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古代文明機 アーシェス  作者: 海猫銀介
2章 抗う戦士達
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第10話 先代の記録 ①

翌日、瑞葉は重い足取りで部室へと足を運んだ。

施錠を解除して引き戸をゆっくりと開くと、複数の机を並べて一つにした卓に力なく封筒を一つ置いた。

椅子へ腰を掛けると自ら置いた封筒から目を逸らすように、ただじっとする。

気が付くと、隣に凜華が座っていた。

凜華も封筒の中身を察したのか、悲しげな表情を見せていた。


「……おう。 ちゃんと、皆揃ってんな」


珍しく息を切らさずにいた丈一が呟いた。

その一言は瑞葉達に現実を突きつける痛い一言であった事に気づき、丈一は悪いと一言謝った。

瑞葉が置いた封筒には小さく綺麗な文字で書かれていた。

「退部届」、と。




「な、何が起きたのっ!?」


英二が強制的に合体を解除した後、視界が黒い靄で埋め尽くされてしまっていた。

闇の中、青い一閃が走るのが目に入った.

間違いない、英二のアーシェスだと瑞葉は勘付いた。

フライターのまま追いかけようとするが、

既にレーダーからヴェノムの反応も例の黒いアーシェスの反応もロストしてしまっていた。


「凜華ちゃんっ!」


「わかってる、でも……フライターのままじゃ満足な解析なんてできない」


「な、ならもう一度合体すんぞっ!」


「じゃ、じゃあ皆とにかく、うんと高く上昇してっ!」


このまま英二の事を放っておくことはできない。

瑞葉達は3人で合体しなおそうと一斉に大空へとフライターを向けた。

黒い靄から脱出を果たし、あっという間にフライターが凜華のアーシェス「サイティス」へと変形を遂げた。

が、結局は英二の行方をそこから追う事は出来なかった。


黒い靄のせいでサイティスでもアルマフォースから英二を追う事ができなかったのだ。

つい先ほどまではそんな事がなかったというのに。

黒き力がジャミングの役割を果たしていたようだが。


その後、これ以上の戦闘継続は困難だというヴィクターの判断によって、3人は強制的に現実世界へと戻された。

勿論、瑞葉は最後まで反対した。

まだ英二がヴェノムに捕らわれ、更に精神世界から抜け出せない状態に陥る事態を恐れたから。

しかし、結局ヴィクターの指示に従わざるを得ないと判断した瑞葉はやむを得ず帰還を選択する事となった。

だが、翌日になって瑞葉はヴィクターが何故自分達を止めたのかを嫌でもわからせる事態が起きていた。


英二の行方が心配でろくに睡眠を取れなかった瑞葉は、休み時間の移動教室の間にたまたま英二と遭遇したのだ。

英二の無事な姿を見て安堵した。

しかし、それも束の間だったのだ。

彼は以前の彼ではなくなっていた。

メガネを外してコンタクトに変えていたが、いつもの凛とした態度はなく、気が弱そうではあるが優しそうな表情で笑ってくれた。

それだけなら別に構わなかった。

瑞葉は知っている、普段見せている英二の姿はあくまでも英二自身が生み出した虚像でしかない事を。

それは並大抵の努力では自分を偽る事はできないのはわかる。

しかし、今になってそれを辞める理由はわからなかった。

彼の過去はそれまどまでに偽りの仮面という名の自身を変えるきっかけとなっていたのも事実ではあるし、

同時に大きな足枷ともなっていたのは確かではあるが。


「あ……えっと」


思わず言葉が詰まってしまう。 無事でよかったとか、コンタクト変えたの? とか、そんな一言ですらでなかった。

今思えばその時点で、何となくだが英二が伝えようとしている事がわかってしまっていたのだろう。


「音琴先輩、昨日はすみません。 勝手な行動を取ってみんなに迷惑をかけてしまいました」


「う、ううん。 それよりも英二君が無事でよかった……心配したんだからね?」


自分でもわかるぐらい、嫌な作り笑顔をしてしまった。

でも、せっかく喜ばしい事なのに暗い顔なんてしたくないと思ったのだ。

英二も笑ったが、少し周りを見渡すと真剣なまなざしでキッと瑞葉と目を合わせた。


「少し、時間とれますか?」


「う、うん。 大丈夫」


「……手短に済ませます。 まずはこれを」


英二はそっと封筒を瑞葉に手渡した。

一体なんだろうと不思議そうに受け取ると、瑞葉は顔を青ざめさせた。


「英二君? これって、どういうこと……?」


