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古代文明機 アーシェス  作者: 海猫銀介
3章 輪廻を断つ剣
21/26

     決断の時 ③


街の全ては精神世界に持って行かれた。

ただ一人残されたヴィクターは、荒地と化した街を歩み続けていた。

唯一、精神世界に呑まれなかった聖地、アーシェスが封印されていた地へと向かって。


そこに浄化プログラムの本体が眠っている、ヴィクターと共に深い眠りについていたのだ。

瑞葉達は聖地の事を黒神社と呼んでいた。ヴィクターは世界の始まりと終わりをいつもこの場所で迎えている。

ヴェノムの目覚めと同時にヴィクターは目覚め、ヴェノムの眠りと同時にヴィクターもまた眠りを迎える。

もう、何度繰り返した事か。 同じような最期を何度迎えただろうか。


ヴィクターはその地に残され端末を使い、精神世界の瑞葉達と連絡を取り続けていた。

向こうの状態が監視モニターを通してある程度は把握している。

正直、彼女達が素直に浄化プログラムの発動を受け入れたのは意外だった。

ヴィクターはあれだけ瑞葉達に非協力的で、しかも騙すような真似までしたというのに。

瑞葉は、ヴィクターの事を信じ続けてくれたのだ。


また、この時を迎えてしまったと深くため息をつく。

やはり今回もまた同じ結果だった。

いや、もはや違う結末を迎える事はあり得ないのだろう。

受け入れるしかない、今の世界の在り方を。

この狂った世界の在り方を、ただ認めるしかない、受け入れるしかない。


「貴方達の想い、無駄にはしたくない。 せめて、私の記憶に留めさせ続ける事はできる」


いつか世界を救う、そんな約束をすることはできなかった。

ヴィクターは端末を操作して、準備を進めた。

この地に眠る浄化プログラムを、精神世界へ送る為に。

何度もやった手慣れた手順で起動準備を進めていく。

すると、ふと見慣れない警告メッセージが出てきて手が止まった。


「……唄の意味を忘れるな?」


警告メッセージには古代文字で確かにそう書かれていた。

唄の意味? それは例のあの唄を指しているのだろうか?

