投げやり勇者!
ラザニア大陸というとても大きな大陸に、幾つもの国々があった。
モンスターに魔物、妖怪までもが居るこのご時世、各国では『一国に一人』の割合で勇者が居た。
しかし勇者と言っても、皆が皆一概に正義感に溢れ、熱血だったり博愛主義だったりするわけではない。
幾人かは変わった性格の者だっている。
その変わった性格の中でも1,2を争う勇者が、ここ、グラタン国にいた。
「はぁ~。産まれてこのかたずっと気になっていたんですけど、どうして国名が料理名ばかりなんですか。名付けた人はよっぽどの空腹だったに違いないですね」
「空腹からじゃねぇだろ。そんな理由だったら嫌だわ。ってか、それよりも何よりも産まれてからとか…御前どんだけ赤ん坊の時博識だったんだよ」
「失礼ですね。知性の塊とも言えるこの僕に向かって」
何とも呑気な会話を繰り広げているのは、実はこの国の勇者とその仲間の剣豪である。
先刻から国名に愚痴るのは、勇者アヒル。
パッと見王子を思わせる金髪碧眼に端麗な顔立ち。
癖っ毛の柔らかい髪がふわふわしている。
それに返事の代わりに突っ込んだのは、剣豪のカラス。
彼は長めの黒髪を後ろで一つに縛っている。
同じく黒の瞳の奥からは、突っ込み疲れの色が見えたり見えなかったり。
間の抜けた会話だったので弁護の為に言っておくが、こんなんでも彼等はその道では一級の者であった。
「まっ、そんな事はどうでも良いんですよ。本当に退屈で平和すぎますね~。魔王とか降ってきませんかね」
「否、そんなもん中々降ってこないだろ」
勇者に有るまじき発言をしたところ、行き成り部屋の扉がバアアァンと派手な音を立てて開かれた。
「ハッ!来たな、魔王の手下!!」
そう叫んだあと、アヒルは前にいたカラスを盾にし、陰に隠れる。
「俺を盾にするな。そしてよく見ろ。あれはウサギだ」
「はうぅぅ~~、アヒル様ぁ!4時間26分と5,9秒ぶりにお会いできました。その長い間も、ウサギは一瞬でも貴方の事を忘れる事はありませんでしたっ」
熱烈に語り始めるウサギと呼ばれた少女は、小動物の様に小さくて可愛らしい風貌をしている。
背中まである桃色の波打つ髪に、赤の大きな瞳。
フリルのついた可愛いドレス。
黙っていれば人形と違われてしまってもおかしくは無い。
「あー、はいはい。その話は後で聞くとして、何かあったんだろ?そんなに慌てて。急用か?」
「そうでした!うっかり忘れてしまう所でした。さっき緊急の連絡が届いたのですが…魔王が降ってきたそうです!!」
「「マジ(です)か!!」」
息ぴったりに揃う。
「それで、是非とも我がグラタン国の力をかりたいとの事で…」
「よっしゃ。こんな絶好のチャンスはねぇ。旅に出るぞ、アヒルっ!」
嬉嬉とするカラスは、アヒルの手を引き急かす。
しかし当のアヒルは
「えぇ、面倒臭いです。適当にカラス君だけで倒してきて下さい」
と、先程の魔王云々はどこへやら、駄々をこね始めた。
「なっ、御前勇者だろ!」
めげずに尚食いさがるカラス。
「おい、ウサギからも何とか言ってやれよ」
「私はアヒル様がそう仰るなら一緒に…」
きゃぁ、と頬を染め、一人の世界に入っていってしまう。
「…でもさぁ!」
「でも?でもなんですか。困っている人を助けるのが僕等の役目、ですか?勇者って言うのは人を助ける為の仕事じゃないですよ。ほら、辞書にも『人が中々やらない様な事を的確な判断力と忍耐力で見事にやってのける人』と書いてあるじゃないですか」
何所からか辞書を取り出し、勇者、と書かれたところを指さす。
「大体落ちてきたと言っても何所かの遠い国なんでしょう。…どうせオムライス国とかいう名前の。その場合は責任を持ってオムライス国の勇者の方々が魔王を倒すべきなのではないですか?」
「まだオムライス国とは決まってねぇだろ」
なんだか正論を言われているような気がして、取り敢えず突っ込めるところは突っ込んでおく。
「流石アヒル様。でもちょっと違います。正確に言えばオムレツ国です」
自分の世界からやっと帰ってきたウサギが、キラキラとした眼差しで彼を見る。
「…ややこしい名前だな」
…駄目だこいつら。そして流されてしまっている俺も。
この大陸が乗っ取られるのも、魔王とアヒルのヤル気の問題か。
万が一の為にも、転職を考えておこう。
ちょっと以上に変ったグラタン国の(怠け者)勇者。同じくちょっと以上に変ったその仲間たち。
彼らの旅は、いつか、きっと、多分始まる。
それまではどうか、なんとか旅に出る事を祈ってやってほしい。
一応弁護しておくが、彼等はこの国の立派な勇者たちである。
今更かもしれないが、更に言えば、これまた大陸で1,2を争う強さなんだとか。
そこのところ履き違える事なく、よく覚えておいていただきたい。
To be continued ?
(ところで僕等の名前も、投げやりな付け方でしたよね)
(そこはあえて誰も触れなかったグレーゾーンだ)
続くかもしれない、という感じで書いてみました。短編です。
実際続けてみようかどうか迷っています。
相変わらず短く拙い文ですが、
ここまで読んで下さり有難うございました。