


「うん、ありがと英二君。 このまま、動力源を貫いてやるんだからっ!」


瑞葉がトリガーを引くと、ライフルの銃口からは黒き閃光が一直線に走る。

バギィィンッ! 何かが割れるかのような音と共に、黒き閃光が浄化プログラムを貫いた。


「や、やったっ!?」


「いえ、まだよ」


浄化プログラムは、倒れずにその場に踏み止まる。

撃たれた個所から黒い影のようなものが蠢きだすと、破られた装甲を埋めるかのように集い始めていたのだ。


「残念だったな、地球人よ。 所詮貴様らの限界は何処までだ。

浄化プログラムは、どうあっても倒れない。

ただかアーシェス一機で、破壊できるような代物ではない」


「それは、どうかしら?」


アルヴァイサーは両手に再び大剣を握りしめると、空高く飛び上がる。

同時に、またしても唄が流れ始め、白い光の粒子が大剣へと集い始めて行った。


「いいだろう、貴様が剣で決着をつけるというのなら、私もまた剣で貴様を討つっ!」


浄化プログラムは一本の剣を召喚すると、剣は一人でにアルヴァイサーの元へと向かっていく。

だが、瑞葉は剣をいとも簡単に弾き飛ばし、大剣を一振りさせるとあっという間に剣は真っ二つに折って見せた。


「貴方が作り上げてきた世界の輪廻……私達の代で、断ち切って見せるっ!

皆の意思で生み出した……この『輪廻を断つ大剣(アーシェスソード)』でっ!」


「図に乗るな、地球の小娘がぁぁっ!」


アルヴァイサーの周囲に無数に黒き剣が出現する。

だが、瑞葉は剣の嵐を掻い潜って、浄化プログラムが再生している箇所に目掛けて、大剣を突き立てて進んだ。

瑞葉はスロットルを力の限り押し込み、全速力で突き進む。


「「うおおおおおぉぉっ!」」


5人が一斉に、力の限り叫んだ。

渾身の一撃で、全てを終わらせる為に。

歴代のアカシャの戦士達の無念を晴らす為にも、ヴェノムに託された最後の希望に……応える為にも。

その瞬間、輪廻を断つ大剣(アーシェスソード)に強い光が宿り、巨大な光の刃が生み出された。


バギィィンッ! ガラスが割れるかのような音と共に、何かが砕け散る音がした。

光の刃は、確かに浄化プログラムを貫通していた。

だが……ほぼ同時に、アルヴァイサーの頭が吹き飛ばされ、左腕が黒き剣によって切り落とされる。

片手になっても……頭を失ってもなお、瑞葉達は力を緩めずにアルヴァイサーを前進させ続けた。


「クク、クハハハッ! 地球人よ、そこまでして自らの星を守りたいかっ!

だが、例え貴様らがこの私を倒し、世界に一時の平和をもたらせたとしても……進みすぎた文明は、自らを破壊するだけだ。

貴様らはいつか気づかされる、輪廻に縛られ行かされて続けていた現状の方が、永遠に滅びゆくよりも賢かったという事にっ!」


「そんなの、未来になってみないとわからないでしょ?

危険だからといった理由で全てを事前に排除していったら、新しい物は永遠に生み出されないっ!

現状維持だとか、同じことを繰り返し続けるよりも、新しい物を生み出し続ける方が、いいに決まっているっ!」


「だから、この私を倒し……新たな道を切り開くというのか……面白い、面白いぞ地球の小娘っ!

ならば、見せてもらおうじゃないか。 貴様ら地球人の底力をぉぉっ!」


「私は負けない、アンタなんかに……負けてたまるかぁぁっ!」


瑞葉の純粋すぎる真っ直ぐな思いが、何処まで届くのか。

世界がどれだけ、瑞葉の心を認めてくれるかはわからない。

だけど、瑞葉は何よりも願った。

せっかく作り上げた仲間達を失いたくないと。

母親との思い出を捨てたくない、何よりも陰ながら自分を支えてくれた父親を助けてあげたいと。


そして、長年縛られ続けてきたアリサを……この輪廻から解放してあげたいと、強く願った。

途端に、視界が真っ白な光に包まれていく。 瑞葉の意識は、段々と遠のいていく。

この光は、浄化プログラムによる救済の始まりなのか、または単なる破壊を示す光だったのか。

瑞葉はその判断すらつくことが出来ず、意識を失ってしまった。


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