「これが、僕の答えです。 ……僕は、彼女と共に別の方法で世界を救ってみせます」


「か、彼女と? それってやっぱり――」


英二の偽りの仮面を生み出した張本人、そして英二自身のトラウマと言っても過言ではない。

例の香奈という初恋相手の事を指しているのだろう。


「勘違いしないでください、僕は別に彼女と一緒にいたいだとか、そんな理由で部活を離れる訳じゃありません。

僕は香奈ちゃんに自分達が置かれた状況について明かしました。

アカシャの戦士の事も、浄化プログラムの事も……そしてヴィクターの事も」


「……それで、どうして退部なんてするの?」


「勿論、本来であれば僕達は協力し合うべきだと考えています。 しかし、僕はヴィクターを信用する事ができません」


ヴィクターを信用する事が出来ない。

その一言は瑞葉の胸に強く突き刺さった。

そんな事ない、彼女は彼女なりに世界の事を考えている。

彼女は味方だ。 そう主張したかったのに、瑞葉は口に出せなかった。

それは、自分自身もヴィクターを疑っているという証拠ともなった。


「もし、あのままヴィクターに従っていたら……恐らく香奈ちゃんは死んでいました。

勿論、僕達の手で殺す結果になったでしょう。

それに、恐らくヴィクターにとっては僕達の事はヴェノムと同じ、倒すべき敵となっていると考えています。

僕達のアーシェスにヴェノムの黒き力が取り込まれているのは残念ながら事実ですから」


「そ、そんなこと……ない」


「だったら、僕にそれを証明してください。 恐らくできないでしょう、それは貴方自身もわかっているはずですよね?」


「それは……その」


反論なんてできなかった。 だって、英二が口にしている事は、まさにヴィクターが口にしそうな事だったから。

情けない、年上の自分がしっかりしないでどうするんだと瑞葉は自分に言い聞かせていた。


「それと、僕達に敵対の意思はありません。

あくまでもヴィクターが考える浄化プログラムを使わずに、世界を救済する方法を探すという点は同じです。

……ですが、これだけは言わせてください」


その時、瑞葉はゾクリと背筋を走らせた。

何故か、英二から異様な威圧感を感じ取った。


「もし、ヴィクターが『黒』だと分かった場合……例え貴方達が相手だろうと、僕は容赦するつもりはない」


鋭い目付きで睨みつけながら、英二は瑞葉に警告を告げた。

それは、逆に言えばヴィクターを疑っているから敵対すると宣言しているようにも聞こえた。

瑞葉は何も言い返す事ができず、頭が真っ白になってしまった。

気がつけば英二は既に立ち去っていた。

既に次の授業の開始を告げるチャイムが鳴らされているが、その音にすら気づかず瑞葉はしばらく放心してしまっていた。




瑞葉は部員達に英二の事を説明した。 何となく二人は察していたのだろう、特に驚く様子もなく頷くだけだ。

その後、気まずい沈黙が部室を支配していた。

世界が窮地に立たされているというのに、自分達は結局何もできずにただ悪戯に時間が過ぎていく。

今頃英二は彼女と共に必死で世界を救う方法を考えているはずだというのに、どうしてこうも身が入らないのか。


「なぁ、先輩。 聞いてもいいか」


「な、何? どうしたの?」


長い沈黙を破ったのは丈一だった。

あまり目を合わせようとせずに、何処か落ち着かない様子であった。

それほど躊躇する事を口にしようとしているのか、しばらく待っていると深いため息をついて、ようやく目をしっかり瑞葉と合わせた。


「ヴィクターは、本当に信用できるのか?」


「……っ!」


思わず肩をビクッとさせてしまった。

聞きたくない言葉であった、まさか丈一までもが彼女を疑っていたとは思わなかったから。

否定しなければ、彼女は信用できる事を証明しなければ。 頭ではそう思っていても……瑞葉は答える事ができずにいた。


「英二の野郎、なんだか豪く変わっちまってた。

メガネも外したし、急に真面目になったっつーかなんつーかよ。

……その退部届よ、先輩に渡す前にって英二は俺に見せたんだ。

理由は、ヴィクターが信用できない。 たった、それだけだった」


丈一は口にしてしまってよかったのだろうかと、少し後悔しているように見えた。

重い空気に支配されていた部室に、更なる追い討ちがかけられた。

だが、構うものかと丈一は続けた。


「あいつの行動を考えてみろ。 俺達には全てを明かさず、後から情報を小出しにしやがる。

まるで俺達を弄んでいるように見えないか?