しかし、アレはただ単にヴェノムの黒き力を暴走させるだけの力しかないはずだ。

それにこのメッセージ、今まで一度も見たことがない。


「こんなメッセージに、意味なんてないわ」


ヴィクターは警告メッセージを無視して浄化プログラムを精神世界へと転送させた。

後は瑞葉達が起動させるのを待ち、ヴィクターが仕上げを行うだけ。

それでヴィクターの役割は終わり、再び永い眠りにつく事となるのだ。


「これで今回も、終わりね」


ヴィクターは悲しげに、世界の終わりを呟いた。





戦いは止まった、瑞葉の必死な説得によって。

しかし、これが本当に望んだ結末なのかと言われるとそうではない。

そうせざるを得ない状態に追い込まれている事に、気づかされていた事こその決断だ。

ゴゴゴゴ、突如激しい地響きが起き始めていた。

周りのヴェノムは何かを警戒するように、二機のアーシェスを包囲するように囲い始めていた。

既にかなりの数が集っている、仮にここから戦う選択をしたとしても……恐らく、長くは持たなかっただろう。


校庭の中心には大穴が開かれ始めていた。

瑞葉は巻き込まれないようにアルヴァイサーを空高く飛ばす。

同時にブラックアズールも離れていった。


周辺のヴェノムは次々と大穴の底へと飲み込まれていった。

底なしの穴は何処へつながっているのかは想像もつかない、落ちたら無事では済まないだろう。

大穴からは真っ黒な得体のしれない物体は天に向かって高く伸びだした。

黒い影からは赤い瞳のようなものがギロリと光る。


すると、カッと周囲が白い光に包まれた。

大穴からは光の粒子が大量に吹き出し、それらが黒い物体を包んでいくと真っ白な装甲が作り出されていった。

徐々に形づけられていく真っ白な柱のような機械。


「……あれが、浄化プログラムなの?」


想像を絶する大きさだった。

アーシェスの何十倍もの大きさを誇る、巨大な柱の形をした兵器。

青白い光で奇妙な模様が浮き上がっていた。

古代文字のようにも見えるが、あれは一体何なのだろうか。

世界を救う兵器にしてはあまりにも不気味な外観だ。

禍々しさすら感じる程……それは瑞葉があの兵器を良い物だと思っていないからなのだろう。


「起動準備は整ったわ。 これで貴方達のアルマフォースを解放すれば浄化プログラムを起動することが出来る。 後は、私が上手く制御するだけ」


ヴィクターは淡々と説明をした。

あまりにも手慣れていて迷いすらない。

事実上、一つの世界に幕を下ろす行為に等しいと言うのに、彼女は何も重みを感じているように見えなかった。


「あ、あんまり実感ねぇよな。 もうすぐ全てが終わっちまうだなんて」


「そ、そうね……そうだよね」


丈一は笑ってはいるが、顔はひきつっている。

やはり、怖いのだろう。

それは瑞葉だって同じだ。 怖くないはずがない、自分達が今何をしようとしているのか考えれば。


「時間がないわ、早く始めましょう。 貴方達の決断が揺らぐ前に」


「そ、そうね。 皆、準備はいい?」


「おう、任せろ」


「うん、平気」


丈一と凜華はすぐに返事をしたが、英二だけは少し悩んでいるように見える。

やはり、納得がいかないのだろう。

当然だ、瑞葉達と敵対化してまで英二は世界を何とかしようと諦めなかった。

だけど、彼もわかっているはずだ。

瑞葉と同じで、世界はもうどうする事もできない状態にまで追い込まれたという事実を。


「どうしたの、英二君」


「……いや、なんでもない。 いいだろう、いつでも始めてくれ」


心配そうに香奈が声をかけると、英二はメガネを直して瑞葉に返事をした。

これで準備は整った。


「……ごめん、始めるね」


瑞葉は精神を集中させた。

アルマフォースの解放、普段は無意識にやっている事だが、いざコントロールしようとなると難しい。

余計な事を考えず、瑞葉は深呼吸をした。

大丈夫、出来る。 怖くない。 ずっと自分に言い聞かせていた。


結局、何もできなかった。

絶対にどうにかすると大口を叩いても、何かをやろうとすればやる程裏目に出続けていた毎日。

必死に足掻き、その日が来るまでに答えを見つけようと頑張っても、無駄だった。


「大丈夫、もう大丈夫……」


それは自分を安心させるための言葉だった。

自分の行動は間違っていない、こうしなければ世界は救えなかった。

もう十分頑張った、やれる事はやりきったんだ。

浄化プログラムから徐々に白い光が集い始めていた。

柱には数値がぼんやりと浮かび始めていた。 起動までの時間……いや、アルマフォースの数値を現しているのだろう。

少しずつ体が苦しくなっていく。

胸が痛み、呼吸が乱れ始めていた。

命が吸われていく、アルマフォースと共に……浄化プログラムに。