それだけじゃない、アイツは俺達に残された手段が『浄化プログラム』しかないと決めつけているんだ。

それにヴィクター自身も行っていた、自分は『浄化プログラム』をアカシャの戦士に託すのが役割だと」


「で、でも……彼女だって今までずっと戦い続けていたんでしょ?

過去のアカシャの戦士達だって、彼女と力を合わせて世界を救おうと最後まで抵抗したっ!」


瑞葉は必死でヴィクターを庇おうと叫んだ。

ここで彼女を疑ってしまえば、何かがおかしくなってしまう。 そんな危険を察したから。


「そもそも、何度も失敗しているのがおかしいんじゃないか?

今までのアカシャの戦士達がどうして失敗し続けたんだ?

それに、失敗の記録がほとんど残されていないも怪しいだろ。

なんで毎回手掛かりゼロの状態でスタートしているんだよ?

それじゃ、今まで頑張ってきた奴らの努力が何時まで経っても報われねぇだろ……」


「そもそも文明はリセットされてきたんでしょ?

今の石碑や古代文献だって辛うじて残された資料なのかもしれない」


「じゃあ、ヴィクターはどうして非協力的なんだ?

今までの態度からして協力的とはとてもじゃないが思えない。

少なくとも、俺はそう感じ取っている」


「きっと言えない理由があるんだよ……」


「大体ヴィクターってのは古代人が残したデータベースの役割も果たすんだろ?

アカシャの戦士達がヴィクターに今までの成果を残さないのは極めて不自然だ、古代文献や石碑を残すよりもより確実なはずなのに。だったら、ヴィクターは何のためにいるんだって事にならないか?」


瑞葉が何を言おうと丈一の不信感は膨れ上がるばかりだった。

それは瑞葉にも否定できる材料がないから。

彼女が本当に協力的だと示す証拠など、何処にもない。

むしろ現状を考えれば、丈一のような考えが正常な思考なのだろう。

だとすれば異常なのは、ヴィクターにすがる事しかできない瑞葉自身なのかもしれないと思い始めていた。


「だったら、調べればいい」


険悪なムードの中、凜華は二人に向かって言った。


「し、調べるって?」


「忘れたの? ヴィクターの事が記された白い石板の存在。

あれにはヴィクターが語っていない唄の秘密が記されていた。

ヴィクターが隠している事について何かわかるかも」


「でも凜華ちゃん、あの石板の解析はある程度終わってるんでしょ?」


「もう一度調べてみる価値はある」


凜華は瑞葉に向かって伝えた。 その目は何かが隠されているという確信を持った強いまなざしだ。

ヴィクター不信の現状を切り崩すには、彼女が隠している秘密を探ることにある。


「悪い先輩、俺はパスさせてもらう」


「丈一君……?」


何処か腑に落ちなかったのか、丈一は深くため息をついてカバンを肩に背負った。


「別に英二のように退部とかはしねーけどよ、なんというか……俺もアイツの気持ち、少しわかるんだ。

きっとあいつが救おうとしたのはよほど大切な人だったんだろ?

ヴィクターはそんな事もお構いなしに自分の目的を優先する。

そんな奴のやり方が気に入らない」


「じゃ、じゃあ……どうするというの?」


「とりあえず、俺は別の事調べてみる。

結果については後から部室で報告する、とりあえず今日はそれでいいんじゃねぇか?」


バラバラに動いてしまってもいいのだろうかという不安は残る。

しかし、下手に丈一を刺激したくはなかったので瑞葉は仕方なくわかったと頷いた。

すると丈一はじゃあなと軽く伝えて教室を立ち去ってしまった。


「とりあえず、もう一度行こう」


凜華は瑞葉の袖を引っ張った。

黒神社へ向かおうと言っているのだろう。

丈一の事が不安ではあるが、今は凜華と行動を共にしようと部室を後にした。


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