「……怖くないよ、皆と一緒だからっ!」


それもまた自分の為の言葉だった。

丈一や凜華、英二に言葉は届いているのかすらわからない。

意識も徐々に薄れていく、これが命を吸われていく感覚なのだと実感した。


「怖がらないで、貴方達の最後はしっかり私が見届ける。

決して辛い思いはさせない、貴方達の無念は絶対に晴らすから」


ぼんやりとヴィクターの言葉が聞こえ始めていた。

改めて、自分が今死に向かっている事を思い知らされた。

お別れを言わなきゃ、と瑞葉は苦痛の中、無理やり笑顔を作ってヴィクターに告げた。


「ヴィクター……私、今でもちゃんと貴方を信じてる。

だからこそ、こうやって浄化プログラムを受け入れた。

……私達に代わって、今度こそ絶対に世界を救ってね」


声を必死で絞り出して、瑞葉は告げた。

自分達は何もできなかったけど、ヴィクターは違う。

彼女は次の代につなぐ重大な役割を持っている。

彼女が繋ぎ続ければ、いずれこの壊れた世界が修復される時が必ず来ると信じた。


「……ええ、約束するわ」


ふと、ヴィクターが笑ったかのように思えた。

顔は見えていないのに、声だけしか聞こえていないのに。

彼女が涙を流しながら、笑っている姿が見えていた。

ヴィクターが感情を持たない、そんなの嘘だと思った。

彼女はプログラムではない、自分達と同じ人間そのものだと。


今更ヴィクターにその気持ちを伝えようだなんて思わなかった。

もう、本当に終わりなんだなと瑞葉は笑った。

瑞葉の意識が薄れていく、間もなく死を迎えようとしている証拠だ。

もう怖くない、ヴィクターも瑞葉も……ちゃんと笑ってお別れできた。

後は全てを、次世代に託すだけ。 思い残す事なんてもう、なかった。 そのはずだった。


「―――なよ」


ふと、何処からともなく声が聞こえ始めた。

何かが瑞葉に語りかけている、一体この声は……誰なのか。


「諦めんなよ」


今度ははっきりと聞こえた。

諦めんなよ、確かに声がそう告げていた。

一体誰の声なのかはわからない、しかしもはや希望を見いだせないと誰もがわかっていたはずだ。

なのに、その声からは僅かにだが希望が感じられた。

すると、瑞葉の脳裏にあの時の記憶が蘇り始めていた。

病室で母親が死ぬ直前、瑞葉に残してくれた言葉。


「これからどんな困難に陥ろうとも……」


瑞葉は母親の言葉を、復唱する。


「あの唄を忘れないで……強く……生きて――」


あの唄……?


「あ――」


記憶の底から何かが込み上がってくる。

幼い頃、母の腕に抱かれながら耳にしたあの唄。

不思議と心が落ち着いて、安心できたあの唄、あのメロディー。

頭の中に広がり始めた、記憶の底に封じられていた……もう、忘れたと思っていた唄。


「思い出した……」


徐々に蘇ってくる、あの時母親が唄ってくれた子守唄。

今までどうやっても、思い出す事も聞く事も出来なかった……封じられていた唄。


「そうか……この唄の意味は――」


思い出した。 瑞葉は全てを思い出した。

違う、これは決闘の為の唄なんかじゃない。

この唄には、もっと違う意味が秘められている。


「皆、待ってっ! ストップ、ストップっ!」


瑞葉は必死になって叫んだ。

すると、丈一と凜華はふと我に返ると呼吸を乱しながら瑞葉と目を合わせた。

同時に浄化プログラムを包んでいた光も消え去ってしまった。


「ねぇ、皆。 よく聞いて」


「な、なんだよ? どうしたんだ?」


「……どうしたの?」


二人は目を丸くさせていた。

何故か瑞葉からは自然と笑みが浮かんでいた。

やっと答えに辿り着いたのだ、自分を縛り続けていた唄から……本当の意味で解放された。


「救えるかもしれない……私たちの代で、世界をどうにかできるかもしれない」


「なっ――」


「それは本当か、音琴君っ!?」


英二は声を荒げて尋ねた。


「うん、絶対とは言えないけど……もしかすると、いけちゃうかも」


言葉ではあまり自信が現れてないが、表情は何かを確信しているようにも見えた。

一体彼女の何がそうさせているのかは、正直瑞葉自身もわかっていない。


「……一体何のつもりかしら? 冗談じゃ許されないわよ」


「ヴィクター……私、本気だよ。 まだ希望はあるんだからっ!」


ヴィクターにも教えてあげなければ、きっと彼女も気づいていない。

瑞葉はポケットからオルゴールを取り出した。

出撃の直前、ポケットに忍ばせておいた凜華が作ったオルゴールだ。


「お願い皆……私と共に歌ってっ!」


「お、おい……まさか?」


丈一は思わず言葉を失った。

凜華も呆然として目を丸くしてしまった程だ。

英二は深くため息をつき、やれやれと呟き始めていた。


「ふざけないで、今更唄をどうするつもり?

その唄はヴェノム達の黒き力を暴走させるだけ、アカシャの戦士達が生み出した決闘の為の唄なのよ」


「そんな事ない、この唄の意味は……単なる決闘の為の唄なんかじゃないっ!」


「……音琴君、そこまで言うのならば君なりの根拠があるのだろうな。 君の決意を鈍らせるほどのな」


「あるわよ、私だってちゃんと考えてるっ! だってこの唄は……私のお母さんが、私の為に残してくれた唄なんだからっ!」


瑞葉の絶対的な根拠は、それだけだった。

母親が自分の為に残してくれた唄が、単にヴェノムの暴走を誘うだけの唄ではない。

瑞葉はそれを確信していたのだ。


「ねぇ、英二君。 私も唄については気になる事があるの」


「何、どういう事だ?」


香奈は英二に疑問を投げつけた。

英二は香奈から唄が決闘の為の唄であると聞いていたが、彼女は何処か腑に落ちない点があったとでも言うのだろうか。


「この唄を使った時のヴェノム、なんだか様子がおかしかったじゃない。 黒き力を暴走させているかというよりかは」


「様子がおかしい? 単純に力を高めているだけではないのか?」


瑞葉も同じ事を考えていた。

唄を使った瞬間、ヴェノムは突然活動を活発化させた。

それは唄によって生まれたアルマフォースへ過剰反応を示しているようにも見える。

つまり、唄にはまだ……誰も知らない秘密が隠されているのではないかと考えられる。


「……唄の意味を忘れるな」


ヴィクターが呟いた。

彼女が口にした一言、何処か母親が残した言葉に似ている。

唄を忘れないで、唄の意味を忘れるな。

唄の意味、唄の意味とは一体……何なのか。


「でも、唄のあれ以上の意味なんてないわ。 それはアカシャの戦士達が証明しているし、貴方達自身も証明しているはずよ」


「そんな事ないっ!」


瑞葉は必死になって否定した。

自分が辿り着いた答えを否定されるのが怖い訳ではない、絶対に唄には別の意味があると思っていたからだ。


「ねぇ皆、あの唄を聴いてどう思った?」


「……なんつーか、不思議な響きだったよな。 懐かしいというか安心するっつーか」


「うん、心が落ち着かされるような」


「じゃあどうして、それがヴェノムを暴走させる唄になるの?

そんなの絶対におかしいでしょっ!? 私……唄にはまだ解明されていない力があるんだと思う。

きっとその謎の解明が……私達が世界を救う切り札となるはずだよ」


瑞葉は必死で皆を説得した。

まだやれる事は残されている、ここで全てを終わらせるには早すぎる。

瑞葉の母親と、あの声がそう伝えてくれた。

おかげで瑞葉は目を覚ました。

全てに絶望し、希望を捨ててしまっていた瑞葉に……救いの手が差し伸べられたのだ。


「……うん、いいよ。 私、お姉ちゃんと一緒に歌う」


「お、おい? マジかよ!?」


凜華は瑞葉の提案に賛成した。


「ありがとう、凜華ちゃん」


「ううん、可能性が残されているなら試すべきだと思う。 それでもダメだったら、浄化プログラムに頼ればいい」


「ふむ、君の言いたいことはわかった。 要は……唄をまだ信じるという事か」


英二は何処か腑に落ちないようだが、とりあえずは納得したようだ。

後は丈一だが何故か躊躇している。


「丈一君は、どう思う?」


「グググ……ああ、わかったわかったよっ!

俺あんまし唄得意じゃねぇんだけどな……こうなったらとことん歌い切ってやるよっ!」


どうやら人前で唄うことに躊躇していたようだ、命を捨てようとした直前に今更な気がして瑞葉は思わず笑ってしまった。


「いい? 何が何でも歌う事をやめないでね。

後、きっとヴェノムの攻撃が激しくなる。

間違いなく私達に狙いが集中するけど……何とか、戦い抜くわよ」


「チッ、唄いながら戦うとかめんどくせぇな」


「いいだろう、引き受けた」


「うん、頑張るね」


瑞葉は深呼吸してオルゴールに手をかけた。

緊張感が走る、瑞葉はこのオルゴールで唄を聴くことが出来なかった。

だけど、今なら聴ける気がする。 根拠はないが、そう思っていた。


「やめなさい、それ以上ヴェノムを暴走させてはいけないわっ!

貴方達は既にアルマフォースを消耗しきっている状態、アーシェスでそう長く戦う事も出来ないのよ?」


「お願い、ヴィクター。 私が貴方を信じたように……貴方も私を信じて」


「……」


ヴィクターは、何も答えなかった。

わかってくれたのだろうか。

瑞葉は今度こそとオルゴールの蓋をゆっくりと開いた。

すると……オルゴールから、記憶の奥底に眠っていた音楽と全く同じ音が流れ始めていた。

間違いない、母親が残してくれた唄はアカシャの戦士が切り札として使っていた唄だったんだ。


「皆、唄うよっ!」


瑞葉が先陣を切って、叫ぶように唄った。

決して上手とは言えず、皆バラバラで歌い始めた唄。

だけど、徐々にメロディーが合わさり、唄が一つになっていく。

不思議と世界の何処までも遠くに響き渡っていくかのように思えた。


予想通り、ヴェノムはアルヴァイサーに向かって襲い掛かり始めた。

瑞葉は回避に専念し唄を歌い続けていた。

絶対に唄う事をやめない、他のメンバーも同じだ。

ブラックアズールも同じように襲われているが、何とか回避し続けていた。


ヴェノムは唄に苦しんでいるように見える。

あの様子は黒き力を暴走させているように見えるが、そうとは思えない。

むしろ唄に苦しみ、それをやめさせようと必死で抵抗しているように見えた。


ヴェノムの黒き力は上昇し続けていた。

黒いビーム砲が次々とアルヴァイサーとブラックアズールに向かって襲い掛かる。

間一髪で避けきれているが、いつまで持つかどうか。

唄に集中もしなければならず、瑞葉はかなり神経を集中させていた。

背後からの不意の一撃が、アルヴァイサーに向かって飛ばされた。

瑞葉は反応しきれていない、気づいた凜華は瑞葉に危ないっ! と告げた。


「クッ……!」


振り切ろうと瑞葉が必死で操縦桿を倒した瞬間、バキィンッと何かが砕ける音が飛び込んだ。

ふと振り返ると、そこには直撃を受けたブラックアズールの姿があった。


「え、英二君っ!?」


「唄を止めるなっ!」


英二は力強く叫んだ。

ブラックアズールはライフルを構え、周囲のヴェノムに向けて片っ端から乱射させた。

バァンッ! 爆発音が響く、ブラックアズールからは煙が吹き出し始めていた。


「だ、ダメっ! 英二君っ!」


「私の事は気にするな。 所詮、私は君達を裏切った男だ。 今更手を取り合って、君達と協力できる立場にはない」


「い、今更何を言っているのよ、バカッ!」


瑞葉はブラックアズールを助けようとアルヴァイサーで駆けつけようとした。

すると、ブラックアズールは黒い霧に包まれてしまった。

一体何が起きているのかわからず、瑞葉は混乱してしまった。


「唄を止めるなと言ったはずだっ! ……ヴェノムは私が食い止める、君は唄に専念してくれ」


「無理よ、そんな状態で戦えるはずないわっ!」


「……そうよ、もうブラックアズールは戦えない」


香奈が悲しげにそう告げた。

不思議と香奈は呼吸を荒くし、苦しんでいるように見えた。


「香奈……君、どうしたんだ?」


「忘れたの? 英二君……ブラックアズールは元々、黒き力を取り込んだアーシェスの姿。

そして私は……ヴェノムの浸食を受けていた身……」


「黒き力が流れ込もうとしているのか……僕達にっ!」


「――ごめんね、英二君」


香奈がそう囁くと、機体は突如強制的に分離された。

英二のフライターはぼろぼろだが、辛うじてコントロールが効いている。

しかし、彼女のフライターは黒い霧に包まれたまま、地上へと落下し続けていた。


「香奈ちゃん……香奈ちゃんっ!? クソッ、今助けにっ!」


「待って……私は香奈ではない」


「なっ――」


英二は言葉を失った。

どうして、彼女は彼女のはずだ。

自分の記憶の中にいた香奈そのもののはずなのに。


「私の正体は……ヴェノムよ」


「……そんな馬鹿なっ!?」


騙したのか、今までずっと騙し続けていたのか?

だが、納得が出来ない。 彼女がヴェノムであるはずがないと信じられなかった。


「ごめんね……貴方とずっと、一緒にいたかった。

ほんの少しの間だけど、楽しかった。

だから……ねぇ、唄ってよ。 私は唄う事、できないから」


「……ふざけるなっ! 君がヴェノムだと? なら何故、君は香奈ちゃんの姿なんだ? 君は何がしたかったんだっ!?」


「だって、この姿じゃないと君が私に興味を持ってくれないでしょ?」


香奈は笑いながら告げた。

確かにその通りだ……なら、彼女は本当にヴェノムだと言うのか?

信じられない、何処からどう見ても人にしか見えないというのに。


「君は何がしたかったんだっ!?」


「ふふ、お礼がしたかっただけなの。 私を助けレくれたお礼を」


「助けた?」


英二がヴェノムを助けた?

一体何を言っているのかがわからない。

今まで英二も瑞葉もヴェノムと戦い続けてきた身のはずだ。

助けた覚えなんてどこにもなかった。


「英二君、唄って……貴方達の唄の意味……私にはわかったから。 お願い、唄い続けて」


「ク、香奈ちゃん……香奈ちゃんっ!」


英二は涙を流しなら歌い続けた。

彼女を助けたかった、だけどきっと彼女は空を拒む。

それよりも彼女の願いに応えようと力の限り唄い続けた。

彼女が落ちていく様子を、ただ何もせずにじっと見つめながら。


すると、香奈のフライターに変化が生じ始めた。

黒い霧に包まれていたフライターが徐々に白い光に包まれていき、フライターがぴたりと動きを止めた。

強い光と共に巨大なカメのような生物がフライターから出現し始めたのだ。

あれは――間違いない、瑞葉達が倒したはずのヴェノムだ。


「そんな――香奈ちゃんは――」


本当に、ヴェノムだったのか?

英二は唄をぴたりと止めてしまった。

目の前で起きた現実が受け入れられずに。


「英二君……フライターのままじゃ危ないわ、私達と合体してっ!」


「今更、戻れないっ! やっぱり僕は香奈ちゃんと――」


「うるせぇっ! 黙って戻って来やがれっ!」


「何よ、今更っ! さっきまでずっと一緒に戦ってたじゃない。

それに、どんなに離れていても私達が仲間だって事は変わらないでしょ?」


丈一は力強く叫んだ。

英二は躊躇したが、少し考えると強く頷いた。

瑞葉達は一度フライターへと分離すると、英二を含めてアルヴァイサーへと合体した。

これで……アカシャの戦士が本当の意味で揃った。 しかし、彼女は――


「香奈ちゃん……」


英二はショックから立ち直れていないようだ。

無理もない、昔の初恋相手だと思っていた人が……まさかヴェノムが化けていた菅だったと知れば。

しかし、英二を同情している余裕はない。

今は目の前にある問題を片づけなければならなかった。


「あのヴェノム、何か変だと思わない?」


真っ白な巨大なカメのヴェノムを指差して、瑞葉は言った。

何故か敵意のようなものは感じられない。


「お、おいっ! あれを見ろっ!」


黒きヴェノムが群がる中、そのヴェノムを蹴散らしながら進む巨大な獅子の姿が目に飛び込んだ。

あれは……丈一を支配しようとしていたヴェノムだ。


「どうなってるの? 真っ白なヴェノムが、真っ黒なヴェノムを攻撃している?」


空には鳥のヴェノム、あれは一番最初に瑞葉が戦ったヴェノムだ。

それにあの蕾型のヴェノム、あれは凜華が捕らわれていた時のだ。 一体何が起きているのか、瑞葉にはわからなかった。


「君達は僕達を助けてくれた」


「お願い、僕達と一緒に皆を救って。 君達ならきっと、出来る」


何処からともなく声が聞こえ始めた。

瑞葉は直感で、これはヴェノムが語りかけている声だと気づいた。

瑞葉達の為に駆けつけてくれた、あの真っ白なヴェノム達の声だと。


「……そうか、浄化だっ!」


英二が叫んだ。 瑞葉はふと今までの戦いを思い返す。

これまでヴェノムと戦って来て、姿を変えて何処かに去って行ったヴェノムがいた事を。

その時ヴィクターは言っていた、あれは本来のヴェノムの姿だと。

だとすれば、今の姿は黒き力に蝕まれたヴェノムの姿。


「そうか……この唄って、浄化の力があったんだっ!」


瑞葉はようやく確信した。

唄はヴェノムの黒き力を暴走させていたのではない。

ヴェノムの中に眠る黒い力を追い出す【浄化】の力を秘めていたのだ。

だからヴェノムを必死で抵抗しようと暴れ出す、狂暴化する、黒い力を暴走させて……必死で唄を止めようとする。

全てが繋がった瞬間だった。


「唄を続けるぞ、この唄さえあれば……ヴェノムを鎮圧化できるかもしれんっ!」


「待って……何よ、あれ」


瑞葉は指差した先には、力を暴走させたヴェノムが一か所に集い始めている。

ヴェノムは次々と一つになっていき、一緒に戦っていた白いヴェノムでさえも飲み込まれていった。

やがて、ヴェノムは巨大な黒い塊と化していた。


「何? 何が起きているの? さっきの白いヴェノム達が――」


すると、4人は同時に激しい頭痛に襲われた。


「な、なにこれ――力が――」


アルマフォースが低下していくのが肌で感じるようにわかる。

機体が示すアルマフォース値も急激に下がっていき、気がつけばアルヴァイサーは強制的に合体を解除されてしまった。


「アルマフォースが吸われている……まずい事態になったわ。 このままじゃ浄化プログラムの発動も上手くいかない」


「ぐ、こんのぉぉっ!」


瑞葉はフライターのミサイルをヴェノムに向けて放った。

しかし、ミサイルはヴェノムの身体の一部として取り込まれていく。

渾身の反撃も無駄に終わってしまった。


「もうダメよ、急いで浄化プログラムを発動させてっ! 今ならまだ間に合うかもしれないわっ!」


「嫌よっ!」


「なっ――」


「ここまで来たんだ、やっと答えに辿り着いたんだ……私、絶対に諦めないっ!」


瑞葉は苦しみながら叫んだ。

ただでさえアルマフォースが吸われ続けて身動きが取れない状態だと言うのに、それでも諦めようとしなかった。


「やめなさい……もう頑張らなくていい、貴方達はよくやった。 自分でもそう言ったでしょ?」


「……まだ、まだやれるっ! 私達にはまだ唄がっ!」


「その唄がこの事態を招いているのよ? どうしてそれがわからないのっ!?」


「うるさいっ! 私……声を聞いたの、諦めるなって!

多分、私と同じ年ぐらいの男の子だと思う……その子が私に、諦めるなって言ったのっ!」


「――っ! そんな……まさか、カズ――」


「諦めないから……私、絶対に諦めないんだからっ!」


瑞葉は信じた。 自分達の代で必ず未来を切り開けると。

輪廻に縛られた世界を解放できると信じていた。

だから、諦めなかった。

絶望の淵に落ちて見つけた僅かな希望を信じて、瑞葉は戦い抜く事を決断した。


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